DADDY FACE SS 『無くさないで……(前編)』
by Sin



 それは…いつも通りの何気ない事から始まった……

「うわぁっ!」
 唐突に吹き出してきたガスに、慌てて飛び退く鷲士。
 だが、少し吸い込んでしまったのか、コホコホと咳き込んだ。

「あー、またトラップ動かしたでしょ〜! も〜っ、鷲士くんってばくずりゅーなんだから、もっとしっかりしてよぉ」
「あ…はは……ごめん……」
 それはいつものこと。
 美沙のハントに付き合わされてエジプトまで連れ出されていた鷲士は、まさかこの後、自分の身にとんでもないことが起ころうとは夢にも思っていなかった。
 

 ハントから帰ってきて3日後のこと……

「美沙ぁぁ……私……しゅーくんに嫌われちゃった……」

 いきなり泣きながらやってきた美貴の言葉に、美沙は耳を疑った。
 詳しく聞いてみると、いつものように鷲士を誘おうとした美貴が毎度の如く

「わたしのコト…キライ?」

 とやったのだが、鷲士は無反応。
 いや、それどころか呆れたように美貴を見ると、そのまま立ち去ってしまったという。

「そんな……嘘でしょ?」

 信じられなかった。
 美沙の『わたしのコト、キライ?』とは違って、美貴のは本家本元。
 どんな状況の鷲士であっても、絶対にその効果から逃れられる筈はなかった。

 だが、その時……

「ボス、美貴さんの話、確かかもしれません……」
「なっ……ど、どういうことよ、冴葉!!」
 唐突に告げられた言葉に、思わず美沙は冴葉につかみかかる。
「先程、いつものように鷲士さんを襲った……『しっと団』……と言う集団が、全員、意識不明の重体になるまで痛めつけられて、病院に運ばれたそうです」
 その言葉に、美貴、美沙は共に絶句。
「う、嘘……いくらなんでも、鷲士くんがそこまでするはず……」
「倒れた相手を積み重ねて、右竜徹陣で止めを刺そうとしたようですが……それでも?」
「そんな……馬鹿なこと……」
「そ、そんなの、しゅーくんじゃない! しゅーくんがそんなことするはずないもの!」
 美貴の言葉に、冴葉も頷く。
「その通りです。これまでの鷲士さんの性格からは、とても考えられません。ですが……事実なのです。つまりは……」
「つまりは?」
「……鷲士さんの性格が、変わってしまった……そう考えるしかありません」
 冴葉の言葉に、美貴達はもはや絶句するしかなかった………

 翌日……
 美沙は冴葉に原因の調査を急がせると共に、美貴、そして樫緒を引き連れて鷲士を呼び出した。
「………それで……何の用だ?」
 その言葉に美沙は耳を疑った。
 これまでの鷲士なら、絶対に言わない言葉……
 大体、口調が違いすぎる。
 本当に目の前にいるのは、鷲士なのだろうか……そんな思いが美沙の脳裏を過ぎった。

「なにか用があって呼び出したんだろう? 早く言ってくれ。僕だって忙しいんだ」

 苛立たしげに言う鷲士に、美沙達の疑念は更に強まっていく。

「用がないのなら、帰らせて貰う。僕は……見つけなければいけないんだ……ゆうちゃんを……」

 一瞬、耳を疑った。

 確かに、これまでもゆうちゃんのことを気にすることはあったが……
 ここまで露骨に言ってきたことはなかった。

 その時、美沙の携帯が音を立てた。
「さ、冴葉!? なにか解った!?」
『原因は、おそらく4日前にあると思われますが、はっきりしたことは……とにかく、その日以降、鷲士さんは徐々に感情を失っています……』
「感情?」
『……これまでの鷲士さんの行動を見る限り、失われている感情は……優しさ……です』
「なっ!?」
『ここ数日の鷲士さんの行動を調べた結果、4日前から今日に至るまで鷲士さんの行動から、徐々にですが手加減や遠慮といったものが無くなってしまっているのです』
「そんな………」
『注意して下さい。今の鷲士さんには歯止めがききません。もし、なにかの拍子でボス達に悪い感情を持ってしまったら……』
「……わ…かった……とりあえず……注意しとく……また何か解ったら知らせて……」
『解りました。ボス、ご無事で』
 そう言って冴葉からの電話は切れた。

