斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大騒動』
by Sin
第7話
炸裂する膨大な魔力。
それがリルの小さな身体から放たれているとはとても信じられない。
だが、現に今、俺達を守る為にリルはその魔力でレイリーの攻撃を防ぎ、俺達を守っていた。
「こ、小娘がぁぁぁっ!!」
「おじちゃん嫌い………大っ嫌い―――っ!!」
泣きながら叫ぶリルの声に応えるように膨れ上がる魔力。
「グ……グア……グガァァァァァァァァッ!!」
まるで嵐のようになった魔力の奔流に弾き飛ばされるレイリー。
壁に亀裂が走るくらいの威力で叩きつけられ、あまりの衝撃にもがき苦しむ。
その様子を俺も、そして姫さん達も呆然と見つめている。
と、その時、俺はおかしなものを見つけてしまった。
リルのスカートの下で揺れる、なにやら尻尾のようなもの……。それに、頭の上にも、なんだか耳っぽいものが……。
「お、おい、リル? それ……なんだ?」
「ふぇ?」
俺に言われ、不思議そうに自分の腰の辺りをぺたぺたと触るリル。
何か違和感を感じたんだろう。
恐る恐るスカートの中を覗き込んで……。
「…にゃぁぁぁぁっ!?」
飛び上がった。
その拍子にスカートが捲れ、中に隠れていた大きな尻尾が姿を見せる。
まるで、犬か狐のようなその尻尾がリルの後ろでその動きに合わせるように跳ね回った。
「尻尾!? じゃ、じゃあ、その頭のは……」
「ぐすっ……にゃ?」
涙目になりながら恐々と頭を触って……。
「うにゃぁぁぁぁぁっっ!?」
再び飛び上がる。その拍子に尻尾までピンと逆立った。
どうやら完全にリルと一体化しているらしい。一体これは……。
不思議に思ったその時、俺の右手に刻まれた炎の紋章が赤く輝く。
「これは……」
その輝きに連動するように、リルの耳と尻尾も僅かに光っていた。
「…クトゥグァ、お前が力を貸してくれたのか……?」
――その通りだ、白き王よ。
「――――っ!?」
「え? 今の声……誰?」
突然の声に驚く俺達。だが、どうやら姫さん達には聞こえていなかったらしく、不思議そうな顔をしている。
「クトゥグァ……お前なのか?」
――いかにも。
「まさか、こうして声を聞けるとは思わなかったぞ」
――妹の呼ぶ声に導かれたのだ。あの切実なる思いを無視などできぬ。
「妹……? って、まさか!」
――我が妹、リル・アジフよ。
「ふぇ? 妹……え、えと、じゃあ……クトゥグァ…お姉ちゃん?」
――フフ、そう呼ばれるも悪くはない。リル・アジフ…我が身は神体ゆえ長く現世に係わる事叶わぬが、今この時は汝の力となろうぞ。
「お姉ちゃんが……助けてくれるの?」
――母を……そして白き王…いや、父上を護るは我等が共に在る願い。共に戦おう!
