斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大混乱』
by Sin
第1話
「ん………んぁ………ふああぁぁぁぁ……」
大あくびと共に目を覚ます。
夏の最中だから暑くて叶わないけど冷房なんて洒落た物がこの事務所にあるはずもなく、窓から吹き込む風だけを頼りに生活している俺達。
普段なら俺から離れようとしないアルも、この暑さだけはさすがに参ったのかダンセイニを冷蔵庫で冷やして、ウォーターベッドのようにして涼んでいる。
俺も勧められたけど、やっぱりこのショゴスベッドは苦手だ。
それにしても暑い……
またどこか涼めるところにアルと一緒に行こうか……
そんなことを考えていた矢先だった。
けたたましく鳴り響く電話の音。
依頼電話かと思って受話器を取った俺だったが……
「はい、安心と信頼の大十字九郎探偵事務所です。何か調査のご依頼でしょうか? ペット探しから紛失物の探索までなんでも承っております」
『お前の単位』
「へ? ……あ、その声、アーミティッジの爺さんか?」
『最近めっきりと大学に顔を出さんようになったのう、大十字』
「あ……あぁ、まあ色々あってさ……」
『折角復学したのならば、もっとしっかり来んか』
「………今は……無理だ。今の俺には、他に大事な物があるから……」
『大事な物じゃと? それは例の、幼妻のことか?』
唐突な…あまりに唐突なその言葉に、思わず吹き出す。
「なっ、何言ってンだよ!!」
『大学内でもっぱらの噂じゃぞ? 大十字が幼妻を貰って、毎日自堕落な暮らしをしとる……とな』
「じ、自堕落って……んな人聞きの悪い……」
『ともかく……だ。このまま行けば後数回単位を落とすと、留年決定じゃぞ?』
「うぇ、マジ?」
『こんな事で冗談を言っても仕方あるまい。とにかく…明日からの講義、単位を落とさんようにな』
「………だけど…」
『大十字。今のお前にとって一番大事な物が何か、それは儂には解らんが…それを理由に他のことから逃げるでないぞ』
「逃げるって……」
『ではな』
「あ、おい、待てよ爺さんっ! ……くそっ、言いたいことだけ言って切りやがった」
仕方なく受話器を置いた俺がベッドの側に戻ると、いつの間に起きたのか、アルが身を起こしてこちらを見つめていた。
「ああ、起きたのか?」
「今し方な。それにしても、なんの電話だったのだ?」
「ん? ああ、アーミティッジの爺さんからだったんだけどさ…これ以上単位落としたら留年だから、いい加減に大学出て来いって」
「……そうか……それで汝は……行くのか?」
「行かんわけにもいかないんだろうな…」
「そう……か……ならば妾は…」
呟いて目を伏せるアル。
またあの時のように落ち込みそうになったその時、俺はゆっくりと言葉を紡いだ。
「つーわけで、明日からはお前も早起きしろよ?」
「え……っ?」
戸惑うアルの体を強く抱き寄せて笑う。
「お前と離れてなんて居られるか。連れて行くに決まってるだろ?」
「――九郎っ!」
満面の笑みで抱きついてくるアルの身体をしっかりと抱きしめる。
唇をかわしながら俺達はベッドに倒れ込んで………
「てけり・り……」
居心地の悪そうなダンセイニが奥の部屋へと逃げていった。
翌日。
「ここに来るのも久方ぶりだな……」
「アルはずっとあの魔導図書館にいたのか?」
「うむ。ここが設立されてからはずっと……な」
「そうか…」
アルを連れ、ミスカトニック大学の敷地内を歩く俺に、なんとなく周囲の視線が突き刺さる。
まあ、理由は判らなくもないが。
「九郎……?」
「ん、どした?」
「なにやら妾達、注目を集めている気がするのだが……」
「気のせいじゃないだろ〜な。多分、お前が居るからだろ」
「妾の所為なのか?」
「というか……」
言葉を濁す俺に、アルは首を傾げる。
その時だ。
「大十字くん、おはよう!」
「ああ、柘植か。おはよう」
「あれぇ? そっちの子、妹さん?」
「な――っ!?」
思わぬ言葉にアルが気色ばむ。
「うんにゃ、俺の彼女」
「え………っ?」
一瞬の沈黙。そして……
「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!? 彼女……って、こんな小さい子がッ!?」
「小さいって言うなっ!!」
アルの突っ込みに思わず苦笑する俺。
「九郎! 汝も笑ってないで、なんとか言えっ!! それに、いったいなんなのだ、この娘は?」
「あはは、まあとりあえず紹介しておくか。彼女は大学の仲間で、柘植真利奈。んで、こっちが俺の恋人のアル・アジフ」
「アル……ちゃんでいいのかな? よろしくね」
「う、うむ、よろしく頼む」
「ふぅん、アルちゃんって随分古風な話し方するのね。今時珍しいんじゃない?」
「ん、まあね」
「それにしても……噂、やっぱりホントだったんだ……」
