DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin
第3話
何故か惹き付けられる様な思いに導かれて、クレアはタイガと共に展望台へとやってきた。
「わぁぁっ、すっごいよ、ははうえ〜っ」
王都を見渡すその光景に瞳を輝かせるタイガ。
足が痛かったのもすっかり忘れてしまったかのように、大はしゃぎで駈けて行く。
「ふふっ、そんなに慌ててまた転んでも知らぬぞ」
そう言いながらもクレアは苦笑してその様子を見つめている。
と、その時だ。
「わぷっ!?」
よく前を見ずにはしゃぎまわっていたタイガは、唐突に目の前に現れた男にぶつかって転んでしまう。
「タイガ!?」
慌てて駆け寄ったクレアは、タイガを抱き起こしながらその男に詫びようとして……
「すまぬ、息子が迷惑を…っ!?」
その男の顔を見た瞬間、クレアは目を見開いて言葉を失った。
驚愕に青ざめる表情。
知らず震えてくる身体を無理やりに押さえ込み、タイガを抱き寄せると男から距離をとった。
「ははうえ?」
不思議そうなタイガだったが……
「フフ、フフフ……これはこれは、クレシーダ王女。いえ、女王…ですか」
言葉と共に放たれる男の邪悪な気配に怯え、クレアに縋りついた。
「何故だ! 何故お前がここに居る!? お前は…あの戦いで死んだはずであろう!!」
震える声で、男に向かって言い放つ。
そんなクレアの姿に、以前と変わらぬ……いや、前以上に邪悪な笑みを浮かべる男。
その名は……
「よもや生きておったとはな……ダウニー・リード!!」
そう。正にその通りだった。
この男こそ、かつて破滅の軍団を率いてアヴァターを恐怖と混乱で滅ぼしつくそうとした張本人。
だが、神に身体を乗っ取られ、その身体は大河によって完膚なきまでに粉砕されたはずだった。
「フフフ、これこそ正に神の意思」
「神の意思だと!? 馬鹿を言うな。その神ならば大河が既に滅ぼしておる!」
「ですが、その当真大河もまた、今ここには居ない。頼みの綱である救世主候補生達もすぐには駆けつけてこられないでしょう。そして、それだけの時間があれば、私の目的は達せられる」
「目的……だと?」
戸惑うクレアにダウニーは邪悪な視線を向けて哄笑を上げた。
「人々の希望たるバーンフリート王家……いや、あの戦いにおいて、人々の希望の象徴となったクレシーダ女王、そしてその後継者…その2人を一度に失ったら、さて、どうなるでしょうね……クク……ヒィァァァハハハァァッ!!」
突然狂ったように笑い出すダウニー。
その魔手から息子を守る為、しっかりとタイガの身体を抱きしめるクレア。
「貴様の目的は、我等の命か!? だが、そう簡単に奪わせはせぬぞ! ……な、何!?」
目の前で起こった事に、クレアは目を疑う。
笑い続けるダウニーの身体が急速に変化し、あの時…神に乗っ取られた時と同じ姿へと変わったからだ。
そして……一気に襲い掛かってくる。
「――――っ!?」
必死になってタイガを守り、逃げ惑う。
救世主候補生達と違ってクレアは戦う術を持たないから、ダウニーに対して反撃する事ができない。
我が子を守るためには、逃げるしか方法はなかった。
だが……
「あっ!?」
逃げ続け、疲れの溜まってきたクレアはダウニーの攻撃をかわしきれず、右足に痛みを感じると同時にその場に倒れこんだ。
痛みに呻きながら見ると、ドレスの裾が破れて鮮血が溢れている。
「ははうえ!?」
「く……っ、タイガ、お前だけでも逃げよ!」
「やだっ! ははうえもいっしょじゃなきゃにげないっ!!」
「…タイガ…っ!?」