クトゥグァの言葉にリルの顔に満面の笑みが。
「うんっ!!」
大きくリルが頷いた瞬間、その周囲に炎が巻き起こる。
それと共に大きく膨れ上がったリルの魔力が辺りに広がり……。
そして、どこからともなく舞い落ちてくる魔導書のページ。
「みんな!? みんなも助けてくれるの!?」
姫さん達も驚いた様子で降り注ぐページを見つめている。
どうやら魔導図書館でリルと友達になった魔導書達らしい。
「お願い、みんな! パパとママを助けて!!」
リルの願いに応えるように部屋中に舞うページが渦を巻いた。
そして……。
「こ、これはっ!?」
次々とアルの身体、そして俺の両手に刻まれた炎と風の紋章の中にページが消えていく。その度に俺の身体から痛みと共に傷は消え、見えなかった片目の視界も戻ってくる。
その時……。
「う……ぅくぅ……妾は……?」
「アル! 気が付いたのか!?」
両手で抱きかかえて、俺は腕の骨折までも直っている事に驚きを隠せなかった。
「す、凄いな、これは……あ、アル、大丈夫か?」
「九郎……妾は……―――――っ!? く、九郎、怪我は!? 妾は……妾はなんという事を!?」
「大丈夫……ほら、見てみろよ」
「な……傷が!?」
「さっきからどんどん治ってきてる。リルとクトゥグァ。それに姫さん達、そして……」
辺りを見回す。
すでに殆どのページは俺達の中へと消えて行ったが、未だに数百枚のページが部屋中を舞っていた。
「こいつらのお陰だ。リルの友達らしいぞ?」
「そ、そうか……皆に礼を言わねばな……」
「ママぁ!」
ギュッと抱きついてくるリル。
「それにリル……よく頑張っ……!?」
涙にぬれた瞳で見つめられ、アルは優しく微笑むとそっと頭を撫で……違和感に怪訝な顔をする。
その時、アルの視線がリルの背後で揺れる尻尾の存在に気づいた。
「な、な、なぁぁぁっ!? リ、リル、それは一体何なのだ!?」
1オクターブくらい跳ね上がったアルの声に、俺は苦笑を隠せない。
「ふぇ? あ、これ? えへへ〜可愛いでしょ〜?」
どうやら僅かな間にお気に入りになったらしい。
嬉しそうにプルプルと尻尾を震わせるリルの様子に思わず笑ってしまう。
「俺も驚いたけどさ。クトゥグァが力を貸してくれてるんだ」
「クトゥグァが!? 何故、旧支配者が我等を!?」
「妹の切実な願いに応えたって」
「妹……だと?」
「俺達の事も、『父上』とか『母』って言ってたからな」
「彼奴等が……我等の娘……?」
しばらく戸惑っていたアルだったが、やがてその頬を涙が伝った。
「そうか……そうだったか……旧支配者の力を持っているとは言え、クトゥグァとイタクァも元々は我が分身。ページモンスターとして暴れていた事はともかく、回収後は汝の魔力と我の記述より生まれし存在……言わば、我等が子……汝と妾の娘であったか…」
「そう言うことだ。どうやら俺達、リルが生まれるよりもずっと前からとっくに子供まで居る関係だったらしいな」
「フフ……そうらしい。すまぬ…クトゥグァ、イタクァ。これまで汝等の事、気づいてやれなんだ愚かな母を許してくれ…」
アルの涙が零れ落ち、俺の身体を濡らす。
と、その時……。
不意に輝き出す炎と風の紋章。
そして……。
巻き起こった炎の渦と風雪の渦。そこに何かの影が浮かび現れたのは……。
「汝……等……?」
「クトゥグァ……イタクァ……」
驚く俺達に、二人は戸惑いながら自分の体を見つめ、やがて揃って微笑んだ。
「まさか再びこの姿になろうとは思わなかった」
「フフ……」
「汝等が、妾達の娘……? クトゥグァと……イタクァなのか……?」
「ああ、そう言えばアルはこの姿の二人と会うのは初めてだよな」
「う、うむ。し、しかし……」
「どうした?」
「………な、何故、娘の方が妾よりもスタイルにおいてこんなにも成長しておるのだ!?」
悔しそうなアル。まあ、確かにクトゥグァとイタクァのスタイルはかなり凄い。
下手すりゃ、ライカさんと張るぞ、これは。
「そう言われても…妾達のこの身体を構成しているのは元々母上の記述だから……」
「おそらくは母上の記述の内、その身体を構成する物の中でスタイルに関する部分が抜けているのであろう。それによって我等はその規制に縛られぬ身体を得たと思われる」
