斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第13話 断罪の時



 遙か時空の彼方。
 俺がデモンベインを召還したのとほぼ同時に、それは起こった。
 
 全く異なった時間と空間の狭間を漂う2つの影…
 それは金色の闇と漆黒の闇……
 重なり、絡み合うその影の1つが、不意に身を起こす。
 
「……っ? これは……?」
「………気付いたか?」
「空間が歪んでいます……これは……時空震?」
「いや…召還による空間転移だろう」
「そんな…次元や時間まで超えて召還する事が出来る者など……真逆っ!?」
「そうだ。そんな事の出来る者と言えば、1人しかいない…」
 金色の闇が薄く笑いを浮かべる。
 苦笑。まさに苦笑だった。

 常に狂笑を浮かべていたはずの彼の口元に浮かぶのは、紛れもない苦笑。
 それは…あの戦いを経て、金色の闇―少年―が手に入れたもの。
 そして……その傍らにある漆黒の闇―少女―。
 少年と共に幾星霜。
 無限の牢獄に捕らわれたあの日々。
 決して忘れる事はない。
 
「どうやら僕達は、まだ許されないらしい……」

 彼は感じていた。
 自らの中に流れる人為らざる者の血の蠢きを。
 そしてそれが何を意味しているかを…
 
「また……戦わねばならないのですか、マスター?」
「……借りは…返しておかなくてはね……」
「借り……?」
「結局の所……僕らを永劫の牢獄から解き放ってくれたのは彼だ。その借りだけは返しておかなくてはね。お前は嫌か?」
 少年が聞くと、少女はそっと頭を振った。

「貴方がそれを望むのであれば、それは私の望みです……マスター」
 少女の答えに、少年は微笑みで返す。
 
 
 
 そして…そんな事が遙か時空の彼方であった事を知るよしもなく……
 俺達の戦いは終局へと向かいつつあった……
 
 
「決着をつけてやるぜ、ウェスパシアヌス!!」
 大空に青白いフレアを放ちながら、デモンベインが天空に舞い上がる。
 
『な、なんだと!? 馬鹿な…そんな、そんなはずは……いかにネクロノミコンのマスターとはいえ、人間が…人間がそこまでの強大な力を扱えるはずがない!! 貴様は…貴様は一体…なんなのだ!?』
「汝が理解出来るはずもあるまい。何しろ九郎は、邪神の謀略を打ち破ったただ1人の人間。そしてその時、許奴は言ってのけおったぞ。魔人と外なる神の1神が、『人間如きに出来るはずがない』と言った時に…『人間だから出来る』とな! 神をも打ち破ったこの男、汝が敵う道理があろう筈がない!」

 高らかと宣言するように言い放ったアルの言葉に、ウェスパシアヌスは動揺の色を隠せない。
 
『か、神をも打ち破っただと!? 馬鹿な……そんな事が…』
「出来たから今の世界がある。大体…この最強の魔導書である妾の夫たる者が、汝如きに後れを取るものか」
「お、夫って……」
 真っ赤になって聞き返す俺に、アルも頬を赤らめて答える。
「……愛し合い、共に暮らし…子供も産まれたのだぞ…もう…立派な夫婦ではないか…」
「ま、まあ、そりゃそうだけど……」
 んなこと言ったって、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
 
「きゃはは、めおと〜めおと〜」
「リル、お前意味判ってないだろ?」
「うんっ♪」
 楽しげに答えるリルのその笑顔が、今回ばかりは溜息の元だ。
 まあ、それはともかくとして……
 
「とにかく! ウェスパシアヌス!! テメェ等がやった事、俺は絶対に許さねぇ! 一片の欠片すら残さずに昇華してやるから、覚悟しやがれ!!」
『小癪な! 謳え! 呪え! ガルバ! オトー! ウィテリウス!!』
 その声と共にデモンベインの周囲に3体の巨人が現れる。
 3体が放つ強烈な波動。だけど、これ位の事で、デモンベインは揺るがない。
 ましてや、今の俺達はリルを加えた事で倍どころじゃないレベルアップをしているんだ。
 
