DADDY FACE SS 『抱擁(後編)』
by Sin



 突然庭の片隅に現れた男性と女性・・その姿を全員が呆然と見つめていた。
「誰だろう・・美貴ちゃんに・・似てるね・・」
 鷲士がそう言うが、返事が返ってこない。
 不思議に思って覗き込んでみると、美貴は唇を震わせて、涙を流していた。
「美貴・・ちゃん・・?」
 再び鷲士が呼びかけた時、美貴が呟いた。

「おとう・・さん・・・おかあ・・さん・・・・」

 言葉に出した瞬間、美貴は駆けだして女性に抱きつこうとした・・だが・・

「えっ・・・」

 戸惑った声の美貴。そして呆然と見つめる鷲士達。
 今、美貴は完全にその女性をすり抜けていた。

「ま、まさか・・本物の・・おばあちゃん・・? って・・・幽霊って事!?」
 パニックに陥りそうになる美沙だったが、ぼろぼろ涙を流してその女性を見つめる美貴の様子に、落ち着きを取り戻した。

− ごめんね・・側にいてあげられなくて・・

 突然、その場にいる全員の耳に、優しい女性の声が聞こえてきた。

− 辛い思いをしたのね・・・ほんとうに・・ごめんね・・ごめんね・・・

 その声と共に、わずかに透き通って見える女性が、美貴を抱きしめる。
 美貴は、その時不思議な感覚を覚えた。
 触れられている感触はないのに、とても暖かいものに包まれている・・そんな感じがしていたのだ。

− 美貴・・今・・幸せかい?

 今度は男性の声。
 力強く・・それでいてとても暖かみのある、優しい声。

 美貴が頷くと、男性は鷲士に振り返った。

− 美貴が選んだ男か・・・

 その声と共に、鷲士の身体を不思議な感覚が包んだ。
 暖かく・・それでいて、どこか懐かしい・・そんな感覚・・

「お父さんって・・こんな感じなのかな・・」
 何気なくそんな事を呟いた時、不意に男性が笑った。

− 今まで・・美貴を・・孫達を守ってくれて・・ありがとう・・これからもこの子達を・・守ってやってくれ・・

 その声に、鷲士が力強く頷くと、男性は一瞬悔しそうな顔を浮かべたが、すぐに苦笑してまた笑った。

「おじいちゃん・・なの?」
 その時、不思議そうに見つめていた美月がそう言うと、男性は優しく笑って頷いた。

 やがて、美貴から離れた女性も、男性に寄り添って鷲士達を見つめる。

− あなた達の元気な姿が見られて良かった・・美貴・・鷲士さんと・・仲良くね・・

「おかあさん・・・っ・・!」
 美貴は泣いていた。子供達の前である事もかまわず、ぼろぼろ涙をこぼして泣いていた。

− 美沙・・樫緒・・雪人・・美月・・そして・・美花・・いつまでも・・お父さんとお母さんを大切にな・・
「うん・・・おじいちゃん・・・」
「お爺さま・・」
「・・・お爺ちゃんか・・ぼく、はじめて見た・・」
 雪人のその言葉に、男性が苦笑する。
 その時、美月は男性に向かって近づいていくと、ギュッと抱きしめようとして、すり抜けてしまった。
「あ、あれれっ?」
 不思議そうに自分の手と男性を見比べてキョトンとしている美月。
 その様子にその場にいる全員が笑った。

 そして・・・その時・・
「あれれっ、お爺ちゃん達、消えてる・・?」
 美月の言葉にハッと気付くと、男性の姿も女性の姿も徐々に薄くなっていた。

「嫌っ! 行かないで!」
 涙を流して縋り付こうとする美貴。
 だが、その手は空を掴むばかりで、勢いのまま美貴は地面に倒れた。
「美貴ちゃん!」
 慌てて鷲士が美貴を抱き起こす。
「お父さん! お母さんっ!! 行っちゃ嫌! 私・・また・・っ!!」

− あなたは・・もう1人じゃないわ・・

 その言葉に、美貴はハッと自分を抱きしめている鷲士と、その向こうで心配そうに見つめている子供達を見た。

− そして・・私達はいつでもあなたを・・あなた達を見つめている・・

「おかあ・・さん・・」

− 生きなさい・・鷲士さんと・・子供達と・・あなたはもう・・1人ではないのだから・・

 優しく諭すその声は、美貴の胸の奥に優しく染み渡っていく・・
 やがて美貴は、涙に濡れた瞳で微笑むと、鷲士の胸に抱かれながら頷いた。

− 鷲士さん・・美貴を・・子供達を・・よろしくお願いしますね・・
 その言葉に鷲士は再び力強く頷いた。
「守っていきます。どんな事があっても、ぼくの家族を守り通していきます。だから・・これからも美貴ちゃんの事・・それに、樫緒くんや美沙ちゃん。雪人くんや美月ちゃんや美花ちゃん。みんなの事・・見守ってあげて下さい」
 鷲士の言葉に、2人は優しく微笑むと頷いた。
 それと共に、2人の姿はどんどん薄くなっていく。

「お父さん・・お母さん・・」

− また・・来年・・・会いましょうね・・・

 優しいその声と共に、2人の姿は完全に消えてしまった。

「行っちゃったね・・」
「うん・・・」
 鷲士に抱きしめられたまま、美貴は夜空を見つめていた。
 その2人の側に、子供達が集まってくる。
「お爺ちゃんもお婆ちゃんも優しそうな人だったね〜♪」
「会えて嬉しかったです。また来年、会えるといいですね」
 美沙と樫緒がそう言って微笑む。

「ぼく、もっとお爺ちゃん達と話したかったなぁ・・来年はもっと色々お話ししよっと♪」
「お爺ちゃん、抱っこしてくれなかったけど、なんだかすっごくあったかかったよ♪ 来年は抱っこしてくれるかなぁ」
 雪人や美月の言葉に鷲士と美貴は優しく微笑んだ。
 そんな微笑ましい光景の中で、美花は樫緒の腕に抱かれて、いつの間にかすやすやと眠っていた・・

− また・・来年・・・会いましょうね・・美貴・・

 ふと、声が聞こえた気がして、美貴は空を見上げた。
 つられるようにみんな空を見上げる。
 満天の星空は、まるであの2人のように、優しく鷲士達を包んでいた・・・








 
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