DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』 
by Sin


(3)

 ようやくの事でリリィが泣き止んだのは、あれから30分も過ぎようとした頃だった。
 泣くだけ泣いてすっきりしたのか、みんなに思いっきり注目されて恥ずかしそうにはしているものの、その瞳には不安のひとかけらも残ってはいない。

「全く、何処まで心に溜め込んでおったのだ、お前は……」
 呆れたような、しかし苦笑交じりに言ったクレアの言葉に真っ赤に染まるリリィの頬。
「私だって嬉しくて泣きたいくらいだったのに、リリィの泣きっぷりがあまりに凄くって泣くのを忘れてしまったわ」
「リリィ殿に先を越されてしまったでござるよ」
 ルビナスとカエデにまでそう言われて、所在無げに視線を彷徨わせるリリィ。
 その仕草に誰もが笑いを誘われ、いつしか部屋の中は笑いで包まれていた。

 と、その時。
 乳母のダリアに連れられてタイガが部屋へと駆け込んできた。

「ははうえ〜おはなしおわった?」
「おお、タイガか。おはよう。もう起きておったのか?」
「うん!」
 そう言って元気にベッドの上に飛び乗ろうとするタイガを慌てて止める未亜とベリオ。
「「タ、タイガくん! 今はそのベッドに乗っちゃ駄目よ!」」
 そんな二人の様子を不思議そうに見つめていたクレアと大河だったが……

「―――――っ!? わ、忘れておった……」

 今の状況に気付いて顔を真っ赤にしたクレアは慌ててタイガを抱き上げる。
「ははうえ?」
「な、なんでもないぞ。なんでも、なっ、大河!」
「あ、ああ。なんでもないって。さ、さあタイガ、今日は俺と遊ぶか!」
「ちちうえと!? うんっ!! あそぶっ!!」
「よーし、じゃあ学園にでも行くとするか! クレア、後の事頼んだぞ!」
「しょ、承知した! タ、タイガ、初めて父上と遊ぶのだ。しっかり楽しんでくるのだぞ!!」
「うんっ!! ちちうえ、はやくはやく〜♪」
 満面の笑顔で大河の手を引いて部屋を出て行くタイガ。
 そんな二人を見送り、笑顔で手を振っていたクレア達だったが、その姿が見えなくなると同時に一斉に大きな溜息をついてその場に座り込んでしまった。

「か、間一髪でござったな……」
 そう言いながらカエデはベッドにうっすらと残された情事の跡を見て少し頬を赤らめる。
「どうしたの、みんな?」
 すっかり気が抜けた様子のクレア達の姿に不思議そうなダリア。
 首を傾げて皆の様子を見回していたが、やがて合点がいったのかポンと手を叩くと……

「クレシーダ様ぁん」
「ん、なんだ?」
「お風呂、すぐに用意した方が良いかしらぁん?」

 その言葉に込められた意味に、クレアの顔が耳まで真っ赤に染まる。
「じゃ、すぐに用意しますねぇん。みんなも一緒に入ってらっしゃいね、着替えくらい用意してあげるから」
 ダリアにそう言われて不思議そうな未亜達だったが……
「大河くんとの事、お風呂の中でゆっくり話していらっしゃいな」
 珍しく真顔で微笑んだダリアの言葉に苦笑しながら頷いた。


 それからしばらくして、王宮の浴場へと移動したクレア達。
 当然、皆の視線が集中するのは、つい先ほどまで大河との情事を重ねていたクレアの身体。
「う〜ん、この身体の何処にお兄ちゃんを惹きつけるものがあるのかなぁ……」
「こ、こら、未亜! どっ、何処を触って……ひゃんっ!」
「確かにすっごく綺麗な身体だけど……色の白さなら私だって負けてないし……」
 そう言いながらクレアの肌に手を這わす未亜。
 身を捩じらせてその指先から逃れようとした瞬間……
「や、やめぬか……ひゃぁん! カ、カエデ!?」
 唐突に背後から抱きつかれ、胸をフニフニと揉まれて驚きの声を上げた。 
「むぅ…胸の大きさなら、ベリオ殿や拙者も負けておらぬでござるよ。いや、むしろ…とーたるばらんすなら拙者の方が……」
 呟きながら自分の胸と触り心地等を熱心に比べるカエデ。
「手触りは……確かに良いでござるな……肌理が細かい…と言うものでござろうか……」
「ん……っ、くぅ……こ、こらぁ……胸を……揉むな……っ」
 頬を赤らめて身悶えるクレア。
 その姿に思わず誰かの喉がごくり…となった。

