斬魔大聖デモンベイン SS
『力の意味』
by Sin


第5話
 全速力でアーカムの空を翔ける俺達。
 そして、ようやくの事で覇道邸に辿り着いたのだが……

「う……ぁ……」
 その光景に顔を青ざめさせる隼人。
「酷い……こんな……」
「リル……くっ、我等が居ながらこんな事を許してしまうとは……っ!」
 涙を浮かべて辺りを見回すリルを抱きしめるアル。
 その唇が怒りに震えていた。

「……ちっ……くしょうっ……っ!! またかよ……またこんな…っ!!」
 握り締める拳が堪え切れないほどの怒りに震え、俺は側の壁を殴りつける。
 マギウスの力はコンクリートの壁すらも楽々と打ち壊す。だけど……
 また、守れなかった。

 アンチクロスの襲来によって命を奪われた人々……
 あんな悲しみを、もう二度と繰り返したくなかったのに……

 俺の目に映る光景。
 それは……
 無残に命を奪われ、躯となった人々が道を埋め尽くすように転がる様だった。

「…悔やみきれぬが、今は悔やんでおる場合ではないぞ、九郎。急がねば更に被害は広がる。小娘の命とて危ういやも知れぬのだ!!」
「ああ……判ってる。行くぞ、アル、リル、隼人。皆の弔い合戦だ……」
「うむ! 皆の無念、我等が晴らしてくれようぞ!」
「こんなことする人なんて…絶対に許さないもんっ!!」
 怒りを顕わにするアルとリル。
 そして隼人は……
 地に転がる躯の手を握り締め、肩を震わせていた。
「………っ、これが……こんな事をするのが……本当の邪悪……っ…」
「行くぞ、その怒りと皆の悲しみの全てを、ありったけ奴等にぶちまけてやれ!」
 俺の言葉にゆっくりと頷く隼人。
 転がる躯から視線を引き剥がし、俺達は覇道邸の中へと駆け込む。
 だが、既にそこも血の海だった。

 あたり一面がまるで塗りつけられたかのように血で赤く染まっている。
 そして……
「何の……音だ?」
 不意に俺の耳に響いてきた、鈍い音。
 それはまるで、何かを食い荒らしているような……っ!?
 瞬間、思い至った俺は一気に扉を蹴破る。
 そこで見たものは……

 警備兵……だったんだろう。
 無残な姿となったその人達の『欠片』を貪り喰らう怪異の群れ……
 外の光景とこの光景に、俺の中で何かがはじけそうになった……その時だ。
「奥義……百花繚乱!!」
 白閃が部屋中を駆け巡る。
 剣を振る音さえ殆ど聞こえないほど一瞬の間に、幾千の光刃が怪異を貫いた。
「貴様等に……生きる場所はない!!」
 その瞬間。
 部屋中に溢れていた怪異が一瞬にして血煙の中へと消える。
「隼人……」
「急ごう、全てが手遅れになる前に!」
 抜き身の刃のように鋭く、溢れんばかりの怒りに満ちてはいるものの、そう言った隼人の瞳には一切の曇りもない。
 こんな状況でありながらも、俺は思わず口元を緩めてしまった。

 俺達の目は、間違ってなかったな。

「応よ!」
 答えて俺達は隼人と共に執務室に向かって走った。


 どれだけの怪異を切り倒してきただろうか。
 ようやくの事で執務室に辿り着いた俺達を待っていたものは……

「秘技、即興拳舞(トッカータ)、参ります」

 執事さんの鋭い声と……
「うわっ!?」
 まとめて飛んできた怪異の群れ。だがそれは、一斉に消滅する。
「な、なんだ?」
 慌てて飛びのいた隼人が目を丸くして部屋の中を覗き込むと……
 そこには、目にも止まらぬ動きで次々と怪異を屠る執事さんと、部屋の奥で立ち尽くす姫さん。それに……
「お嬢様には、指一本触れさせません」
 おそらくは剣を振るう音だったのだろう。
 俺にすら見えないほどに早い剣閃。
 しかもそれを操っているのが……
「メ、メイド……さん?」
「確か…イナダとか呼ばれておったな」
 俺達の姿に気が付いたんだろう。
 件のメイドさん…稲田さんが俺達に向かって会釈した。
 と、その時。
「九郎!!」
 アルの声にすぐさま反応して魔術を編み上げる。
「アトラック=ナチャ!!」
 解き放つと同時に閃光のように部屋中に広がる術。
 その光がいきなり空間を越えて現れた怪異を全て絡め捕らえる。
 そして両手に召還する二挺の銃。
「イタクァ! 二重召還!!」
 顕現すると同時に一気に連射。その全ての弾丸が網にかかった怪異を瞬滅させていく。

