斬魔大聖デモンベイン SS
『力の意味』
by Sin
第1話
ミスカトニックの事件から数ヶ月経ったある日の事。
あの時のダメージもすっかり癒え、魔導探偵として怪異と戦い続けていた俺達は、その日も姫さんからの依頼を受けて怪異を追っていた。
それにしても、あの事件の後位からだろうか……。
妙に、怪異が大量発生している。
初めはほんの小さな怪異ばかりだった。
人に迷惑をかけると言っても悪戯レベルのもので倒すほどの相手でもなく、人に直接干渉できないように簡単な呪法で存在を縛る程度に済ませていた。
それが、先週位からだろうか。
急に凶暴化して、人を傷つける奴が出始めた。
最初の被害者は酔っ払った中年の男性。
犬かと思って近づいたその男性は、片足を喰いちぎられる大怪我を負った。
こうなっては俺達も放っておく訳には行かない。
それから今日までの間に倒した怪異は16匹。
殆どが動物型だったけど、中にはまるでスライムみたいな奴もいて、ダンセイニの仲間かとも思ったけど、どうやら全く別種の生物らしい。
そして、今日は……。
「アル、これはどう言ったら良いんだろうな……?」
それは、これまで見てきたどんな生き物とも違う……そして、あらゆる生き物の全ての特徴を兼ね備えていた。
「キメラモンスター……という所か。どうやら今回は一筋縄ではいかぬようだな」
「リル、あれ…すっごく嫌……」
俺の肩で怪異を見つめるアルとリル。
あの事件以降、俺達の力は飛躍的に上昇しているが、それでもここ数日に現れた怪異はそんな俺達でも手こずるようになっていた。
「怪異がより力を増してるってわけか……」
「来るぞ!!」
アルの声に、一気にその場を飛びのく。
「九郎! 断鎖術式を開放しろ!」
「応っ! 流動型断鎖術式、ヘルモクラテス開放!」
最近の戦いの中で見つけたデュアル・マギウスの秘められた力。
それがこの全身を走る赤いライン…流動型断鎖術式、ヘルモクラテスだ。
その名の通り、デモンベインに装備されているティマイオス、クリティアスと同様に空間を歪め、その反作用を利用して移動や攻撃を行う力を持っている。
術式を開放すると同時に赤いラインの中を高密度の術式が流れるように走り、俺の周囲に力場を発生させた。
そして……歪まされた空間が元に戻ろうとする爆発的なエネルギーが、俺の身体を急速に移動させる。
「一気に決めるぞ、アル! リル!!」
「うむ!」
「うんっ!」
「アトランティス・ストライク!!」
回し蹴りの要領で、力場の力をキメラモンスターに叩きつけると、その一瞬でモンスターの身体は強烈な力に真っ二つに粉砕された。
いつもならこれで終わり……のはずだった。だが――。
「九郎!!」
「――っ!?」
アルの声に、慌てて飛びのく。
直後、俺のいた場所を何かが穿った。
「な、なんだ!?」
「見よ! 奴はまだ滅びてはおらぬ!!」
その言葉に、俺は思わず目を疑った。
完全に上下に分断されながらも、キメラモンスターはそのまま何事もなかったかのようにその場に立っている。
上半分は、完全に浮いたままだ。
「んなアホな……」
「呆けている場合ではないぞ、九郎!!」
「っ!? ちぃぃぃっ! やらせるかぁっ!!」
襲い掛かるキメラモンスター(上)の攻撃を跳躍してかわすと同時に、マギウスウイングで攻撃。
だがその直後、キメラモンスター(下)の尻尾が俺の足に巻きついて動きを封じてくる。
「しまった!」
「パパ、危ないっ!!」
叫ぶリルの悲鳴。
同時に俺の身体を術式が走った。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヘルモクラテスの力場が尻尾を弾き飛ばし、逆に爆発的なその威力で尻尾を爆砕。
しかし……。
「九郎、まだだ!!」
「な、なぁぁぁっ!?」
今度はその千切れた尻尾までもが別個に俺に襲い掛かってきた。
それどころか状況は更に悪化。
キメラモンスター(上)(下)(尾)のそれぞれに無数の口が開き、その牙をもって俺に喰らい付いてきたからだ。
「ぐあああああああああああああっ!!」
「九郎っ!!」
「パパ!!」
アルとリルの叫び。
「いい加減にしやがれ、手前等ぁぁぁっ!!」
再びヘルモクラテスの力を爆発させる。
反作用で吹き飛ばされるキメラモンスター。
だが、バラバラになってもなお、それぞれが別個の生き物のようになって襲い掛かってくる。
「くそっ、限がない!!」
数十の破片となったキメラモンスターが一斉に襲い掛かってくるのを見た俺は、胸の前で手を合わせると……。
