DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin
第6話
光となって砕け散ったダウニー。
戦いの余韻が皆の心の中で静まっていく中、辺りにゆっくりと静寂が戻ってくる。
だが、美しかった展望台は彼方此方が破壊されて見るも無残な状況となっていた。
「……ったく、折角の風景が台無しだな……」
振り上げたトレイターを肩に担ぎ、溜息をつく大河。
「さて……と」
そう言いながらトレイターを地面へと付き立てた大河は、胸の奥にこみ上げる熱い想いを堪えながら振り返る。
「邪魔者も居なくなった事だし……改めてってのもなんか照れるけど……」
周りで見つめてくるいくつもの視線を感じる。
ベリオが、カエデが、リコが、ルビナスが、リリィが、未亜が、イムニティが、そしてクレアとタイガが……
その視線に応えるように、大河は苦笑交じりの表情で口を開く。
「みんな……ただいま!」
「大河くんっ!」
「師匠ッ!」
「マスタァァッ!」
「ダーリーンッ!」
「大河!」
「お兄ちゃぁぁんっ!!」
堪えきれなくなって一斉に大河へと抱きつく面々。
「大河くん……よく……よく無事で……」
「ああ、ベリオも元気そうで何よりだ」
「師匠〜〜っ、拙者、寂しかったでござるよぉぉっ!!」
「お、おいおい、くすぐったいって、カエデ」
「マスタァァッ、ああ、マスター、会いたかった!!」
「リコ……お前も頑張ってくれたんだな」
「やっと……やっと会えた……ダーリン……っ」
「ナナ子……って、やっぱりお前どっか違うぞ!? なんかまるで別人……」
「え……? ふふっ、そんな事は無い……ですのぉ?」
そう言ったルビナスの言葉に、事情を知る面々からは押し殺したような笑い声が。
「……待てよ、おいトレイター」
――なんだ、我が主。
「お前が言ってた『エルダーアーク』って、確かルビナスさんの……」
――いかにも。千年前の赤の主、ルビナス・フローリアスの召還器だ。
「って事は……ナナ子……お前……いや、あんたまさか……ルビナスさんなのか!?」
「ふふっ、もうばれちゃった。ええ、そう言う事。私は千年前の赤の主にしてメサイア・パーティの1人、ルビナス・フローリアスよ。改めてよろしくね…ダーリン」
「ルビナスさん…か……へへ、なんだか不思議な気分だな。ナナ子の姿をしているのに、こんなに大人っぽい顔されると、調子が狂うよ」
そう言って笑う大河にルビナスも苦笑する。
その背後から、まるでぶつかってくるかのように大河へと抱きついてくるリリィ。
「……このバカ大河!! どれだけ……っ、どれだけ待たせたら気が済むのよっ!!」
「リリィ……」
「ずっと……待ってたんだからねっ……大河ぁぁッ!!」
「ああ……随分…待たせちまったな……」
優しく髪を撫で付けてくる大河の手にリリィが涙に濡れた瞳で微笑を浮かべた瞬間。
押し倒すような勢いで未亜が抱きついてくる。
「お兄ちゃんっ!!」
「うわっ、とっ…と。危ないな、未亜」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ、お兄ちゃぁぁぁぁん!!」
「お、おい、未亜、そんなに泣くなって……」
「だって、だってぇぇっ!!」
「ったく、泣き虫は相変わらずだな」
呟きながら泣きじゃくる未亜の頭を撫でてやる大河。
優しい手の温もりに、未亜はようやく安心した表情を見せる。
その様子を少し潤んだ瞳で見つめるイムニティ。
浮かべる表情はどこか嬉しそうで、以前の彼女には見られなかったものだ。
喜びの涙で顔を濡らす皆の様子を優しい瞳で見つめていたクレアはやがて大河の元へゆっくりと歩み寄った。
「大…河……」
震える声で呟くように言ったクレアの声。
リリィ達にもみくちゃにされながらもそちらへと振り返る大河。
「クレア…」
少しずつ歩み寄ってくるその姿にリリィ達は思わず圧倒されて抱きついていた手を離すと場を空ける。
「……ずっと…信じておったぞ……必ず来てくれると……必ず、私を護ってくれると……」
そう言って微笑むクレアの頬を涙が伝う。
「お前は…私の救世主様……なのだからな……」
「クレアっ!」
「――――っ!?」
いきなり抱きしめられて、クレアの瞳が見開かれる。
「約束…守ったぜ、クレア……」
「大河……大河ぁぁぁぁぁっ!!」
腕の中、溢れる想いを曝け出すように泣きじゃくるクレア。
その姿を見つめていたリリィ達も、互いに苦笑しながら頷いて大河に抱きついた。
そしてしばらくの時が流れ……
ようやく落ち着いたクレア達の背後から、恐る恐るといった感じの小さな声が響いた。
「あ…う……えっと……」
「ん?」
思わず振り返るクレア達。
その視線の先には、どうしていいのか判らず戸惑う様子のタイガの姿が。
「おお! すまぬすまぬ。ほら、こっちに来るがよい」
そう手招きされて、ようやく安心したのかクレアの元へと駆け寄るタイガ。
胸に抱きしめて微笑むと、クレアはそっとタイガを大河の前に連れ出した。
「もう知っておるのであろ? お前の子だ。お前と私の……な」
少し恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言うクレアに頷くと、大河も照れくさそうに頬を掻く。
「ああ、トレイターが教えてくれた。まあ、あいつに知らせてくれたのはルビナスさんの召還器、エルダーアークだったらしいけどな」
「エルダーアークが!?」
驚いて自分の召還器を見つめるルビナス。
その瞬間、エルダーアークが微かに笑ったような気がして、ルビナスは思わず溜息をついた。
「まったく、アルストロメリアの悪戯癖でもうつったの? 私にまで内緒でトレイターと連絡をつけていたなんて……」
――みんなにクレシーダの妊娠を黙っていたのは何処の誰だったかしら?
