DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin
第5話
――だから王女は…いえ…今は女王になった彼女は信じているのです。きっと勇者が帰ってきてくれるというそのことを――
何度も、何度も母から聞いた勇者様の物語。
とても強く、優しく、暖かい勇者様の物語。
それは…少年にとって、まだ見ぬ父の物語。
そして……物語は、今、現実となる。
「貫け! トレイタ―――――――っ!!」
少年――タイガ――の目の前に、その姿はあった。
タイガを、そしてみんなを傷つけた怪物を勇者様の剣、『トレイター』を振るって次々と滅していく物語の勇者様。
その剣は様々に形を変え、勇者様と共に怪物を滅していく。
伝説がここにあった。
英雄の物語がここにあった。
物語の中に居たはずの勇者様が、今、ここに居た。
母に聞いていたよりももっと強く、もっと優しく、本当に暖かな……
「ちち……うえ……」
先ほどまでの恐怖を忘れたかのように大河の姿を瞳を輝かせて見入るタイガ。
その身体をそっとクレアが優しく抱きしめた。
「どうだ、タイガ? 私の救世主様は? 本当に…最高の男であろう? お前の……父は」
クレアの言葉に、益々瞳を輝かせて大きく頷く。
「信じて…おったぞ……大河……私の…救世主……」
呟くような声が聞こえると同時に、タイガは頬に零れ落ちてくるものに気が付いた。
「ははうえ……?」
不思議そうに見上げたその瞳に映るのは、歓喜の涙に瞳を濡らして愛しい人の姿を見つめるクレアの姿。
その瞳がこちらに振り返った大河と重なった瞬間、タイガは2人の間に確かに伝わる何かを感じた。
抱きしめてくるクレアの腕に少し力が籠もって、浮かべた笑顔はそのままに、堪えきれなくなった涙がポロポロ、ポロポロとタイガの頬に零れ落ちてくる。
母の温もりに包まれながら、タイガは感じていた。
最早何も心配は要らないと。
お話の中だけじゃない。
本当の勇者様が、ここにいるのだと。
「やっちゃえ……やっちゃえ、ちちうえ――っ!!」
「応よっ!!」
タイガの声に応えてトレイターを振るう大河。
その一撃が、無数のダウニーをまとめて屠る。
救世主候補生達があれほどに苦戦した相手にも拘らず、瞬く間に殲滅していくその姿は圧倒的だった。
「すごい……大河くん……」
呆気に取られた様子で呟くベリオ。
「流石でござる、師匠!」
「マスター…素敵です……」
「ふふっ、流石は私のダーリン…素敵…ですのぉ」
カエデ達もそう呟いては頬を赤らめる。
「……悔しいな…」
「リリィ?」
「私達だって、4年間必死に鍛えてきたはずなのに……」
「しょうがないよ、だってお兄ちゃんは……」
「真の救世主様…ね……悔しいけど、認めるしかないかな……」
そう言って苦笑するリリィに未亜も頷いて微笑んだ。
「あれが、オルタラの選んだ赤の主……真の…救世主……」
呟くイムニティの胸の奥でくすぶっていた小さな炎。
それは大河の姿を見つめている内に少しずつ大きくなっていく。
自分とオルタラ――リコ・リス――から赤と白のエッセンスを抜き取り、書の精霊では無くした男。
神に戦いを挑み、戦い抜いて、勝利した本当の救世主。
「私のマスターが愛する男……当真…大河……か……」
口元に浮かぶは小さな笑み。
その胸の奥で大きくなった炎が胸を焦がしていくような気がするが、それもまた、どこか心地よく感じている自分に少し戸惑いながらも、イムニティは彼の勇姿から目を離せなくなっていた。
そして………
大河が参入して僅か10分。
それだけの時間で、最早大勢は決しようとしていた。
無限に湧き出てくるかと思えたダウニーだったが、いつしかその数は減っていき、ついに残るはあと1体だけ。
「バ、バカナ……ッ!?」
「どうやら、打ち止めらしいな。ダウニー!」
チャキ…と音を立ててトレイターを突きつける。
周囲では疲弊しきった仲間達が、それでも戦いの意思を瞳に宿してその様子を見つめていた。
「コ、コウナレバ、セメテクレシーダ女王ダケデモッ!!」
その言葉と共にダウニーの身体が爆散し、光の塊となってクレアへと襲いかかる。
一瞬遅れた大河が切りつけたのは光体の残滓のみ。
「くっ! 待ちやがれっ!!」
慌てて追う大河。
狂笑を上げ、正に光の速さでクレア達へと襲い掛かろうとするダウニー。
だが……その前に未亜が立ちはだかり、疲労に震える腕でジャスティを構えた。
「クレアちゃん達には近づかせないっ! ジャスティ! 私に力を!!」
その言葉と共に放たれる無数の矢がダウニーへと突き刺さり、爆発する。
「ガギィィィッ!! オノレ、当真未亜ァァッ!!」
それによって弾き飛ばされるダウニーだったが、止まらない。
再び別の場所からクレアへと襲い掛かろうとするが……
「くっ、こんな位で…っ!」
ふらつきながら、ダウニーの前に立ちふさがるリリィ。
「クレシーダ様をこれ以上傷つけさせはしない……ライテウス、力を貸して……」
願いに応えるようにライテウスが膨大な魔力を放つ。
それに後押しされるように、リリィは炎の魔術を解き放った。
「灰となれ、ファルブレイズン!!」
「援護するわ、リリィ! フェリオン・レイ――ッ!!」
リリィとベリオの魔術が、焼き払い、薙ぎ払う。
そして更に!