思わず息を呑むクレア。
抱きつくタイガの背後から近づいてくる巨大な爪。
それから何とか我が子を守ろうと、クレアは必死にその身体を抱きしめた。
凶刃となって襲い来るダウニーの一撃をその身で受け止めてでも守る為に。
その時だ。
「ホーリースプラ――――ッシュ!!」
クレアの目の前に降り注ぐ光の奔流。
「クレシーダ様から離れなさい! はぁぁっ!!」
その光に続いて裂帛の気合と共にルビナスの召還器、エルダー・アークの一閃がダウニーを弾き飛ばす。
瞳を見開いてその様子を見つめていたクレアだったが……
「ご無事ですか、クレシーダ様!!」
「お、おお、ベリオ、それにルビナスか。助かったぞ」
「ベリオ、あいつは私が! その間にクレシーダ様を!!」
「判りました!!」
頷き返すベリオに背を向け、ルビナスはダウニーに向かってエルダー・アークを掲げる。
と、その時。
「嘘……でしょ……?」
震えるその声にベリオが振り返ると、ルビナスは信じられないものを見るような視線で後ずさった。
「どうしたんです、ルビナスさ……ん……っ!?」
呼びかけようとして、初めて相手の正体に気付いたベリオも絶句。
「まさ…か……」
「ひぃやぁぁぁぁはぁぁぁっ! ベェリオ・トロォォプゥゥゥ……ルビィナスゥゥ・フロォリァアァアッ」
「ダウニー・リードっ!?」
「生きて……いたのですか……っ!?」
信じられない思いの2人だったが痛みに呻くクレアの声にハッと気付いてすぐさま召還器を構えた。
「あの世から舞い戻ったと言うなら、もう一度あの世に叩き返すまでの事! ダーリンの居ない間に好き勝手な真似なんて絶対にさせはしない!! エルダー・アーク! あいつを滅ぼす力を!!」
その声に応えるようにルビナスの手の中で、爆発的な力を解放するエルダー・アーク。
「滅び去れ、ダウニー・リード!!」
召還器を手にダウニーへと向かっていくルビナスの姿を心配げに見つめながら、ベリオはユーフォニアをクレアの傷に翳した。
「クレシーダ様、もう少し我慢してくださいね。すぐに傷を……」
そう言うと共に、ユーフォニアから降り注ぐ光。
その粒子が傷口に触れるたびに微かな痛みが走ってクレアは顔をしかめる。
だが、それと共に瞬く間に傷は癒され、瞬く間に傷跡はその姿を消した。
ドレスの裂け目から覗く足には、もはや傷の痕跡すら残ってはいない。
「これで大丈夫ですよ、クレシーダ様」
「すまぬ、助かった。ここは構わぬから、ルビナスの応援に向かってくれ」
「えっ、しかし……」
「奴はルビナス一人の手には余ろう? いかにメサイアパーティーにおいて最強を誇った赤の主とはいえどな」
「……判りました。クレシーダ様とタイガ君は安全な所へ!」
「ああ、後は頼むぞ、ベリオ!」
「はいっ!」
そう言って駆け出していくベリオに頷いて、クレアはタイガの手を取って走り出した。
一刻も早く他の皆にこの事を伝えなければ。
その思いを胸に、転びそうなタイガをしっかりと支えながら走る。
だが……
「なっ!?」
慌てて立ち止まるクレア。
その勢いにタイガも危なく転びそうになってその足にしがみついた。
「はは……うえ?」
「な、何故……」
呆然と見つめるクレアの視線。それを追ったタイガも顔を青くする。
そこに居たのは……
今もルビナス達が相手をしているはずの……
「ダウニー!?」
「逃がしはしませんよ、クレシーダ女王」
先ほどのような化物の姿ではないものの、人型とは言え油断できるような相手ではない。
「くっ……2人はどうしたというのだ……まさか……」
