斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第9話 怒りの焔


 あれから1時間。
 俺達はアーカムシティー中を飛び回りながらダウジングで魔術の気配を探した。

 血塗られた11番街を中心に魔力の残り香を追跡。
 微かながらも残されているその痕跡を辿って、俺達はシティーの南にある商店街区域へと来ていた。

 ここは先日ドクター・ウエスト達が街の住人と楽しく過ごしていた場所。
 それだけに嫌な予感がする。

 外れてくれれば……いいのだけどな…

「アル、どうだ?」
「ふむ……やはり魔力の残滓はこの辺りに漂っているな。敵は近いぞ、九郎」
「……どんな奴だろうな……」
「11番街の様子を見ると、思い出すのは彼奴等だろうな」
「――アンチクロス」

 俺の言葉に頷くアル。

「それに、先程から追跡しているこの魔力に妾は覚えがある。はっきりとは判らぬが、彼奴等か、それと同等の魔力を持った存在であることは間違いあるまい。手強いぞ」
「……なぁ…アル」
「なんだ?」
「もしも……もしもだけどな。敵が……鬼械神を出してきたら……」
 
 最悪の予感。
 それこそ、俺が最も心配する所だった。

 魔術師が相手である以上、魔導書を持っていることは確か。
 そして、その魔道書の位階が高ければ……
 鬼械神を召還できるほど高位の魔導書であったならば……

「……勝ち目は無かろう。妾達に…デモンベインがあったならば万に一つも負けることなど有り得ぬが…生身の汝や妾と鬼械神では、天と地程の差があるのだからな」
「もしそうなったら……」
「……逃げろ……と言っても、汝は聞かぬであろう。…だが、忘れるな。妾達はすでに以前の妾達ではない。たとえ命を捨てても…等と言うことは許されぬぞ」
「ああ。絶対に生きなくちゃならねぇって事だ」

 交わす視線。そして……重なる言葉。

「「最愛の娘の為に」」

 じっと見つめ合い……吹き出す。

「早く帰って遊んでやらなくちゃな」
「うむ。まだろくに遊んでやることすらしていないのだからな。あれから1時間。さすがに寂しがっておるだろう。少しでも早く……っ!? 九郎!!」
「向こうか!?」
 唐突に感じた魔力の波動。
 それは暗い闇のにおい……