「フングルイ・ムグルウナフ・イタクァ・ヤァ・ウェンディゴ・イグカ・ズゥ・フグルムゥ……」
「な、汝、その呪は!?」
「イア! イタクァ!!」
突き出す手の中から放たれる数千の輝き。
それは極低音の弾丸となって青白い不規則な軌道を描き、全てのキメラモンスターの破片を捕らえた。
一瞬にして全てが凍結し、今度こそ完全に粉砕する。
再度の復活がないか警戒してしばらく見つめていたけど、どうやら完全に消滅したみたいだ。
「ふぅ……やれやれ…だな」
そう言って溜息をつくと、俺はデュアル・マギウス・スタイルを解く。
「全く、汝という男は……一体何処までの力を秘めておるのか……まさか、イタクァまでも魔銃の力なくして使いこなすとは……」
「パパすっご〜い♪」
「これまではイタクァの力を引き出す呪文を知らなかったからな。使いようがなかった」
抱きついてくるリルの頭を撫でながら、俺は苦笑して言った。
「そうか……この前のミスカトニックで……」
「ああ。あの時、初めて呪文を聞いたから、何とか使えないかと思ってさ」
「……汝には時折本当に驚かされる…。妾の知らぬ内に、汝はこんなにも大きく成長しておるのだな……」
少し頬を赤くして潤んだ瞳で見つめてくるアル。
「汝という夫を持った事、妾は何よりも誇りに思うぞ」
「アル……」
じっと見つめ合う俺達。
その時だ。
「パパ!!」
リルの声と同時に背後から殺気を感じた俺は、2人を抱きかかえて一気に跳躍。
マギウスではない状態だったからかなり危なかったがギリギリで何とかかわせた。
「まだ居やがったか!!」
そこに居たのはさっきのとは違う形のキメラモンスター。
「九郎!」
背後に立つアルの声に振り返るとそちらにもモンスターの姿が。
いや、それだけではない。
周囲から次から次へと溢れてくるキメラモンスターの群れ。
形は様々で、まるでモンスターの見本市だ。
「パパ、上!!」
「――っ!?」
唐突に上空からの攻撃。
その衝撃に吹き飛ばされた俺達は、完全にバラバラに引き離されてしまう。
「拙い! これでは……」
アルの焦った声。
確かにこのままじゃデュアル・マギウスどころか、マギウスにすらなれない。
怯えるリルの事も気にかかるし、どうする……九郎。
歯噛みしたその瞬間だった。
突然巨大な魔力の気配と共に、吹き飛ばされるキメラモンスター。
その隙に俺はアル達の下へと駆け寄った。
「九郎、これは一体!?」
「さあな……とりあえずこれはチャンスだ。アル、リル、デュアル・マギウスで行くぞ!」
「うむ!!」
「うんっ!!」
2人の魔力が俺の中へ。
デュアル・マギウスとなった俺は一気にイタクァの力を解き放つ。
「フングルイ・ムグルウナフ・イタクァ・ヤァ・ウェンディゴ・イグカ・ズゥ・フグルムゥ…イア・イタクァ!」
放たれる極低音の輝き。
それは周りを取り囲むキメラモンスターに向かい、貫くと共にその全身を凍結させる。
粉微塵になって粉砕された仲間に怯んだのか、奴等が僅かに後ずさった。
「逃がすかぁっ! フングルイ・ムグルウナフ・クトゥグァ……」
今度はクトゥグァの力を解き放とうとしたその時だ。
「――っ!? 九郎っ!!」
突如として感じた魔力に、慌てて術を中断した俺はそのままマギウスウイングを展開して跳躍。
そして次の瞬間。
「奥義、雪月花」
一閃。
それだけで地上にいた全てのキメラモンスターは凍結し、粉微塵に砕け散った。
「な………っ」
絶句する俺達。
一斉に舞い上がった雪煙がゆっくりと晴れていくと、そこに居たのは……。
「………子供?」
一振りの刀を持って静かに佇む少年が一人。
「まさか、先程のは彼奴が……?」
ゆっくりと地上に降り立った俺をじっと見つめる少年。
年の頃は、14〜15歳といった所だろうか。
まだ顔に幼さの残ってはいるが、何よりも九郎の目を引いたのは、その恐ろしいまでに冷え切った瞳だった。
「……今のは…君が?」
「マスター・オブ・ネクロノミコン……だな?」
「あ、ああ」
「この街に、最強の魔術師がいると聞いて一度会ってみたいと思っていた。だが、興醒めだな」
「なんだと! 汝は九郎を…妾の主を愚弄するのか!!」
「ふん、確かにお前達の力は凄い。それは認める。だけどそれは術者自身の力じゃない」
そう言って少年はアルを指差すと言い放つ。
「お前が凄いのは、最強の魔導書『死霊秘法』を持っているからだ。生身だったら逃げ惑うしか能がないただの人間に過ぎない」