 そうしてじゃれあいながらお互いの身体を洗い合っていたクレア達だったが、やがて……

「……クレアちゃん、1つ聞いてもいい?」
「ん、なんだ?」
「前に言ってたよね、このアヴァターでは、一夫一婦制に拘りは無い……って」
「うむ。確かにその通りだ。本人達の気持ちの問題もあるから一夫一婦になっている家庭が多いが、特に法や規律で取り締まっているという事は無い。当人達が納得しているのならば、一夫多妻であろうが、多夫一妻であろうが、全く問題は無いぞ」
 湯船に使って身体を伸ばしながらそう答えるクレアにしばらく考え込んでいた未亜だったが……
「じゃあ…クレアちゃんは……?」
「えっ?」
「一夫多妻……平気?」
「み、未亜!?」
「それって、まさか!?」
 未亜の言葉にベリオとリリィが声を上げる。
「みんなは…どう?」
「どう……と言われても……」
「お兄ちゃんは、クレアちゃんを選んだ……もう子供だって居るんだし、絶対にクレアちゃんと結婚する事になるよ」
「う……」
「それは……そうですね……クレシーダ様はこの国の女王。その世継ぎの父親ともなれば、結婚しない…なんて選択肢が許されるはずも有りませんし……」
 そう言って目を伏せるベリオ。
 誰もが言葉を失い、クレアもまたなんと声をかけて良いものか解らず、辺りは沈黙に包まれた。

 そしてどれ位の時が過ぎただろうか。
 じっと水面を見つめていた未亜が、ゆっくりと口を開いた。
「私はお兄ちゃんのを事が好き……ううん、愛してる」
「未亜……」
「他の誰にも渡したくない……未亜だけのお兄ちゃんで居て欲しいって……ずっと思ってた……けど……」
「けど?」
「お兄ちゃんがクレアちゃんを誰よりも……未亜よりも愛してしまったのは……しょうがないって……思えてしまったの……クレアちゃんなら……って……」
 震える声。
 幼い時から積もり積もった想い。
 兄である大河をずっと想い続けてきた未亜にとって、大河が他の女性を愛している事を認めるのは容易な事ではない。
「未亜さん……」
 その気持ちを思って、リコが心配げにそっと背中に身を寄せる。

「でも……それでも……一番はクレアちゃんに譲れても……やっぱりお兄ちゃんに愛されたいの! 一番のお嫁さんじゃなくてもいい! 一番じゃなくていいから……私も……私もお兄ちゃんのお嫁さんになりたいの!!」
 心からの全てを込めた叫び。
 誰もがその姿を呆然と見つめ……そして……
「……私も…私も大河に……愛して欲しい……恋人や…愛人じゃなく……あいつの……妻として……」
「正直言って、一夫多妻には……少し抵抗があります……でも……私も大河くんに愛されたい……大河くんの伴侶として……未亜さんやリリィと同じ気持ちです……」
「拙者は一夫多妻には抵抗無いでござるよ。拙者の世界では主が幾人もの側室をもっていたのが当たり前でござったし、それに……師匠に娶って頂けるのでござったら、拙者、側室であっても何等問題ないでござる」
「書の精霊として生まれた私ですけど……マスターと…結婚……したいです……」
「こんなホムンクルスの身体じゃ、ダーリンの子供を産む事もできないけど……でも……私もダーリンのお嫁さんになりたい……ですのぉ……」
 未亜の言葉に触発されたように、リリィが、そしてベリオ達が一斉に自分の気持ちを打ち明ける。
「お、お前達……」
「クレアちゃん……駄目かな…私が……私達が、お兄ちゃんを好きでいちゃ……お兄ちゃんの……お嫁さんになりたいって思っちゃ……駄目……?」
 見つめてくる瞳。
 気圧されるように思わず一歩後ずさるクレアだったが、真剣な未亜達の表情に一度大きく深呼吸するといきなり頭まで湯の中に潜った。

 突然の事に目が点になる未亜達。
 次の瞬間……

「「きゃあっ!?」」
 突然足を引っ張られて湯の中に沈む未亜とリリィ。
 その拍子に水を飲んだのかむせ返る二人の前にクレアは立ち上がると、その裸身を隠そうともせずに呆れたような声で言い放った。

「お前達……私が一夫多妻を認めぬのであれば、初めから正妻の座を争う勝負などする訳がないであろう?」
「じゃ、じゃあ!」
「下らぬ女が大河の妻になりたいなどと言っておるのならば、私は全力をもってそれを阻止する。そんな女が愛する大河に寄り添う姿など見たくもないからな。だが……」

 そう言ってじっと皆を見つめるクレア。
 誰の瞳も真剣で、揺るがない。
 ただ1つ、大河への想いに満ちたその輝きを見て満足そうに口元に笑みを浮かべると――。

「お前達ならば良い。むしろ私は自分の愛した男が、お前達のような最高の女達に愛されている事を誇りに思う」
 クレアの言葉に心から安心して笑顔を浮かべる未亜達。
 リリィやベリオはうっすらと涙を浮かべている。

「なんだ、泣いておるのか? リリィは本当に涙もろいのだな。ミュリエルとは正反対だ」
「な、泣いてなんか……いないわよっ!!」
「強がってます」
「強がってるでござるな」
「ですの〜」
「リコ! カエデっ! もう……ルビナスさんも、ナナシの口癖真似までしてからかって……そんなに私をからかって楽しいの…?」
「最高に」
 グッジョブと言わんばかりに親指を突き上げる未亜に脱力して湯の中に沈むリリィ。
 浴室の中には、それからしばらくの間、楽しげな笑い声が響いていた……





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