斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第24話 ただいま!



 アーカムシティーの上空に広がる巨大魔法陣に、住民達は呆然とその情景を見守るばかり。
 この魔法陣が出現してすでに30分が経過していた。
 
「ネ、ネス警部、あれはいったいなんでありますか?」
「さあねぇ……俺に聞いたってわかるはず無いだろう、ストーン君?」
「住民の避難誘導を行うべきではないでしょうか?」
「何かあるなら覇道の方から連絡が入るだろ? 特に連絡がないって事は、こいつは覇道絡みって事だ。気にしてたらきりがないって」
「しかし、ネス警部!!」
「君は相変わらず真面目だねぇ……もうちょっと肩の力を抜いた方が良いってもんだ」
「貴方は抜きすぎですっ!!」
「まあ、とりあえず状況を見守っとこうや。何か起こるようならその時動けばいいさ。というよりも、他に何が出来る?」
「う……っ」
「気楽に……な、ストーン君」
 そう言ってポンと肩を叩くと空を見上げる警部さん。
 
「それにしても……デモンベインって言ってたな…アーカムシティーを救って、一体どこに消えちまったんだか……」


 その頃、覇道邸では姫さん達がその巨大な庭で夜空に浮かぶ魔法陣をじっと見つめていた。
 時刻は間もなく零時。
 天空に描き出された魔法陣のその中央に、満月が今にもかかろうとしている。
 
「大十字さん……」
「お嬢様、あまりここに居られますと、お風邪を……」
「判っています……ですけど……今はまだ……」
「………判りました…お嬢様のお心のままに」
「ありがとう……」

 呟くように言いながらも、姫さんの視線は魔法陣から外れる事はない。
 それはライカさんやガキんちょども。それにライカさん達を心配してやってきたリューガも変わらず、空を見上げている。
 
「ライカ姉ちゃん……九郎、帰ってこないのかな……」
「帰ってくるわよ。だって……この世界が……この街が……九郎ちゃんの居るべき場所なんだもの……」
「九郎お兄ちゃん…」
 心配気に呟くアリスンの頭をそっとリューガが撫でていた。
「きっと大丈夫だよ」
「……うん…」

「もうすぐ……深夜零時です。昨日であり今日であり明日でもあるこの時刻……何か起こるとするならば、最も可能性が高いと思われます」
「………っ!? あれはっ!?」

 驚いたような姫さんの声に全員の視線が魔法陣の中央へ。
 完全に満月と重なったその場所は、いつしか月光とは違う白い光を放ち始めていた。
 
 その白銀の満月に刻み込まれるように描き出される五芒星形の紋章。
 天空に描かれた魔法陣はその『旧神の紋章』を中心に回転を始め、そのままゆっくりとまるで糸が解れていくように中心へと集まっていく。

 そして……その全てが中心に集まった瞬間。
 巨大なる姿がこの世界に顕現した。
 
 
「「「デモンベイン!!」」」

 姫さん、ライカさん、アリスンの声が重なる。

 そして俺達は……
 
「………う……うぅ……っ……俺達…帰ってこられた……のか?」
 くらくらする頭を振って意識を整えると俺は周囲を見渡した。
 
 紫電の飛び散る計器類は、デモンベインにかかった恐ろしいまでの過負荷を表している。
 アルとリルの姿はすぐに見つかったが、二人ともまだ意識を失ったままのようだ。
 
「アル、リル、二人とも、大丈夫か?」
「うぅ……ん」
 俺が呼びかけると、僅かに身動ぎするアル。
 リルの方も、どうやら気を失っているだけで怪我は無さそうだな。
 
「ここは……俺達はどうなったんだ?」

 呟いて辺りを確認しようと、映らないモニターの代わりに穴の空いたハッチから覗こうとしたその時だ。
 
「ぬぐわゎぁぁぁぁっ!?」
「きゃわあああああああああっ!?」
「ふにゅぅぅぅぅぅっ!?」

 突然吹き込んできた突風に吹き飛ばされる俺達。
 アルとリルも俺の所まで飛んできたが、なんとか二人とも抱き留める。
 
「な、な、何事っ!?」
 大慌てで辺りを見回すアル。
 リルの方も完全に意識を取り戻して辺りを見回していた。
 
「いつつ……なんだぁ?」
 なんとか身を乗り出して、外の様子を覗いてみると……
 
 急降下、落下中だった。
 
「な、なぁぁっっ!? ア、アル、シャンタクは!?」
「殆ど停止している! 出力は10%以下だ! このままでは地面に叩きつけられるぞ!!」
 焦りきったアルの言葉に今度は俺が焦る番だった。
 