「いえ、ベリオ・トロープとルビナス・フローリアスは、未だに向こうで戦っていますよ。もう一人の私と……ね」
「分身体……だと!?」
「そう言う……」
「事ですね」
「納得して」
「頂けましたか?」
「――――っ!?」
まるでクレアを取り囲むかのように次々と姿を見せるダウニー。
その数、既に6人。
「な、何がどうなっておるのだ!?」
「っっっっ!?」
完全に混乱の極みに追いやられるクレア。
その足元にすがりつくタイガも、最早言葉すら出せない。
そして……目の前で再びダウニー達の姿があの化物へと変わった。
一斉に振り上げられるその腕。
鋭く伸びた爪に引き裂かれたら、間違いなく命はない。
それらが一斉に振り下ろされた……その時。
キンキンッと金属が跳ねるような音がして、それと共にダウニー達の身体の一部が爆発する。
時間にして僅か数秒。
だが、その間にクレア達の姿はダウニー達の囲いから完全に逃れた所にあった。
「ギィィィッ、ダレダッ!!」
「冥府より舞い戻りし者共。師匠の居ぬ間に戦う力を持たぬクレシーダ様やタイガ殿を狙うとはあまりに卑怯な振る舞い。断じて許せぬでござる!」
「キィ、キサマハァッ」
「カ、カエデっ!?」
「なんとか間に合ったでござるな。怪我は無いでござるか?」
「う、うむ。お前のお陰で命拾いした」
「それは僥倖。ささ、危ないでござるからクレシーダ様はタイガ殿と安全なところへ」
「あ、ああ。すまない」
「カエデおねえちゃん、がんばって!」
「承知!」
その瞬間、カエデの放ったクナイが数人のダウニーの目を貫く。
「ぐぎゃぁぁぁああっ!?」
「我が師、当真大河の名代として、このヒイラギ・カエデがお前たちに引導を渡すでござる! 黒曜!!」
カエデの声に応えて現れる召還器、黒曜。
「はぁっ! 鬼神・槍連脚!!」
そのあまりに素早い動きにダウニーはついて行くことが出来ず、その乱撃全てを喰らって吹き飛ばされた。
だがそれは囲みを作っていた数体に過ぎない。
カエデの動きは全く止まらず、次から次へと吹き飛ばしていく。
「紅蓮衝!!」
黒曜が輝きを放ち、膨大な量の火炎がダウニーに襲い掛かる……だが。
「なっ!?」
慌てて飛び退るカエデ。
その目の前には紅蓮衝の炎を意にも介さず超えてきたダウニーの姿が。
「くっ、ならばこれで! 滅・破炎拳っ!!」
激しい炎を纏って舞い上がるカエデの身体。
強烈な破壊力に吹き飛ばされるダウニー達。
しかしそれでも止めを刺すには到らない。
手数でいくら圧倒しているとはいえ、疲れが見え始めた今の状態が長く続けば間違いなく危険だ。
そして……その瞬間がやってくる。
「はぁぁぁっ、雷神衝!!」
雷鳴のごとく舞い降りたカエデの衝撃で弾き飛ばされるダウニー達。
だが、それすらも耐え切る者がいた。
「くっ!!」
慌てて逃れようとしたが一歩遅く、カエデはダウニーに足をとられて壁に叩きつけられてしまう。
「か…はっ……」
そのまま倒れこんでしまうカエデ。
「カエデっ!!」
慌てて駆け寄るクレアだったが、襲ってきたダウニーに周囲を囲まれてしまう。
その時だ。
「リフレクトウォール!!」
鋭い声と共に、光に包まれるクレア達。
ダウニー達はそれに触れた瞬間、大きく弾き飛ばされた。
そして更に……
「シルヴェステル!!」
まるで鋸尾の刃の様な光が宙を舞い、ダウニー達を襲う。
一気に切り裂かれるダウニーだったが、すぐに再生して再び襲い掛かってくる。
だが、その間にカエデは余裕を持って囲みを逃れる事に成功していた。
「怪我は無い?」
「かたじけないでござる、ベリオ殿」
「私があいつらを引き付けるわ! ベリオはクレシーダ様達を! カエデ、援護をお願い!!」
