斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大混乱』
by Sin
第2話
朝の騒動以降、俺は講義中ずっと周囲からの好奇の視線に耐えなければならなかった。
教室中では潜められた声で俺達のことを噂する学生達が後を絶たず、それぞれの教授達も事情を知ってか知らずか黙認。
そうしてなんとか3つ目までの講義が終わったのだが……
「なぁ、大十字」
「あん?」
「噂じゃ、結構可愛い女の子らしいじゃないか。どこでそんな子引っかけてきたんだよ?」
「お前に話す理由はない」
「冷たい事言うなよ、友達だろ?」
「お前と友達などになった覚えはないし、なる気もない」
そう言って冷たくあしらう俺。
正直、ここまで周りからの反応が酷い物とは思っていなかった。
「ちょっと甘く見てたな……アルの奴…寂しがってなけりゃいいけど……」
呟いたその時、始業を告げるチャイムの音が。
「さてと……今日取らなきゃいけないのは後2つ……待っててくれよ、アル」
俺がそんなことを思っていた頃、アルは……
「アーミティッジ、九郎はまだ終わらぬのか?」
「あと2時間程ですな。退屈されましたかな、アル・アジフ殿?」
「………ふぅ…以前ならばこのように時間を持て余すなど考えもせんかったものを…」
「大十字と出逢って、変わられましたな」
「そうさな。かつての妾は、ただ役目を果たすのみ…主に選んだ者が死してもまた次の主を求めただけ……そんな妾が、今やただ一人の男を愛しておるとは…妾自身、信じられぬよ」
そう言って苦笑するアルに、アーミティッジの爺さんも微笑んだ。
「それにしても、さすがに退屈だ。少し大学の中を見せて貰うぞ、アーミティッジ」
「学内には色々な者が居りますゆえ、一人では危険ですぞ?」
「妾を誰と思っておる。最強にして最高位の魔導書、アル・アジフなるぞ。いかなる輩が居ろうとも、妾の敵ではないわ」
「確かに。では、お気をつけて」
「うむ。九郎が来たら妾は学内にいるといっておいてくれ」
「承知しました」
爺さんの答えに頷くと、アルは魔導図書館から飛び出した。
「ほほぅ、こんな風になっておるのか……なかなかに興味深い」
学内を興味深そうに見て回るアル。
様々な研究室などに置いてある標本に驚いてみたり、見たこともないような機械を面白そうに見つめたりと、飽きる様子は全くない。
そして、今度はどこを覗いてみようかと辺りを見回していたその時だった。
「ねぇねぇ、君〜」
「ん?」
唐突に背後からかけられた声に思わず振り返ったアルだったが……
「う゛っ!?」
嫌悪感丸出しの声を上げて思わず数歩後退る。
そこにいたのは………
「えへえへぇ……君ぃ、可愛いねぇ」
「な、な、なんだ、汝はっ!?」
慌てきった様子のアル。
それも仕方ないだろう。そこにいたのは肉のダルマのように肥え太り脂ぎって妙な匂いを立ち上らせている数人の男だったからだ。
「どこから来たのかなぁ? ねぇ、名前くらい教えてよ〜」
「えへえへ……えへへへ………」
「可愛いよなぁ……ねえ、それ何のキャラのコスプレ?」
「よ、寄るなっ!! 気色の悪いっ!!」
じわじわと迫り来る男達から逃れようと少しずつ後退るアルだったが、やがて壁際に追いつめられてしまう。
「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
限界まで高まった恐怖感と嫌悪感が、アルの中で引き金を引いてしまった。
弾ける魔力。
辺りに響く爆音。
だが……
「へへへぇ……君、院秘学科の生徒かなぁ? こんな可愛い子がいたなら、もっと講義に出ておけば良かったかも〜」
「わ、妾の魔術が効かぬだと!?」
「い、一応、僕らもぉ、院秘学科なんだよねぇぇ〜だから、このくらいの障壁くらい簡単なんだよなぁ、えへ……えへ……えへへへぇ……」
「う………うううっ………く、来るなぁっ!!」
今にも囲まれて身体に触れられそうになった瞬間、アルは一気に飛び上がって壁を伝い屋上へと逃げる。
しかしそれでもまだ奴等は追ってきた。
「可愛い女の子と追いかけっこ……萌えるねぇ……」
「う、うわわわぁぁっ!! く、九郎ぅぅぅっ!!」
その肉と油にまみれた巨体が揃いも揃って追ってくる。
あまりの恐怖にアルは悲鳴を上げながら九郎の気配を辿って逃げ出した。
そして………
「で、あるから……」
院秘学科、魔術理論の講義を受けていた俺だったが、いつものこととは言え、あまりに的はずれな教授の指導に眠気を堪えるだけで精一杯だった。なにしろ仮にも俺はアルの主…マスター・オブ・ネクロノミコンだ。
あまりにも簡単な内容を複雑怪奇に教えようとするその教授の講義は、訊いてるだけで眠くなる。
それに……
「大十字! 貴様、この私の講義で何をぼけっとしている!! 仮にも天才たるこの私の講義を受けることができるという有り得ないまでの幸運に恵まれながら、その態度はいったいなんだ!」
あの教授、何故か俺にやたらと突っかかってくる。
目をつけられてるって奴か……?
