DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin
最終話
あの破滅との戦い以降、復興を遂げてきた王都は今、これまでに無いほどの賑わいを見せていた。
皆が待ちに待った、救世主の帰還ともなれば、無理もない。
噂が噂を呼び、人伝えに広がったその話を聞いて、アヴァター全土から続々と人々が集まってくる為、城の周りには人が溢れかえっていた。
「それにしても…凄い歓迎だな」
「皆が待ち焦がれた救世主様のご帰還なのだから当然であろう? さあ、大河。皆の前に姿を見せてやるが良い」
「ん、了解」
クレアに頷いてテラスへと進む大河。
その傍らにはクレア、タイガはもとより、ベリオ、カエデ、ルビナス、リリィ、未亜、リコ、イムニティの姿もあった。
「おお、あれは……」
「救世主様……救世主様だ!」
一気に大歓声が辺りに巻き起こる。
あまりの激しさに建物がビリビリと震える程に。
その中に響く、凛とした声。
「皆、聞け! 今、我等の元に救世主、当真大河が戻った!」
響き渡る大歓声。
「もはや破滅を恐れる事は無い! 大河は破滅の源をついに断ってくれた! 2度と破滅は起こらない! 子供達の、そしてその子供達の未来を恐れる事はもうないのだ!」
クレアの言葉に響く喜びの声は、いまや最高潮に達していた。
そんな中、大河がそっとクレアの肩に手をやると、見つめる人々に向かって口を開く。
「みんな、今まで苦しい思いをしながら、よく戦ってくれた! もう、破滅に残されているのは、今この世界に居る残党だけだ! それも俺達が必ず倒す!! 破滅に怯えて暮らす時代は終わった! これからは、みんなで未来を作っていく時代なんだ!!」
その言葉に人々は喜び、涙を流し、新たな時代の訪れに歓声を上げた。
そんな中、彼の姿を見つめる仲間達から苦笑が漏れる。
「バカ大河の癖に……ふふっ、格好よすぎじゃない?」
「くすっ、相変わらず素直じゃないのね、リリィ。ダーリン、素敵よ」
「……お兄ちゃん……やっぱり、未亜のお兄ちゃんは最高だよっ!」
「私のマスターが貴方で……本当に良かった……」
「師匠〜〜〜っ、格好いいでござるよ〜〜」
「素敵です……大河君……」
「ふん、本物の救世主……ね……フフ、少しはそれらしい所も見せるじゃない……」
みんなから聞こえてくる賛辞に少し照れる大河。
歓声と大河を称える声が溢れる中、タイガはそんな父の姿を瞳を輝かせて見つめていた。
「ふふっ…どうだ、タイガ? 最高の男であろう? お前の父は」
「うんっ! ははうえのおはなししてくれた、ゆうしゃさまよりもっとかっこいい!!」
「ああ、そうであろうとも…大河以上の男など、全ての世界を探し尽くした所で、他に居るものか……」
呟くように言って、ふと、クレアが急に俯いた。
「はは…うえ?」
戸惑うタイガの頭にそっと大河の手が乗せられる。
もう片方の手ではしっかりとクレアの肩を抱きしめて。
そんな父の手の温もりを感じて、嬉しそうに微笑むタイガ。
その姿に、集まった人々からは益々大きな歓声が上がる。
溢れる暖かな声に包まれながら、クレアは泣いた。
ずっと信じ続け、待ち続けた愛する人に抱きしめられている喜びに微笑みながら、泣き続けた……
その夜……
延々と続いていた宴会が終わり、名残惜しそうな未亜達がそれぞれ寮の部屋へと帰った後、王宮の一室でクレアと大河は2人きりの時間を過ごしていた。
隣の部屋にはタイガが眠っているとは言え、この部屋に居るのは2人だけ。
ミュリエルが気を利かせたのか、護衛の兵士達も今は側に居らず、クレアは何となく照れくさくて頬を染めていた。
「2人きり……か……まるであの日の夜のようだな……」
「あの日……?」
「……いや、なんでもない」
「……クレア…」
「ん? なんだ?」
「俺に子供が出来たってトレイターから聞いた時、一体どうして……って思ったんだけどさ……」
そう言われて頬を染めるクレア。
「そ、それは……」
「いやぁ、まさかお前に初めてを奪われていたとは思わなかったぞ」
「―――――――――っ!?」
その言葉で一気に耳まで真っ赤になる。
あまりの恥ずかしさにクレアは涙目で大河の胸に顔を埋めてしまう。
それからしばらく、2人は一言も発しないまま抱きしめあっていた。
やがて……
「すまぬ……とは思っている……私の自己満足の為に、私はお前を……その……」
「クレア……」
「何を言ったとしても言い訳にしかならぬのだが……」
呟くように言って目を伏せたクレアの身体を大河はしっかりと抱きしめる。
「大河……?」
