斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第14話 魔を断つ剣、生み出せし者
アーカムシティーに再び、平穏が訪れた。
ベルゼビュートとサイクラノーシュ。
二機の鬼械神による恐怖は、今終わったんだ。
人々は天空に雄々しくそびえ立つデモンベインの勇姿にすっかり目を奪われている。
そして、その中では……
「九郎……妾は……妾は……っ!」
「もう何も言わなくていい……今はただ、お前がこうして傍にいてくれる…それだけで十分だ……」
完全に2人の世界に入ってしまった俺達と、それを楽しそうに見つめるリルの姿が。
「あはっ、パパとママ、仲良しなの〜♪」
嬉しそうに言ったリルの言葉に、俺達もようやくその存在を思い出した。
一旦気付いてしまうと、その目の前で更に見せつけるのは多少気が引けてしまうな。
「少々……照れるな……」
そう言って頬を赤らめるアル。
「リル……妾の娘……妾と……九郎の……」
「ああ。俺達の宝だな」
その俺の言葉にアルは嬉しそうに微笑むと、頷いた。
「リル、おいで」
「うんっ♪」
両腕を広げて呼びかけるアルに、リルは飛びつくようにして抱きつく。
「えへへ……ママぁ……」
「ふふ…親馬鹿と言われるやも知れぬが……やはり可愛いな…汝は……」
「うゆ?」
不思議そうに見つめるリルをギュッと抱きしめて、アルは本当に嬉しそうに微笑む。
そんなアルの姿が愛しくて、俺は2人の身体を包み込むように抱きしめた。
「九郎……」
「ん…」
そっと重ね合う唇。
俺達の腕の中で、リルは本当に幸せそうに抱きついていた……
それからしばらくの後……
地上へと降り立った俺達を姫さんやライカさん、ガキんちょどもが迎えてくれた。
「みんな無事だったみたいだな…良かった」
「大十字さん…あれは……あれは一体……?」
デモンベインを見上げながら、震える声で聞いてくる姫さん。
まあ、仕方ないかもな。
「俺達の仲間。最強の鬼械神、デモンベインさ」
「デウスマキナ? 機械仕掛けの神……ですか?」
執事さんの言葉に頷く。
「位階の高い魔道書の中には、鬼械神を召還出来るものがあるんだ。アルもその内の1人だな」
「アル・アジフ様が……」
「うむ。だが、妾本来の鬼械神はアイオーンだ。それも、以前の戦いの折に大破してしまったのだがな……」
「では、このデモンベインというのは、本来の鬼械神とは違うと?」
「そうだ。このデモンベインは、人の手によって作られた物。言うなれば、鬼械神の模造品…といった所か。しかし、許奴に妾と九郎が乗り込む事によって、邪神すら打ち倒す巨大な力を持つに到ったのだ」
アルのその言葉に、姫さんが敏感に反応する。
「人の手による物!? これを、誰かが造ったと言うのですか!? こんな途轍もない物を…一体誰が!?」
「………始めに1つだけ言っておくが……これから話す事は、この世界での事ではない。妾と九郎だけが知る、こことは異なる世界の話だ」
「え? え、ええ」
「かつて、アーカムシティーにはブラックロッジと言う、秘密結社があった。妾はそのブラックロッジに追われている途中で、九郎と出逢ったのだ」
「アル・アジフ?」
「なんだ、小娘?」
「小娘っ!? …って、それはともかく! 何故そこにアーカムシティーが出てくるのです? この世界の話ではないのでしょう?」 激昂しかける姫さん。
一瞬、また喧嘩が始まるかと思ったけど、どうやら好奇心の方が上回ったみたいだな。
「確かにこの世界ではない。いや、かつてのこの世界……そう言うべきか」
「………過去…?」
「いや、過去という訳でもない。端的に言えば、かつてこの世界はある一定の年月を繰り返していたのだ。そう……幾千……幾万……いや、幾億回も」
