DUEL SAVIOR DESTINY SS
『救世主の帰還』
by Sin


第1話
 トレイターがクレア達の許へと帰ってきてから既に一月。
 大河の言う『あと少し』がどの位なのか……。
 期待と不安に揺れる毎日は、相変わらず繰り返されていた。

「ふぅ……今日でもう30日も経ってしまったか……」
 窓枠に頬杖をついて溜息をつくクレア。
 その視線が部屋の隅に立てかけられている『救世主の剣』トレイターに向けられ、そっと伏せられる。
「一体…いつまで待たせるつもりなのだ……大河…」
 寂しげに揺れるクレアの瞳には微かに浮かぶ涙が。
 と、その時。
「あらぁん? クレシーダ様ったらたそがれちゃって〜」
 不意にかけられた声に振り返ったクレア。
 その視界にはさっきまでいなかったはずのダリアの姿が捉えられていた。
「ダリアか。なんだ?」
「救世主クラスの皆さんがお見えですわよん」
「あやつらが? ふむ…わかった。通せ」
「了解〜。みんな〜入ってらっしゃ〜い」

 ダリアの言葉に答えるように、救世主クラスの面々が部屋へと入ってくる。
「よく来たな、それにしてもこんなにも皆でぞろぞろと。一体どうしたというのだ?」
「あ、あの……その……」
 言いよどむ未亜の姿。
 その様子は大なり小なり皆同じような様子で、クレアもすぐに皆の気持ちを察した。
「未だ何の連絡も無いぞ…」
 クレアの言葉にあからさまに落胆の様子を見せる未亜達。
 リリィだけは、
「べ、別に私は大河の事なんて……」
 などと口走っていたが、ベリオに
「ふふっ、リリィったら…大河君の事だなんて誰も言ってませんよ」
 そう突っ込まれて顔を赤らめる。
「まったく、ダーリンったらホントに罪深い人ね……こんなにも可愛い女の子達が首を長くして待ってるっていうのに…」
 ルビナスの言葉に苦笑する面々。
 だが、内心はそれぞれ同じだったようで、皆、トレイターを見つめて溜息をついた。

「あ、そう言えばクレアちゃん。タイガくんはどうしたの?」
「言われてみれば、姿が見えぬでござるな」
 未亜の言葉にカエデも辺りを見回しながら頷く。
「タイガならほんの一刻前に眠った所だ。今朝はセルビウムが来ておったからの。奴と遊んで疲れたのであろう。今は隣室で良く眠っておるぞ」
「セルくんが?」
「一兵卒でしかない彼がそんなに王宮に出入りしてもいいの?」
 目を丸くした未亜とベリオの言葉に苦笑するクレア。
「傭兵とは言え、セルビウムは破滅との戦争において多大な功績を挙げておるのだ、その位は構わぬ」
 そう言って微笑むクレア。
「確かに、セルビウム君が頑張ってくれたから、あの時も大河君を助けられたんですものね……」
 ベリオの言葉に頷いたクレアだったが、
「セルビウムの活躍もあったが、あの時はそなた達が居たからこそだ。カエデ、ベリオ、ルビナス、リリィ…汝等が自らの命を賭けて私達を進ませてくれたからこそ、大河を救う事ができたのだ。改めて感謝するぞ」
「拙者は師匠を助けるために頑張っただけでござるよ。その…師匠と離れたくなかったでござるから…」
「私も同じ気持ちです」
「ダーリンの為に……そして、ロベリアの為にしたことだもの。感謝なんかされたら照れてしまうわ…ですのぉ」
「わ、私は、あんな馬鹿のことなんて……あぅ……」
 照れくさげに答えたカエデとベリオ。
 ルビナスは語尾に少しナナシが混じってしまって恥ずかしそうに口元を押さえる。
 リリィに到ってはまた強がって見せようとするもののあえなく失敗。
 皆の視線に顔を赤くして俯いてしまう。
「ふふっ、リリィは相変わらずだな」
「クレシーダ様〜っ……もぅ……」
 そんな彼女の姿に誰からとも無く笑いが起こった。
「それに、未亜。私はお前の強さに何度も助けられた。改めて礼を言わせて貰うぞ」
「え、あ、そんな、クレアちゃん……」
 クレアの言葉に戸惑いながらも頬を赤らめる未亜。
 
