斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第15話 気配
俺の言葉に、周囲は一瞬沈黙に包まれた。
そしてそれがまるで嵐の前の静けさだったかのように……
「ど…どっ…どういう事ですの!? な、なぜお爺様が!? それに…それではまるで私達までもがその世界に存在していたかのような……」
「いたんだよ、姫さん達も」
「―――っ!?」
驚きのあまり、声にならない様子の姫さん。
「姫さんだけじゃない。執事さんやメイドのみんな。それにライカさんやガキんちょ達。ウェストやエルザ。みんなその世界に存在していた。いや……今、この世界にいる全ての存在が、その世界にも存在していたんだ」
「なるほど、ようやく得心がいきました」
不意に上がった執事さんの声に、皆の視線が集中した。
「な、なにが判ったと言うんですの、ウィンフィールド?」
「覚えておられませんか、お嬢様。初めて大十字様にお会いした時の事です」
「あの時……?」
思い当たる事がないのか、姫さんは首を傾げている。
そんな様子に苦笑しながら、執事さんは説明を始めた。
「あの時、初めてお嬢様にお会いしたにも関わらず、大十字様はお嬢様を一見するや、『姫さん』と呼んでおられました。まだこちらが全く名乗っていなかったというのに」
「……っ! そう言えば……」
「当時は、大十字様が何らかの関係で覇道財閥を探った事がおありなのかとも思いましたが、後々調べてもそんな痕跡は全く。それに…」
「それに?」
「大十字様は、初めて覇道邸へお越しの際、全く迷われませんでした。案内をしていた私と並んで歩きながら、まるで勝手知ったる場所へ赴くかのように」
「…………それでは…」
「ええ。大十字様が迷われなかった理由はただ1つ」
「初めから……知っていた?」
戸惑うような言葉に頷く執事さん。
驚きを隠せない様子で見つめてくる姫さんに、俺も頷きを返した。
「じゃ、じゃあ……九郎ちゃんは私と初めて会った時も……」
「もちろん。ライカさんとも初対面じゃなかった。ジョージ、コリン、アリスン。お前達にもな。俺が初対面なのは…リューガ、君だけだ」
この言葉に、更なるどよめきが広がる。
「ええっ、それじゃあ……」
「かつての世界で、俺はリューガと出会っていない」
「妾も彼奴を見た覚えがないな。だが……」
何かを考え込むような様子のアル。
「ん、どうした、アル?」
「ふむ…九郎、汝は気付かぬか? このリューガという者、誰かに似ていると」
「誰か……?」
「ああ。空気……と言うか雰囲気はまるで違うが、この声…そして先程の戦いの際の構え。妾は似ていると思うのだがな……」
「構え……?」
思い出す先程の戦い。
邪神の眷属達に相対し、ライカさん達を守っていたあの時の……
天上天下の構え……その姿に重なる黒いイメージ……それは…
その瞬間、俺の脳裏にあの叫び声が響き渡った。
『メェェタァァトォロォォォォォン!!』
漆黒の武装天使。
一撃必殺の拳。
「―――っ!? 真逆っ!?」
「そうだ。妾もそう思う。そして彼奴があの者だとするならば、メタトロンも……」
「っ!?」
思わず振り返る。
その視線の先にはライカさんの姿が……
重なる白い天使の姿……
信じたくはない……だけど……
「妾達は全く気付かなかったが……おそらくそう言う事だったのだろう。戦っていたのは…妾達だけではなかった……と言う事だ。ブラックロッジの居らぬこの世界では、その必然性が失われた為、存在しなくなったのであろうな」
「そう言う……事か……」
一体、どれだけの哀しみを抱いて戦っていたのだろう。
俺達が…俺達がみんなの全てを背負って戦っている気持ちだったけど……
……この人はあの笑顔の裏に、どれだけの哀しみを秘めて戦っていたのだろう……
