斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第8話 禁句


 何度も来ているはずの教会の扉が、今日はやけに重く感じる。

「汝の気が重たいだけだろうに」
「言うな……」
「どしたの、パパ?」
「ん〜まぁ、何というか……大人の事情って奴?」
「うゆ?」

 いや、そう真面目に考え込まれても…
 自分の娘ながら、なんとも良い性格に育ちそうだ。

「んじゃ、入るぞ」
「うむ」
「れっつご〜♪」

 とりあえず、1人だけはしゃいでいるリルのことはおいといて……

「おじゃましま〜〜〜〜〜〜すぶっ!?」
 恐る恐る覗き込んだその時、突然強烈な一撃を受けて地面に這い蹲らされる。
「な、なんだぁ?」
 訳が解らず振り返ると、そこにはにこやかな笑みを全く笑っていない瞳で浮かべているライカさんの姿があった。

「ラ、ライカさん……」
「あ〜ら、いらっしゃい、九郎ちゃん。今日も元気にたかりに来たのかしら〜?」
「あ、あのなぁ……俺だっていつもいつもそんなことで来る訳……」
「それって、神様の前でちゃんと誠心誠意誓って言えます?」
「…………無理」
 あっさりとギブアップ。
 口ではどう頑張ったって、ライカさんに勝てるはずもないし。

「あ……うぅ……」
 俺の背後にしっかりとしがみついて隠れているリル。
 どうやら今の様子で完全にライカさんのことを怖い人だと認識したらしいな。

「あら? あらあらあらあらあらあらあらぁぁぁ? まぁ、可愛い! 九郎ちゃん、この子どうしたの?」
 目ざとくリルを見つけて瞳を輝かせるライカさん。
 リルはその様子に更に怯えているようだ。

「あ、ああ、実は……」
「うにゅぅ……パパぁ……」
「ん、心配ない、怖い人じゃないから」
 そう言って宥めたその時、俺は1つの問題にぶち当たった。

「パ、パ、パ、パパぁぁぁぁぁっ!? く、九郎ちゃん、あ、貴方、まさか……こんなにも小さな子までその毒牙の餌食に……」
「だぁぁぁっ、違うッ!!」
「汝の思い込みは時として人としての限界を超えておるぞ……」
「……うぅぅ…このおばちゃん怖いよぉ……」
「おばっ――――!?」
 痛烈なリルの一言。
 子供ならではの純粋無垢で残酷すぎる一言……

「おばちゃん……私が………おばちゃん………ッ!?」

――殺気!?

 思わず強烈な気配を感じて、アルとリルを庇ってしまう俺。
 その様子にリルはすっかり怯えてしまっている。

「リル、おいで……」
「ふぇぇん、ママぁ……」
「よしよし……」
 優しく抱きしめて慰めるアルの様子は、もはやどこからどう見ても完璧な母親だ。
 さすがにライカさんもこの姿を誤解することは出来なかった様子で……

「ま、まさか……ア、アルちゃんの……子供!?」
「妾と、九郎の……な」
「いや、まあ、そう言うことで……」
「なななななななななななぁんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 突然のライカさんの叫びに、俺達は思わず身を寄せ合って引きつった。

「ふぐっ……ふぇっ……ふぇぇぇぇぇぇっ……ふぇぇぇぇぇぇぇん、おばちゃん怖いよぉ……」

 痛烈なボディーブロー

「おばちゃん、何言ってるのか判らないし、顔が怖いよぉ、ふぇぇぇん」

 更にワンツー

「お、お姉さん、って呼んでくれないかなぁ?」
「ふぇぇん、おばちゃんの目が怖いよぉ……」

 トドメのストレート。

「あうぅぅぅぅぅ、どうせ、どうせ私なんて……アルちゃんに比べたらおばさんよ……ええ、もう足腰もすっかり弱り切ったおばさんですとも、ええ、そうでしょうとも!!」

 あ、キレた。

「でもね、でもねっ、これでもまだ出るとこ出れば、シスターってお若いですねって言われるのよぉぉぉぉぉっ!」

 滝のように涙を溢れさせて叫ぶライカさん。
 
 面白いけど、このまま見てたら話が進まないよな。

 つーわけで、少々フォローする。

「リル、あのな……」
「ぐすっ……にゃ? なぁに、パパ?」

 そっと耳打ち。
「つーわけ。オッケーかな?」
「……はぁい♪」

「ん、汝等、何を話しておる?」

 不思議そうなアルも手招いて同じように耳打ち。

「フッ……なるほどな。それにしても汝等人間はどうしてそう見た目に惑わされるのやら……」
「それも人間ってもんさ」
「ふむ……まあ、それはそれで構わぬが……ん?」

 ふと、アルが怪訝そうな顔をする。
 その視線の先を追ってみると……

 ずぅぅぅぅぅぅん……と落ち込んだライカさんの背中をつんつんと突くリルの姿。

「……………?」

 振り返ったライカさんにリルは……

「あそぼ、ライカ…ちゃん♪」
「え……?」
「……ダメ?」
「う、ううん! 遊びましょう、リルちゃん♪」
「うんっ♪」
 満面の笑顔で答えるライカさんに、リルも嬉しそうに抱きついた。


