斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第23話 いつか、また…
アーカムシティーの中央に位置する巨大な屋敷、覇道邸。
その中でも特に豪華な一室で、姫さんは月の光を浴びながら眠っていた。
「う……うぅん……大十字さんっ!!」
突然飛び起きる姫さん。
しばらく呆然と辺りを見回していたが、やがて大きな溜息をついた。
「また……夢でしたのね……これで4日…毎日……毎日同じ夢を見続けるなんて……私、どうしてしまったのかしら……」
その時、扉が叩かれて心配げな執事さんの声が聞こえてきた。
「失礼します。お嬢様、大丈夫ですか?」
そう言って部屋に入ってきた執事さんに姫さんは頷きを返す。
「ウィンフィールド……ええ…大丈夫。ちょっと夢見が悪かっただけだから。心配かけてしまったわね」
「左様でございますか。それにしてもこのところ毎晩のようにうなされておいでですが……」
「………私、今週に入ってから4日間、毎日同じ夢を見ていますの……理由なんて判らない。でも、必ず毎晩夢に見るあの光景……私、どこかで見たような気がしますわ……いつだったかしら……」
考え込む姫さんを執事さんは心配気に見つめていたが、やがて……
「お嬢様、事は精神的なものを含むのかも知れません。一度、ライカ様にご相談されてはいかがでしょう?」
「ライカさんに?」
「はい。少々特異な性格をされてはおりますが、仮にもシスターです。お嬢様の悩みを和らげる事が出来るかも知れません」
「さり気なく酷い事言うわね、ウィンフィールド」
「お気になさらず」
そう言ってにこやかな微笑みを浮かべる執事さんに姫さんも苦笑する。
「まあ、解決するかどうかはともかくとして……同じ女として相談にはのって貰えるかも知れませんわね……」
「とりあえず、今日の所はお休み下さい。まだ夜も明けていませんから」
「眠ったらまたあの夢を見る事になるかも知れませんけど……まあ、いいですわ」
呟きつつもベッドに横になる姫さん。
「では、お休みなさいませ、お嬢様」
普段の総帥としての激務に疲れていたのか、そう言って執事さんが部屋を後にする頃には、静かな寝息を立てていた……
そして、翌日。
「ええ――――――っ!? 瑠璃ちゃんも!?」
「ライカさんと、それにアリスンちゃんまで同じ夢を!?」
町外れの教会でライカさんと姫さんの声が響き渡り、当たりに集まっていた鳩達が大慌てで飛び去っていく。
「…………信じられないわ…アリスンちゃんが私と同じ夢を見ているって聞いた時にも驚いたけど……」
「瑠璃お姉ちゃんも、私と同じ夢見てたの?」
「え、ええ。そのよう…ですわね」
あまりの驚きに、皆言葉を失っている。
「夢を見始めたのが、5日前の夜。そしてそれは3人揃って全く同じ夢で……」
ライカさんの呟きに、姫さんは考え込み、アリスンに到ってはおろおろと二人の姿を見つめるばかり。
そんな中、執事さんが静かに口を開いた。
「お嬢様、それはもしや、大十字様からのメッセージなのではないでしょうか?」
「「「―――――――――――――っ!?」」」
執事さんの言葉に、3人は思わず息を呑む。
「大十字さんからの? そう言われてみれば……確かにあの夢は私を含めた三人の女性が、地下にある巨大な部屋で遺跡のような物の前で祈りを捧げると、あのデモンベインが姿を現す……と言った物でしたけど…」
「ひょっとして、九郎ちゃんが私達に助けを求めてるって事なのかしら?」
「え、えっと……あの夢の通りにしたら、九郎お兄ちゃん達、帰ってくるの!?」
「………可能性が……無いとは言えませんわね」
「やってみるだけの価値はありそうね。瑠璃ちゃん」
「ええ」
姫さん、ライカさん、アリスンが視線を交わし合い、頷く。
「共通しているのは、満月の夜である事。そして……」
「どこか、とても広い地下の部屋に置かれた遺跡のような物の前にいたって事よね」
「でも……どこだかわかんない……」
アリスンの言葉に二人の表情にも陰りが。
と、その時。
「……やっぱり私、あの場所に見覚えがありますわ」
「ほんとに!?」
「どこなのかはよく覚えていないのですけれど……昔、お爺様と一緒にあの光景を見た覚えが……」
「大旦那様と……? もしや……」
ふと、何か思い立った様子の執事さんに視線が集中する。
「何か心当たりがあるのですか? ウィンフィールド」
「これはかつて大旦那様からお聞きした事なのですが、覇道財閥創設の大恩人からの預かり物を覇道邸の地下深くに保管してあると……もしやそれが……」
「ですけど、それが何故大十字さん達に関係が?」
「大十字様ではなく、おそらくはアル・アジフ様の方ではないでしょうか?」
「アル・アジフ? 何故?」
「我々の中で大旦那様と関わりを持つ事が出来たのは、覇道財閥の者か、そうでなければ幾億の歳月を超えて生き続ける魔導書、アル・アジフ様しかおられませんから」
「あ……そう…ね」