アルの言葉に姫さんは元より執事さんやライカさん達もまるで解らないといった表情をしている。
「繰り返す……って……?」
「言葉通りの意味だよ、ライカさん。まさしく俺達は何度も同じ時間を繰り返したんだ」
「どうして……そんな事……」
「全ては邪神の陰謀だった」
「邪神? そう言えば、先程の戦いの折、邪神の謀略を打ち破ったと言われていましたが……」
執事さんの言葉に頷くアル。
思い出すかのように一瞬遠い目をした後、再び口を開いた。
「うむ。かつてこの世界は『這い寄る混沌』、『ナイアルラトホテップ』によって無限の時の牢獄に囚われ、その中で2人の魔術師がその運命により、戦い続けていた。1人は、金色の闇を纏う魔神。獣の名を持つ者、『マスターテリオン』。そしてもう1人は………神殺しの剣、『大十字九郎』だ」
「大十字さんと………マスター……テリオン……?」
「まあ、とんでもない奴だったけど、結局彼奴も囚われ人でしかなかったんだよな…」
「うむ。全ては外なる神の企みだったのだ。だが、汝はそれを打ち破った。あの最強の魔人であったマスターテリオンを超え、外なる神の1神、ナイアルラトホテップの誘惑に負けることなく、その全てを打ち払った。まさに…神殺しの剣…よな」
そう言いながら、アルは俺の手をそっと握りしめる。
「アル?」
さっきまでと違うアルの様子にその瞳を見つめると、微かに潤み、目尻に僅かに光が…
「どうした?」
「……なんでもない……なんでもないのだ……」
「それがなんでもないって顔かよ。他の誰にも解らなくたって、俺には解るぜ? なにしろ俺はお前の全てを知ってるんだからな。だから…俺に隠し事なんて無しだぞ」
その俺の言葉にアルは苦笑する。
だけど、その表情はすぐに崩れて……
「……大したことではない……その…あの後の事を……邪神の陰謀を打ち砕いた後の事を……ふと…思い出してしまっただけだ…」
その言葉と同時に、アルの頬を涙が伝った。
「うゆ? ママ……泣いてるの?」
「心配はいらぬ…大丈夫だ…」
そう言って、なんとか涙を堪えようとするアル。
だけど、こんな時のこいつの涙は……絶対に1人じゃ止められないって事を……俺は誰より一番……知っている……
その時……
戸惑いながら見つめる姫さん達が一斉に目を丸くした。
「なっ!? こ、こら、九郎!!」
「いいからちょっと黙ってろ」
俺はそう言いながらしっかりとアルの身体を抱きしめる。
震える肩を…華奢な背中を…そっと……でも、強く…
少しだけの抵抗……
だけど、それはすぐに止み、逆に震える手が俺の胸に縋り付いた。
「九郎………っ」
泣き声こそ漏らしはしなかったが…アルの身体は震え、溢れた涙が俺の胸を濡らしていく…
「心配するな…俺はもう二度とお前を離したりしない……お前が1人で行こうとしても…絶対に離さねえからな……」
更に、しっかりと抱きしめる。
やがて少しずつその震えが止まって……
「……済まぬ…九郎…」
「なに謝ってんだよ。謝る所じゃねえだろ?」
「だが……」
「ん〜〜〜それじゃ、これで」
そう言うと、俺はいきなりアルの唇を奪った。
問答無用に、激しく。
「んぅぅぅぅぅっ!?」
アルが真っ赤になって離れようとするけど、逃がすワケ無い。
「「――――っ!?」」
「わぁ………」
ジョージとコリンが真っ赤になって声を無くしている横で、アリスンだけは興味津々で見つめている。
いや、姫さんとライカさん。それにリルの視線も感じるな。
執事さんとリューガは完全に目を逸らしているみたいだけど。
「んん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! んん……んぅ……」
しばらくその激しいキスを続けていたら、不意にアルの手が俺の背中に回されてまるで突き立てるみたいにしがみついてきた。