たまんねぇな……
「んじゃあ、1つだけ。さっきやってた物質の錬成だけどさ、触媒も魔法陣も必要ないぞ?」
「なっ……ば、馬鹿を言うな!! 錬金の絶対的な法則だぞ!」
「それは錬金術だろ? 俺が言ってるのは、魔術での場合だ。例えば……ニトクリスの鏡っ!!」
その瞬間、俺の前に一枚の鏡が錬成される。
「なぁっ!?」
「こんな風に、魔法陣も触媒もなくても、物質の錬成は可能だ。たとえ、魔導書がなくたって少しくらいはな」
「き、貴様ぁっ、いったいなんのトリックを使って!!」
「手品じゃねぇよ。魔術だって言ってるだろ? 大体、魔術理論を教えてるあんたが俺の魔力の流れを見抜けないなんてことはないよな?」
「ぐ、ぐぬぅぅっ! 貴様ぁっ、こ、この天才の私を愚弄しおってぇぇぇっ!!」
またキレた。
どうもこの教授、自分が誰よりも天才だって思い込んでて、俺が教授の間違いを正す度にこうやってぶちキレる。
全く、傍迷惑な……
と、そのときだった。
「九郎――――っ!!」
「な、なぁっ!?」
唐突に窓から飛び込んできたのはアルだった。
慌てて抱き留めたが、その勢いに押されて思わず床に倒れ込む。
「な、なんだ、どうした!?」
「へ、変な奴等に追われてっ!!」
「なっ?」
俺が驚いたその時、窓から数人の脂ぎった男達が入ってきた。
「彼奴等だっ!!」
「………ったく…」
大慌てのアルとは正反対に、俺の方は思いきり冷静になっていた。
何しろ…見飽きた光景だからな。
「またお前等か……」
「げっ、大十字!?」
「この前言ったよな? 二度と俺の前に姿を見せるなって。それにまだ魔術をこんなコトに使ってやがるのか、テメェ等は」
「ひっ……」
「アル、少し力借りるぞ」
「む?」
「………イタクァ!!」
アルの肩に手を置いて、その内から魔導書の力を引き出す。
そして召還したのは鈍いガンメタリックの輝き。
46口径の回転式拳銃。イタクァだ。
突然の召還に教室内で起こるざわめき。
そして教授は……
「召還……召還だと!? ま、まさか、そんな、そんな事この私にも……」
絶句しながらも、自分の負けをまだ認められずにいるようだ。
「懺悔しな、肉饅頭共が!」
片手をアルに触れたまま、もう片手でイタクァを乱射。
男達の身体すれすれを削るように横切り、更にUターン。
「ひ、ひぃぃっ!?」
股の下を再び削るように通過して更にターン。
「ひやぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
幾つもの悲鳴が重なりながら、男達は大慌てで窓から逃げていった。当然イタクァもその後を追って……
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
弾着。
汚らしい悲鳴が聞こえた後、完全に静かになった。
「ふぅ、駆除完了っと。大丈夫か、アル?」
「う、うむ……な、何だったのだ、彼奴等は?」
「可愛い女の子と見れば追い回す外道さ。一応、この院秘学科の学生だけど、この前魔術で女の子を襲いかけて停学くらってた筈なんだけどな」
「め、面妖な輩も居るものだな……」
「全くだ」
そう言って苦笑する俺に、アルもようやく落ち着いたのか笑みを漏らす。
だが、俺達は完全に失念していた。
ここがどこかって事を……
突然に巻き起こる歓声に驚いて俺達が辺りを見回すと、いつの間にか周囲を学友達に取り囲まれていた。
「な、な、なんだ!?」
「大十字! き、君は一体何者なんだ!? こんなにもあっけなく錬金や召還をやってのけるなんて!」
「それに、その拳銃! 何なのあの動き!? 弾道が曲がったでしょ!? あれ、大十字君が動かしたの!?」
