斬魔大聖デモンベイン SS 『白き衣の天使』
by Sin



第2話



 姫さんの依頼を受けて、数日後…
 
 俺達は姫さん執事さんを伴って、アーカムシティーの北の外れ…0番区を訪れていた。

「こいつは……」
「想像以上に酷い状況だな……従者、小娘の側を離れるでないぞ。いつ何時何が襲ってくるか、まったく見当がつかぬ」
「承知致しました、アル・アジフ様」
「九郎、デュアル・マギウス・スタイルになっておこう。ここから先はまったく油断できんからな」
「わかった。やるぞ、アル、リル」
「うむ!」
「うんっ♪」
 アル、そしてリルの力が俺に流れ込み、そして1つの形を成す。
 マギウス・スタイルの黒のボディースーツにリルの力を表す赤いラインが走り、全身に力が漲る。
 背中に広がった黒翼は二対四枚。その全てが一度大きく羽ばたくと同時に背中の一部へと収納された。
 
 目の前に広がる大地は腐敗し、辺りは瘴気に満ちている。
 建物があった痕跡も僅かにあるが、まるで血の色に染められたかのように赤黒く澱んでいた…
 
「事故からかなり経つが…魔術汚染は静まるどころか更に悪化しておったようだな…このままではアーカムシティー内にこの瘴気が溢れ出す日も遠くはなかろうて…」
「防ぐ手だては無いのですか、アル・アジフ」
「この魔術汚染の元を断つ以外にあるまい。おそらくは、事故を起こした魔術機器だろうが…此程の瘴気を放っているとなると、一筋縄ではいかぬやもしれぬな……」
 厳しい視線で辺りを見回すアル。
 
 やがて俺達は、かつての研究所跡へと足を踏み入れた。
 そこは外以上に魔術汚染が進み、壁や床がまるで生き物の胎内を歩いているかのように脈打っている。
 
「まるで、クトゥルーの中に潜り込んだ時みたいだな……アル」
「うむ…そうだな。リル、大丈夫か?」
「…だいじょぶだけどぉ…グネグネしてて…気持ち悪いよ〜」
 アルの言葉に、リルは怯えた様子で俺にギュッとしがみつく。
 そんな二人を肩に乗せて、俺は姫さん達を先導して足を進めた。
 
「殆ど昔の形は残っていませんわね……この辺りにはよく来たはずなのですけど全くわかりませんわ……」
「魔術汚染で建物自体が妖魔化しているからな……ん? 待て、九郎!」
「どうした、アル?」
「なにやら良からぬ気配がする。気を付けろ」
「なんだって……何処だ……?」
 辺りの気配を探ってみるものの、何も掴み取れない。
「何も無さそうだけど……」
「…ふむ…確かに、魔術の気配がしたのだが……」
 アルも首を傾げたその時だ。
 
「パパ、上っ!!」
「――っ!?」

 リルの声と殆ど同時に感じたとんでもない殺気に慌てて飛び退く。
 その瞬間、ついさっきまで俺達が立っていた場所を何かが貫いた。
「あっぶねぇぇっ……あ、姫さんっ!?」
 すっかり忘れていたその存在を思い出し慌てて辺りを見回すと、姫さんを抱きかかえて俺達の背後へと移動していた執事さんの姿を見つけた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
「わ、私は、大丈夫……ですわ。ありがとう、ウィンフィールド」
「ご無事で何よりです、お嬢様」
「ぼやっとするな、九郎! 今の一瞬、従者が居らねば小娘の命はなかったぞ!」
「悪ィ、完璧に忘れてた」
「わ、悪ィじゃありませんわっ!!」
「――っ!? 九郎、どうやらのんびり話している暇は無さそうだぞ!」

 アルに言われてさっきまで立っていた場所を見ると、そこで何かが蠢いていた。
 
「な、なん……だ?」
 その影は1つや2つじゃない。
 無数の影が蠢き、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
 
「………あ……ああ……っ……ああああっ! まさか……そんなっ!!」

 戦慄く唇で呟きながら蹌踉めく姫さん。
「お嬢様!?」
 慌てて執事さんが支えたけど、一体どうしたって言うんだ?
 
