DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin
第4話
「はぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に次々にダウニーを切り倒すルビナス。
「全くッ、限がないで、ござるなっ!!」
連続して数体を倒したカエデはそう言いながら周囲の様子を伺う。
一体何処から湧いてきたものか、ダウニーの分身体は増える一方。
疲労は確実に蓄積している。
「このままでは、消耗させられるだけでござる……何か策を講じねば……」
歯噛みするカエデ。
ルビナスもベリオも既にかなり消耗している。
これ以上の戦闘が続けば、結果は火を見るよりも明らかだ。
と、その時。カエデのすぐ側にルビナスが弾き飛ばされてきた。
「ルビナス殿!」
「だ、大丈夫! この程度……ッ!」
そう言って立ち上がろうとするが、身体に走る痛みに顔をしかめて膝を着くルビナス。
「クッ、あまりに多勢に無勢……このままでは……」
カエデの瞳に焦りの色が浮かぶ。
「くぅっ! も、もう、シールドがっ!!」
その声に慌てて振り返ると、クレア達を守っていたベリオのシールドが、酷く不安定に揺れ始めていた。
「ベリオ殿っ!!」
慌てて駆けつけようとするカエデだったが、襲ってくるダウニーからルビナスを守りながらではそれもままならない。
それでも必死に戦い続けるが、疲れは確実にその身体を蝕んでいた。
そして……
「カエデっ!!」
「――――っ!?」
ルビナスの声に慌てて身構えたが、既に遅かった。
鈍い音を立ててダウニーの巨体に弾き飛ばされたカエデの身体が、展望台の階段を転がり落ちていく。
「カエデ!! くっ、そこを退きなさい!!」
そう言ってエルダー・アークを振りぬくが、その程度ではびくともしない。
「ひぃぃぁぁあああああぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」
奇怪な叫びを上げながら襲い掛かってくるダウニー。
だがその瞬間……
「エルストラ・メリン・我は賢者の石の秘蹟なり! 我は万物の根源たる4元素に命ずる…爆ぜよ!!」
錬金術を行使するルビナス。
その爆発で無数のダウニーが爆砕し、カエデへの道が開く。
「うぅっ、これ以上は……っ!」
カエデに向かって駆け出そうとしたルビナスは背後から聞こえてきたベリオの声に一瞬迷ってしまう。
どちらを先に救いに行くべきか……
その時だった。
「灰となれ! ファルブレイズン!!」
裂帛の声が響いた瞬間、ベリオを襲っていた数体のダウニーがまとめて爆炎に吹き飛ばされる。
周囲からの攻撃が止むのと、シールドが砕け散るのは殆ど同時だった。
よろめくようにその場に倒れこむベリオ。
そこに空中から舞い降りたリリィはすぐさまベリオを抱き起こす。
「ベリオ! しっかりしなさい!!」
「う……あ……リリィ……」
なんとか無事だった様子を確認したルビナスは、そのままカエデの元へと走る。
酷い怪我をしていないか不安だったのだが……
駆け下りてみると、そこにはカエデを支えるようにして回復魔法を使うリコの姿があった。
「リコ! カエデは……」
「無事です。回復魔法が間に合いました」
「そう……良かった……」
思わずホッと胸を撫で下ろす。
そこに未亜とイムニティも駆け寄ってきた。
「カエデさん!? 大丈夫!?」
「やられたの? それにしても……あれは一体何の冗談よ……」
心配気な未亜。
イムニティは上の広場に溢れるダウニーの姿に僅かに顔を青ざめさせていた。
やがて、リコの回復魔法で全快したカエデと共に、ルビナス、リコ、未亜、イムニティも上の広場へ駆け上がる。