次第に大きくなる騒ぎに自分のしたことに気が付いて、俺は思わず頭を抱えた。
「九郎……?」
「マズったな……みんなの前で力を見せるべきじゃなかった…」
「……そ、そうか……普段は力を隠しておったのだな……すまぬ…妾の責任だ…」
「別にお前の所為じゃねぇよ。それにいつかはバレる事だしな」
「……う、うむ……だが…」
そう言って目を伏せるアルの髪をそっと撫でつける。
「あ……」
「気にするなって。それよりも、何でアーミティッジの爺さんの所から出てきたんだ?」
「……汝が待たせすぎなのだ…」
「退屈しちまったか……爺さんが話し相手になってくれていれば、我慢できるかと思ったんだけどな……」
「……汝でなくては……ダメなのだ……」
「え?」
「汝でなくては……妾の寂しさを紛らわせてはくれぬのだ……」
「アル……」
そっと頬に手を添えると、アルは少し赤くなった顔で弱々しく微笑む。
「汝の所為だぞ……九郎……妾をこんなにも弱くしたのは……汝だ……」
「俺をこんなにも強くしてくれるのはお前だけどな、アル…」
「…うつけ…こんな公衆の面前で言うことではあるまいに……」
「へ? ………あ」
アルの言葉にようやく俺は周囲の状況を思い出した。
だが、気が付いたとは言え、すでに遅く……
「大十字君、その娘とのご関係は?」
「ねぇ、君可愛いね。名前、なんて言うの?」
「この娘が噂の幼妻? うわぁ、大十字君ってば、やるぅ!」
あっという間に好奇の視線と質問の嵐。
「あ〜〜〜っと……ま、まあ、とりあえず簡単に説明すると……」
「ねぇ、君と大十字との関係は?」
質問に答えようとした瞬間、学友の一人が割り込むようにして直接アルに質問してきた。
この後返される言葉が容易に想像できて、慌てて止めようとしたが……
「お、おい、アル、ちょっと待……」
「妾は九郎の所有物だ」
その瞬間、時が凍った。
「しょ、しょ、所有物……?」
「それって……まさか……ご主人様とかそう言う……」
「あ、アル、ちょっと待てっ!!」
「いかにも。九郎は我が主だ」
「だ、だからそう言う誤解を招くような言い方は………ッ!?」
突き刺さるような周囲の視線。
じわじわと俺の周囲から遠ざかっていこうとする学友達に、俺は必死の思いで叫んだ。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ややこしい誤解してんじゃねぇぇぇぇっ!! アルは、俺の恋人だっ!!」
「こ、恋人?」
俺の言葉に、再び周囲がざわめく。
「ああ、俺の生涯ただ一人の恋人だ。アル、ややこしい誤解される事言ってないで自己紹介しとけ」
「まんざら嘘でもあるまいに」
「いいから自己紹介っ!!」
「わかったわかった、そう急くな」
そう言うとアルは苦笑を浮かべながら学友達に向き直った。
「九郎の友人だな? 妾はアル・アジフ。九郎とは永久の愛を誓い合った仲だ」
アルの言葉に一気に騒ぎが大きくなる。
「それって、一生一緒にって事!?」
「うむ、その通りだ」
「二人の関係はどの程度まで進展してるんだ?」
「妾の身も心も九郎ただ1人だけの物だ」
「そ、それって……」
一斉に向けられる視線に思わずたじろいだが、気を取り直して頷きを返す。
「ああ、子供ができないのが不思議な位……なぁ、アル」
「あ、ああ……そうだな……」
一瞬陰ったアルの表情。
いち早くそれに気付いた数人の女子達が、気遣わしげにアルに小声で囁いた。
「ひょっとして……アルちゃんって子供できない……の?」
「……分からぬ。だが……できるとすれば、奇跡が起きたとき……だろうな……」