「あ、あれ……あれは……」

 震える手で姫さんが指さしたその先には……
 ゆらゆらと揺れながら立つ白衣姿の者達がいた…
 その全身はまるで腐りかけたかのようにボロボロと崩れている。
 
「研究員の成れの果て……妖魔か!?」
「……小娘、言っておいたはずだぞ。人としての姿を留めているとは思うな……と。汝はそれを覚悟してここまで来たのではなかったか!!」
「あ、ああ……っ……」
「ちぃっ、九郎! 小娘がこの状態ではこちらが不利だ! 一旦退くぞ!!」
「わかった……って、アル、後ろからも!!」
「囲まれたかっ!? 従者! 小娘を守れ!! 九郎、我等で血路を開くぞっ!!」
「しょうがねえなぁっ! アル! リル! しっかり掴まってろよっ!!」

 俺の言葉に、アルとリルがしっかりと俺の肩に掴まる。
「やってやるぜっ! マギウスウィング!!」

 背中に広がる4枚の翼。
 それを二対の腕へと変化させる。
「バルザイの偃月刀…二重召還!!」

 ウィングが変化した腕の一対に二振りの偃月刀を持ち、もう一対は無手で構えた。
 そして……
 
「イタクァ、二重召還!!」
 生身の両手に構えるのは二丁の回転式拳銃。
 
「やるぞ……執事さん、姫さんを頼む!」
「承知致しました、大十字様。お嬢様、失礼!」
 そう言う成り、執事さんは姫さんを抱き上げる。
 その様子を横目に俺は目の前の妖魔めがけて走り出した。
 
「行くぞ!! イタクァ!!」
 12回の銃声が、殆ど1つに聞こえるくらいの速さで一気に撃ち放つ。
 放たれた弾丸はそれぞれ軌道を変えつつ、妖魔達を貫いた。
 
「ををぅ……」
 感心したようなアルの声。
 だけど…まだこんなもんじゃ終わらないっ!
 
「ウィングナックル!!」
 一対の無手の攻撃。
 その一撃毎にイタクァによって凍り付いた妖魔を粉砕していく。
 さらに!
「偃月刀…乱舞!!」
 全身を回転させつつ二振りの偃月刀で周囲の敵を切り裂いた。
 勿論そうしながらイタクァの装填は完了している!
 
「くらいやがれっ!!」
 偃月刀による攻撃と同時に乱れ討つイタクァの弾丸。
 デタラメに撃っているようでも、その軌跡は様々に変化し、確実に妖魔を撃ち抜いていく。
 そして、手の中のイタクァを一旦戻し両手を胸の前で合わせる。
 
「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥグァ・フォマルハウト・ンガァグァ・ナフルタグン!」
「な、汝、それはっ」
 驚くアルの声を尻目に、合わせた両手を前に突き出す。その手より放つは……
 「イア・クトゥグァ!!」
 クトゥグァの力を解放する術式。
 だが、今の俺はその力すらも制御しきっていた。
 溢れる魔力を錬成し、幾つもの火炎球として放つ。
 威力は銃で撃つよりも弱いが、弾切れを気にしなくてすむ分、数撃ちゃ当たるを地でいける。
 当然、以前には出来なかった事だ。

「魔銃による制御も無しにクトゥグァの力を制御するというのか!? く、九郎……汝は………」

 震える声で呟くアルに、俺は軽く口元を弛めて笑いかけると手の中にあるクトゥグァの力を正面の妖魔の群れに向かって連続して放つ。
 その輝きは近くにいた妖魔を貫き、更にその後ろ、また後ろへと次々に貫いていく。そして……
 
「妖魔の動きが……止まった?」
 執事さんが呟いた瞬間、一斉に貫かれた妖魔が燃え上がり、微かに床にその痕跡を残して燃え尽きた。
 
「な、なんと……」
「………あ、あぁ……っ」
 驚く執事さんと姫さん。
 呆然とその様子を見つめていたが、やがて妖魔達の背後から更に多くの妖魔が現れるのを見て表情を引き締める。
 