戸惑うクトゥグァにイタクァが冷静な判断を下す。結構いいコンビかもな、この2人。
「それで、アルの完全な写本のリルはアルと同じようなスタイルになってる…って事かな?」
「おそらくは」
「うむむ…納得できぬが、それしか理由として考えられぬか……くぅっ、まさか娘にスタイルで負けようとは……」
そう言って落ち込むアルに、
「勝敗など気にする事もないのではないか? 母上」
「我等が主にして我等が父、大十字九郎の愛を一身に受けているというのに、それ以上を望むは強欲というものだぞ、母上」
「えへへ〜リルは、パパもママもお姉ちゃん達も大好きなの〜」
三者三様の応え。
その様子に溜息をついたアルだったが、やがて破顔一笑した。
その時だ。
「ク、ククゥゥ……よ、よくもやったな小娘……」
どうやらようやく衝撃から立ち直ってきたらしい。
その耐久力はかなりのものだが、立ち直るまでにかかる時間が恐ろしく長いな。
まあ、俺達にとっては都合がよかったが。
「な、何だ、その女達は!?」
ようやくクトゥグァ達の存在に気づいたらしい。
慌てた様子で後ずさる。
「俺達の娘、クトゥグァとイタクァだ」
「だ、大十字!? な、何故傷が………!?」
「教えてやる義理はない。それに……」
ゆっくりと周囲を見回す。
フード連中は姫さん達にやられて尽く倒れているが、その姫さん達も立ち上がることすら出来ない様子でそれぞれ座り込んでいる。みんな傷だらけだ。
「俺の仲間達を傷つけ、アルとリルにこんなに辛い思いをさせたお前を俺は絶対に許さない。覚悟を決めてもらうぞ、レイリー!」
アルを抱きかかえたまま立ち上がる俺。
その足元にはリルが。そして左右にはクトゥグァとイタクァが控える。
「大十字一家、勢ぞろいって訳だ。壮観だな」
レアンのその言葉に口元を緩めて頷くと、俺はアルと視線を交わした。
「やるぞ、アル」
「うむ!」
「リル、それにクトゥグァとイタクァもいいな」
「うんっ!」
「共に戦おう、父上」
「我等が力、存分に」
その言葉に頷くと同時に、俺とアルは唇を重ねる。
全身に満ちるアルの魔力。そしてさらに重なるリルの魔力。
デュアル・マギウスとなった俺の両手の甲にクトゥグァとイタクァがそっと口付けると、2つの紋章が輝いて更なる魔力を俺に与えてくる。それは今まで感じたことのないほどに強大な魔力で……。
ふと気づくと、俺はいつものデュアル・マギウスとは異なった姿へと変わっていた。
いつもなら赤く変わる瞳の色が片目だけ。もう片方は青く変わっている。
まるで、クトゥグァとイタクァの瞳の色をそれぞれに受け継いだかのように。
そして両手の甲に浮かび上がった炎と風の紋章。
そこから溢れた炎と風雪が俺の腕を包んで、右手には炎のような模様が、左手には氷のような模様が浮かび上がった。
「これは……」
「クトゥグァとイタクァの力を受けたのか。なんとも凄まじい魔力だな……ん……な、何!?」
驚いた様子のアルの声と共に、その姿も変わる。
いつものちびアル状態から通常のサイズへ。そして、髪を結わえていたリボンが解け血に染まっていたドレスが弾け飛ぶと、すぐさま胸と腰周りを覆う黒のボディースーツが現れ、その上からフリルの無いタイプの青みがかった薄いグレーの服が身体を覆う。一見するとセーラー服のようにも見えるそれだが、肩はなく襟元は黒地に青い十字架模様のネクタイで締められ、そして腰の辺りからまるでマントのように広がっていて、その内側は赤く外側には炎のような斑模様が浮かび上がっていた。腹部が少し露出しているのがなんとも色っぽい。
両手とも黒のオープンフィンガーグローブが手首まで覆っていて、足元も黒のブーツに。
そしてリボンがアルの髪をポニーテールに纏めた。
戸惑いながら俺の側に並び立つアル。
なんだか、少し身長も伸びたような気がする。
最後に炎が軽く舞ってアルの唇を掠めて行くとまるで紅をさしたように薄く赤く染まった。
「これは……一体……これまでに無いほど、強大な力を感じる…」
「わぁ……ママ綺麗……」
俺の肩の上で、いつもと違うアルの様子に瞳を輝かせるリル。
こちらもちびリルにはなっているが、耳と尻尾は消えないままだ。