「……ほう……九郎に能がないと申すか? ようも言うたものよ」
呆れ果てたように言い放つアル。だが、次の少年の言葉がアルの怒りを買った。
「俺がお前の主なら、もっと上手く戦えたんだ」
「自惚れるでないわ、小僧! まるで九郎よりも汝の方が格上のような口振りだが、汝如き、九郎の足元にも及ばぬわ!!」
「―――っ!? 俺が…そいつの足元にも及ばないだと!?」
アルの言葉に気色ばむ少年。
余程自分の力に自信があったんだろう。それを過信と気づく事も出来ない程に。
「汝は知らぬ…真の恐怖を。人間が踏み込める領域など高が知れて居るのだ。だが、九郎は違う。九郎は人の域など遥かに超えた世界で妾と共に戦った。魔人と呼ばれし者と、そして、神にすら打ち勝った」
「……面白い……それならその力、見せてみろ!!」
そう言うと同時に少年はいきなり俺に襲い掛かってくる。
身構える事すらしていなかった俺は、その攻撃をかわす事が出来ず地面に転がるしかなった。
「パパ!!」
慌てて駆け寄ってくるリルを制して、俺はそいつの様子を窺う。
どうやら今の一撃で俺を倒したとでも思って完全に油断しているようだ。
それなら……と、俺は奴に気づかれないように静かに魔術を編み始めた。
「こんな攻撃すらかわせないような奴が、俺より格上だと言うのか、死霊秘法!」
「言うたはず。九郎の強さとはそんな容易い事で測れるようなものではない。汝如き、九郎と比較してもらおうとする事自体が既に傲慢なのだ!」
俺の行動に気づいたアルが、わざと奴を挑発する。
俺からの注意を逸らすために。
「―――っ! これでもまだ……それなら、このまま止めをさしてやればお前も納得するのか!!」
いきり立つ少年。
その間に俺は体内で魔術を編み上げていく。
そして……。
「おいたはその位にしておけよ、クソ餓鬼」
「なっ――!?」
俺の言葉に少年は目を見張る。
振り返ったその眉間には召還したクトゥグァの銃口が突きつけられている。
状況を知り、慌てて飛びのく少年。その足元に、俺はクトゥグァの弾丸を撃ち込んだ。もちろん威力最小で。
「うわぁぁっ!? き、汚いぞ!!」
慌てて飛びのいたその瞬間、さっきまでの冷え切ったような瞳の色は薄れ、年相応の幼さの残る表情が見えた。
「先に不意打ちをかけておいてよく言う……」
「――っ!! と、とにかく、勝負は預けておく!! 絶対にお前なんかより俺の方が上だって証明してやるからな!!」
そう言い放つと、少年は猛スピードで走り去る。
「ふん、負け惜しみを」
腹立たしそうにその去った先を見つめていたアルに、俺はさっきから感じていた疑問をぶつけてみた。
「アル」
「ん、なんだ?」
「正直言って、あいつ、本当に才能はあると思うか?」
「うむ、未だ荒削りではあるが素質はな。下手をすれば九郎以上……アリスンに匹敵するやも知れぬ。良い師が付いたならば人としては最高位の魔術師とも成り得ようて」
「そんなにか? だけど……」
「ああ、あのままではいずれ闇に呑まれるのも時間の問題。まあ、それも彼奴の愚かさが招く事。妾達が与り知る事ではあるまい」
「まあな……」
「……それでも、汝は放っておくのは…後味が悪いと申すのであろう?」
俺の言葉に苦笑しながらアルが訊いてくる。
その様子に俺も思わず苦笑した。
「アルには…何でも判っちまうな、俺の事」
「当然だ。それに正直なところ、妾も多少気になる」
「というと?」
「彼奴の魔力総量は汝には遠く及ばぬ。魔術の深遠にも触れておらぬような彼奴が、にも拘らずあれ程の力を有しておるのがどうにも解せん」
「何か憑いてやがるなら、助けてやりたいわけだな、アルとしては。お前だって十分お人よしじゃないか」
「……ふふっ、汝のお人よしがうつってしまったのやも知れぬな」
「ケッ、言ってろ」
そう言って笑い合う俺達。
「さて、仕事も片付いた事だし、姫さんに報酬貰って帰ろうか」
「うむ、そうするとしよう。そうだ、たまには何か食うて帰らぬか?」
「そうだなぁ……」
「リル、パフェ食べたい〜」
「パフェか、妾も久々に食うておきたいな」
「んじゃ…報酬貰ったら、どっかのカフェによって帰ろう。な、アル、リル」
「うむ!」
「うんっ!!」
満面の笑みで応える2人に俺は頷きを返すと、帰路に着く。
だが……俺はこの時、何故か嫌な予感を感じていた。
そしてそれは……この日から数日後に現実となったのだった……。
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