「……もう…貴方ってそんなに意地悪だった?」
苦笑しながらそう言ったルビナスの様子に、クレア達の中に笑いが広がる。
「それにしても、驚いたぞ。何しろ全く記憶に無かったからな」
「え!?」
大河が呟いた瞬間、クレアと大河を除いた全員が一斉に戸惑いの声を上げた。
「知らなかった……って? な、なんで知らないわけ?」
「仕方ないだろ、リリィ。だってさ、俺にはそんな事した覚えなんて、これっぽっちも無かったんだから」
その言葉にざわめくリリィ達。
「何言ってるんですか、大河君? 覚えが無い…って、貴方がそう言うことをしなかったらどうやって……」
ベリオの言葉に頷くみんな。
だが、その時……
「いや、大河が知らぬのも道理なのだ」
クレアが発した言葉に皆の視線が集中する。
「クレシーダ様?」
「どういう事なの、クレアちゃん?」
「う……私が…だな。大河と身体を…その…重ねた…のは……大河が、眠っておる間…だったのだ……だから、知らなくとも…当然なのであって……」
耳まで真っ赤になって言ったクレアの告白に誰もが大混乱。
「そ、そんなっ、いつ!?」
こちらも話の内容に何を想像したのか頬を真っ赤に染めて詰め寄るリリィ。
「あの…戦いに行く前……皆に殴られて気を失った大河の側に居った時に……」
大河の脳裏に、あの日の記憶がうっすらと蘇る。
あの時、みんなに本当に大河が愛している相手がクレアだと言った後、リリィ達全員に殴られ気を失い、その途切れかけた意識の中で確かに覚えている。その温もりを。
「てっきり夢だと思ってた……」
「え!?」
呟いた大河の言葉に真っ赤になって振り返るクレア。
「で、では、あの時……目を覚ましていたのか!?」
「いや……はっきりとは覚えてないから……眠りかけ…って言うか、意識がなくなる直前で、微かに覚えがあるだけで……」
「そ、そうか……」
そう言って俯くクレアの表情は、安心したような、ちょっと残念そうな複雑なものだった。
「でも、なんでそんな事を……?」
「証が……欲しかったのだ。私の側に、大河が本当に居たのだという事の証が……」
ベリオの問いかけに照れたような表情でクレアは呟く。
「クレシーダ様……」
「う…ん……私、なんとなく判る……クレアちゃんのその気持ち……」
「未亜……うん、そう…よね。私にも判る……だからあの時だって……」
「大河君が誰を選ぶか、はっきりさせようとしたのはリリィでしたものね。誰がお持ち帰りされても、恨みっこなし…って」
「ベリオ!」
「でも、そう思ったのはリリィだけじゃない。私達の誰もがはっきりさせたかった。ダーリンに選んでもらえるのが誰なのか。そして……もし選んでもらえていたのならきっと……」
「拙者もきっと、証が欲しいと願ったでござろうな」
「私だってマスターと……」
「うん、私だってお兄ちゃんとの証が欲しかったと思う……」
「みんな……」
「リリィさんだってそうでしょ?」
「う……うん……まあ……ね」
顔を真っ赤にして頷くリリィやみんなの様子に苦笑しながら、クレアはそっと呟く。
「まぁ、まさかその一度だけで、こうして子を授かる事になろうとは、思いもしなかったのだが……な」
そう言って照れくさそうに笑いながら、クレアは不思議そうに見つめてくるタイガの頭を優しく撫でた。
「それにしても、なんで俺と同じ名前?」
「……私の…最も愛する名…だからだ」
「え?」
「他の名など、いくら考えても思いつかなんだ。最も強く、最も優しい私の救世主様の名前以外はな……」
微笑みながらそう言ったクレアに大河は苦笑すると、タイガの身体を抱き上げる。
「わ、わわっ、ち、ちちうえ〜っ!?」
突然の事に目を丸くしていたタイガだったが、肩に乗せられて周りを見ると、その光景に瞳を輝かせた。
「わぁっ……」
そんなタイガと大河の姿を微笑ましそうに見つめるクレア達。
だが、次の瞬間、ふとクレアの表情に不安が過ぎる。
「ん? どうした、クレア?」
「……大河…喜んでくれるか? 私が…お前の子を産んだ事……」
不安に揺れる瞳で聞くクレアだったが、その肩が強く抱き寄せられて驚きに目を丸くした。
「た、大河…?」