「どうやら、俺達また一段階レベルアップしたって訳らしいな」
「うむ……しかしこれは…」
驚きを隠せない様子のアル。
それは俺も同じ事で、戸惑いを隠せないまま呆然としていたが……。
「父上、あれを!」
クトゥグァの声に振り返ると、そこには妙な蒸気……いや、邪気を吹き上げるレイリーの姿が。
「なっ!?」
「何をするつもりだ!?」
戸惑う俺達にレイリーの狂笑が響き渡る。
それを見ていた俺達は、目の前の光景に絶句した。
延々と邪気を吹き上げ続けていたレイリーの身体が背中から音を立てて割れると、中から大量の気色の悪い虫のようなものが溢れてきたからだ。
その数、実に数百匹。
しかも出てきて数秒で巨大化している。
部屋中に蠢くその不気味な虫に姫さんと柘植は悲鳴を上げて俺達の所に逃げてくる。
恐怖と疲労で立てなくなっていたのも忘れてしまうほど不気味だったらしい。
アルとリルも顔を引きつらせているが、クトゥグァとイタクァは至って平然としていた……かと思ったんだが…。
「さすがだな、2人とも。こんなの見て平気でいられるなんて……」
「ふむ……この部屋、焼き尽くしてよいか、父上?」
「いや、凍結させて粉砕しよう。あんなものを生み出すものなどまとめて滅ぼさねば」
って、テンパってるよ、物凄く……。
「流石にそれは拙いだろうが。ミスカトニックを消滅させる気か?」
「しかし……」
クトゥグァがそう言った瞬間だった。
「パパ!!」
一斉に襲い掛かってくる虫。
バスケットボール位の大きさだが、見た目はゴキブリ以上にグロテスクだ。
それがどんどん増えているんだから、洒落にならない。
女性陣はほぼ戦闘不能、もしくはパニックを起こしていた。
まあ、それも当然だろう。こんなの、苦手な奴だったら男だって悲鳴上げて逃げ出すような代物だからな。
「く、くくくく、九郎さんっ!!」
「大っ、大十字君、何とかしてぇっ!!」
悲鳴を上げて俺の背後に隠れる姫さん達。リルも俺の肩の後ろに隠れている。
「ちっ、はあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
目の前まで迫った虫に向かい、俺の中に溢れてくる膨大な魔力を一気に編み上げ、放つ!
巻き起こった炎と風。それはとぐろを巻くように虫を飲み込むと一瞬で焼き尽くした。
「アル、リルと一緒に姫さん達を護ってくれ」
「えっ……?」
「今のお前なら、背中完璧に預けられるからな」
「だ、だが、汝……」
「少しは自分の夫を信頼しろって。ほら、リル。アルと一緒に居な」
「う、うん」
周囲に飛び交う虫の様子を恐々と見つめながらリルはアルの所に飛んでいき、その頭の上にちょこんと座った。
「こ、こらぁ、妾の頭の上に乗るでない!!」
「だってぇ、ママの肩だと滑って落っこちちゃうんだもん」
「くぅぅぅぅっ……ならば、肩口にしがみ付いておれば良かろう」
「は〜い」
そう言うと、リルはアルの肩にしっかとしがみ付いた。
「クトゥグァとイタクァは援護とレアンを頼む」
「承知した」
「父上はどうする?」
イタクァの問いに俺はレイリーを睨みつけると……。
「俺は大元を叩く! あいつだけは絶対に許しておけないからな!!」
「わかった。ん? 父上、あのフードの者達はどうする?」
そう言って指差す先を見ると、フード連中が今がチャンスとばかりに逃げ出そうとしていた。
どうやら姫さん達にやられて気絶していた奴等らしい。
「……状況が悪くなった途端に、逃げ出そうって訳だ。テメェら…」
「―――――――っ!?」
俺の言葉にそいつらの足が一斉に止まる。そして……泡を食ったように逃げ出そうとしたが……。
その行く手を、炎と氷の壁が遮る。
クトゥグァとイタクァの仕業のようだ。
止まれずにそのまま突っ込んだ数人が、炎に飛び込んだ方は一瞬で焼き尽くされて灰となり、氷に飛び込んだ方はそのまま凍り付いて一瞬ぴしりと亀裂が入ったかと思うと粉々に砕け散った。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」
悲鳴を上げてその場に崩れるフード連中。その時、そいつらのフードがまくれて顔が顕わになった。
