斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第20話 次元の狭間で…



 光……
 眩く輝く光……
 白く染め上げる光……
 
 溢れる、滾る、迸る。
 全てを包み込む光の奔流。
 それは、あらゆる邪悪を退ける極限の光。
 
「ここは……」

 朦朧とする意識で辺りを見渡すが、見えるのは真っ白な光だけ。
 ここがどこなのか、アル達がどこにいるのかすら、まるで判らない。
 
「勝った……のか? アル……? リル……? 2人とも……どこだ……?」

「………郎………っ」

 不意に響く声。
 微かに…だが、はっきりと、俺の耳へと届いた。
 遙か遠く。そしてなによりも近い場所から聞こえてきたその声……
 聞き間違えるはずもない。
 
「………アル――――――っ!!」

 その瞬間、世界に溢れていた光が一斉に消え失せて………
 
 
「………う……ぅあ?」
 
 朦朧とする意識で、目を開く。
 その視界に飛び込んできたのは、見慣れたデモンベインのコクピット。
 それと……
 
「……九郎…」
 泣きじゃくっていたのか、目を真っ赤に腫らしたアルの姿……
 
「アル? 泣いて……」
 そう言ってアルの涙を拭ってやった瞬間、唐突にその手をアルに掴まれた。
「っ?」
「遅い!!」
「……へ?」
「遅い! 遅い遅い、遅すぎるわっ!!」
「お、おい、アル? なにを……?」
「なにを……だと……ッ!! 九郎……ッ、汝は……汝はぁッ!!」
 俺の襟首を掴んで、がっくんがっくん揺さぶるアル。
「妾がどれだけ…寂しかったと……辛かったと思って居るのだ……ッ!! 汝が二度と目覚めなかったら……そう思って……どれ程に辛かったか……汝には……汝には判らぬのかっ!!」

 泣きじゃくる。
 大粒の涙をポロポロと零して、アルは泣く。
 俺に縋り付き、誰を憚る事もなく泣き続ける。
 
「アル……」
「寂しかったのだぞ……辛かったのだぞ……汝を失ったら……妾は…妾は…っ」
「………ごめん…な…」
 抱きしめる。
 強く…限りなく強く…そしてこの何よりも大切な宝を壊さないように…優しく…
 お互いの温もりが触れ合った身体と身体を通して伝わり、心の底まで暖めていく…
 
 俺の腕の中、泣きじゃくっていたアルが顔を上げて瞳を閉ざす。
 躊躇うことなく、俺はその唇を奪った。
 
「ん……んぅ……はぁ……ん………んぁ……九……郎……っ……」
「……アル…」
 混じり合う吐息。
 背中に回した手に感じる華奢なアルの身体。
 その髪からリボンが自然に解けて落ちた。
 ふわりと広がった髪の感触を楽しむように、俺はそっと指を滑らせる。
 
 それから軽く1時間は過ぎた頃…
 ようやく、俺達は身体を離した。
 
「そう言えば……リルは……?」
「すぐ隣に居るではないか」
「へ……? あ……」
「気付いていなかったのか? それよりも…リルの事を忘れておったのか? 汝も案外薄情な男だな。愛娘の事を忘れるなど…」
「しょうがねぇだろ……泣いてるお前が目の前にいるのに、他の事考えられるかよ……」
 俺がそう言った瞬間、アルは頬を赤らめて照れくさげに微笑む。

「………九郎……ふふ……まったく汝は……」
「な、なんだよ?」
「……うつけ。女の気持ち少しは察せ」
「んだよ……全く……」
「まあ……九郎らしいと言えば……九郎らしいが…な」
 そう言ってクスクスと笑うアル。
 憮然としていた俺だったが、楽しそうに笑うアルの表情を見ている内になんだか照れくさくなって、頬を掻いて苦笑した。
 
「それにしても……リルのやつ、よく眠ってるな」
「さすがに疲れたのであろう。だが……本当によく頑張った……誉めてやらねばならぬな」
 眠るリルの頭を優しく撫でてやりながら、微笑むアル。
「すっかり母親が板に付いてきたな」
「……それはよく判らぬな…妾に母は居らぬし、人にあらざる妾が本当に母らしい事ができておるのか……」
「アルは、もう十分に母親だよ。リルに向ける愛情、護る為に見せた強さ。そしてその優しさに満ち溢れた眼差し。どれをとっても他の母親に勝るとも劣らないさ。むしろアルの方がずっと母親らしい母親なのかも知れないな」
「う、うつけ。真顔で言うでない……照れるではないか……」
 
 頬を真っ赤に染めたアルがそう言った時だ。
 
「うみゅぅぅ……パパぁ……ダメ……だよぉ……」
「え?」
「リル?」
 突然の声に思わず振り返る俺達。
 だが、リルは完全に眠っている様子で、どうやら……

「寝言…?」
「そのようだな。それにしても……」
「ん?」
「いったい、何の夢を見ているのやら……汝は気にならぬか?」
「う…そ、そりゃ……まぁ……」
「ふふ、まあ、しばらく見ていよう。リルが一体何を言い出すか、楽しみだ」
 本当に楽しそうな笑顔でリルを見つめているアル。
 そして……
 
「……カニさん……食べちゃ駄目だよぉ………」
「へ?」
「うゆ?」
 訳の解らない寝言に、固まる俺達。
「「カニさん?」」
 共に首を傾げていると…
 
「それは……リルのなのぉ……パパが食べちゃ……駄目なのぉ……」
「………ひょっとして、以前妾達が体験した宴会の夢でも見ておるのか?」
「へ? そんな事あるのか?」
「リルは妾の魂の欠片を受けておるからな。許奴は妾とは全く違う存在であると同時に、妾の分身でもある…と言う事だ。記憶の部分共有もおそらくはその辺が原因であろう」
「へぇ……それにしても……」
「ん? どうした、九郎?」
「いや……本当に無邪気な寝顔だな……と思ってさ」
「……ふふ、そうだな。子供の寝顔を称して、天使の寝顔と言うらしいが……まさにこれは天使の寝顔だ」
「ああ……」