「九郎さんっ、来て下さったのですね!」
「無事か、姫さん!」
「はい、ウィンフィールドと稲田が守ってくれましたから」
 そう答える姫さんに、執事さんと稲田さんが揃って会釈する。
「大十字様。来て頂けましたか」
「すまない、遅くなった。被害は?」
「……屋敷の警備兵は、おそらく半数以上。逃げ遅れたメイド達も数名が……」
 辛そうに目を伏せて言った執事さんの言葉に、稲田さん、そして姫さんも目を伏せた。
「……戦う力を持たないものまで……っ!?」
 吐き捨てるように言って怒りに震える隼人。
「詳しい話は後だ! 今はこの怪異の出所を1秒でも早く突き止めて、完璧に破壊する!!」
「うむ! しかし、どうやって探す?」
「……そうだな…とりあえず……」
 そう言いつつ、俺はイタクァを片方消すと、右手に炎の力を集める。
「クトゥグァ!」
 一瞬にして顕現する自動式拳銃『クトゥグァ』
「何をするつもりだ?」
「ん、まぁ見てろ。アル、こいつを神獣弾に」
 俺の意図が判らず、いぶかしげに聞いてくる隼人にそう言うと、俺はアルに2発の弾丸を手渡した。
 それぞれに、『The minions of Cthugha』、『Wendigo the Blackwood』と刻まれている。
 火薬に『イブン・カズイの粉薬』を混ぜた魔銃用の弾丸だ。
「隼人の言ではないが……いったい何をするつもりなのだ、九郎?」
「……?」
 アルとリルも不思議そうにしている。
 まあ、当然だな。
 普通の人間なら……やれるはずもない事をやろうとしてるんだから。
「見てりゃ判るって。ほら」
「う、うむ……」
 躊躇いつつもアルは両手の間に2発の弾丸を浮かべて術を編んだ。
「フォマルハウトより来たりて我等が力となれ……純然たる焔、混沌を喰らい尽くす炎の神性……クトゥグァ!」
 その瞬間、『The minions of Cthugha』に宿る膨大な焔の神気。そして更に……
「風に乗り来たりて我等が力となれ……荒れ狂いし氷嵐、全てを氷結に閉ざせし風の神性……イタクァ!」
 再び編まれる術によって、『Wendigo the Blackwood』が白く輝く。
「何をするつもりかは知らぬが……1つだけ忠告しておく。如何に汝が人として備え得る力を遥かに超えるものを持っているとは言え、生身でそれをこれ以上使うのは止めておけ。死ぬぞ」
 2発の弾丸を手渡しながらそう言ったアルだったが……
 しばらく俺の顔をじっと見つめて、やがて大きく溜息をついた。

「アル・アジフ?」
 不思議そうな姫さん。
 だけど俺にはその溜息の理由がはっきり判って苦笑するしかない。
「やはりそのつもりであったか。まったく、汝は何処まで無茶を重ねれば気が済むのだ……大体、こんな所で神獣弾を使えば、屋敷諸共吹き飛ぶであろうに」
「へへ、まあ…見てのお楽しみって奴だ!」
 言い放ち、俺はそれぞれの弾丸を『クトゥグァ』と『イタクァ』に装填する。
「フォマルハウトより来たれ……」
 瞬く間に溢れ出す膨大な神気。そして……
「風に乗りて来たれ……」
 2つの神気が合わさり、渦を巻き、部屋中に吹き荒れる。
 それは再び空間を越えて襲ってこようとした怪異をも巻き込んで更に広がっていく。
「く、九郎!? いったい何をするつもり……にゃうっ!?」
「ひゃうぅっ、マ、ママぁ!?」
 突然の突風にアルは思わず悲鳴を漏らし、リルもその足に縋り付いて目を開けていられずにいた。
「力を……与えよ………力を与えよ………力を与えよ…!!」
「だ、大十字九郎っ、何が一体っ!?」
「九郎さんっっ!?」
「大十字様!?」
「―――っ!?」
 慌てる隼人や姫さん達だが、俺はいたって冷静にゆっくりと2つの術を編み上げていく。
「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥグァ・フォマルハウト・ンガァ・グァ・ナフルタグン……」
 術を編むに従ってまるで灼熱の焔を宿したかのごとき熱量で輝き出すクトゥグァ。
「フングルイ・ムグルウナフ・イタクァ・ヤァ・ウェンディゴ・イグカ・ズゥ・フグルムゥ……」
 そしてそれとは逆。あまりの冷気に銃身が青白く輝いているイタクァ。
「汝等が主、大十字九郎の名を持って命ず! 炎と風の印の元に、来たれ! 古の支配者、クトゥグァ! イタクァ!」
 言い放つと同時に引く二つの引き金。
 音はなかった。

