斬魔大聖デモンベイン SS
『力の意味』
by Sin


第6話
 屋敷中に広がっていた魔力発生源を次々と叩き潰して行く俺達。
 途中で気付いた事だが、魔力発生源をいくつか壊すごとに、中庭にある一番でかい奴の周囲を包んでいた力が弱まっていくようだ。どうやらあの一番でかい奴が本命で、他のはそれを守るための結界だったって訳らしい。

 大きい奴はもはや中庭の1つだけ。
 小さい方も後10個程だ。
 途中からはクトゥグァ達も魔力発生源潰しに参加していたようで、俺達とは別の場所で魔力反応が次々と消えていった。

「急ぐぞ、九郎! 残る魔力発生源は10と3だ!」
「応よ! 隼人、まだ行けるか!?」
「あ、ああっ! 問題ない!」
 そうは応えるものの、大分疲れている様子の隼人。
 このまま連れ回すのは得策なんだろうか……そんな事を考えていた矢先だった。

「うぁっ!?」
 突然の隼人の声に慌てて振り返ると、何かに足を切り裂かれて蹲る隼人の姿が。
「おい、大丈夫か!?」
 急いで駆け寄る俺達。
 傷の具合を見ると、かなり深く切られている。
 このままでは動く事もままならないだろう。
「アル!」
「判っておる。隼人、動くでないぞ」
 そう言うとアルはそっと傷に手を触れさせる。
 痛みに歪む隼人の顔。
 だが、そんな事は意にも解さず目を閉じたアルの髪が溢れ出す魔力の波動を受けて波打った。
「深海を統べし偉大なる旧き神の力よ……我が言霊の元に来たりて時の歯車を逆しまに……」
 ゆっくりと紡がれる術。
 そして……まるでビデオの巻き戻しを見ているかのような感じで隼人の傷が付けられる前の状態へと戻っていく。

「これは……」
 驚きに目を見張る隼人。
「僅かではあるが、この傷の時の流れに介入した。もう痛みは無いであろ?」
「時間を……巻き戻した……?」
 流石に驚愕の色を隠せない様子で、隼人は何度も傷のあった場所に触れていたが、やがて……
「あり…がとう…」
 少し照れた様子で礼を言うその姿に俺達は思わず苦笑した。

 だが、その時……
 僅かに変わった風に俺達は同時に気付く。
「九郎……」
「ああ、この風、覚えがある」
 そう呟いた時だった。
「オイオイ、そんなの有りかァ? 折角切り刻んでバラバラにしてやろうと思ったのによォ」

 巻き起こる風。
 それは自然のものではない。
 魔力を孕んだその風が俺達を切り裂こうと集まってくる。
 そして、その向こう側から姿を見せたものは……
「折角この俺が出てきてやったんだからよォ、血反吐ブチ撒けて盛大に歓迎しやがれこの糞虫野郎どもが」
「口の悪さは相変わらずだな、クソ餓鬼」
 目の辺りを隠す仮面。
 子供らしさなど欠片すらも持たない、邪悪な存在。
「な…っ、子供っ!?」
「ああ、子供だ。それも…正しい事と間違っている事の区別もろくに付かないクソ餓鬼さ!」
 驚く隼人にそう言い放つと、俺は……
「イタクァ、二重召還!!」
 両手に顕現する青白い輝きを放つ二丁の回転式拳銃。
 その最大装填数、6発を一気に撃ち放った。
 12の閃光が一斉に襲い掛かり、爆煙がその姿を隠す。
「だ、大十字九郎!? どうして子供を!?」
「………っ!? 伏せろ、隼人っ!!」
「―――っ!?」
 俺の声にとっさに床へ伏せた隼人の頭上を無数の風の刃が乱れ飛ぶ。
 だが、ギリギリの所で顔や首を切り裂かれるのは避けることが出来た。
 その代償に、隼人の背後の壁はボロボロに崩れて外への大穴が開いてしまっていたが……

