DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』 
by Sin


(2)

 リリィの魔力暴発からしばらくの時が流れ……

「あ―――酷い目に遭った……」
 散らばっていた衣服をクレアが身に付け未亜と二人がかりで大河にも着せ終わるとほぼ同時に煤だらけになった顔で意識を取り戻した大河は、そう呟くとジト目でリリィを見つめた。
「な、何よ……自業自得じゃない……」
 気まずそうな顔のリリィだったが、少し恥ずかしそうに頬を赤らめてそう呟く。
「確かに自業自得よね。ようやく帰ってきたかと思ったら、翌日にはクレアちゃんと朝までこんな事してたんだから」
「未亜殿の言う通り、酷いでござるよ、師匠〜っ」
「……マスターの…馬鹿……」
「これはやっぱり、お仕置き…よね?」
 リリィに同意するように未亜、カエデ、リコ、そしてルビナスが呟き、ベリオは先程のムッツリ疑惑からまだ立ち直れずに居た。

「い、いや、と言うか…あのさ…俺、確かにみんなの事が大切だし誰一人だって失いたくないって思ってるけど……破滅との戦いの前にも言っただろ? 俺は…クレアの事が……」
 少し照れた表情でクレアを見つめながらそう呟く大河。
 それはリリィや未亜達の想いを拒絶する言葉に他ならない。
「師匠にとって…一番大切な人は……クレシーダ様…という事でござるか……?」
 誰もが言葉を失っていた中、少し潤んだ瞳でカエデが決定的な事を聞いてしまう。
「ああ…みんなの事だって大切だけど……俺は……」
「……1つだけ答えなさい、大河」
 大河の言葉を遮るように紡がれるリリィの言葉。
 だが、なかなかその先の言葉を続ける事ができない。
 しかも段々、頬が赤く染まってきた。

「リリィ?」
「……い、良いからちょっと黙ってなさい!!」
「あ、ああ……」
 戸惑う大河にリリィは何度か深呼吸すると……

「クレア……いえ、クレシーダ様の事を大河が愛してるって事は……もう、いい……判ったから……」
「ああ……」
「じゃ、じゃあ……さ、一番は…クレシーダ様……として……そ、その……一番じゃなくて……良いから……わ、私の事は……そ、その……あ、愛…愛して……くれてる……の……?」
 耳まで真っ赤になって――しかも俯き加減+上目遣いで――言ったリリィの姿に固まる大河。
 どうやらそのツンデレっぷりに頭の中が沸騰したらしい。

 と、その姿に過剰なまでに反応したのは……

「リ、リリィだけ抜け駆けするのはズルイです! 私は? 私は愛してくれていますか、大河君?」
「ベリオ殿まで! し、師匠! 師匠は……拙者の事を…あ、愛して……いるでござるか?」
「ベリオさん!? カエデさん!?」
「マスター……私は……マスターだけのものです……マスターに愛してもらえるなら…た、例え一番でなくても……」
「一番がクレシーダ様だって言うのは……正直まだ認めたくない所なんだけど……ダーリンに愛されるのなら…それでも良いかも……」
 リリィの言葉に触発されて、一気に大河へと詰め寄るベリオ、カエデ、リコ、ルビナス。
 そして未亜もまた、みんなの様子に一瞬戸惑ったものの、同じように……

「お兄ちゃん、答えて……」
「み、未亜?」
「クレアちゃんが一番なのは…もうしょうがないと思う……どう頑張っても勝てそうにないし……」
 そう言って視線を向けられたクレアは恥ずかしそうな…それでいて申し訳無さそうな表情で俯く。

「でも……私達は……? 私の事は…どう……? お兄ちゃんは……クレアちゃんしか愛せない……? それとも……未亜の事も愛して……くれる……?」

 不安げな声で紡がれる言葉。
 未亜だけじゃない。
 リリィが、ベリオが、カエデが、リコが、ルビナスが。
 みんなが大河の言葉を待っていた。

 もう、自分が大河に一番に愛される事は無いと理解しながらも、それでも諦めきれない。
 それほどまでに、みんな、大河を愛している。
 許されない事なのかもしれない。
 なぜならそれは……クレア以外の人も愛して欲しいと言う意味になるから。
 それでも……