目を丸くしてアルを見つめる柘植に、思わず苦笑する。
「アーミティッジの爺さんから聞いたよ。俺が幼妻を貰ったって噂が流れてるんだって?」
「――っ!?」
俺の言葉にアルは目を瞬かせた後、猛烈な勢いで真っ赤になった。
「お、幼妻だとっ!? せ、精神的にも実際にも、九郎の方がよっぽどガキではないかっ!!」
「まあ、端から見てればそうだって事で。年寄りババァに見られるよりはマシだろ?」
「く……う〜〜〜〜〜っ!!」
なんとなく納得出来ない様子で悔しそうなアル。
そんなアルの姿に柘植が吹き出した。
「わ、笑うなっ!!」
「あははっ、ごめんごめん。でも、最近凄いよ。大十字くんが、その幼妻と毎日……その……あの……」
「ああ、いいって言わなくて。大体分かってる…女の子に言わせるような内容じゃないんだろ?」
「えっと……う、うん……」
柘植の表情で察したのだろう。
アルの顔も真っ赤に染まっていく。
「く、下らん吹聴をする輩がいるものだ……」
「まあ、事実無根ではないだけに、いまいち否定しづらいところではあるけど……な」
「な――っ!? く、九郎っ!!」
慌てて俺の口を塞ぐアル。だけど、もう遅い。
「事実無根じゃない……って?」
幾度となく俺とアルを見比べていた柘植だったが、やがてジリジリと後退りだした。
この後どうなるかは分かっていたけど、面白そうだからとりあえず見ておく。
「だ、だ、だ、大十字くんっ!? ま、まさかこんな小さい子と……その………っ!?」
「はっきり言っておくと……俺とアルは身も心も結ばれた関係って奴さ」
「「―――――――――――――っ!?」」
俺の言葉に柘植が、そしてアルも耳まで真っ赤になってしまう。
「く、九郎っ!!」
「まあ、そういうわけだから……柘植、悪いな」
「え………っ?」
突然の事に、アルは全く訳が解らず目を丸くしている。
そして、柘植は……
「………気付いて……たんだ」
「なんとなくね」
「いじわるだなぁ……気付いてたなら気付いてるって言ってよ……」
「悪ィ、俺とアルの関係って、言葉で言われたって信じられないだろ? 決定的な証拠がないときに言っても、傷つけるだけだと思ってさ」
「……告白前に振られるのって、結構痛いんだけどな……」
柘植の呟きに、アルの表情が変わった。
「な………汝……真逆?」
「じゃあ、この際だからはっきり言っちゃうね。私、柘植真利奈は、大十字くんのことが好きです」
「ああ……」
「く、九郎には妾がっ」
「アル、今はちょっと黙ってな」
「う……むぅ………」
納得できないながらも、アルは口を噤む。
「ありがとな、柘植。正直嬉しいよ」
「……うん…」
「だけど、俺にはもう一番大切な奴がいるんだ。意地っ張りで強がりで、そのくせ泣き虫で……ホントは誰よりも寂しがり屋な奴が……」
「……妾はそんなに寂しがり屋ではないわ……」
俺の言葉に呟くアル。
その様子に苦笑しながら、柘植ははっきりと頷いた。
「分かってる。さっきから見てて思ったもん。絶対に勝てないなぁ……って」
「汝…」
「あ〜あ、振られちゃった……大丈夫かな……って思ったんだけどなぁ……」
「柘植……」
思わず呼びかけようとする俺に背を向けて呟く柘植。
「大事にしてあげなよ……」
「……ああ」
「さてと……振られちゃったことだし……私はさっさと退散しようかなぁ……あ、そうだ!」
「な、なんだ?」
「………期待させてくれた……仕返し……」
「……へ?」
戸惑う俺にニヤリと笑いかけると、柘植は大きく息を吸い込んで………
「みんな―――っ! 大十字くんが、奥さん連れてきてるよ―――――――――――――っ!!」
「――っ!?」
「つ、柘植ッ!?」
柘植の声に、辺りから一斉に集まってくる学生達。
慌てて逃げようとした俺達だったが、時すでに遅く、周囲を完全に囲まれてしまう。
「な、汝ッ、なんのつも………」
「柘植ッ、こいつは洒落に……」
言おうとした文句を、俺達は最後まで言い切ることができなかった。
人垣の向こうに消えるその直前、風に吹かれて散った光の雫を見てしまったから……
「………柘植………ん? のぅわあぁぁぁぁっ!? ア、アルッ! とりあえずお前はアーミティッジの爺さんの所に避難していろ!!」
「汝はどうするのだ!?」
「講義が終わったらすぐに迎えに行くから!! とにかく今はここから脱出だっ!!」
「う、うむ、わかった!!」
一瞬、アルが軽やかに人垣を飛び越えそれにみんなが目を奪われた瞬間、俺もその隙をついて人垣を脱出。
全力で走り続けて教室へと向かう。
それにしても……
「さすがにこいつは洒落にならないぞ……柘植……」
この後に待っているであろう大騒動を思い、込み上げてくる頭痛に俺は頭を抱えるしかなかった……
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