思い出されるライカさんの笑顔。
いつも絶やされることなく…
ガキんちょ達を守る為に敢然と立ち向かっていたあの姿が、脳裏に焼き付いている。
「………凄いな、この人は」
「そうだな……」
俺の呟きにアルも苦笑を返す。
アルの事だ。俺の気持ちなんて百も承知だろう。
そっと寄り添って冷えかけていた俺の心を温めてくれる。
「九郎〜それでどうなったんだよ〜〜」
話の先をせがんでくるジョージに苦笑すると、俺は再び話を続けた。
「俺がその世界で姫さんに出会った時、すでに覇道鋼造はこの世の人ではなく、ブラックロッジの大導師、マスターテリオンによって殺された後だった」
俺の言葉に姫さんが息を呑むのが判る。
僅かに涙ぐんでいるように思うのは、俺の気のせいだろうか……
「そしてその後を継いだ姫さんが俺の所へ来たのが全ての始まりだった」
思い出すあの日の事。
そして魔導書探索の依頼を受けて……
「姫さんに受けた依頼を果たす為に魔導書を探していた俺は…アルと出逢った」
側に寄りそうアルの身体を抱き寄せる。
「その時、妾はブラックロッジに追われる身だった。術者も居らず、無理を重ねていた妾は最早力尽きる寸前…そんな時だった。九郎と出逢ったのは…」
空から降ってきた少女。
言葉としては幻想的だが、実際はそんなもんじゃねぇ。
何しろ……
『退け! 退けるのだ!! 退けと言っておるだろうが! このうつけがぁぁぁぁッ!!』
そんな叫びと同時に、俺は完璧にプレスされたからな……
「当時、九郎は魔術を囓っただけの一般人と変わらず、妾も力と使い果たしていた。だというのにこの男は……」
苦笑しながらも微かに頬を赤らめるアル。
「なんの力も持たぬまま、銃を持った輩から妾を助けてくれた」
「連れて逃げただけだろ?」
「奴等が狙っておったのは妾だけだ。汝はあのまま一人逃げていれば何も厄介事を背負い込む事など無かったものを」
「だってよ……あのまま放っておいたら……」
「「後味悪すぎるから」」
重なった声に思わずアルを見ると、まるで笑いを堪えているかのような表情で俺を見つめていた。
「汝はいつもそうだ。そんな単純な理由で他人の為に命懸けの事をやってのける…あまり妾を心配させるなよ……」
「あ、ああ」
微かに涙を浮かべた表情で見つめてくるアルの瞳。
なんとなく照れくさくて、そっと涙を拭ってやるとギュッと抱き寄せる。
「………そして…再びブラックロッジの輩に囲まれた時…妾は九郎と契約を交わした」
「かなり一方的だったけどな。あれはメフィスト・フェレスより酷い契約内容だったぞ」
そう言って苦笑する俺に、アルも照れくさそうに頬を赤らめて苦笑した。
「さっきも見ただろ? 俺はアルの力を受けて魔術師としての姿、マギウスへと変わる。マスター・オブ・ネクロノミコンとして、魔術を行使出来るようになるってワケだ。こんな風に……」
俺の言葉と同時にアルの唇が俺の唇へと重なり…俺の中にアルの力が溢れて……
一瞬の光の後、俺の姿はマギウスへと変わっていた。
肩には小さくなったアルがちょこんと座っている。
「まあ、こうしてアルの力を受ける事で、俺は完全な魔術を行使出来るってワケだ」
「あ、リルもリルも〜〜」
ずっと俺の足にくっついていたリルからも力が流れ込む。
そして俺の姿は更に変化。
マギウス・スタイルから更に強化された姿へと。
そして……
「ま、今ではこうしてアルの力だけじゃなく、リルの力まで一緒に併せて無限の力を発揮出来るようになったけどな」
「それで……デモンベインは……?」
「ああ、そうしてなんとかブラックロッジを撃退した俺達だったんだけど、今度は巨大なロボットで襲ってきてな。あの頃の俺ではどうする事も出来なくて、必至こいて逃げたんだ。でも、その途中で地面の穴に落っこちてさ……」
思い出すだけで痛い。
あの時結局何メートル落ちたんだ?