「ともあれ、セルビウムが来てくれるのは何かと助かっておる。私とて暇な身ではないのでな。常にタイガの事を構ってやる訳にもいかぬが、放っておくわけにもいかぬであろ? だが、あやつが遊び相手になってくれるお陰で、この多忙な時期でもなんとか仕事をこなせているのだ」
「まぁ……セルビウム君は女の子に弱い所を覗けば、結構信用できる人ですしね」
「結構頼りになる所もあるわね。未亜ちゃんの為なら何でもしてくれそうだし」
 クレアの言葉にベリオとルビナスが頷いた。
「でも、セルくんって、お兄ちゃんと同じで女の子になら誰にでも優しくしてそうなんだけど…」
「マスターの親友ですから……。でも、マスターが信頼する人は、私も信じます」
「師匠が信頼する方である以上、拙者もセルビウム殿を信じているでござるよ」
「まあ…女に弱いドスケベ男だって所もあいつと同じだけどね」
 リリィの言葉に全員が吹き出す。
「まさに、大河二世って感じよね」
「ふふっ、そうね」
「むぅ…二世では困るな。何せ本物の二世が隣室で眠って居るのだから」
 ルビナスとベリオの言葉にそう言って苦笑するクレア。
 そんな彼女の姿に未亜達は内心複雑なものを感じていた。
 なにしろ、クレアの息子であるタイガの父親は彼女達の想い人でもあるのだから。
 正妻の座は皆で平等に競うと言われていても、やはり一歩も二歩も先を行かれている感は否めない。
 微かに感じる敗北感。
 だが、そんな気持ちも彼が戻ってきたのならばきっと吹き飛んでしまうのだろう。
 誰しもが、彼に一番に愛されたいと思っているのだから。

 結局、その日も大河が帰ってくる様子は無く、皆、不安な気持ちを抱えて学園の寮へと戻っていった……。


 そして…あれから更に時が過ぎた。
 だが、未だ何の音沙汰も無い。
 それぞれの胸の内で、少しずつ不安と寂しさが広がっていく。

 いつもしっかり者のベリオが何かと失敗を重ねるようになり、
 カエデは皆で撮った幻影石を見ては溜息を繰り返す。
 ルビナスは花畑で薬草摘みをしているが、薬草と毒草を間違えてしまい、
 リコは召還陣の修復とイムニティと一緒に進めているが、彼女に呆れられるほどにミスが多い。
 リリィはやたらと機嫌が悪くなって、街で騒ぎを起こす者がいるとすぐさま攻撃呪文をブチ撒け、
 未亜も時々トレイターを見つめては涙を零している。
 クレアは、仕事に追われながらも時折胸にぽっかりと穴が開いてしまったかのような気持ちで、だんだんと笑顔が消えていた。
 それでも皆、タイガがいるお陰でなんとか耐えられては居るのだが……。

 そんなある日の事。
 救世主クラスの面々を呼び集めたクレアは、気分転換に皆で街に繰り出そうと言い出した。
 落ち込む気持ちに耐え切れなくなりそうだった未亜達にとって、それは正に渡りに船。
 誰も反対することなく、すぐさま全員が賛成した。

「うわぁぁっ、すっご〜い! ははうえ〜、はやくはやく〜っ!」
「ふふっ、そんなに慌てずとも街は逃げないぞ、タイガ」
 はしゃぎまわるタイガの姿に苦笑しながら後を行くクレア。
 救世主クラスの面々も、女王と王子の警護を兼ねているとは言え、それぞれ王都の賑わいを楽しんでいた。

「それにしても、タイガくんってホントにお兄ちゃんの小さい頃にそっくり……いや〜ん、もう、可愛すぎる〜っ」
「あの大河が、昔はあんな無邪気な子供だった訳?」
「とても信じられませんね」
 未亜の言葉に驚いた様子で振り返るリリィとベリオ。
「ま、まぁ、今のお兄ちゃんからはとてもあの姿は考えられないけど……」
 引きつった笑いを浮かべる未亜の様子に頷く面々。
 しかし、その中でただ一人だけは反応が違っていた。
「師匠は王子となんら変わらぬでござるよ」
「カエデさん?」
「優しく、心根は真っ直ぐで、誰からも愛される御仁でござるゆえ」
「えぇ〜っ、大河の何処に真っ直ぐな心なんてのがあるのよ!? あの、色ボケ魔人に……」
 あまりに信じられない言葉に素っ頓狂な声を上げてしまうリリィ。
 そんな彼女に苦笑しながら、カエデは頷いて口を開いた。