「おお、皆、来てくれたのか!」
クレアの言葉にその周囲へと駆け寄る救世主候補生達。
「ひぃいぁあぁぁっ、そろぃぃぃましたねぇぇぇ、救世主ぅぅぅ候補生達ぃぃぃ!」
無数のダウニーから溢れるその声に皆に緊張が走る。
「大河の居ない間にクレシーダ様を狙おうだなんて、随分と卑怯な真似をしてくれるじゃないの、ダウニー!!」
「もう、絶対にクレシーダ様を傷つけさせはしません。そう……マスターの為にも!」
そう言い放ったリリィとリコの手に集う魔力の塊。
「アーク・ディ・アクル!!」
「テトラグラビトン!!」
極限の冷気と灼熱の炎が凄まじい反作用を生み、多数のダウニーをまとめて跡形も無く吹き飛ばす。
だが、それでもその数はまるで尽きる事を知らぬかのように、次々と湧き出てくる。
一体何処から……そう思った瞬間だった。
「あれを!」
ベリオのその言葉に全員が見ると、地面からまるで生えてくるかのように姿を見せる数対のダウニー。
「まだ増えると言うの!?」
ルビナスの声が震える。
いくらあの戦いの頃から比べれば強くなったとは言え、ここまで連戦が続けばいつかこちらは力尽きる。
そうなったら……
絶望的な状況に、皆の心を最悪の結末が過ぎる。
しかし……
「大河くんさえ……いてくれたなら……」
ユーフォニアを支えにゆっくりと立ち上がりながら呟くベリオ。
「ダーリン……」
エルダー・アークで寄ってくるダウニーを薙ぎ払いながら、ルビナスも呟く。
「師匠……どうして帰ってきて……下さらぬのでござるか……」
紅蓮衝を放ちながら、涙混じりに呟くカエデ。
「マスター……私……っ」
魔導書を開いてダウニーに攻撃を放ちながら、リコの頬を涙が伝う。
「バカ大河っ……どうして帰ってこないのよ」
強がりながらも寂しさが溢れているリリィ。
「私……このまま死んじゃうのかな……ぐすっ……お兄ちゃん……」
「マスターを死なせたりはしません。私が必ず守ります」
「イムニティ……ありがとう……」
「(当真大河……お前が本当に真の救世主だと言うのなら……今をおいていつ帰ってくると言うのだ……!)」
涙を零す未亜を守るように言ったイムニティも、内心ではそんな事を考えている。
「ははうえ……っ、ぼく……ぼく……」
近づいてくるダウニーの姿に怯えるタイガ。
その身体をしっかりと抱きしめて、クレアは震えることなく目の前の怨敵を睨みつけた。
「あいつは……大河は必ず帰ってくる! あいつは……私の、救世主様なのだから!!」
言い放つクレアに襲いかかるダウニーの爪牙。
目の前に迫る死を前にしても、些かも揺るがないその視線。
「信じておるぞ……大河……私の、救世主……」
そう言ってタイガを抱きしめると、クレアはそっと瞳を閉じる。
クレアを救おうと必死に駆け寄る救世主候補生達。
だが、最早間に合わない。
「――――――――っ!!」
声にならない叫び。
それは一体誰のものだっただろうか。
そして………
「…………?」
なかなか来ない最後の瞬間に、クレアはそっと目を開き……
「え……?」
戸惑った声が、その唇から零れた。
「う……そ……」
「こんな…事って…」
目を見開き、言葉を失うベリオ、ルビナス。
「信じ…られない……」
「いくらなんでも…ありなの……こんなの……」
イムニティとリリィも戸惑いを隠せない様子で目を瞬かせている。
「ああっ、ああああっ……」
「まことで……ござるか……」
「……ようやく……帰って……ぐすっ……」
涙ぐむ未亜、カエデ、リコ。
そして……
「あ、ああっ、あああああっ! た…大河ぁぁぁっ!!」
クレアの歓喜の叫びが、辺りに響き渡る。
その声に僅かに口元を緩めて応えると、素手でダウニーの攻撃を受け止めていた大河は大きく天に右手を掲げた。