「お前等……」
そいつらの顔には見覚えがあった。
かつて、レイリーが教授をやってた頃、陰秘学科でエリート扱いされてた奴等。
ただ、実力の方ははっきり言って最低ランクだったから、俺やアルの受け持つ講義には参加させなかったんだけど……それが今回の事の動機か……。
「まさか一時でも同じクラスで学んだ奴だったとはな。ちっ、反吐が出る」
レアンが吐き捨てるように言うと、奴等の顔に忌々しげな表情が浮かんだ。
こいつら、全く反省してないな……。
悪いとすら思ってる様子が無い。
「一応、聞いてやる。何の為にこんな事をした?」
返ってくる答えは予想が付いたが、念の為に聞いてやる。だが、俺は聞いたのを後悔した。
「お、お前が……お前が悪いんだ! このエリートの僕達を差し置いて、レアンや柘植みたいな凡人なんかばかり贔屓するから……」
「僕達は選ばれた存在なんだ!! その僕達を蔑ろにするお前なんて、罰を受けるのは当然じゃないか!!」
その言葉に、一番早く反応したのは姫さんだった。
「貴方達の何処が優れていると言うのです! 魔術において九郎さんに認めて貰えるほどの実力がある人はみんな九郎さんの講義を受けていますわ! 貴方達には九郎さんに教えてもらえるだけの才能もセンスも何も無いからではありませんか! 自分の能の無さを棚に上げて、何を恨みがましい事を!!」
「覇道さんの言う通りね。大体、自分が『エリート』だなんて言う人達が、本当にエリートだった事なんて見た事無いわよ。私達にこうもあっさりやられておいて、何が優秀なんだか」
姫さんに続くように言い放つ柘植の言葉。
さらに……。
「あんたたちがやった事って、もてないからってもてる人を襲ったり、その人の大切な人を傷つけて無理やり言う事聞かせて、自分の方がもてるんだ、正しいんだって言ってるのと同じじゃない。最低よ、魔術がどうこうじゃなく、人間としてあんた達、最低!」
「くぅ……っ……ぼ、僕達にこんな真似をしたら、どうなると思ってるんだ!! パパ達が黙っていないぞ!!」
「ほう……どうなるって言うんだ…?」
「僕のパパは弁護士なんだ! 僕が一言言えば、お前なんて社会的に抹殺できるんだぞ!!」
そう言って優越感に満ちた表情を浮かべる連中。
すでに俺の中ではこいつらに死刑宣告が下されていたが、もう少しだけ会話に付き合ってやる。
「それが、どうした?」
「な―――っ!?」
「大体、一言言えば……って。お前ら、ここから生きて帰れるなんて思ってたのか?」
俺の言葉に、連中の表情が凍りつく。
その時、数十匹の虫が一斉に襲い掛かってきたが、両手の紋章が輝くと同時に半数は燃え尽き、残る半数は氷の結晶と化して砕け散った。
「あれだけの事を……アルやリルをあんなにも苦しめ、傷つけたお前達を……俺が生かして帰すとでも、思っていたのか……?」
「ひ、ひぃっ!?」
「それに……私が許すと思いまして? 例え九郎さんが許しても、私の愛する九郎さんを傷つけた貴方達を、この私が許すとでも?」
「あ、あんたなんかが許すとか許さないとかそんな事……」
「関係あるさ。何しろ彼女こそ、このアーカムシティの支配者。覇道財閥総帥なんだからな」
「な―――――っ!?」
「この街じゃ彼女が法律。つ―訳で、姫さん。こいつらに与える判決は?」
「そうですわね……情状酌量の余地も無いですから、軽めに見ても死刑という事でよろしいのではありません?」
「だよな。さてと、何か言い残す事はあるか?」
右手に炎、左手に風雪を巻き起こしながら言う俺に、悲鳴を上げながら逃げ出す奴等。
「何も、無いみたいだな……」
吹きすさぶ風が周囲の虫を切り裂きながら凍結させて粉砕。
その後を追うように燃え盛る炎が虫を焼き尽くしながら奴等へと迫る。
「わ、わかった、謝る! 謝るから、命だけは……ひ、ひ、ひぃぃぃっ、ぎゃあああああああああっ!!」
最後の命乞いすら無視して、炎と氷が奴等の全てを破壊する。
悲鳴が収まったとき、そこには黒いすすのような跡と、僅かに煌めく氷の破片だけしか残ってはいなかった……。
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