「まあ、俺だってお前と……その……そう言う関係になりたいと思っていたわけだし……」
「え……?」
「射程外……だと思っていたけど……って、それはあの日に言ったよな……? お前と…初めてキスした……時に……」
そう言われて頷くクレア。
「あの時、俺だってお前とそうなれたら……って」
「そ、そうなのか?」
「ああ。だからお前がこの事に責任を感じたりしなくて良いんだよ。ただ……まぁ…」
「な、なんだ?」
「もったいなかったな……ってさ」
「え? もったいないとは…どういう意味なのだ? もしや、初めてが私では……」
不安げにそう言うクレアに大河は首を横に振ると、口元に笑いを浮かべて言った。
「クレアとの初体験を覚えていないなんてさ〜いや、もったいない。あんな時とか、こんな時とか、それを全く覚えていないなんてさ〜実にもったいない」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!? た、大河〜〜〜〜っ!!」
涙目で睨むクレア。だが……
「あ……ん…………っ…」
唇を奪われ、強く抱きしめられて何も言えなくなってしまう。
「こ、こら、大河…ん……っ…放っ……んん…ぅ…っ……」
しばらく逃れようともがいていたクレアだったが、その激しい口付けにやがてそっと大河の背に手を回して抱きついた。
暖かなその温もり……大河が帰ってきたのだという、これ以上無い証にクレアは溢れてくる嬉し涙を堪える事が出来なかった。
「泣けよ……クレア……今は王女と救世主じゃない……ただの、クレアと大河だ……王女だからとか、そんな事気にしないで思いっきり…泣いとけ……」
「う……うぁ……ぁ………大河……大河ぁっ、大河ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
泣きながら縋り付いてくるその身体をしっかりと抱きしめる大河。
クレアが泣き止むその時まで、その手は決して放される事は無く、強く、優しく抱きしめていた……
それからしばらくの時が流れ、ようやくの事で泣き止んだクレアだったが、その手はしっかりと大河の背に回されて放そうとはしなかった。
静寂の中、ふとクレアが口を開く。
「のう……大河……」
「ん?」
「それ程にも…もったいないと……思っておるのか?」
「え?」
「そ、その……だな。お前がそれ程に…思うておるのなら……私は……その…構わぬのだぞ……今一度…でも…」
「それって……」
クレアの言葉が意味する事が判って、大河の顔が赤く染まる。
そんな様子にクレアは微笑むと、大河の耳元に唇を寄せてそっと囁いた。
「良いのだぞ……大河とならば……」
「クレ……ア……」
まるで吸い寄せられるようにクレアを抱きしめる大河。
重ねられた唇が温もりと思いを伝えあって……
天蓋の下、寝台に横たえた2人の身体がそっと重ねられた……
翌朝。
窓から差し込む光に目を覚ましたクレアは、その裸身をシーツで隠しつつ隣に眠る大河の姿に嬉しそうな微笑を浮かべると、胸に頬を埋めた。
まどろみの中で、ゆっくりと目を覚ます大河に、クレアは目一杯の気持ちを込めて、あの言葉を口にする。
「…おはよう…そして…お帰りなさい…私の…救世主様……」
その言葉に、大河は優しく微笑み、そっと身体を抱きしめながら囁いた。
「ただいま……俺の…王女様……」
重ねられた唇……
訪れた平和の光は分け隔てなく全てに降り注ぐ。
未来永劫に続くかと思われた破滅との戦いは、こうして幕を閉じる。
救世主を誰よりも信じ、誰よりも愛した少女。
そして、その少女を誰よりも愛し、救いたいと戦った救世主。
世界は今、二人の思いを中心に、動き始めた。
ここは根の世界、アヴァター。
そんな2人の信じあう絆、揺ぎ無き愛がこの世界を根源とする全ての世界へと広がっていくだろう。
そして、いつしか全ての世界が、愛に満ちた世界になっていく。
その時こそ……真の勝利の時となるのかもしれない……
だが、今は……
「のう、大河……」
「ん?」
「この事を皆が知ったら……何と言うであろうな……?」
「え……?」
「抜け駆け……してしまったからのう……」
そう言ってクレアの指差す先を見ると……
部屋の入り口…怖いくらいの笑顔で見つめる視線が6つ。
「大河君……」
「師匠〜〜っ」
「マスター……」
「ダーリン……」
「大河……」
「お兄ちゃん……っ」
「――――――――――――――っ!?」
大河にとっての本当の平和は……どうやらまだまだ先のようだった……
Fin
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