「美沙……冴葉さん、何だって?」
「………信じられない……ううん……信じたくないよ………」
 呟いた美沙の瞳からは、涙が溢れている。
「美沙……」
「姉さま……?」
 戸惑う2人に、美沙は涙に濡れた瞳を向けると、今の状況を語った。

「そんな……しゅーくんが優しさ無くしちゃったら……そんなの、しゅーくんじゃない……」
「………くっ……馬鹿な……」
 3人は俯いて、皆一様に戸惑いを隠せずにいる

 その時だ。
「……そう言えば……君達に聞けばよかったんじゃないか……」
「えっ?」
 突然の鷲士の言葉に、美沙は訳が解らず見つめることしかできない。
 だが、次の言葉で、美沙達は凍り付いた。

「……ゆうちゃんは……どこだ?」



「な、何言ってるの、鷲士くん。ママは…もう……」
「……いつまで誤魔化すつもりだ、美沙ちゃん。いくら僕だって、君の……君や樫緒くんの様子がおかしいこと位はわかる。何を隠しているんだ? それに……どうして僕にいつまで経ってもゆうちゃんのことを話そうとしない? 死んでしまったというなら…その証明くらい僕に見せることはできるはずだ。それをいつまでもしないと言うことは……ゆうちゃんは生きている……そういうことなんだろう?」
「あ……う……」
 あまりに的を射ている鷲士の言葉に、美沙は何も言い返せない。
 いや、美沙ばかりか、樫緒も、そして美貴も何も言えずにいる。
「……いい加減、答えてくれ。それとも……僕に隠さなければいけない訳でもあるって言うのか?」
 美沙は、睨み付けてくる鷲士の視線に、何か今までと違った光が混じっているような気がしていた。
「それは……その……」
「………僕が、美貴ちゃんと付き合っているから……だからゆうちゃんは会おうとしないって言うなら……」
 ス・・ッと鷲士の視線が美貴を捉える。
 嫌な予感がして、美貴は思わず視線を外してしまった。

「美貴ちゃん……君との付き合いも、これまでだ」

 その瞬間、美貴、樫緒、そして美沙は言葉を失った。

「さあ、美沙ちゃん。これでこっちの件の片は付いた。ゆうちゃんの居場所を教えてくれ」
「あ……え、えっと……だ、だからそれは………」
「………どうしても教えられないと言うのか?」
 そう言って睨み付けてくる鷲士に、美沙はどう答えていいのか解らず、涙ぐむ。
 と、その時。
 すぐ側から聞こえてきた啜り泣きに、ハッと視線をやると、そこにはへたり込んで泣きじゃくる美貴の姿が……

「み、美貴ちゃん!?」
「しゅーくんに嫌われちゃった……しゅーくんに……わぁぁぁぁぁっ!!」
 声を上げて泣き出す美貴に、慌てて駆け寄る美沙と樫緒。
「かっ……美貴さんっ! 父さん、いくら何でも酷すぎます!!」
「美貴ちゃん……泣かないで……今の鷲士くんは、いつもの鷲士くんじゃないんだから……あれが鷲士くんの本当の気持ちなんかじゃないんだから……ねっ、美貴ちゃん」
 泣きじゃくる美貴をなんとか慰めようとする2人を、冷めた視線で見つめる鷲士。

「そうか……君達が会わせないようにしてるんだな……今までほったらかしにしていた僕のことが許せなくて、ゆうちゃんに会わせないようにしているんだ……」
 ゆっくりと、鷲士の瞳に感情が宿る。
 それは……怒り……
「今更だってことは解るさ……でも……だからって全て僕の所為だって言うのかい? 幼かった僕達を引き離し、君達と出会うまで、こんなに時間をかけさせたのは、一体誰だ? それなのに……君達は……」
 鷲士の瞳に、憎しみが宿る。
 それはついこの間まで愛情いっぱいに見つめていた子供達へ向けられていた。





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