「来いっ! トレイタ―――ッ!!」
空間を貫いて飛来する巨剣。
真の救世主の剣、トレイターが大河の掲げられた手の中に。
「折角の感動の再会って時に……くだらねぇ真似してんじゃねぇよ、ダウニ―――っ!!」
裂帛の怒声と共に大きく振り抜かれるトレイター。
たったそれだけで、クレアに襲い掛かろうとしていたダウニーは真っ二つに切り裂かれて霧散する。
あまりに強大なその力に目を見張る救世主候補生達とクレア。
「と、当真、大河……っ!?」
焦るような声が周囲のダウニー達から漏れる。
だが、大河はそんな物は意にも介さず、仲間達へと目を向けた。
傷つき、倒れそうになりながらも必死にクレアを守ろうと戦い続けた救世主候補生達。
そして、どんなに窮地に陥っても子供を守ってひたすら大河を信じ続けたクレアと、その腕に抱かれたタイガへ。
「悪い……遅くなっちまったな、みんな……」
「当真、大河ぁぁぁっ!!」
みんなに話しかけようとする大河に一斉に襲い掛かってくるダウニー。
その瞬間……
「だから……邪魔するんじゃねぇって言ってんだろうがぁぁぁぁっ!!」
一閃。
大河の声に応えるように輝くトレイターを振りぬいた瞬間、周囲に溢れていたダウニーは一斉に切り捨てられて全て霧散した。しかしそれでも更に溢れてくるダウニー。
「ったく、神の野郎……傍迷惑なカス残していきやがって……しょうがねぇな。感動の再会…といきたい所だけど、とりあえずはこいつを片付けてからだな。ベリオ、リコ、動けるか?」
「は、はいっ!」
「私も大丈夫です、マスター!」
大河の言葉に涙を浮かべた瞳で応える2人。
「じゃあ、2人は手分けしてみんなの回復を。カエデとナナ子は回復が済んだらあいつらを引っ掻き回せ!」
「承知したでござる、師匠!」
「わかったわ、ダーリン♪」
クナイを握り締めて頷くカエデの瞳も喜びの涙に濡れている。
そしてルビナスはエルダー・アークを……
「……って……お、おい、ナナ子?」
「えっ?」
「お前、それって召還器じゃ……」
驚く大河に悪戯っぽく微笑むルビナス。
「それは後で……ね、ダーリン♪」
「ま、まあいいか……リリィは魔法でみんなを援護してくれ!」
「なっ、なによなによっ! 今頃帰ってきて、偉そうにっ!!」
「お、おい、今はそんな事言ってる場合じゃ……」
「わかってるわよっ! だからって少しくらい言わせなさいよっ……ホントに…もう駄目かと思ったんだからぁ……」
「リリィ……」
「遅いわよ……バカ大河ぁ……」
そう言って涙ぐむリリィに大河は苦笑する。
その様子に気付いて顔を真っ赤に染めたリリィはぷいっと顔を背けると、ライテウスを掲げてその手に魔力を集める。
「未亜」
「お兄ちゃん…ぐすっ……」
「ったく、泣き虫は相変わらずだな」
「だ、だってぇ……」
「まあ、感動の再会は後だ。お前もリリィと一緒にみんなを援護してくれ」
大河の言葉に困惑した様子を見せる未亜。
「で、でもお兄ちゃん……私にはジャスティもないし……」
「召還器は、主の強い思いのこもった声に必ず応えてくれる。信じろ、ジャスティを!」
「う、うんっ!」
大きく頷いた未亜は、その手を天に掲げて叫んだ。
「お願い……来て……ジャスティ――――――――っ!!」
祈りを込めたその声に……応える声が。
――やっと、呼んでくれましたね。
それと共に未亜の手には今までとは全く形の違うジャスティがその姿を現していた。
「ジャスティ、お願い。みんなを助ける力を私に貸して!!」
――貴方の意思は私の意志。
――さあ、貴方の意のままに。
未亜の声に応えてジャスティが輝きを放つ。
「ダウニー先生なんかぁぁっ、消えちゃえ――――――っ!!」