「な―――っ!?」
 目にしたあまりに大きな破壊力。
「ば……かな……」
「見た目で判断するでないわ、隼人! 彼奴の名はクラウディウス! セラエノ断章を操る、魔術師だ!!」
「そしておそらくは、今回の件の首謀者。子供だからって情けなんてかけられる相手じゃない。こいつを放っておけば、今回と同じように何十、何百って人の命が奪われるんだ!!」
 俺達の言葉に隼人の瞳に怒りの色が浮かび、しっかりと剣を構えなおした。

 丁度その頃……

 執務室では姫さんやマコト達、メイドを護りながら、執事さんの拳、稲田さんの剣、そしてリルの炎が姫さんに襲いかかる怪異を次々と滅していた。

「即興拳舞(トッカータ)、参ります!」
 鮮やかなまでの速さで怪異を打ち抜く執事さんの拳舞。
 その拳の弾幕で、姫さんに一歩も近づかせない。

 だが、時と共に増えてくる怪異は次第にその弾幕すらも潜り抜けてしまう。
 それでも執事さんは慌てる様子すら見せない。
 なぜなら……

「私の剣は覇道を護る為にのみ存在する……」
 呟く稲田さんの手の中で白銀の刃がその意思に従うかのように輝きを増す。
 その刀身を形作るは、デモンベインの装甲にも用いられている特殊合金ヒヒイロカネ。
 デモンベインと同じ魔を断つ剣が彼女の手によって舞い踊る。
「闇より出でし者達よ……闇に……帰れ……」
 走る剣線。
 それは襲い掛かった怪異を余すことなく捕らえ、その身を細切れへと変えた。

「わぁ〜比呂乃お姉ちゃんつよ〜い♪」
「恐縮です」
 稲田さんの活躍ぶりに手を叩いて喜ぶリル。
 そうしている合間にも、背後から襲いかかろうとした怪異を生み出した炎で次々に燃やしていた。
「リル・アジフ様も、お強いですよ。流石は大十字九郎様とアル・アジフ様のご息女ですね」
「えへへ〜♪」
 誉められて嬉しそうにしっぽをパタパタとさせながらリルは頬を赤らめる。
 その様子に若干複雑そうな表情を浮かべた姫さんの様子に気付いてはいた稲田さんだったが、とりあえず今はスルーすることにしたようだ。

「リルも頑張る〜♪ うぅぅぅうぅぅぅんっ……えいっ!!」
 気合を入れるようなリルの声に伴って、数十の炎の塊がその周囲にボボボッと音を立てて浮かび上がる。
「行っちゃえ〜〜〜っ!」
 その全てが一斉に周囲の怪異へと飛び交い、まとめて殲滅した。

 目の前で繰り広げられるその光景に、姫さんやマコト達は呆然と見つめるしかない。

「はぁ……リルちゃんは九郎ちゃんとアルちゃんの娘やから、あないに強いのも判るけど、ウィン様や稲田さんも大概人間離れした戦闘能力やなぁ……」
「私達、単なる足手まといですね〜あはは」
「ネコミミリルちゃん……はぁ…はぁ……はうっ!?」

 突然の衝撃を受けて跳ね飛ばされるマコト。
 その先には……

「おっと、失礼」
「すみません、間違えました」
「ご、ごめんなさ〜い」
 思わずやってしまったと言わんばかりの三人の姿が。

「な、何事です!?」
「「邪悪な気配がしたものですから」」
「背中がぞぞぞってしたら、炎が勝手に飛んでっちゃったの〜」
 返ってきた答えに姫さんは思わず溜息。
「自業自得……という訳ですわね」
「因果応報って奴やな」
「さっさとくたばりやがれ、変態クソ外道〜ってことですよ〜」