「そう…なんだ……ごめんね、嫌なこと聞いちゃって……」
「……構わぬ。それに…九郎も妾も……希望を捨ててはおらぬからな」
「え……?」
「九郎との約束なのだ。何があっても、子供を授かるまで頑張ろう……とな」
少し恥ずかしげに顔を赤らめて呟くアルに、歓声が一段と高まる。
「アルちゃん、大十字君、ファイト! こんなに愛し合ってる二人だもん、きっとすっごく可愛い子が産まれるよ!!」
「俺達も応援するよ、大十字!」
「頑張れよ、二人とも!」
みんなからの応援の言葉が嬉しくて…微かに涙ぐむアルの肩を抱き寄せると俺は力強く頷いて答えた。
「ああ、ありがとな、みんな! 俺達、頑張るよ」
俺の答えに歓声が最高潮に高まったその時…
「いい加減にせんか、貴様ら!!」
突然の怒鳴り声に白けた目を向ける学友達。
そこにいたのは、怒りで顔を真っ赤にした教授だった。
「この天才である私の講義を受けさせてやっているというのに、なんだその態度は!!」
「なんだ、この絞りかすは?」
アルの言葉に教室の中が一瞬静まり返り、そして次の瞬間…
爆笑の渦に包まれた。
「絞りかす〜〜っ? 最高〜〜〜!!」
「確かにぴったりよね〜〜あはははっ!!」
しばらく呆然としていた教授だったが、やがて自分が何を言われたのか気付いて顔を赤黒く染める。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!! こ、この天才の私に向かって、絞りかすだと!? こ、この無礼者がぁぁぁぁッ!!」
「ふん、なにが天才だ。汝のような才能の欠片も存在しない上に性格破綻しておるような輩が天才を名乗るなど片腹痛いわ!」
「な、なにぃぃぃぃぃっ!!」
「そこに書いてある術式、なんともお粗末な物よな。大方、僅かな知識を総動員して組み上げた苦心の作なのであろうが、そんな物骨組みのない家に等しい。風が吹けば崩れ落ちるなんとも柔な代物よ」
「お、おのれぇぇっ! そこまで、そこまでこの私を……この天才たる私を愚弄するかぁぁぁっ!!」
怒りを爆発させた教授は、その時思いも寄らない行動に出た。
教卓の上に置いてあった一冊の魔導書を手に取ると、突然術式を組み始める。
銘もはっきりしないような古ぼけた物ではあるが、僅かながら魔力の流れを感じる代物だ。
威力はさほどでもないが、これなら確かに術を組むことくらいはできるだろう。
「この天才の力を見て恐れ戦くがいいっ!!」
アルに向かって放たれる炎の塊。
周囲の学友達が慌ててその場から逃げ出すのと同時に炎が爆発した。
「くははははははははははっ!! どうだ! この私を馬鹿にするなどといった愚行を冒した者は、みんな灰になるがいい!!」
「だ、大十字君! アルちゃんが!!」
慌てて駆け寄ろうとする学友達。
だが……
「アル、いつまで遊んでるつもりだ?」
俺がそう言った瞬間、周囲に燃え広がっていた炎は一瞬にして消え去り、辺りには焦げ後1つ無くなっていた。
「な、なんだと!?」
「もう少し遊んでやっても良かったが……九郎にそう言われては仕方あるまい」
退屈げな顔で片手に炎の塊を揺らめかせながら九郎の側に歩み寄るアル。
「き、貴様!?」
「アルちゃん!? 大丈夫なの!?」
「この程度では全く心配要らぬぞ」
「す、凄いのね……アルちゃん……」
「九郎には及ばぬがな。ああ、そうそう。おい、絞りかす」
「く、くぅっ!」
「それ、返すぞ」
「なっ……? う、うぎゃああああああああああああああああっ!!」
投げつけられた炎の弾を何気なく受け取ろうとした瞬間、教授の全身は炎に包まれた。
「あ、アルちゃん……? あれって……死んじゃうんじゃ……」