「ったく……一体何匹いやがるんだ……姫さん、ここに残ってたのは何人くらい……」
 姫さんに尋ねようと振り返ると、姫さんはまるで俺の声が聞こえていないかのように一ヶ所を唇を戦慄かせて見つめている。
 
「姫……さん?」
「小娘、何をしているのだ?」
「瑠璃おねぇちゃん、ど〜したの?」
「お嬢様?」

 呼びかける俺達の声にも全く反応がない。
 
「おい、小娘! 返事くらいせんか!!」
「そ、そん……な……っ……エレニアお姉ちゃん……」
 震える声で後退る姫さん。
 その視線の先には…ふらふらと覚束無い足取りでこちらに歩いてくる一人の研究員の姿が……
 いや、あれも……
 
『…ふ……ふふ……るぅりぃ…ちゃぁん……お姉ちゃんとぉ……あぁそびぃましょぉぉぉぉぉっ!!』
 ふらつきながら、妖魔と化した研究員の女性―エレニア―が不気味な笑みを浮かべて姫さんに襲いかかる。
「い、嫌あああああああああっ!!」
「お嬢様!!」
 悲鳴を上げる姫さんの目の前に間一髪の所で割って入った執事さんの一撃がエレニアを跳ね飛ばした。
「お姉ちゃん!?」
「大丈夫ですか、お嬢様? おのれ、化け物!! お嬢様には指一本触れさせはしない!!」

 そう言って、起きあがってきたエレニアを打ち砕こうとしたその時!
「やめて! ウィンフィールド!!」
「なっ! お嬢様!?」
 慌てて手を止める執事さん。
 だけどそれが、決定的な隙を産んだ。
「――っ!? 避けろ! 従者!!」

 アルの叫びにハッと気付いた執事さんだったが、すでに遅く……
 
「が……はっ!」
 まるで振り回すような勢いで叩き込まれたエレニアの爪が、執事さんの腹を切り裂いた。
 あまりに強烈なその勢いに執事さんの身体は跳ね飛ばされて床を転がる。
 そのまま足下に倒れ込んだ執事さんを慌てて抱き起こす姫さん。
「あ……あああっ! ウィンフィールド!! ウィンフィールド、しっかりして!!」
「う……く……お嬢……様……お逃げ……くださ……い……」
 なんとか身体を起こそうとするが、再び倒れ込んでしまった。
 すでに意識がないのか、ピクリとも動かない。
「執事さん!?」
「拙い、拙いぞ、九郎! あの傷は拙い! 早く手当をせねば魔素に冒されてしまうぞ! そうなれば、従者の命に関わる!!」
「くっ……とにかくこの状況をなんとかしないと……」

『ふふ……う……ふふ……るぅりぃちゃぁぁぁぁん……お姉ちゃんがぁ…だっこぉぉしてぇあげるぅぅぅ!』
「い、嫌……嫌ああああああああっ!! 何故!? 何故、お姉ちゃんが……っ!!」
「小娘…?」
「姫さん、知り合い……なのか? って、聞いてる場合じゃないよなっ!!」

 再び襲ってきたエレニアを偃月刀で切り裂こうとしたその時…
 
「や、やめてぇっ!!」
「「なっ……!?」」

 突然目の前に飛び込んできた姫さんに、俺は慌てて振り下ろそうとした偃月刀を止める。
 
「な、何を考えておる、小娘!! 死にたいのか!!」
「危ない、姫さん!!」

 姫さんに邪魔されたお陰で目の前まで迫っていたエレニアをマギウスウィングで弾き飛ばし、姫さんと足下に倒れた執事さんを抱えて飛び上がった。
 
「ふぅぅっ、間一髪。それにしても姫さん、一体何を考えてるんだよ。下手すりゃ死んでたぜ?」
「九郎の言う通りだ!! 汝、一体何を考えておる!!」

 怒鳴りつけるアル。
 だけど次の瞬間、俺達は言葉を失った。
 
「お願い……お願いです、大十字さん……お姉ちゃんを……エレニアお姉ちゃんを殺さないで……」
 俺の胸に縋り付いて涙を流しながら懇願する姫さん。
 その瞳は全てを理解しながらも堪えきれない思いに揺れている。
 