放たれる幾千の閃光。
それは尽くダウニー達を貫き、消滅させる。
「うぉ、やるなぁ未亜の奴。まあ、それはそれとして……イムニティ」
「なんだ、赤の主?」
「未亜を守ってやってくれ」
「何故私がお前の命令を?」
「命令じゃない。お前の主を守ってくれって、しがない兄貴からのお願いだ」
「…言われずとも、私のマスターは私が守る!」
「へへ、それなら安心だ。じゃあ、頼むぜ、イムニティ」
そう言って背を向ける大河を呆気に取られた様子で見つめていたイムニティだったが……
「…私に……頼む…だと? 敵であった私に……? あれが……赤の…大河…か…」
呟くと、僅かに口元を綻ばせて未亜を守るように魔法を放つ。
ベリオとリコによって回復した仲間達も次々にダウニーへと攻撃を仕掛けた。
そして……
みんなの攻撃によって一気にクレアの周囲からはダウニーが一掃され、ぽっかりと出来た空間に呆然と佇むクレア。
その胸に抱かれたタイガは不思議そうに辺りの様子を見つめている。
「クレア」
そこへ、ゆっくりと歩み寄る大河。
「大河……」
腕の中にいるタイガを抱きしめ、少し不安げにクレアは見つめ返す。
「お前、そう言うことはちゃんと言っとけ、このバカ」
「バ、バカとはなんだ、バカとは! 大体、私がどんな思いでこの4年の月日を待って……んぅっ!?」
「ああ―――――――――――――っ!?」
誰が上げた声だっただろうか。
未亜達の中から一斉に上がったどよめきにダウニー達は思わず後ずさる。
「た、大河……?」
奪われた唇の感触に頬を真っ赤に染めて目を丸くするクレア。
その指先が自然と口元に触れて、はにかむような笑顔の頬をつぅ…と涙が伝う。
「後でその辺の事、しっかり聞かせてもらうからな。もう少し待ってろ、クレア」
「あ、ああ……大河……っ」
そう応えたクレアの涙をそっと拭って、大河は彼女の腕に抱かれている我が子へと目を向けた。
「よぉ、こうして会うと……なんか照れるな」
「ちち……うえ?」
戸惑うような視線で見つめてくるタイガの頭にそっと大河の手が乗せられて……
「4年……ねぇ。こんなに大きくなっちまうもんなんだな……」
そんな事を呟きながら優しく撫でてくるその温もりに、タイガは嬉しさのあまり泣き出してしまう。
「ちちうえ……ちちうえ〜〜〜っ!!」
抱きついてくるタイガを大河はしっかりと抱きしめた。
「そう泣くなって。な、タイガ」
「ぐすっ……うん……」
涙目で頷く息子に大河が優しく微笑んだその時。
「ちちうえ!」
タイガの声に応えるように振り抜かれる父の剣。
それは空間を越えて襲い掛かろうとしていたダウニーを数体まとめて両断する。
「ったく、落ち着いて話も出来やしない。とことん邪魔してくれやがるな、ダウニー!」
苛立たしそうにそう言い放った大河は、タイガの頭を優しくポンポンと叩いて笑みを浮かべた。
「タイガ、とりあえず話は後だ。俺は邪魔なこいつらをブッ倒してくるから、お前は母さんを守れ」
「えっ……?」
「頼むぜ、タイガ」
その大河の言葉に目を丸くしていたタイガだったが……
「うんっ!!」
やがて満面の笑みで大きく頷いた。
「さぁてと……」
呟く大河の瞳に宿るのは怒りの炎。
「人の留守中に、随分とふざけた真似してくれたな……」
まるでその怒りに応えるように輝くトレイターが空間もろともダウニーを切り裂く。
その瞬間、溢れた閃光が数十…いや、数百のダウニーをまとめて消し飛ばす。
「落とし前を付けさせてもらうぞ、ダウニ――――っ!!」
今、真の救世主の力がこの世界に再び顕現した。
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