「エルストラ・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり! 我は万物の根源たる四元素に命ずる……集え!」
周囲に満ちる四元素がルビナスの術に応えて5つの形を成す。
それはルビナスと全く同じ姿をした分身体。
本体と共に6方向から一斉に構えたエルダーアークが眩い光を放つ。
「ギ、ギァアアァッ、リ、リリィ・シアフィールドォォォォッ! ベリオ・トロォォォォプゥゥゥゥッ! ルビナス・フロォォリァスゥゥゥッ!?」
「……六芒の星に満ちる光よ、薙ぎ払え!!」
そこに更に叩き込まれるルビナスの錬金術の奥義。
凄まじい閃光と爆発力によって吹き飛ばされたダウニーの身体が宙に舞う。
そこへ炸裂する更なる力。
「滅・破炎拳―――――っ!!」
炎を纏い、連続で炸裂するカエデの拳撃。
最後の一撃がダウニーの身体を天高く吹き飛ばす。
「師匠!」
「今よ、ダーリン!」
「流石だぜ、みんな! リコ、イムニティ! 結界を!!」
「はいっ、マスター!」
「言われるまでもないわ!」
一瞬で展開される多重結界。
それによってダウニーは完全に動きを封じられる。
「年貢の納め時だぜ、ダウニー!」
「ウ……ウォオォォォォォォォオオオオォォッ!? カ、神よ、御力ヲ……」
「無駄だぜ、神の本体は俺が完全に滅した。テメェは最早残りかすに過ぎないんだよ」
「馬鹿ナ! 馬鹿ナァァァッ!!」
「往生際が悪すぎるぜ、テメェもとっとと逝きやがれ、ダウニー!!」
「当真……大河ァァァァァァァァァァァッ!!」
「俺達の力を見せてやれ……トレイタ―――――――――――ッ!!」
動きを封じされ、落ちてくるダウニーに向かって、トレイターが変じた巨大斧を振り上げる。
その瞬間、地面が閃光と共に吹き上がり、弾丸と化した土砂がダウニーへと突き刺さった。
だが、それで終わりじゃない。
空中に再び舞い上げられたダウニーに閃光を纏いながら突き進む大河。
その手の中でトレイターの形はランスへと変じ、更に加速する。
「貫け――――――っ!!」
ランスを中程まで突き刺したまま、天へと上昇していく。
そして更に!
「これで……終わりだぁぁぁぁっ!!」
突き刺さったままのランスを剣へと変じ、一転して下へと方向を変える。
「これが救世主の……俺達人間の力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「救世主ゥゥゥゥゥッ!! ヒィィアァァァァァァァァァッァギアイアィアァアアアアアッ!!」
響き渡る絶叫。
それが地面へと炸裂した瞬間、辺りには凄まじい爆発が起こり、リリィ達は吹き飛ばされないように必死に身体を支えた。クレアもまた、その腕にタイガを抱き、巻き起こる衝撃から護っている。
やがて……もうもうと舞い上がった砂塵が納まると、そこにはトレイターの切っ先に腹部を貫かれ、地面に縫いとめられたダウニーとそれをどこか悲しい瞳で見つめる大河の姿が。
あの巨大だったダウニーの姿は最早何処にも無く、学園で教鞭をとっていた頃のあの姿へと戻っていた。
「……フフ……フフフ……見事です……当真大河君……」
「ダウニー?」
「これが……救世主の……本当の救世主の力……ですか……なんとも凄まじいものだ……ゴフッ!」
呟くように言っていたダウニーの口から鮮血が溢れ出す。
「覚えていますか、当真君……私の妹の話を……」
「ああ……」
「……もしあの頃に君が居たのなら……私達は一体どうなっていたのでしょうね……」
「決まってるだろ?」
「……フフ……そう、ですね。私達は君に救われ……妹はきっと君を慕う女性の1人となっていた事でしょう……だが…全てはもう遅い……」
「ダウニー……」
「何故、今なのでしょう……ね。君が現れるのは……遅すぎた……しかし、これで良かったのかもしれない……」
かすかに口元に笑みを浮かべるダウニー。
その瞳の輝きがゆっくりと失われ……
「……真の…救世主……か……」
呟くように言ったその言葉がダウニーの最後の言葉となった。
突然、眩いばかりの輝きを放ち、ダウニーの身体が光となって砕け散っていく。
その激しい閃光に全員が目を閉じる。そしてゆっくりとまぶたを開いたその後には、ダウニーの痕跡など欠片1つ残ってはいなかった……
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