「この程度で俺達が止められるかよ! イタクァ、二重召還!!」

 両手にイタクァを同時召還。そして一斉発射。
 その弾丸は複雑な軌道を描きながらサイクラノーシュへと迫る。

『なっ、なんだと!?』

 ウェスパシアヌスの驚きの声。
 それと同時に全ての弾丸がサイクラノーシュの装甲を貫いた。
 
『――――――!?』

 爆砕、四散するサイクラノーシュ。
 地上で姫さん達が歓声を上げるのが見えた。でも…まだ終わりじゃない。
 
「九郎、来るぞ!」

 アルがそう言った瞬間、デモンベインを無数の閃光が襲う。
 姫さん達もその光景に息を呑んだ……けど……
 
 ガラスを叩き割ったような澄んだ音が響いた瞬間、デモンベインの姿はすでにそこにはない。
 
『なんと!? これはニトクリスの鏡!?』

 ついさっきまでデモンベインの幻影があった場所に姿を現したのは全く無傷のサイクラノーシュ。
 だけど、これは判っていた事だ。
 完全に滅するまで、あと3回。
 ならば、徹底的にぶちのめすのみ!
 
「そう言う事だ。残念だったな、ウェスパシアヌス!」
 言い放つ俺にウェスパシアヌスが愕然と天を見上げる。
 すでに俺達は遙か上空へと移動していた。

「バルザイの偃月刀、ミラーコーティング!」

 偃月刀を召還すると同時にその刀身にミラーコーティング。
 そして投擲。
 
『ぎゃぁあああぁあっ!!』

 放ってくるビームを弾き返しながら偃月刀がサイクラノーシュを切り裂く。
 更に…
 
『クトゥグァ! イタクァ!』

 魔銃を召還し一斉発射。
 切り裂かれ、飛行不能になりながら落ちていくサイクラノーシュを弾丸が貫き、粉砕する。
 それでもまだ終わらない。
 
「やらせないっ!!」

 その瞬間、背後から襲ってきた巨大な邪神の眷属。
 更にその背後から放たれたサイクラノーシュのビーム攻撃を、リルの防御陣が完全に防ぎきる。

「「おおぅ……」」
 驚く俺達にリルは満面の笑顔で微笑んだ。
 
「やるじゃねぇか、リル」
「えへへっ♪」
「さすがは俺達の娘だ。なぁ、アル」
「ああ…本当に」

 そう言ってアルが頭を撫でてやると、リルは少しくすぐったそうに、だけど本当に幸せそうに笑った。
 
「さてと……ウェスパシアヌス!」

『くっ……おのれ……おのれおのれおのれぇっ!』

「自慢の使い魔もあと一匹。そしてお前が復活してこられるのも、もう一回だけだな」
『な、なぜ、なぜそれを!?』
 俺の言葉に怯むウェスパシアヌス。
「お前が言ったんだろう? ネクロノミコンのマスターは時のくびきから外れた存在だと。テメェらと戦うのももう何度目か判りやしねえしな。それに…」
 一呼吸置いて、俺は言い放つ。
 
「テメェらはその時、完璧にブッ倒してやったからな!!」

『戯れ言をォォォォっ!!』

 デモンベインが放つ威圧感にとうとう耐えられなくなったのか、サイクラノーシュが高速で何かの呪文を唱えながら襲いかかってくる。あの巨人も一緒にかかってくるが……
 
「その程度で、このデモンベインに敵うと思うたか! 愚かな…」
「パパ! みんなをいじめたあのおじちゃん、やっつけちゃえぇっ!!」
「応ッ! ウェスパシアヌス! 罪無き街の人々を無惨に殺しやがったその罪! デモンベインが断罪する!!」

 まずは1回目!
 
「クトゥグァ、二重召還! とりあえずブッ飛びやがれ!!」

 一斉発射。
 立て続けに起こった12回のマズルフラッシュの直後、サイクラノーシュは欠片1つ残さず弾け飛ぶ。
 だけど、まだ終わりじゃない!!
 