 溜息混じりに呟く姫さんとチアキ。
 笑いながら言ったソーニャの言葉に二人とも更に脱力してしまう。

 と、その時だ。

「瑠璃お姉ちゃん、危ない!!」
 一斉に襲ってきた怪異の内の一体が3人の攻撃を受けながらも姫さんの所へと襲いかかった。
 目の前に迫る脅威に目を見開き硬直する姫さん。
 間に合わない。誰もがそう思った瞬間。
「駄目〜〜〜〜〜っ!!」
 叫びと共に爆発する魔力。
 それが巨大な炎の塊となって姫さんへと襲い掛かった怪異を吹き飛ばし、そのまま壁さえも突き破って飛んでいった。
「あ……ああ………」
「「ご無事ですか、お嬢様!?」」
 思わず言葉を無くし、へたり込む姫さんに執事さんと稲田さんが声をかける。
「え、ええ、大丈夫…ですわ…」
 震える声で答えた姫さんは、自分を助けた者へと視線を向けた。
「リル……ちゃん?」
「え、えへへ……瑠璃お姉ちゃ…ん……」
 力の無い声で笑って見せるリル。
 だが、最早空中に浮いていられるだけの力も残っていないのかフラフラと揺れた後、ぽてっと落ちてしまう。
「リルちゃんっ!!」
 慌てて駆け寄る姫さん。
 その腕に抱き起こされたリルは弱々しく微笑むと――
「……ぶい…っ……えへへ……」
「……もう……リルちゃんったら……あんまり無理をしないでくださいな……」
 そんなリルの姿に姫さんは涙を浮かべて、ギュッと抱きしめる。

 その時だ。
 突然巨大な揺れが襲ったかと思うと、床を割って現れる巨大な怪異。
 勢いのままに襲い掛かる怪異に目を見張る姫さん。
「―――――ッ!?」
 だが、その前に立ち塞がる2つの影。
 怪異の爪牙よりも更に、更に早い拳。
 そして、その拳を更に上回る速度で煌めく刃。
 音速をも遥かに超えた速度で怪異を打ち抜く拳撃と斬撃
 それこそは……
「「奥義――『鎮魂歌・怒りの日(レクイエム・ディエス・イレ)』」」
 

 稲田さんの刃が怪異の存在を断ち切り、その肉体を執事さんの拳が欠片1つ残さず粉砕する。
 その様子を呆然と見つめる姫さん。
「まだまだ……ですね」
「……そのようです……」
 呟くように紡がれる二人の言葉に姫さん達は首を傾げる。
 判らないのも無理はない。
 常人に見える速度ではなかったのだから。
 
 ほんの一瞬。
 瞬きをするよりも短い…まさに刹那の時間差ではあったが、稲田さんの刃の方が執事さんの拳よりも早く怪異を捕らえていた。
 しかも、稲田さんの方が数歩とは言え離れた場所に居たにも拘らず……だ。

「…さて……もう出てくる様子も無いようです……どうやら片付いたようですな」
「そうですね。お嬢様、お怪我はありませんか?」
 そう言いながら稲田さんがそっと姫さんに手を伸ばす。
「え、ええ。大丈夫です」
 連続した命の危機に未だ震える足でなんとか立ち上がった姫さん。
 その腕の中にはしっかりとリルが抱きしめられている。
「ウィンフィールド、稲田、ご苦労様。おかげで助かりましたわ」
「いえ、ご無事で何よりです」
「元より私の剣はお嬢様の為に。ですが……今回は私達だけではお嬢様を守りきることはできなかったかもしれません……全ては……」
 呟く稲田さんの視線が姫さんの胸に抱かれるリルへと向けられる。
「リル・アジフ様……心より、感謝します……」
「……ふにゃ……くぅ……すぅ………瑠璃お姉ちゃんは……リルが……守るの〜〜〜……すぅ……すぅ……」
 そんな寝言を呟きながら可愛らしい寝息を立てるその姿を、姫さん達は微笑んで見つめ――
「ありがとう……リルちゃん……」
 優しく抱きしめた……




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