「何を言っておるのだ、汝は! あれはすでに人間ではない!! エレニアとか申すあの女の知識を憑依した妖魔が食らって汝を混乱させる為に言わせているだけだ!! それが判らぬのか!!」
「でも……でもっ!!」
「……今、なんて言った? アル…」
 ふと、聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、アルに問い質す。
 
「ん、どうした、九郎?」
「……今、妖魔が取り憑いた人の知識を食って、話させてるとか言わなかったか?」
「言ったが……?」
「マジ……なのか?」
「なんだ、汝は知らなかったのか。勉強不足だぞ、九郎。魔術の暴走によって呼び出される妖魔はその殆どが低級妖魔だ。実体を持たず、他の生物の身体を乗っ取る事で存在している。そして、乗っ取る際にはその者の知識を全て吸収し、自らの身を守る為に利用する。それが彼奴等だ」

 アルの言葉に、俺は……マジにブチ切れた。
 
「許せねぇっ!!」

 突然の俺の言葉に、アル、そしてリルが驚いた目を向ける。
 
「な、なんだ、九郎?」
「……びっくり…」

「人の身体を無理矢理乗っ取って、その上思い出までそんな事に使われるなんて…絶対に許せねぇ!」
「九郎……」
「パパ……」
 怒りに震える俺の両頬にアルとリルがそっとキスをしてきた。
 
「な……っ!?」
「少し、落ち着いたか、九郎?」
「パパ……怖くなっちゃ…やだよ…」
「アル…リル……」
「大十字さん、お願い……お姉ちゃんを……エレニアお姉ちゃんを助けて……」
「まだ言っておるのか、汝は。あれはすでに汝の知るエレニアとか申す女ではない。それに……すでにあの女は死んでいるのだ。死体を、妖魔が思うがままに操っているに過ぎぬ」
「でも……っ!!」
 なおも食い下がろうとする姫さんに、アルは突然元の姿に戻ると、姫さんの襟首を掴んで引き寄せた。
 
「小娘! いい加減に目を覚まさぬか!! 汝はあれを許せるのか? 汝が姉と呼び慕う女の身体が妖魔の思うがままに操られ、その思い出すらも汚されているのだぞ!! それを許せるのか、小娘!!」
「う……うぅっ……」
「このままあの者達を放っておけば、いずれアーカムシティー全土にあの者と同じ存在が溢れる事となるであろうな。汝はそれを知りながら、みすみすこの状況を見逃し、市民を恐怖に陥れる手伝いをするというのか!?」
「そ、それは………っ」
「答えよ、小娘! 汝は今を生きる市民達と、すでに息絶え、屍を利用されているこの女と、どちらを選ぶのだ!!」
「そ、そんなっ、そんなの……選ぶ事なんて……」
「汝にとって大切なものとは一体何か、思い出せ、小娘! ……いや、覇道 瑠璃!!」
「―――っ!?」

 その瞬間、虚ろだった姫さんの瞳に光が蘇る。
 そして……
 
「大十字さん……」
「は、はい?」
「………エレニアお姉ちゃんを……みんなを……どうか……静かに……眠らせてあげて……下さい……」
 途切れるような声で…しかしはっきりと姫さんは言い切った。
 溢れる涙を必死に堪えて、まだ幼さの残る少女としてではなく、覇道家総帥、覇道瑠璃として…
 
「いいんだな、姫さん?」
「……はい…っ……」
「……判った…俺に……任せてくれ」
「お願いします……大十字…さんっ」

 溢れる涙を見られまいと、俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
 その肩をアルがそっと抱きしめ、俺と視線を合わせて頷いた。

「九郎……」
「ああ、やろう。妖魔なんかにこれ以上姫さんの大切な思い出を汚させやしない」

 アルにそう言って頷き返すと、俺は姫さんと執事さんを比較的安全そうな場所に降ろして再び飛び立つ。
 眼前では、妖魔達がうじゃうじゃと集まり、ゆうに500は超えるだろうか……
 
