DADDY FACE SS 『抱擁(前編)』
by Sin



 星の瞬く夜空の下で、3女、美花が産まれて更に賑やかになった草刈家では、お盆の準備が家族総出で行われていた。
 以前はあまり顔を出さなかった樫緒も、この日だけは毎年必ずやってくる。

「お盆は、ご先祖様を敬う為でもあるけど、それ以上に、亡くなってしまった家族にまた会う為の大切な日なんだよ」
「えっと、じゃあ・・鷲士くんのお父さんとかにも会えるの?」
「・・どう・・だろうね・・ひょっとしたら・・まだ、生きてるかも知れないし・・」
「え? そうなんだ」
 鷲士の過去を知らない美沙の質問に慌てたのは美貴だった。
 かつて津市の事件の際、鷲士の過去について聞いてしまった美貴は、あれ以来、誰にもその事を話さず自分の胸にだけ秘めていた。だから美沙が知らないのは無理もないことなのだが、その事で鷲士が傷ついてしまったかも知れないと、美貴は恐れた。

「あ、あのさ、とりあえず、私のお父さんとお母さんは、間違いなく死んじゃって・・」
 その場のフォローのつもりで、なにげなく・・ホントになにげなく言ったつもりだった。
 だが・・その瞬間、美貴の胸にあの日の事がよみがえってきた・・

「あなたのご両親は、もう・・帰ってこないの・・」
「そんな事・・信じない・・絶対帰ってくる・・だって、ママ、今度の私の誕生日にパーティーしようねって言ったもん・・パパも、一緒にって言ったもん! パパもママも・・約束破らないもん!」
「ミキちゃん・・あなたのお父さんもお母さんも、交通事故で亡くなられたの・・だから・・もう帰っては来ないのよ・・」
「うそ! パパたち、絶対に約束破らないもん!! 絶対・・絶対また・・・!!」

 気がついた時、美貴は涙を流していた。

「美貴・・ちゃん・・」
 堪えきれなくて嗚咽を漏らす美貴を心配そうに美沙が見つめる。
「お母さま・・? どこか痛いの? えっとね、こうすると痛いのなくなるんだよ〜」
 そう言うと、美月は精一杯背伸びして美貴の頭を優しく撫でると・・
「いたいのいたいのとんでけ〜♪」
 そして、まるで痛みをどこかに飛ばしてしまうかのように思いっきり両手を振り上げた。
 だが、その勢いに思わずよろけてしまう。
「あ、あわわわ・・・」
「ほら、危ないぞ、美月」
 そう言って、転びそうな美月を雪人がそっと背後から支えた。
「雪人兄さま〜」
 本当に嬉しそうに雪人に抱きつく美月。
 その様子に、さっきまで泣いていた美貴も、いつしか笑っていた。

「あ、お母さま笑った〜♪ おまじないきいたね〜っ」
「ふふっ、そうね。ありがとう・・ありがとね、美月・・」
 そう言って美月を抱きしめる美貴。その様子を鷲士は優しく見つめていた。

 やがて準備も終わり、迎え火を点けた。

「お父様? どうして火を点けるの?」
 不思議そうに美月が聞く。
「この炎はね、亡くなった人達が、こっちの世界に帰ってくる為の目印なんだよ」
「そうなんだぁ・・じゃあ、これって草刈家の人はこちらでーすって書いてあるんだね♪」
 美月の無邪気な言葉に、皆が笑った。
「そうだね。だから、こうしているうちにも、きっとここに帰ってきている人が・・・」
 
 その時だった。
 不意に炎が大きくなると、鷲士は近くに人の気配を感じた。
「えっ・・・」
 辺りを見回す鷲士。気配はある。だが、姿は見えない。
「どうしたの、しゅーくん?」
 突然の鷲士の様子に美貴が不思議そうに尋ねた。

「う、うん、さっきから・・近くに僕達家族以外の気配を感じるんだけど・・姿が見えないんだ・・」
「・・・姿が・・見えないって・・・」
「間違いなく気配はあるんだ・・その・・普通の人とは・・ちょっと違う気配なんだけど・・」
「ねぇねぇ、お父さま〜」
 突然、美月が鷲士を呼び止めた。
「どうしたんだい、美月ちゃん?」
 鷲士がそう聞くと、美月は庭の一点を指さした。
「そこにいる、優しそうな男の人と、女の人、誰?」
 美月の言葉に、美貴、樫緒、美沙、そして鷲士が一斉にそちらを見る。
 さっきまで樫緒の腕に抱かれて眠っていた美花も、いつの間にか起き出して、そちらに向かって手を伸ばそうとしている。
 そして・・その瞬間、鷲士達は目を疑った。
 今まで誰もいなかったはずの場所。
 そこに、2人の人物が立っていたのだから・・。








 
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