『よくも私の可愛い使い魔を!!』
 その声と共に、上空からサイクラノーシュが高速呪文で大量に召還した邪神の眷属と共に襲いかかってくる。
 ならば!!
 
「フォマルハウトより来たれ……クトゥグァ! 神獣形態!!」

 マズルフラッシュの瞬間、両手の銃から顕現した炎の魔獣は眷属共を一瞬で焼き尽くし、その勢いのままサイクラノーシュをも貫く。今度こそ、最後だ!

「アル! ヒラニプラシステム、アクセス!!」
「ナアカルコード確認! 術式解凍!! 彼奴の罪、徹底的に断罪してやれ、九郎ッ!!」
「やっちゃえぇぇぇっ!!」
「応ッ!!」

 デモンベインの中で、『銀鍵守護神機関』が高い駆動音を上げる。
 魔を断つ剣。その名の意味を、今ここに顕す!!
 
「光差す世界に、汝等暗黒住まう場所無し!!」

 シャンタクから青白いフレアをなびかせ、デモンベインが疾駆する。
 その右手に宿る、全てを昇華する必滅の術式が唸りを上げ……今、魔を断つ!!

「乾かず飢えず無に帰れ!!」

 地上ではまさにその瞬間を姫さんやライカさん達が息を呑んで見つめていた。
 
「大十字さん………デモン…ベイン……」
 涙を浮かべて呟く姫さん。その傍らには執事さんがそっと姫さんを支えている。
「ダーリン…殺っちゃえロボ!!」
 彼程の哀しみを受け止め、涙を流したエルザ。
「き、決めるのである、大十字九郎!」
 訳解らん性格しながらも、街の人の為に戦ったウェスト。
「「行けぇぇぇっ、九郎――っ!!」」
「九郎お兄ちゃん、やっちゃえ――っ!!」
 あんなに怖い目にあっても、必死に頑張ってるジョージ、コリン、アリスン。
「九郎ちゃん、いっけぇぇっ!!」
「大十字さん、止めを!!」
 傷だらけになっても子供達を守り続けるライカさんと、いきなり現れてライカさん達を助けてくれた、彼女の弟、リューガ。
 
 他にも街の人々が天空を見上げてその瞬間を待ち望み、希望の声を上げていた。

 その声に答えるように、俺はその右手を振りかざす!

『や、やめ、やめろっ!!』

 あわてふためくウェスパシアヌスの声。
 だが、絶対に逃がさねぇっ!!

「レムリアァァッ・インパクトォォォォォォォォォォォォッ!!」

 デモンベインの右手がサイクラノーシュの装甲に叩きつけられる。
 そして……
 
「「昇華!!」」

 アルとリルの断罪の言葉がアーカムシティーに響く。
 
『ぎ、ぎやあああああああああああああああああああああっ!!』

 ウェスパシアヌスの断末魔の叫びを残し、サイクラノーシュは一瞬で光となって消滅した。
 
「………やった…か?」
「ああ、今度こそ間違いなく……な。九郎…っ!」
 不意にアルが自分の操縦席を離れ、俺の所まで一足飛びに飛んでくる。
 まるでぶつかるように抱きついてくるアルの身体を、俺はしっかりと抱き留めた。
「アル……」
「怖かった……本当に失ってしまうかと思った……九郎…九郎、九郎っ!」
 泣きじゃくりながら抱きついてくるアルを強くしっかりと抱きしめ……
 頬を濡らす涙をそっと拭って、そのまま唇を重ねた……。
 
「わぁ……」

 俺達の様子を見ていたリルが目を丸くして見つめているが…まあ、今くらいはいいだろう?
 
「九郎……」
「アル……」

 これで全てが終わったのかはまだ判らない。
 でも、今だけは…こうしてアルの温もりを感じていたくて…
 
 そのまま俺達は時が過ぎるのも忘れて抱きしめあう……
 

 だが、この時……
 遙か遠く……次元の彼方において、邪悪な影が蠢きだした事に気付いていた者は…
 この場には誰も居なかった……




      戻る       TOP    次頁