「問題ない。術者の魔力が途切れれば自然と消える。見よ、すでに消えかけておるわ」
アルの指し示した通り、教授を包み込んでいた炎はすでにくすぶる程度まで小さくなっていて、教授自身も若干火傷してはいるようだが、大きな怪我はしていないようだ。アルの奴、かなり手加減したな。
「は、はひぃっ、はひっ………」
「ふん、絞りかすが燃えかすになりおったわ」
「ぐ、ぐぞぉっ、ご、ごのう゛らみ……ぜ、ぜっだい、は、はだぢでやぶぅぅぅぅっ!?」
煤で顔を黒く染めた教授がアルの足を掴もうとするが、その瞬間俺は教授の顔面を蹴り飛ばした。
「あ、九郎……」
「アルに触るんじゃねぇよ」
「だ、大十字ぃぃぃぃぃっ!! 貴様ぁぁぁっ、停学……いや、退学、退学だぁぁっ!!」
「九郎、此奴の喉笛、掻き切ってやろうか。いい加減、煩わしくなってきたぞ」
「その辺にしてやって下され、アル・アジフ殿」
その声に思わず振り返った俺達の視線の先には……
「アーミティッジの爺さん!? 珍しいな、教室棟の方に来るのは」
「なにやら胸騒ぎがしたのでな。それにしても派手にやったのぉ」
「やったのはそいつ。アルは跳ね返しただけだからな」
「ふむ……」
「アーミティッジ先生! 此奴等は教師である私に暴力を! 即刻退学にすべきです!!」
「………アル・アジフ殿。この者の処分、いかがしますかな?」
「なっ!?」
アーミティッジの爺さんの言葉に絶句する教授。
「何を言っておられるのです、アーミティッジ先生!」
「こんな輩に教師など、ましてや魔術の教師などまともに務まるまい。即刻うち捨てるが良かろう」
「しかし、そうなりますと魔術を教えることのできる教授が足りなくなりますな」
「九郎にやらせれば良かろう。こんな絞りかすに教わるより、九郎から教えを受けた方が数万倍……いや、ゼロになにを掛けてもゼロだな」
「それ程に無能ですかな?」
「無能だ。此奴に教わっていても、魔術理論など覚えられるはずもない。何なら妾が教えてやろうか?」
「それは妙案。アル・アジフ殿に教えて頂けるのであれば、問題はありますまい。では、早速……」
そう言って教室を出て行こうとするアーミティッジの爺さんを教授が慌てて引き留める。
「アーミティッジ先生! いったいどういう事です!! 何故このような小娘の言う事など!!」
「レイリー教授。彼女の名前をお聞きになりましたかな?」
「聞きましたが……それが何か?」
「……彼女の名を聞いてなお気付かぬとは……」
「だから無能だと言うのだ。九郎はすぐに気付いたぞ」
「ふむ……」
「アーミティッジ、いっそのこと九郎と勝負させたらどうだ? さすればこのうつけも自分の身の程を知るであろう?」
「それは妙案。レイリー教授、大十字と魔術で勝負して頂こうか。お主が勝てば大十字は退学、お主はそのまま教授として残るが良い。だが、負ける事があったならば、お主には辞して貰おう」
「正気ですか!? こんな一学生がこの私に敵うとでも!?」
「……勝負は明後日の放課後。場所は当校の校庭。使用する魔導書は各々準備致せ。では失礼」
「なっ、あ、アーミティッジ先生、待って下さい!!」
教室を出て行くアーミティッジの爺さんの後を教授が慌てて追っていく。
そのまま取り残された俺にアルはそっと抱きついて微笑んだ。
「あんな燃えかす如きに後れを取るでないぞ、九郎」
「…………やれやれ…初めからこれが目的か、アル?」
「明後日、汝の勇姿を楽しみにしておるぞ」
「ったく…分かったよ。んじゃあ、今日はその前祝いって事で……」
「……うつけ…」
肩を抱き寄せながら耳元でそっと囁くと、アルは顔を赤く染めて俯いた……
第1話 TOP 第3話