 あれから1時間。

 すっかりうち解けたライカさんや、あの後帰ってきたジョージ、コリン、アリスンの3人と楽しげに遊ぶリル。

「ライカさん、1つ頼みがあるんだけど」

 完全にうち解けて楽しく遊ぶリルの姿を確認した上で、俺達はライカさんだけを別室に呼び、そう切り出した。

「えっ、なにかな?」
「今日、俺達が迎えに来るまでリルのこと預かってくれないか?」
「え……っ? ま、まさか、またアルちゃんと2人で……っ!? これ以上子供増やすつもりなのぉっ!?」
「ちっが〜〜〜う!! 仕事だよ仕事! 探偵の仕事!!」
「ペット探し?」
「ちっが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!」
「それとも……また危険な事するつもりなの?」
「う………」

 言葉に詰まる。
 前の世界でもそうだったけど……ライカさんってこう言う所鋭いんだよなぁ……

「九郎ちゃん……貴方にはこんなに可愛らしい娘さんが居るのよ? 今までみたいに自分のことだけを考えてちゃダメじゃない。貴方やアルちゃんにもしもの事があったら……残されたリルちゃんはどうなってしまうの?」
 
 そう言ってじっと見つめてくる。
 確かにそうだ。
 俺達は今までとは違う。
 ただ、アルと共に戦っていくだけじゃなく、リルを守り、育てていくことも考えなくちゃいけないんだ。
 だけど……

「怖くないの……? もしもの事が起こってしまったら……あなた達はリルちゃんを1人残してしまうことになるのよ?」

「怖いよ……」
「じゃあ、どうして?」
「怖いに決まってる……俺だってリルのことを考えない訳じゃない。でも……」
「でも?」
「俺達にしか出来ないって事が判っていて……なんとかしないとヤバイって判っていて…それでも何もしないで……その通りになってしまう事の方が、怖い」
「九郎ちゃん……」
「だから……」
「……約束して、九郎ちゃん。必ず無事に帰ってくるって」
「ああ、当然だ!」
「アルちゃんもよ」
「判っている。妾とて…折角授かった娘を1人残して逝く事など出来るはずもない」
「ん、それじゃあ……リルちゃんの事は責任を持って預かります。2人とも……本当に気を付けて…」
「応ッ」
「ライカ、リルの事を頼むぞ」
「ええ、このライカさんにお任せ♪」
「変な妄想癖は移すなよ」
「あっ、ひっど〜い! ぷっ……くすくす……」
「フフ……」
 笑い合うアルとライカさん。
 いつの間にかこの2人、しっかりとした信頼関係が出来てるみたいだな。

「さて、んじゃ行くぞ、アル」
「うむ」
「パパ、ママ!」
「「リル!?」」

 唐突に入ってきたリルの姿に、さすがに戸惑いを隠せない俺達。

「置いてっちゃやだ! リルも一緒に行く!!」
「あ…っと……聞いてたのか……」
 ふと扉の向こうを見ると、気まずそうなジョージ達と目があった。
 思わず溜息。どうやら立ち聞きしていたようだな。

「リル……だが、危険すぎる……大人しくここで待っていてくれぬか?」
「やだやだやだ! リルもパパ達と一緒に行くの!!」
「聞き分けのない事を言わず……」
「やだぁっ、離れたくない〜〜〜っ!!」

 泣きじゃくってアルにしがみつくリル。

「リル……」
「あ……」
 強く……しっかりとアルに抱きしめられて、リルの泣き声が止んだ。

「妾達は必ず迎えに来る。決して汝を1人残して逝ったりはせぬから……」
「ママぁ……」
「何も心配などいらぬ。九郎は……汝の父は本当に強い男なのだから。世界で……いや、この全宇宙において、この男より素晴らしい男など居らぬのだから」
「う……ひっく……ぐすっ……」
「泣くでない……リル……妾達はいつでも汝と共にある。決して1人ではない」
「うぅぅ……」
「リル……」
「…………う…ん……ママ……」
 そう言うと、リルは一度ギュッと強く抱きついた後、ゆっくりとその手を離した。

「ライカさん、リルの事、頼みます」
「ええ、任せて」
「皆と仲良く待っておるのだぞ、リル」
「うん……♪」
 寂しそうに微笑むリルをギュッと抱きしめるアル。

 そんな2人を俺はまとめて抱きしめた。

「行ってくるよ、リル。帰ったら思いっきり遊ぼうな」
「パパ……うんっ♪」
「ジョージ、コリン、アリスン。リルの事、頼むぞ」
「まっかせてよ。俺達と遊んでたら寂しい事なんて忘れちまうって」
「そうそう」
「九郎お兄ちゃん、気を付けてね」
「ああ」

「九郎、行くぞ!」
「応ッ!」

 声と共に、アルの力が全身を巡り、俺の姿をマギウスへと変える。

「マギウス・ウィング!!」

 背中に広がる黒翼。
 一気に舞い上がった俺達の視界からリルの姿が段々遠ざかり……消えた。

「…………っ」
「心配か、アル?」
「当然だろう…? 汝は心配ではないのか? リルは身体こそ5歳程度ではあるが、殆ど生まれたても同然だ。それを置いていくのだ……心配にならぬはずもない」
「俺だって心配さ。だから……少しでも早く解決して、リルの所へ帰ろう」
「……うむ! ならば、急ぐぞ、九郎!」
「応ッ! アル、俺は幸せだぞ! お前との間に子供まで出来たんだからな!!」
「……うつけ……っ、今更何を言っておる……だが……妾も幸せだ!」

 見つめ合い、小さなアルの唇が俺の唇の端にそっと触れる。

「やってやらぁ……相手がどんな魔術師だろうと、俺達は絶対に負けやしねぇさ!」
「もちろんだ、九郎!!」

 それは誓い。
 想いは言葉として出した瞬間、誓いとなる。

 俺達の想いは誓いとなって、空を駆けて行った……




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