「なんとか動かせないか!?」
「無理だ! 次元を超える際にダメージを受けすぎて、デモンベインの損傷が激しすぎる!」
「くぅぅっ、こ、こうなったら!! 段差術式解放! 壱号ティマイオス! 弐号クリティアス!!」
「な、何をするつもりだ、九郎!?」
「こうするしかねえだろうがぁぁぁぁっ!!」
 そう言うなり、俺はデモンベインの足の下でシールドのエネルギーを炸裂させ、その勢いで落下速度を殺した。
 
「ををぅ!?」
「ちょっと派手に行くぞっ! せりゃああああああああああっ!!」
「「にゃああああああああああああああっ!?」」

 連続しての重力制御による方向転換。
 そのお陰でデモンベインは地面に降り立つ頃には殆ど勢いを押さえる事が出来た。
 まあ、その代償に……
 
「「ふにゃあああ………目がまわるぅぅぅぅぅぅ……」」

 アルとリルは完全に目を回していたが。
 
 それはともかく……とりあえず状況を確認しよう。
「アル、デモンベインの状態は?」
「損壊率84% ギリギリ動ける……と言ったところだな。落下による損壊は殆ど無いようだ。さすがだな、九郎」
「デモンベインが頑張ってくれただけさ。ところでここは……」
「……どうやら、無事に帰ってこられたようだ」
「えっ……?」
「見てみよ」
 そう言ってアルが指し示すハッチの向こう。

 そこには……
 巨大な覇道邸がそびえ立っていた。
 
「帰って来れた……か」
「………九郎…」
「エセルお姉ちゃん……」

 寂しそうに呟くリルをそっとアルが抱きしめる。
 
「あいつらの……お陰だな……」
「まさか彼奴等と共闘し、そして力を借りてこの世界に帰る事になろうとは、思いもせなんだぞ」
「そうだな」

 顔を見合わせて苦笑する俺達。
 そして……
 
「あっ、瑠璃お姉ちゃん達だ!!」
 リルの声に俺達がハッチの向こうに目を向けると、こちらに向かって走ってくる姫さん達の姿が見えた。
 
「アル、リル、下に降りるぞ」
「うむ」
「はぁい!」
 
 二人に声をかけて抱き寄せると、俺はデモンベインのハッチから外へと飛び出す。
 そして、地面に降り立った俺達に、ガキんちょ達が走ってきた勢いのままで抱きついてきた。
 
「九郎っ! あはははっ、九郎! 九郎だ、九郎だっ!!」
「九郎、九郎〜っ!!」
「九郎お兄ちゃん……お帰りなさいっ!!」

 あまりに凄いその勢いに、そのまま押し倒されてしまう。
 これだけ喜ばれると悪い気はしないけど、3人に上に乗られてるとマジで重いぞ……
 
「お、おいおい、ちょっと重いって」
「あはは〜、九郎、九郎九郎九郎〜っ」
「あはは〜」
「あ、ごめんなさい……」

 俺の言葉にアリスンはすぐにどいてくれたけど、ジョージとコリンは更に調子に乗って俺の上で暴れ回る。

「だあああああああああっ、お前等いい加減にしろぉぉぉぉぉぉっ!!」
「わ〜い、九郎が怒った〜」
「逃げろ〜」
「貴様らぁぁぁぁっ、これが歓迎のつもりかあぁぁぁっ!! 歓迎という物のあり方を懇切丁寧にその身体に叩き込んでやる! 死ゃあああああああああっ!!」
「わ〜い、九郎がご乱心だ〜」
「ご乱心〜ご乱心〜」
 ジョージ達を追い回す俺に、ようやくやってきた姫さんは呆れたような様子で溜息をついた。
 
「大十字さん……はぁ……どうして貴方は……」
「ふふっ、九郎ちゃんらしいと言えばらしいけど……ね」
「まあ仕方あるまい。あれが九郎だ」
「あはっ、パパ楽しそうなの〜♪」

 苦笑しつつ見つめるアル達。
 そしてじゃれ合う俺達。
 
 ようやく帰ってきた。
 ここが俺達の……居るべき場所なんだ。
 
「姫さん! ライカさん! みんな!!」

 俺の声に驚いたように見つめてくる姫さん達。
 
「ただいま!!」
 目一杯の気持ちを込めて伝える。
 
「お帰りなさい、九郎ちゃん」
 少し涙を浮かべて微笑むライカさん。

「お帰り〜九郎〜っ!」
「お帰り〜!」
 満面の笑顔で俺に抱きつくジョージとコリン。

「お帰りなさい……九郎お兄ちゃん♪」
 ポロポロと涙を溢れさせて、それでも頑張って笑顔を見せてくれるアリスン。

「大十字さん、お帰りなさい」
 リューガも笑顔で俺達を迎えてくれる。

「よくご無事で。お帰りなさいませ、大十字様。本当にありがとうございました」
 執事さんも、そう言って出迎えてくれた。
 
 そして……
「大十字……さん……」
 ついさっきまで、ジョージ達とじゃれ合ってた俺を呆れたように見ていたのに、今の俺の言葉が引き金になってしまったのか、姫さんの瞳からは止めどなく涙が溢れていた。
 