同時にアルの方からも更に求めてくる。
段々激しくなっていく俺達の様子を見つめていた姫さんだったが、不意に我に返って顔を真っ赤に染めた。
「だ、大十字さん! アル・アジフ! こ、公衆の面前で、いつまでそんな破廉恥な真似を続けるつもりです!?」
その声が引き金になったのか、今まで夢中になって唇を重ねていたアルが、慌てて俺から離れる。
姫さんを睨み付けるその顔は真っ赤に染まり、今にも湯気でも噴き出しそうだ。
「わぁ……ママ、真っ赤♪」
「――――っ!?」
「娘に言われていては世話ありませんわね、アル・アジフ?」
「そう言う姫さんも真っ赤だぞ? 俺達のキスシーン見て興奮したか?」
「な―――っ!?」
今度は姫さんが更に真っ赤になる。
「わ、わ、わっ、私は別にそん…な……ことっ!! え、ええと……ほら、その……だから……あれですわ!」
「あれって?」
「あ、あれと言ったらあれなんですっ!! そうよね! ウインフィールド!!」
「は!? はっ、お嬢様の仰る通りでございます」
「……無理するな、従者」
「い、いえ、無理などは……」
アルの言葉に、執事さんの表情がはっきりと揺らぐ。
大変だな…執事さんも。
「うわぁぁぁい、九郎ちゃん達ッてば、なんて、なんて、なぁぁぁんて、情熱的なのぉぉぉッ!! あぁぁぁん、もう! 九郎ちゃんってば、九郎ちゃんってば、九郎ちゃんってばぁぁぁっっ!!」
「うわぁっっ!?」
「ラ、ライカ姉ちゃんが……壊れた……」
「――ライカお姉ちゃん……」
「あ、あはは……姉さん、変わらないなぁ……」
相変わらず壊れてるライカさんに、思わずガキんちょ共も引いちまってるし。
リューガも笑いが引きつってるな……
まったく……本当に飽きさせないな…このアーカムシティーも…ここに住む人達も……
本当に…守れて良かった……
「とっ、ところでっ!!」
「んぁ?」
「それでどうなったのです? 話がまだ途中ですわよ?」
「あ、そう言えば……ん……まあ、とりあえず……そのブラックロッジってのが蔓延ってた世界で、俺達は出逢った。そして、その時にアルを追い回していたのが、当時、ブラックロッジで一番表立って破壊活動をしていたドクター・ウエストだったんだ」
「なっ……吾輩であるか!? う〜〜〜む、これはなんたる偶然、なんたる奇縁! 世界が変わっても僕らは必ず出逢うんだね〜それが運命って言う物なんだね〜〜君の小指に結ばれた赤い糸が僕の指にもきっと繋がっているんだね〜〜〜」
まるで歌うようにほざいてやがるウェストの口を塞ごうかと一瞬本気で思ったその時…
――めきゃ
なにやら鈍い音がして、ウェストの身体がすっ飛んでいく。
「エェェェェェェェルゥゥゥゥゥゥゥゥザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「博士、うるさいロボ」
どうやらエルザの仕業だったようだ。
まあ、手間も省けた訳だし、とりあえずは、良し。
「うわぁ……エルザお姉ちゃん、ホ〜ムラ〜〜ン♪」
リルも喜んでるみたいだしな。
「ふむ……背後にブラックロッジという組織があるか無いかという違いで、今の世界とそう変わらんな」
「ああ。だけど、それが一番大きかったんだけどな」
「うむ…」
思い出す、かつての戦い。
そして…この俺達の戦友……デモンベインを作り上げた1人の男の事を思い出す……
「そのブラックロッジと戦う為に…造られた人造の鬼械神…それが、デモンベイン……そしてそれを造ったのは……」
ゴクリ……という唾を飲み込む音が聞こえる。
一度大きく深呼吸して、俺は口を開く。
「初代、覇道財閥総帥。覇道鋼造だ」
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