 時々謎の寝言を話しながら、微笑みを浮かべて眠り続けるリル。
 俺達はそっと指を絡ませて見つめ合うと、その寝顔をのんびりと見つめていた。
 
 多分、今の俺達の姿を姫さん達が見たら、きっと言うんだろうな…

「親バカね」
 そうそう、こんな風に…
「っ!?」
「今の声はっ!?」

 思わず振り返る俺達。
 そこには……デモンベインの外からハッチの融解したコクピットを覗き込んでいるナコト写本の姿があった。

「「なっ、ナコト写本!?」」
「失礼な…人を指さすものではないわ」
「あ……う……そ、それより、あんたも無事だったんだな。テリオンは?」
「余ならばここにいる」
 
 ナコト写本の背後から姿を見せたテリオンは、幾分傷を負っているものの、殆ど問題無さそうだ。

「無事か。まあ、お前なら当然か」
「貴公もな。それにしても、その娘……リル・アジフと言ったか?」
「ああ」
「未だ意識が戻らぬようだな。心配だろう?」
「いや、別に。ただ寝てるだけだし」
「……そう……なのか?」
「さっき寝言言ってた」
「そ、そうか……」
 思わず引きつった表情のテリオン。
 こんな表情を見るのは初めてだ。再会してからまだそれ程経ってないけど、こんなにも色々な表情を見せるようになったんだな、こいつ。

「大十字九郎。デモンベインは動けそうか?」
「ん? そうだな……全開では無理だけど、とりあえず、脚部シールドもまだ健在みたいだし、シャンタクも稼働する。まあ40%ってとこか」
「そうか……リベル・レギスの方はどうやら30%程まで能力低下しているようだ。時間が経てば回復するが、このままこの次元の狭間にいる訳にもいくまい。
「ああ、そうだな」
「脱出の手だてがない訳ではないが……その前に、貴公に聞いておきたい事がある」
「リルの事か?」
「ああ。余も気にかかるが、何より……エセルが気にしている様子なのでな」
「マ、マスター!? わ、私は……そんな……」
 テリオンの言葉に、真っ赤になって否定するナコト写本。
 だけど、あれだけ真っ赤になっていたら……

「まったく否定しているようには見えんな」
 そう言うアルに苦笑して頷くと、ナコト写本は耳まで真っ赤になって視線を逸らせる。

「まあ、とりあえず順を追って話すと……だ」

 俺はこれまでの事。そしてどうやってリルが産まれたのかを事細かに話した。
 テリオンとナコト写本は黙って俺達の話を聞いていたけど、途中で俺達が何度も求め合った事を話すと、ナコト写本は何を思ったのか、テリオンを恥ずかしげに見つめながら顔を赤らめていて…その様子に俺達は思わず笑ってしまう。

「わ、笑っていないで、早く先を話しなさい!」
「ふむ、汝のそんな顔を見るのは初めてだな。なかなかに興味深い」
「よ、余計なことは気にしなくて良いのです、アル・アジフ!」
「フフ……なんとも初な表情だな。悠久の時を生きた汝に、まだそのような所が残っていようとは」
 そう言って苦笑するアルに、ナコト写本は一層顔を赤く染める。

「そう言うアルだって、負けず劣らず……」
「く、九郎っ!」
 俺の言葉に、今度はアルの方が真っ赤になった。
 思わず笑ってしまう。

「九郎〜〜〜っ!!」
 そんな俺達の様子を、テリオン達は楽しげに見つめ、微笑んでいた。
 以前の此奴等からはとても考えられないくらい、優しい表情をしている。
 本当に…変わったな、此奴等……

「まあ、とにかく……だ。元はと言えば俺が書いたアルの写本が、いきなりアルの中へと飛び込んできて、そしたら今度はまるで妊婦みたいに腹が膨れて……それで、メチャクチャ酷い陣痛の後に、リルが産まれた……って訳だ」
「では、『リル・アジフ』は、『アル・アジフ』の写本と言うことに?」
「大本はそうだと思う。アルと一体になったことで写本だったリルに魂が宿って、今の姿になった…って事だろうな」
「正直、妾達にもそれ以上の事は判らぬのだ。判っているのは、妾と九郎が幾度も結ばれた結果、今の事実がある…と言う事だな」
「……そう……だとしたら…マスターが私の写本を書いて下さったら、私とマスターの子供ができるかも知れない……と言う事……ね?」
「うむ、過程だけを考えるならば、そうであろうな」
「もちろん、俺達のやった事も関係してるとしたら……そっちの方も頑張らないといけないかもしれないけどな」
 その言葉に、ナコト写本の顔が真っ赤に染まる。

「……マスターに…私の写本を書いて貰う……と言う事は…私の全てを見られてしまう事に…なるのよね……その上…マスターと私が……身体を……」
 そこまで呟いたところで、ナコト写本はぷしゅ〜〜〜と頭から湯気を噴き出して蹌踉めいた。

「エセル!」
 その身体をテリオンがしっかりと抱き留める。
「大丈夫か?」
「……は、はい…マスター」
 赤くなった顔が喜びに綻ぶ。
「大十字九郎達の話通りだとするならば……これから大変だな……エセル」
 少し頬の赤くなった顔で強く抱きしめてくるテリオンの腕の中、ナコト写本は本当に嬉しそうに微笑んでいた…。



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