「姫さん……」
「大十字さんっ!!」
「おぅわっ!?」
 突然抱きつかれて思わず蹌踉けた俺に、姫さんはしっかりと抱きついてくる。
「ちょ、ちょっと、姫さん!?」
「こ、小娘ッ 妾の夫に気安く抱きつくでないっ!!」
 さすがに気色ばんだアルが慌てて引き離そうとしたが、姫さんは一向に離れようとしない。
「汝! 一体何のつもりだ!! くぅぅっ、このぉぉぉぉっ!! いい加減に……離れんかぁぁぁっ!!」

 俺に姫さんが抱きついて離れない事で怒りの爆発したアルの魔術が俺達を襲う……かに見えた瞬間、俺はアルの身体を一気に抱き寄せて唇を奪った。
「――っ!? んぅぅっ! んっ、んんっ、んぅっ!? んんんんんっ、んぅぅっ!!」
 激しく、息をする事すらままならないほどに激しくアルの唇を奪い続ける。
 それは果実のように甘く、激流のように激しく……
 あまりに激しく奪われてアルの身体は完全に弛緩し、俺の腕の中に倒れ込んでいた。

「………く、九郎……」
「折角みんなが歓迎してくれてるんだ。今は暴れるのは無し……な?」
「……ん……はぁっ…ん…ふぅ……」
 キスを繰り返しながら、抱き寄せた手でアルの弱い場所をピンポイントで攻め続けた結果、アルはもう完全に抵抗する気を無くしている。
「……あぁ……九郎……」
 とろんとした瞳で見つめてくるアルの身体をしっかりと抱きしめる。それと同時に姫さんの様子を確認すると、完全に真っ赤になって俺達の様子を見つめていた。
 
「……姫さん?」
 呼びかけても、呆然とした様子は変わらない。
「おい、姫さん?」
「…………えっ?」
「またアルが暴れるから、離れてくれる……かな?」
「え……っ? あっ、す、すみませんっ!」
 今の状況に気付き、大慌てて離れる姫さん。
 
 そんな様子に苦笑しながら、俺はアルを抱き上げつつデモンベインへと振り返る。
 
「デモンベイン……お前が居てくれたお陰で、俺はアルを…リルを……みんなを護りきる事が出来たよ……ありがとな……相棒…」

 俺の言葉に応えるように、デモンベインは突然雄叫びを挙げて立ち上がると、天に向かって両手を掲げた。
 
「デモンベイン……何を!?」

 慌てた俺の目の前で、天空に巨大な魔法陣が再び描かれる。
 そして……デモンベインの姿が徐々に光の粒子へと代わり、魔法陣に吸い込まれていく。
 
「お、おい、デモンベイン!?」
「九郎、デモンベインは今回の役目を終えたのだ。また次に必要となる時が来るまで、いずこかの世界で眠りに就く……」
「………そう……か……」

 呟いたのと、デモンベインの姿が消え去るのが殆ど同時だった。
 そして……
 
「アル、これは?」
 デモンベインの姿があった場所。
 そこには一本の全く曇り1つ無い剣が残されていた。
 
「ほほぅ……これは召還剣だな」
「召還剣?」
「いわば、バルザイの偃月刀のように術者の魔力を増幅する物があるが、これはいわばデモンベインそのものだ」
「というと?」
「例えば、この召還剣を用いる事で、レムリア・インパクトを放つ事が出来る。まあ、極めて威力縮小版ではあるがな」
「そうか……デモンベイン……また俺達じゃどうしようもない敵にあった時……その時は頼むぞ……」
 そう言って、刀身をそっと撫でる。
 
 俺の言葉に応えるように、無垢なる刃は音もなく静かに輝いていた……
 

 そして数日後……
 
 これまで通り、売れない探偵事務所を続けながらアルと一緒にリルを育てていた。
 
「ところで……なぁ、アル?」
「ん? どうした、九郎?」
「今回のリルも加わったマギウススタイル、どんな名前がいいだろうな?」
「ふむ……そうだな……二つの力が重なって居る訳だから、デュアル……デュアル・マギウス・スタイル……でどうだろうか?」
「へぇ……良いじゃないか。じゃあ決まりだな」

 俺がそう言って笑うと、アルも俺にしっかりと抱きついて笑う。
 
 そして……
 
「お前達がいなけりゃ、きっとこうして暮らす事なんて出来なかった……ありがとな……」
 そう言って抱きしめると、アルは本当に嬉しそうに微笑む……
 
「………テリオン……ナコト写本……お前達も幸せに……な……」

 抱きしめたアル、そしてリルの温もりを感じながら、俺は窓から空を見上げてそっと呟いていた……
 



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