「はいっ!」
「承知したでござる!」
駆けつけたベリオ達によって辛くも窮地を脱したカエデは、すぐさまルビナスと共に攻撃に転じる。
「これ以上、ダーリンの居ない間に好きにはさせないわ!!」
「参る!!」
一気に襲いかかる二人の速さに、ダウニーは全くついていけない。
そして……
剣を地面に突き立てて何らかの術を編み上げていたルビナスは、目を開けるといきなり錬金術で数体、自分の分身体を作り出した。だが……その内の一体がいきなり勝手に動き出す。
「ちょっと……何処へ……!?」
驚くルビナスを尻目に高台へ上った分身体は、びしっ、とポーズを決めると言い放った。
「そこまでですの!」
その声に一斉に振り返るダウニー達。
そして……
「点が呼ぶ! 血が呼ぶ! 火とが呼ぶ〜! 悪者倒せと、ナナシを呼ぶですの〜〜っ!!」
「ナナシ!? 貴方、何を……」
「お友達をいじめる人は、ナナシが許しませんの〜〜」
そう言うと、とう! とばかりにそこから飛び降りるナナシ。
だが……
ぼっか〜ん
そんな間抜けな音を立てて、ナナシの身体はバラバラになってしまった。
「ふぇぇぇん、ばらばらですの〜〜〜ルビナスちゃん、助けてですの〜〜」
「何をしに来たの、貴方は!!」
と、その時だ。
「ルビナスさん、危ないッ!!」
「クッ!? はぁぁっ!!」
ベリオの声に思わず手元にあったものを思いっきり振りかぶって投げつけるルビナス。
それは……
「ぎゅぅぅぅぅん……ぼっか〜ん! で〜すの〜〜〜!」
「え? あ……」
投げつけた物に気付いて、ルビナスの頬に流れる一筋の汗。
なにしろ、それはナナシの……つまり自分の分身体の首だったのだから……
そして、そのままダウニー達をふっ飛ばしたかと思うと、再びルビナスの手元へと帰ってきた。
「ただいま〜ですの〜〜♪」
「お、おかえりなさい……」
冷や汗交じりに苦笑して、ナナシの首を受け止めるルビナス。
そこにダウニーと刃を交え続けていたカエデから声がかかった。
「助かったでござるよ、ナナシ殿」
どうやらたまたまナナシの頭が吹っ飛ばしたダウニーに苦戦を強いられていたらしく、助けられる形となったカエデはそう言って笑顔を向けてくる。
「えっへん、ですの〜♪ あ……」
と、その時。
ナナシの姿がぼんやりと薄れてきた。
本人もそれに気が付いたのか、少し寂しそうな表情を浮かべて皆を見つめる。
「時間切れですの……ナナシは、またルビナスちゃんの中に戻りますの〜」
「ナナシ!?」
「ルビナスちゃん、ダーリンが帰って来るまで、絶対負けちゃ、駄目ですの〜」
「………ナナシ……っ」
急ごしらえの分身体では、長くは持たない。
同時に作られたほかの分身体も皆光となって消えていく。
「みんな〜頑張るですの〜」
満面の笑顔でそう言うと同時に、ナナシは光になって消滅した。
「あ…………っ……ナナシ……っ」
手の中に有った温もり。
それをルビナスは胸に抱きしめた。
『ナナシは、ルビナスちゃんの心ですの……いつも、ず〜っと一緒ですの〜』
「ええ……そうね……ナナシ……」
潤んだ瞳で微笑むルビナス。
「ナナシの気持ちに応える為にも……絶対に負けるわけにはいかない!! お願い、エルダー・アーク! 力を貸して!!」
その声に応えるように、今まで以上の輝きを放つエルダー・アーク。
『やっちゃえ〜ですの〜♪』
胸の奥で確かに聞こえるナナシの声に頷いて、ルビナスは溢れる力をダウニーへと解き放った。
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