 その瞬間、とてつもない力の爆発が辺りの窓ガラスをいっぺんに吹き飛ばす。
 そして次の瞬間、収縮し2つの形を成した。

 それは、炎を纏いし獣。
 それは、氷嵐を振り撒きし風の龍。

 すなわち――

「な……っ、ここは……」
「我等を……召還したと…言うのか……?」
 驚きに戸惑いを隠せないクトゥグァとイタクァの姿がそこにはあった。
 アル達も信じられない様子でその光景を見つめている。

「信じ…られぬ……魔導機器を召還するのとは訳が違うのだぞ……九郎…汝という男は、何処まで……」

 震える声で呟くアルに苦笑しながら、俺はクトゥグァ達に歩み寄った。

「流石は…と言うべきであろうか……」
「まったく、本当に父上は底が知れぬな……」
 そう言って微笑んでくる2人に俺もまた苦笑い。
「クトゥグァ、イタクァ、お前達の力を貸してくれ。こんな真似をする奴等を俺は絶対に許せないんだ」
 俺の言葉に二人は揃って頷くとひざまづいてそれぞれ俺の手を取った。

「我等が力、存分に。父上」
「我等は汝を敬愛し、信仰する」

 その言葉に応えるように俺の両手に刻まれた炎と風の紋章が輝きだす。

「「我等が主、白き王よ!!」」

 二人の声が揃い、それぞれの紋章に唇が重なる。

 そして……

 爆発的な力が溢れ出した。


「ををぅ!? こ、これはっ!?」
「うにゃっ!?」
 驚きの声を上げるアルとリル。
 その姿がデュアル・マギウス・スタイルを維持したまま元へと戻り、そこから更に変わる。

 アルの髪を結んでいたリボンが解けたかと思うと、いつもの服が全て弾け飛び、次の瞬間、以前に見たあのセーラー服の変形版のような格好へと変化した。
 腰周りを包む黒のショートパンツ。両手を黒のオープンフィンガーグローブが覆い、足元も黒のブーツで覆われる。
 最後にリボンが広がっていた髪を背後でポニーテールに纏め、唇が僅かに赤く彩られた。
 リルの頭に飛び出ていた耳とスカートの中で揺れる尻尾が炎のような輝きを放ち、服も紅色のドレスへと変化する。

 そして俺の身体にも変化が。

 マギウスになっている時にはいつも銀髪だったその髪が長いままに闇色に染まり、開いた瞼の下には赤と青の色違いの瞳。
 服装こそ変わらないものの、マギウス・ウィングが全てバラけて俺の身体にまとわり付くように集まり、一着のジャケットを構成。
 その背中の部分はまるでマントのように長く広がっている。

「だ、大十字九郎……その、その姿はいったい……」
 隼人には判ったんだろう。
 俺の内から人間を遥かに超越した力が溢れている事が。
 そんな隼人に俺は笑いかけると、一気に周囲の魔力反応を探る俺。

「魔力の発生源は、小さい奴が100と7。大きい奴が18。特に大きい奴が裏庭に1つあるな。リル」
「うゆ?」
「お前はここで執事さんやメイドの……え〜と、稲田さんと一緒に姫さんを守ってくれ」
「うんっ、リルが瑠璃お姉ちゃんを守る〜♪」
 しっぽをゆらゆらと揺らしながら、は〜いと元気よく手を上げるリルの姿に思わず苦笑しながら頷く。

「クトゥグァとイタクァは2人で地下の避難場所に逃げている連中の救助。それとチアキ達3人を見つけたら、姫さんの所に連れてきといてくれ。あいつらが居ると、いざって時に動きやすい」
「承知した」
「父上の意のままに」
 そう答えると、二人はすぐさま部屋を出て行った。
 相変わらずあいつらは本当に行動が早い。
 
「アルは俺と一緒に魔力発生源を叩く。いいな?」
「当然だ。妾と汝は一心同体なのだからな」
「応よ」
 視線を交わし微笑むアルに俺も笑って頷きを返す。
 と、その時。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は……」
 慌てて聞いてきた隼人。
 こいつの実力なら、おそらくこの先の戦いに付いて来させても大丈夫だろう。
 中途半端な迷いさえなければ……だが。
 だから、俺はそれを確かめる為に問うた。