「答えて、お兄ちゃん!」
「答えてください、大河君!」
「師匠!」
「マスターの本当の気持ちを…」
「ダーリン……」
 想いが弾ける。

「………大河…お願いだから……聞かせて……私の事……」

 みんなの言葉を聞いて、大河はしばらく悩んでいたが、やがて……

「聞かせてはくれぬか、大河?」
「クレア……」
「私への遠慮なら必要ない。お前は私を愛していると言ってくれた。誰よりも一番に愛してくれていると」
「あ、ああ」
「お前の気持ちはそれで十分に伝わっている。お前を想い慕う女達の前で、これ程にはっきりと私を愛していると言ってくれたのだ。その気持ちに嘘などあろう筈が無い。ならば……」

 頬を赤らめてそれでいながら凛とした佇まいで言い放つクレア。

「私以外の女も愛していると言ったからといって、お前が誰よりも一番に私を愛してくれている事を疑うはずも無いであろう?」
 そう言って微笑む。
 自信に満ち溢れたその姿に未亜達の気持ちはただ1つ。
『敵わないなぁ……』

「だから、答えてくれ大河。お前は愛しているのか? ベリオ・トロープを、ヒイラギ・カエデを、リコ・リスを、ルビナス・フローリアスを、リリィ・シアフィールドを、そして…当真…未亜を……」
 クレアの言葉が大河の胸を突く。
 それは本心から出た言葉だったから。
 誰よりも大河を信じ、大河を愛しているからこそ言えた言葉だから。
 だからこそ……大河はその言葉に……応えた。

「……ああ、俺はみんなの事も愛している。誰一人失いたくない……なんて言うのは俺の我侭だっていうのは判ってるさ……でも…俺はやっぱり誰も失いたくない」
 真剣な表情で言い切った大河の言葉。
 その時だった。

「……っ……う、うぁ……あああっ……」
「……リ、リリィ?」
 突然その場にへたり込んだリリィの様子に戸惑った未亜が声をかけた瞬間……

「うあああぁぁぁぁああああ……っ! あああぁあぁああっ! わあああああああああああっ!!」
 いきなり両手で顔を覆って泣き出してしまうリリィ。
 どれほどに思いつめていたのだろう。
 大河の気持ちには、おそらく未亜よりもずっと早く気付いていた。
 帰ってきて、すぐに判ってしまった。
 クレアを見る大河の瞳が、何よりも雄弁にその気持ちを語っていたから。
 だから、ずっと不安だった。
 既に子供まで作ってしまっているクレアとの間に、自分が入る隙間なんて無いかもしれない。
 自分が大河と結ばれたなら、他の女なんて絶対に見て欲しくないのだから、大河がクレアを選ぶ以上、自分の事なんて見向きもしてくれなくなるかもしれない。

 そんな不安な気持ちが積もり積もって……そんな中で大河の紡いだ言葉は……
 リリィの気持ちの結界を、完全に打ち砕いてしまった。

「愛して……くれる………一番じゃなくても……大河が……私を……私を………っ……」
「リリィ……」
「それほどまでに愛しておるのだな……大河を……」
 泣きじゃくるその姿に、誰もが言葉を失った。
 それは、リリィが大河を愛する気持ちが誰よりも――下手をすれば未亜やクレアよりも――強く、激しいものだと言う証に他ならないのだから。
 ずっと胸に秘めてきた。
 破滅との戦いの中で、自分が大河に惹かれていると感じ始めてからも、どうしても素直になれなくて……
 そうしている内に、いつしか気持ちを伝える前に大河はクレアと惹かれあうようになってしまった。

 どれほど後悔した事か。
 自分の素直になれない性格を呪った事か。
 もっと早く、素直になっていたなら……
 自分が想いに気付いた時に、すぐに大河に想いをぶつけていたら、もしかしたら……
 何度そう思って枕を涙で濡らしただろうか。

 クレアに子供ができたと知った後、その気持ちは一層強くなった。
 もし、もっと早く大河に気持ちを打ち明けていたなら……きっと大河は受け入れてくれた。
 彼の子供を宿していたのは、クレアではなく自分だったかもしれない。

 ずっと……ずっと……
 想い続け、悩み続け、後悔し続け……
 そしてようやく言えた告白……

『一番じゃなくてもいいから…私を愛してくれてるの?』

 必死にかき集めた勇気で紡がれた言葉。
 でも、それでも…私を愛して欲しい…とは…言えなかった……

 そして帰ってきた言葉……

『みんなの事も愛している。誰も失いたくない』

 以前のリリィなら、きっとなんて優柔不断な言葉だと怒っただろう。
 でも、今のリリィにとって、その言葉こそが救いだった。

 望んで、望んで、でも絶対に叶う事がないと思っていたから……
 だから……

 涙が止まらなかった……




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