「たまたまそこが覇道財閥の造った秘密基地の一角で、その奥で俺達はこいつと出会った」
見上げるその勇姿。
行く度の戦いを共に戦い抜いた戦友、デモンベイン。
あの日の出逢いを、俺は絶対に忘れない。
「そして……」
と、話し続けようとしたその時だった。
「パパ……っ」
「ん、どうした、リル?」
「何か……来るよ……凄く怖い…何か……」
「なっ!?」
リルの言葉に思わず緊張が走る。
「アリスンちゃん!?」
ライカさんの叫びに、慌てて振り返ると、アリスンもガタガタと震えながらライカさんにしがみついていた。
「アリスンっ!?」
「嫌……やだよぉ……また怖いのが来る……もっと怖いのが来ちゃうよぉ!」
アリスンのその様子。リルもここまで怖がっている……
間違いない。何か近づいているんだ。
その瞬間、俺は途轍もない気配に気付いた。
「――――っ!? アルッ!!」
「っ!? 応ッ!!」
跳躍と同時に急いでデモンベインのコクピットへと戻ると、全てのシステムを起動する。
「間に合えぇぇっ!!」
全力での防御結界をアーカムシティーの上空に張り巡らす。
五芒星形の防御陣が天を覆った瞬間だった。
「きゃあああああああああああああああああっ!!」
眩い光と共に地上からの悲鳴が響く。
「く、うぅぅぅぅっ!!」
「「あああああああああっ!!」」
まるで身体が軋むような衝撃。
リルが加わった事で今までとは比べものにならないくらいに強化された防御結界だというのに、支えるのが精一杯だ。
「な、なんだこの力は!? これではまるで……」
思い出される異形の神の力。
「クトゥルーのようではないか!!」
アルの叫び。その時俺は気付いた。
いや、今までなぜ気付かなかったのか不思議な程だ。
此程強大な気配を……
「これは……真逆……外なる神か!?」
「どうやらそう言う事らしいな……前に会った、ヨグ=ソトースだっけか? あれに匹敵するとんでもない神気だ。なんでいきなり……」
「……そうか!!」
「どうした、アル?」
「……九郎…これは……妾達の責任だ……」
「なっ……?」
「……先程、汝は全ての次元、時間、時空を超えてデモンベインを召還した。どうやらそれがヨグ=ソトースと同様の効果をもたらしてしまったらしい……つまり…外なる神の世界と、この世界が繋がってしまったのだ……」
「――っ!? それじゃあ……」
「このまま放っておけば、先程のレベルでは済まぬ。一体どれ程の強大な力がこの世界を襲うか……今はまだ世界が繋がりきって居らぬからであろう。実際の力の数百分の1で済んでおるが……」
「………アル、やるぞ」
「……勝てる保証など無いぞ?」
「無理でもやるしかねぇだろうが! 折角築いた平和な世界を、たとえ神にだって壊させて堪るか!!」
「………そう…だな」
見つめ合う俺達。
その時、くいくいと横から耳を引っ張られた。
「ん?」
振り返ると、いつの間にこっちに来ていたのか、俺の背後にリルの姿があった。
背中の羽がパタパタと音を立てて羽ばたいている。
「リルも置いてっちゃやだよ?」
完璧な先制攻撃。
今から言おうとしていた事を完全に封じられてしまった。
「だ、だけどな……リル」
「ずっと一緒だよ。パパ、ママ」
「リル……」
「汝……フフ……さすがは妾の娘……一度言いだしたら聞かぬか」
「いや、笑う所じゃねぇだろ、ここは」
「……連れて行こう、九郎」
「!? だけど!!」
「……このまま街に置いていても安全とは言えぬ。それよりも…妾と九郎、そしてリルの力を合わせた方が、より生きて帰れる確率が上がるだろう?」
そう言って見つめてくるアル。
そしてうるうるとした瞳で俺にしがみついているリルの姿を交互に見つめ……
「ったく…判ったよ。んじゃあ、やってやるか! アル! リル! 必ず生きて帰るぞ!」
「当然だ。折角娘まで得たこの幸せ、失ってなるものか」
「うんっ!!」
2人の言葉に頷きを返すと、俺は足下にいる姫さん達に声をかけた。
「姫さん達はしばらく隠れていてくれ。俺達でこいつをなんとかする!」
姫さん達が下で何か言っている様子だけど、もう時間がない。
ここからは1秒が生死を分ける。
「行くぞ! デモンベイン!!」
俺の言葉に銀鍵守護神機関が高い唸りを上げる。
そして足下の姫さん達が離れていくのを確認した後、俺は一気に全機動力を解放した。
「断鎖術式、壱号、ティマイオス! 弐号、クリティアス! 解放!!」
脚部シールドを稼働。
それと共に起こった時空湾曲の力を持って、デモンベインは一気に上空へと飛び立つ。
そして……
「凍てつく荒野より飛び立つ翼を我に! シャンタク!!」
デモンベインの背後。
巨大な魔力の顕現と共に、その背に鋼鉄の翼が生まれ、青い閃光を残して一気に天空へと舞い上がった。
気配を感じる場所は遙か上空。
そう……まるであの最終決戦の舞台……
「よっぽど好かれてるんだな。俺達は」
その場所へ到達した時、俺は誰にともなく呟いた。
背後に抱くは真っ青な地球の姿……
この漆黒の宇宙空間において、最も美しい輝きを放つ星。
「絶対に……守りきってみせる!」
悲壮感はない。
ただ純粋に、この背後に輝くこの星を……この星に済む人々を守りたいだけだ……
そしてその瞬間……
漆黒の宇宙に……亀裂が走った……
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