「当然…だろ? 俺が居ない間、1人でよく頑張ってくれたな…クレア、ありがとな」
「――――っ…大河ぁぁぁぁっっ!!」
抱きつき、泣きじゃくるクレア。
必死に堪えてきた不安が一気に弾けてしまったその涙はそう簡単に止められはしない。
その喜びに震える身体を抱きしめたまま、大河はみんなへと話し掛けた。
「ベリオ、俺が居ない間、みんなをまとめてくれてたんだな」
「委員長としての勤めですから。大河君こそ、本当に無事でよかった……4年間、お疲れ様……」
「師匠―――っ! 拙者、寂しかったでござるよぉぉぉっ!!」
「どわっ!? わかった! わかったから、少し落ち着け、カエデ!!」
「師匠〜〜〜〜〜っ!!」
「ったく、しょうがないな……あ、リコ」
「はい、マスター」
「普通の人間としての暮らしはどうだ?」
「戸惑う事ばかりです。特に、自分のページを開けなくなってしまった事が一番……」
「自分のページ?」
「はい、私達は書の精霊でしたから、私達を構成する基となっていた書のページです。私達が経験した事は全てそこに書き記されていました」
「なるほどな……で、それが見れなくなったからってどうかしたのか?」
「記録するようにしていたので……その……」
「ん?」
「記憶する……という事にどうにも慣れなくて、忘れ物をしてしまう事が度々……」
恥ずかしそうに俯いて言ったリコの言葉に思わず吹き出してしまう大河。
「マ、マスターっ! 笑うなんて酷いです……」
「あはは、ごめんごめん。でもそう言う所があってもいいんじゃないか? リコはもう、普通の女の子な訳だし」
「マスター……はい…」
少し嬉しそうに、頬を染めて微笑むリコ。
「それにしても、私達があんなに苦戦したダウニーをあんなにもあっさり片付けてしまうなんて……流石は私のダーリン……素敵よ」
「ルビナスさんこそ、あんな実力を隠してたなんてな。そう言えば、ナナ子は……どうなったんだ? もしかして……」
心配気な大河の言葉にルビナスはちょっと嬉しそうに微笑むと、彼の手をとって自分の胸に押し当てた。
「ちょっ…!?」
「あの子なら……ここに居るわ……ナナシは私といつも一緒。消えたりなんかしない……あの子は私で、私はあの子なんだから……」
そう言いながら、潤んだ瞳でゆっくりと大河に唇を近づけようとするルビナスを、未亜とリリィ、それにようやく泣き止んだクレアが慌てて止めた。
「もう、ルビナスさんったら……」
「ふふっ、ごめんごめん。つい…ね」
「まったく、油断も隙も無いな……」
「って、クレアちゃんはそれ言えないと思う……」
「全く同意」
「むぅ……」
二人の言葉に頬を赤らめて視線を逸らすクレア。
その様子に周囲には笑いが広がっていった。
やがて……
「さぁ、いつまでもこうしていても仕方あるまい。カエデ、伝令を頼めるか?」
「なんでござるか、クレシーダ様?」
「城のミュリエルに伝えてくれ。救世主が帰還した。城下の人々を集め、祭りを開く…とな」
「承知したでござる!」
そう言うなり、一瞬で姿を消すカエデ。
誰もが見失ったかに見えたその姿を、大河はしっかりと目で追っていた。
「流石は忍者。早いなー」
「って、お兄ちゃん、今の見えてたの!?」
「ん? ああ」
「信じられない…私には消えたようにしか見えなかったのに……」
感心したように見つめる皆の中で、リリィだけは少し悔しそうな表情を浮かべている。
「カエデも強くなったからなぁ……あれが見えたのは俺と、ルビナスさん位か?」
「初動から5秒くらいまではね。そこから後は見失っちゃったわ。まぁ…でも」
「でも?」
「今のってダーリンが帰ってきた嬉しさで、普段以上の力が出ていたようにも見えたけどね」
苦笑するルビナス。
「嬉しすぎて火事場の馬鹿力?」
「カエデさんらしい」
彼女の言葉にリリィと未亜もそう言って笑った。
「ふふっ、さあ、我等も行こう! 大河の……救世主様の凱旋だ!!」
「はいっ!!」
澄み切った青空の下、救世主の帰還を喜ぶ声は瞬く間に王都、そしてアヴァター全土へと広がって行った……
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