「ここからは、今までとは桁が違う戦いになる。それでも……付いて来るか?」
「当然だ! 俺は、お前を見定めなくちゃいけないんだからな!!」
 答えるその瞳に迷いの色は全くない。
 そっとアルに視線を送ると、気付いたのか苦笑して頷いてきた。
「なら、隼人も俺達と一緒に来い」
「ああ!」
 剣を構えなおし、強く頷く隼人。

「姫さんはここから警備兵達に指示を。とにかく命を大切に、戦う力のない奴等の避難誘導を最優先にさせてくれ」
「判りました。九郎さん、どうかよろしくお願い致します」
「応よ、任せとけ。リル、執事さん、稲田さん、ここは頼むぞ」
「うんっ!」
「承知いたしました。大十字様」
 俺の言葉に答える2人。
 稲田さんも無言で礼を返してきた。

「行くぞ! アル! 隼人!」
「うむっ!」
「応っ!!」
 2人を連れ、部屋を飛び出す俺達。
 そのまま廊下を走り、無数の魔力発生源の存在を感じる部屋への扉を蹴り開けた俺達の目の前に、まるで魔力発生源を守ろうとするかのように溢れる膨大な数の怪異。いや、交じり合ったようなその姿は……

「キメラモンスターか!」
「彼奴等が相手となると、少々梃子摺るやも知れぬな」
「いや、一気に決める! 隼人、少しだけ時間稼ぎを頼む!」
「了解っ!! はぁぁぁぁっ、奥義・雪月花!!」
 隼人の奥義がキメラモンスターを弾き飛ばす。
 それによってできた僅かな時間に、俺は一気に魔力を集中させた。

「混沌なる光と闇の狭間より、あらゆる邪悪を切り払い、あらゆる災厄を打ち破る、穢れ無き刃よ、我が下に……来たれ…」
 俺の声に応えるように眼前に展開する五芒星系の魔法陣。
 そこに現れた力の塊を一気に掴んで、引き抜く。
「今ここに、顕現せよ! 無垢なる剣……デモンベイン!!」

 魔法陣が一気に集約すると共に、その力がひとつの形を成す。
 それは剣。
 それは断つべき邪悪を断つべくして存在する。
 その輝きは無垢。
 一切の穢れを持たないその刀身は俺の魔力に反応して時折エメラルドグリーンの輝きを放っていた。

 そして……

「深遠たる海洋を守護せし偉大なる旧き神の力よ、我が手に宿れ……」
 アルの手の中に溢れ出す膨大な量の水。
 それがひとつの形を成していく。
「顕現せよ、ノーデンスの斬魔剣!」

 召還剣デモンベインとノーデンスの斬魔剣。双振りの剣が共鳴しあうように輝きを放つ。

「その力……!? いや、もう驚く事じゃない……大十字九郎は……それ程の存在なのだから……」
 呟き、再び剣を構えなおす隼人。
「それなら俺は、俺にできることをする! 大十字九郎が極限の戦いを経てそこまでになったというのならば、俺も更なる闘いの中で一歩でも多くその背中に近づく為に!!」

 はっきりと言い放った隼人に俺達は視線を交わし、微笑み合う。
「行くぞ、アル!」
「うむ! 汝の背中、そう簡単に追いつけるものではないことをしっかりと知らしめてやろうぞ!」
「応よ!!」

 魔力を開放し、一気に魔力発生源へと走る俺達。
 妨害してくるキメラモンスターを全て再生が叶わないほどに切り捨て、走り抜けながらあの言霊を解き放つ。

「光差す世界に汝ら暗黒、住まう場所無し!!」
「乾かず、飢えず、無に帰れ!」
「「レムリア・デュアル・インパクトォォォォッ!!」」

 一気に解き放たれる魔力。
 そして……

「「昇華!!」」

 大型の魔力発生源の1つが、一瞬にして消滅した。
 動揺するように蠢くキメラモンスター。
 そこに隼人が追撃をかける。

「奥義・鳳仙花!!」

 統率を失ったキメラモンスターにはその攻撃を回避する術など無く……
 群がるだけの怪異など、隼人の敵ではない。
 一瞬にして消滅したその様子を見ていた俺と隼人の視線が重なった。
「やるな」
「あんたこそ」
 そう言って軽く拳を合わせる。
「まだまだ先は長いぞ。九郎! 隼人! 行くぞっ!!」
「応っ!」
「ああ!」
 アルの言葉に応えて、俺達は更なる魔力発生源へと走る。
 決して許すことのできない、滅ぼすべき邪悪……

 その全てを断ち切る為に……。





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