「行くぞ、九郎!!」
「応ッ!」

 マギウス・ウイングを広げ、空に舞い上がる。

 気配を感じた場所を確認すると、今度は一気にその場所めがけて急降下した。

 辺りに満ちる血の臭い。悲鳴、怒声、そしてそれらは一瞬にして消え去る。
 だが……
 
「我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)!!」 

 立ち込める腐臭を薙ぎ払うような魔術の光。
 それに焼かれたあの邪神の眷属共が俺達の傍へと砕けながら降り注ぐ。

「エルザ!?」

 俺の声に気付いたのか、エルザがこちらに振り返る。だが…
 その表情に俺達は絶句した……

「ダーリン………っ…」
 途切れ途切れに紡がれるエルザの声。そして頬に伝うのは……

 ――涙

「エ、エルザ……お前……」
「泣いて……おるのか!?」

 信じられなかった。いくら高性能とは言っても、エルザはウェストの造った人造人間。
 それが……涙を流しているなんて……

「なにがあった!? 街の奴等は!! ウェストの奴はどうしたんだ!?」

 不安が胸の中で渦巻く。
 それはさっきよりも更に激しく……

 そして……エルザの言葉がそれを現実の物とした……


「博士は破壊ロボ取りに戻ってるロボ……みんなは……動かなくなっちゃったロボ……」
「「――――!?」」

 それはつまり……

「博士にも……治せないって言ってたロボ……」

 更に溢れる涙……

「な、汝、泣く機能まであったのか……?」
「……みんなが動かなくなった時…アイカメラの保護液調整弁が壊れたロボ……そしたら……止まらなくなったロボ……」

 確かに、物はそうなんだろう。
 だけど……俺はそれがエルザの涙だと信じて疑わなかった。

 あんなに哀しい顔をしたエルザを見たのは初めてだったから……

 その時だ。

「エルザお姉ちゃん―――っ!!」

 突然聞こえてきた悲鳴に、俺達は一斉に振り返る。

「あの声は!?」
「リーザロボ!!」
「急ぐぞ、九郎!!」
「応ッ!」

 そして……駆けつけた俺達が見た物は……

 邪神の眷属に囲まれて、身動きの取れなくなったリーザの姿。

 その様子に、エルザが即座に反応した。

「我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)!!」 

 閃光がリーザを襲おうとしていた邪神の眷属を薙ぎ払う。

「クトゥグァ! イタクァ!!」

 俺もすぐにクトゥグアとイタクァを召還。
 カートリッジが空になるまで連続発射。

「ロイガー! ツァール!!」

 続いてロイガーとツァールを召還。
 普段は組み合わせて投擲武器として使うが、今回は……

「なるほど、そう使うか!!」

 感心したような声を上げるアル。
 俺はロイガーとツァールを二刀小太刀のように構えて、目の前に蠢く眷属共を薙ぎ払いつつ、リーザの元へ駆け寄った。

 エルザもガンズトンファーで道を切り開いてリーゼの傍へ。
 そのままの勢いでしっかりと抱きしめる。

「リーザ! 無事だったロボ!?」
「お使いで隣町に行ってたの……でも……帰ってきたらみんなが……うっ…うぅ……わぁぁぁぁぁ……」
 泣きじゃくるリーザを抱きしめるエルザ。
 その瞬間、エルザの頭からは完全に敵のことが消えてしまっていて……

「危ない、エルザ!!」

 とっさに気付いて声をかけたけど……間に合わなかった……

――グブシュ……ッ

 鈍い音。

「ロボ……?」

 飛び散った何かがエルザの瞳を赤く染める…

「あ……ああ……っ!!」

 俺の脳裏を過ぎるあの瞬間……

 ネロの……エンネアの腹を引き裂いて現れた白い手……

 引き裂かれたエンネアの身体が吹き上げた鮮血の中に佇んでいた金色の魔人……

「九郎!!」

 切迫したアルの叫びに現実に戻った俺は、目前まで迫った邪神の眷属をロイガーとツァール、それにマギウス・ウイングで薙ぎ払う。

「エルザ!!」

 とっさに思い出して振り返った瞬間、俺は言葉を無くした。

「ロボ………? リーザ……? 足……無い……ロボ?」

 リーザの身体を抱きしめたまま、その腰の辺りに触れようとするエルザの手は……空を切る。
 代わりに…暖かな物がエルザの手を濡らした……

 思わずその手を見つめるエルザ。

 そして……

「リーザ? 返事するロボ……いつもみたいに……お姉ちゃんって……呼ぶロボ……」

 だが、答えは返らない。

「リーザ! リーザっ!! 返事するロボ!!」

 何度呼んでも……
 どんなに揺すっても……

 もう、リーザはなにも答えない……

「ロボ………ロボォォォォォォォォォォォッ!!」

 絶叫……
 号泣……

 こんな哀しい光景を見たくなかったから……
 こんな思いを誰にもさせたくなかったから……

 戦ったのに……戦い抜いたのに……

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「九郎……」
「終わらないのか? まだ終わらないのか!? あれだけの哀しみを! あれだけの命を! 奪われて……無くして……それでも戦って……ようやく勝ちとったんだぞ……この世界を……! なのに…まだ続くのか? まだ終わることを許されないのか!?」

 叫ぶ俺の言葉に、アルが辛そうに目を伏せる。

「潰してやる………ぶっ潰してやる! こんな事をする奴も……こんな運命も! 全部ぶっ潰してやるっ!!」

 高まる気持ちをクトゥグアに込める。

「九郎、何を!?」
「フォマルハウトより来たれ……クトゥグァ、神獣形態!」

 その瞬間、全身を巨大な神気が駆けめぐった。
 破裂した毛細血管から溢れた血が涙となって流れ落ち、裂けた全身の皮膚から溢れた血が、俺の身体を赤く染める。

「無茶だ、九郎!!」
「邪神の眷属なんぞ、焼き尽くせ、クトゥグア!!」

 アルの言葉にも耳を貸さず、更に連射。

「九郎!! 止まれ!!」
「うおぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 そして……全弾を撃ち尽くした瞬間……

 俺の全身が血煙を噴き上げた……

「く、九郎―――っ!!」

 アルの悲鳴が遠くに聞こえ……る……

 そのまま俺は意識を失った…



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