「一気にやるぞ、アル!! リル!!」
「応ッ!」
「うんっ!!」

 その瞬間、俺の背中で広がっていた翼の一対がばらけて、周囲に魔法陣を描き出す。
「混沌なる光と闇の狭間より、あらゆる邪悪を切り払い、あらゆる災厄を打ち破る、汚れ無き刃よ、我が元に……来たれ…」

 魔法陣の中に現れる1つの存在。
 それをしっかりと握りしめて、俺は一気に引き抜いた。
 
「無垢なる剣……デモンベイン!!」

 俺の言葉に応えるように唸りを上げて手の中に顕現した物。それは全く曇り1つ無い美しい刃を宿した一降りの剣。
 別次元に存在するデモンベインと俺達を繋ぐ『召還剣デモンベイン』。

「行くぞ……光差す世界に、汝等暗黒住まう場所無し!! 乾かず、飢えず、無に帰れ!!」
 
 掲げた刀身に光が宿る。
 そしてそれは大きく広がり、巨大な刀身を虚空に描き出した。
 
「レムリア・ディレイ・インパクトォォッ!!」

 振りかざした刀身を妖魔の群れめがけて一閃。
 この部屋にいる全ての妖魔を切り裂くように光が広がり、そして……
 
「一斉昇華!!」

 アルの言霊が発せられたと同時に、妖魔達は一斉に憑依していた肉体から引き剥がされて消滅。
 そして取り憑かれていた人間達も……
 
「エレニアお姉ちゃんっ!!」

 光となって消えていく研究員達の中、エレニアの姿もまた光の粒子に変わって消えていく。
 その時……
 
『ありがとう……』
「お姉ちゃん!? お姉ちゃん……お姉ちゃん…っ…お姉ちゃんっ……」
『大好きよ……るりちゃん……』
 最後に優しい微笑みを残して、エレニアの姿は完全に光となって消えてしまった…
 
「う……っ……うぅっ………エレニアお姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 その場に頽れて泣き叫ぶ姫さん。
 俺達は慰めようもなく、執事さんの手当をしながら、じっと姫さんが落ち着くのを待つしかなかった…
 
 やがて、四半時もしただろうか、ようやく落ち着いた姫さんに手を貸して立ち上がらせると、頬の涙を拭ってやる。
「え……あ……っ……」

 何故か頬を赤らめて俯く姫さん。
「……浮気は許さぬぞ、九郎」
「う、浮気って……」
「…小娘……九郎は絶対にやらんからな……」
「べ、別に、私は……」
 そう言いながらも、僅かに頬を赤らめて姫さんが俯く。
「………そんな顔をされては……心配になるではないか……」
 ポツリと呟いたアルの言葉。
 よく聞き取れなかった俺が聞こうとした時、姫さんも何かを呟いた。
 
「……でも…アル・アジフ……貴方が…少し羨ましい……」
「へ?」
「な、なんでもありませんわ!」
 俺が聞き返すと姫さんは真っ赤になって顔を背ける。
 
 一体、なんなんだ?
 
 まあとにかく先に進むしかないな。
 執事さんの怪我も、手当てして妖魔から受けた魔素を取り除いたら後は問題無さそうだった。
 この人も大概化け物じみてるよなぁ…
 
 そうして奥へと足を進めた俺達。
 
 どうやらさっき倒した分で妖魔は殆ど打ち止めみたいで、特に問題もなく、俺達は研究所最深部…あの、暴走事故を起こした魔導機器の近くまで来ていた。
 
 ここまでの間で、姫さんの両親は見つからなかった。
 つまり……
 
「ここに……お父様とお母様が……」
「……小娘、今度こそ覚悟を決めておくのだぞ。この場所は魔術暴走のまさに爆心地。どれ程の影響を受けておるのか、全く予想だに出来ぬからな」
「ええ……」
「開けるぞ」
 俺の言葉に、全員が頷きを返す。
 リルは興味半分、怖さ半分で俺の肩に縋り付いている。
 
「せぇのっ!!」
 一抹の不安を感じながら、俺は気合いを込めて一気に扉を押し開けた……。






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