「英雄は色を好むもの。師匠が女人に心惹かれるのは致し方の無い事。気にしたところで仕方のないことでござるよ」
「皆だって納得できないでしょ?」
 カエデの言葉に、納得できない様子のリリィだったが……。
「今更…じゃないかしら。ダーリンだし…ね」
「仕方ないです。マスターですから」
「大河君のする事だし……しょうがないですよ」
 帰ってきた反応はカエデだけではなくルビナスやリコ。そしてベリオまで完全に大河を認めるものだった。
 信じられない思いで皆の顔を見回すリリィ。
「って、それで良い訳!?」
「師匠がそう言う方である事は拙者もかねてより知っていた事。それでもそんな師匠をお慕いしてしまったのは拙者でござるよ。リリィ殿もそうではござらぬのか?」
「あ……うぅ……えっと、それは……」
 カエデに言われてリリィは口籠もる。
 あれだけ色々と言ってはいたものの、やはり彼女もまた大河の事が好きでたまらないのだから。
 その気持ちを否定する事は、どうしたってできるものではない。

「私はダーリンの事が好き…ありのままのあの人が。それは誤魔化しようも無い私の真実だから」
 恥ずかしそうに頬を染めて呟くルビナス。
「マスターは、私にとって全て……身も心も…あの人の物になりたいの……」
 俯き、瞳を潤ませながらも彼を想い、自らの肩を抱きしめるリコ。
「リリィも未亜さんも、今の大河君の事が好きなんでしょう? だったらありのままを受け入れなくては」
 そう言って微笑むベリオ。
「ベリオまで……」
「彼は好色家で節操が無くて我侭で…でも、とても優しくて強くて私達の辛さも悩みも全部包み込んでしまうような、とても暖かくて大きな人……そんな彼の全てを受け容れられないなら、彼を愛してるだなんて言えませんよ?」
「――――っ」
 ベリオの言葉に言葉を無くすリリィ。
 そして未亜も……。

「私が好きになったから……私のことが好きなら私だけを見てって言うのは……やっぱり、我侭なのかな……」
 そう言って目を伏せる未亜だったが……。
「最も愛しく思う人を自分だけの物にしたいと思うのは、決して特別な感情ではありません、マスター」
「イムニティ!? いつの間に何処から……」
「私はいつでもマスターのお側に」
「そうなんだ……って、私はもう白の主じゃないんだけどな……お兄ちゃんが私の力も、リコちゃんの力も、そして貴方の力もみんな持って行っちゃったから……むしろ、マスターって言うならお兄ちゃんの方じゃ……」
 未亜がそう言うと、イムニティはサッと顔色を変えてまくし立てた。
「冗談ではありませんっ! あんな好色な男など、誰が我が主と認めるものですか!! 私が主と認めたのは、当真未亜、貴方だけです」
 イムニティの言葉に思わず乾いた笑いを漏らす未亜。
 そして何かを口にしようとしたその時だった。

「あれっ、クレシーダ様と王子は?」
 リリィの言葉に全員が慌てて辺りを見回す。
 だが、いつの間に逸れたのか、辺りの人ごみにまぎれてしまって、2人の姿はまったく見当たらない。
「しまったでござる。話に夢中になりすぎて、クレア殿を見失ってしまうとは……未熟…っ」
「急いで探しましょう! 未亜さんとイムニティは向こうを」
「判りました! イムニティ、お願い手伝って!」
「はい、マスター!」
「マスターじゃないんだけどなぁ……」
 苦笑しながら未亜はイムニティと一緒に街の北側を目指す。
「リリィはリコとあっちに」
「判ったわ! リコ、行くわよ!」
「はい。急ぎましょう」
 そう言って、2人は人ごみを掻き分けながら街の西側へ。
「カエデは上から探して」
「承知したでござる!」
 その声が聞こえた時には、既にその場にカエデの姿は無かった。
 思わず辺りを見回したベリオに苦笑しながらルビナスは上の方を指差す。その先には壁を蹴りながら屋根の上の方へと上っていくカエデの姿が。
「もうあんな所に……流石ですね…」
「ベリオ、私達も急ぎましょう。学園の方に戻っているとは思えないから、残るは南の方ね」
「ええ、急いでお二人を探しましょう、ルビナスさん」
 そして2人は街の南側を目指して走り出した。





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