「覇道財閥の創設のきっかけとなったのは大旦那様が巨大金脈を発見した事と伺っています。そして、その大恩人というのが時を越えてきたアル・アジフ様であったとするならば、地下に眠る預かり物とは……魔術に関係する物である可能性が極めて高いのではないでしょうか?」
「それを使えば、大十字さん達を助ける事が出来る……そうなのですか、ウィンフィールド!?」
期待に溢れた視線が、執事さんに集中する。
だが、執事さんはゆっくりと首を横に振った。
「それは私にもわかりません。あくまで可能性の話です。しかし、闇雲に探し回るよりも一度確かめてみた方がよろしいのではないでしょうか?」
執事さんの言葉に考え込む姫さんだったが、やがて……
「そう…ですね。ライカさん、アリスンちゃん、二人とも一緒に来て下さい。もしも、満月の夜であるという事が大切ならば、急がなくてはいけませんから」
「次の満月は……今日…ね」
「ええ、それまでに何としてもその場所を見つけなくては!」
頷きあう姫さん達。
その時、ジョージとコリンが部屋に飛び込んできた。
「俺達も行くよっ!」
「行くよっ!」
「ジョージ、コリン、また立ち聞き? もう、貴方達は〜〜〜っ!!」
そう言いながらゲンコツを振り上げるライカさん。
「うわわわっ、ご、ごめん、ライカ姉ちゃん」
「ご、ごめんなさいぃぃっ!」
「反省する?」
「するする! 反省するっ!!」
「反省するよぉぉ」
「……ならよろしい。そうね、貴方達もいらっしゃい。もしかしたら九郎ちゃん達が帰ってくる事になるかも知れないし」
ライカさんのその言葉に歓声を上げるジョージ達。
そして、姫さんはライカさん達を伴って、覇道邸へ……
「瑠璃ちゃん、ここは?」
「覇道邸の最下層に向かう為のエレベーターです。ですけど、特に何があるという訳でもないので、ずっと放置していたのですけど……」
その瞬間エレベータの扉が開き、皆の目の前に巨大な空間が出現する。
あまりの広大さに言葉を失うライカさん達。
「大旦那様が言われた物は、おそらくこの奥です」
「急ぎましょう。今は少しでも時間が惜しいですわ」
姫さんの言葉に頷くライカさん達。
全員の靴音が響く中、その巨大な空間の奥に何かが見えてきた。
「ライカ姉ちゃん、何かあるよ!」
「えっ……?」
「あれは……」
あまりに巨大。
遠く離れた場所からでもその巨大さがよく判るほどに。
だが、次の瞬間、姫さん達は思わずその場に立ち尽くした。
「あ、ああっ……あれは……」
ボロボロに朽ち果て、あちこちが損壊しているその姿。
それは……かつて俺達と共に戦った戦友……
「デモンベイン……」
呟くように言って、姫さんはその場にへたり込んでしまう。
「酷い……ぼろぼろ……」
「――っ!? 大十字様! アル・アジフ様!」
執事さんが慌ててコクピットのすぐ近くまでやってきて中を覗き込むが、当然俺達の姿はそこにはない。
「どうです、ウィンフィールド?」
「どうやらここには居られないようです。それに……」
「それに?」
「このデモンベインはあまりに朽ち果て過ぎています。もう、何十年もこのままであったかのように」
「まさか…大十字さん達はもっと昔の時代に行ってしまって、その時代で……」
「でしたら、お嬢様達が今頃になってこの場所を夢に見る筈はありません。大十字様がこのことを知らせたいのならば、もっと前に知らせていてもおかしくはないのですから」
「それもそうね……」
そう言って姫さんが朽ち果てたデモンベインへと歩み寄り、そっと手を触れる。
その瞬間だった。
姫さんの脳裏に雷光のようにかつての出来事がフラッシュバックしたのは。
それは……まだ姫さんが幼かった頃……
『瑠璃、これは私達の世界を護ってくれた勇者の墓だ』
『勇者?』
『そう。あらゆる邪悪を払い、闇を切り裂いてこの世界を護ってくれた勇者だ』
『お爺様、この方のお名前は?』
『デモンベイン』
『えっ?』
『憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、我等は魔を断つ剣を取る。汝、無垢なる刃、デモンベイン。この言葉が世界に響いた時、我等はこの世界に蔓延る邪悪を、魔を、断ち続けてきた』
『え、えっと……貴方は?』
『……いずれまた会う事もあろう。それまで達者で暮らせ、小娘』
呼び起こされた記憶の中。
そこにいたのは、覇道鋼造、姫さんだけじゃなく……
「―――――――――――――っ!? あ、あの時……確かにあの場所にいたのは!?」
「どうしたの、瑠璃ちゃん?」
心配気に見つめてくるライカさんの様子も目に入らないようで、姫さんはゆっくりとデモンベインに向けて手を翳した。
「憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、我等は魔を断つ剣を取る! 汝、無垢なる刃、デモンベイン!!」
何か、胸の奥から込み上げてくるような力に導かれて、姫さんはその召還呪を唱える。
その瞬間!
辺りから一斉に明かりが失われ、餓鬼んちょ達は悲鳴を上げてライカさんに縋り付く。
「こ、これは……」
そして……
「デモン……ベイン……?」
呆然とする姫さんの目の前で、デモンベインがゆっくりとその右手を天に向けて掲げる。
その手に握られているのは、かつてデモンベインが俺をこの世界に戻す為に自ら抜き出した獅子の心臓。
自ら力を生み出す事の出来ないデモンベインは、周囲の電力を自らの内に取り込む事によって、僅かにその身体を動かしていた。
そして……
デモンベインが翳した手の先、天井がゆっくりと開いて月光がデモンベインを照らし出す。
「こ、この光景は……あの夢の!?」
そう、まさにその通りだった。
この数日間、姫さん達が見続けた夢の光景が、今ここに現実の物として現れている。
「………ライカさん! アリスンちゃん!!」
「ええ!!」
「うんっ!!」
その瞬間、3人は弾かれるように自分の夢で見た場所へと移動。
互いに頷きあうと、静かに夢で見た通りに呪を唱え始めた。
「祈りの空より来たりて……」
「切なる叫びを胸に……」
「我等は明日への道を開く……」
そして再び視線を交わし合うと、呼吸を揃えて最後の一句を口にする。
「汝、無垢なる翼、デモンベイン!!」
召還呪は全て唱えられた。
静寂が辺りを包み込む……
「何も……起こらない……?」
姫さんがそう呟いたその時だ。
「――っ!? お嬢様!!」
全員の目の前、朽ち果てたデモンベインの右手がその手に残された壊れた獅子の心臓を完全に握り潰す。
そして……その全身が光となって天に向かって上っていく。
「これは……っ!?」
呆然とする姫さん達の目の前で、デモンベインはその姿の全てを光へと変え、開いた天井から天に向かって上り、巨大な魔法陣を描き出す。
そしてその瞬間、俺達が居るこちらの世界でも……
「九郎!」
「ああ、どうやら姫さん達がやってくれたみたいだ!」
「リル、おうちに帰れるの?」
「そうだよ、リル。ようやく帰れるんだ」
「………でも…帰っちゃったら…エセルお姉ちゃんと、もう会えなくなっちゃうの……?」
寂しそうに聞くリルの姿に、俺達も言葉を失う。
だがその時……
「二度と会えない訳じゃないわ、リル・アジフ」
「ほんと?」
「ええ。きっとまたいつか……その時には私の娘が居るかも知れないから……遊んであげてね」
優しく微笑んでリルの頭を撫でてくれるナコト写本。
「ナコト写本……」
「アル・アジフ。これでお別れね……」
「汝等、本当にこれで……」
「もう気にしないで。私はマスターと一緒にいられるなら、どこにいたって幸せなのだから」
「ナコト写本……」
「さあ、時間がないわ。あの歪みを利用できるのはごく僅かな時間だけ。向こうの世界にいる娘達の力では、長く保たせる事は出来ないわ」
「そう言う事だ。エセル、すぐにやるぞ。大丈夫か?」
「イエス、マスター」
そう言ってナコト写本はテリオンと共にデモンベインからリベル・レギスへと移っていく。
「九郎……」
「やるぞ、アル。あいつらの気持ちを無駄にしない為にも」
「う、うむ」
『惚けている暇はないわよ、アル・アジフ』
『これから我等が次元の壁を切り開く。貴公等はそこからレムリア・インパクトの力をもってかの世界にいる娘達の召還に応じてやればいい。それで帰る事が出来る』
「ああ、わかってる。テリオン」
『なんだ、大十字九郎?』
「ありがとう……」
俺の言葉に僅かに口元を弛めて笑うテリオン。
そして……
『やるぞエセル!』
『イエス、マスター!』
『『ハイパーボリアァァァァッ! ゼロドライィィィィィィブ!!』』
リベル・レギスの白く染まった手刀が次元の壁さえも切り裂く。
『行け! 大十字九郎!!』
『行きなさい、アル・アジフ! リル・アジフ!』
「………アル、ヒラニプラシステムアクセス」
「……ナアカルコード承認。術式解凍。いつでも……良いぞ……九郎……」
「エセル……お姉ちゃん……」
「「「レムリアァァァッ、インパクトォォォォォォォォッ!!」」」
デモンベインの生み出す驚異の魔力が切り裂かれた次元の隙間をこじ開けるように開いていく。
そして……周囲の景色が歪み始めた。
ちょうど以前、初めてデモンベインで出撃した時のように……
「幸せになるのだぞ、エセルッッッ!!」
俺達の視界から全てが消えようとした瞬間、アルの叫びにナコト写本は驚いた様子を見せたが、やがて……
『貴方もね……アル……』
その言葉を最後にテリオン達の姿もこの空間も、俺達の前から完全に消えてしまった……
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