斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大騒動』
by Sin
第3話
アルとリルを伴い、魔導図書館へと足を踏み入れた俺達。
扉が閉じると同時に、目の前には巨大な本棚がまるで壁のようにそそり立っていた。
「わぁぁぁぁっ♪ すごいすご〜〜い! お友達がいっぱいだ〜〜♪」
「リル! 勝手に先に行ってはならぬ! 汝一人では迷ってしまうぞ!!」
喜び勇んで駆け出していくリルを慌てて追いかけるアル。
「だってだって〜こんなにお友達がたくさんいるんだもん♪ あ、えへへ〜こんにちわ〜♪」
不意に、誰かに呼ばれたような様子で答えるリルの様子に、俺たちは首を傾げた。
「リル? 誰に挨拶してるんだ?」
「お友達だよ〜♪」
「……アル、誰か居るのか?」
「いや、特に魔力は感じぬが……漂っているのは棚にある魔導書からの魔力だけだがな……」
その瞬間、俺達は同じ結論に達する。
「リル……もしや、その友達とは……」
「ふぇ? うん、ここにいるみんなだよ〜♪」
リルがそう言った瞬間、周囲の魔導書から微かにではあるが、魔力が立ち昇った。
信じられないことだけど僅かな魔力しか持たず、肉の身体はおろか魂すら持っていない魔導書がリルの呼びかけに答えているらしい。
「…信じられぬ……この妾にもそのような真似は出来ぬぞ」
「俺にも無理だ。どうやらリルの特技らしいな」
顔を見合わせ、驚きを隠せない俺達。
その間にもリルは無数の魔導書達に話しかけ、楽しげに笑っている。
中には魔力の片鱗すら感じられないものに対しても、リルは平然と話をしているようだ。
そして話しかけられた魔導書は全て、今まで以上の魔力を放つようになっている……
いったい、これは……
「えっ? わぁ、そうなんだ〜」
「ん? どうしたのだ、リル?」
「えへへ、この子達がね、リルのパパがとっても凄い人だから、羨ましいだって♪」
「ほぅ……なかなかに言うではないか、それで? 妾の事はなんと言っておる?」
「昔は凄く怖かったけど、今は優しそうで好きだって〜♪ えへへ、なんだか嬉しいな〜♪」
満面の笑みで喜ぶリルに、苦笑を隠せないアル。
確かに、以前のアルは俺との再会だけを求めていたからな……。
俺がそんな事を思っていると、アルは少し頬を赤くして呟いた。
「仕方あるまい……妾には他の事を考える余裕など無かったのだから……」
「ああ、判ってるさ」
アルの事なら何だって判る。
あの時……テリオンとの最終決戦の後、疲れから眠りについてしまう直前……。
俺は、アルの事がまだ判っていなかった。
だから、あの後アルが俺をこの世界に戻し、自分一人だけが残ろうとしていた事にすら気づかなかった。
まったく…情けない事この上ない。
「九郎……」
「……俺は、もうお前を失いたくない。だから……お前の全てを知っていたいんだ……」
「それは妾とて同じ事だ。あの時は汝と離れる事よりも、汝を太陽の下に戻してやりたかった……だが…だが、もう今は無理だ。妾は…汝と過ごす温もりを知ってしまった。汝に抱かれる安らぎを知ってしまった。汝との愛の結晶をこの手に抱いてしまった……」
俺を見つめ、微かに浮かんだ涙をぐっと堪えてアルは微笑んで見せる。
そんな姿が堪らなく愛しくて、俺は強くその身体を抱きしめた。
「……少し、痛いぞ……九郎……」
「あ、悪ィ…つい…な」
そう言ってそっと手を緩めようとすると、アルは俺の手を止めて逆にしっかりと抱きついてくる。
「離さずともよい……いや、むしろ離さないでくれ……汝の温もり、もっと感じたい……」
「アル……」
「九郎……」
じっと見つめ合う俺達。
と、その時。背後から聞こえてくる話し声に思わず振り向いた俺達は、驚きを声を上げずにはいられなかった。
なにしろ、リルの周囲にある大量の魔導書がうっすらとまるで感情を表現するかのように様々な色の光を放っていたのだから……。
「リ、リル!? それは……」
「ふぇ? みんなとお話ししてるんだよ〜」
にこやかに答えるリルに同意するかのように、周囲の魔導書も光を放っている。
「……驚いたな…ここにある魔導書は、正直言って位階の低い……いや、最下層にいると言っても過言じゃないのに……」
「う、うむ、妾にもこのような真似、到底出来ぬ。九郎…妾達の娘は、どうやら我等が思っている以上に凄い子供なのやも知れぬな」
「ああ……」
顔を見合わせて苦笑する俺達。
それからしばらくの間、リルは魔導書達と話を楽しんでいたようだが、あまりここに居続ける訳にもいかないので残念そうなリルを連れてアーミティッジの爺さんを訪ねた。
魔導図書館の奥にある司書室。
爺さんはそこで一日の殆どを過ごしている。いや、と言うよりも殆ど住み着いているようなもんなんだが。
俺達が尋ねると、爺さんは嬉しそうに迎え入れてくれた。
「おぉ大十字、よう来たの。それにアル・アジフ殿も」
「久しぶりだな、爺さん」
「本当に久方ぶりじゃの。まったく…こちらから呼び出さねば、殆ど顔を出さん奴だ」
「はは……悪ィ」
溜息をつきながら言った爺さんに流石に返す言葉が無い。
最近は講師の仕事が入ったから司書の仕事も請けてなかったしな。
「達者で居ったか? アーミティッジ」
「お陰さまで。アル・アジフ殿もお元気そうで何より…ん?」
その時、爺さんの視線がアルの背後に隠れているリルの姿を見つけた。
リルも見つかった事に気づいたのか、慌てて俺の背後に隠れる。
「む? 大十字、その子は……?」
「ああ、ちょうどよかった。爺さんにこいつの事紹介しようと思って連れてきたんだ」
「わしに?」
首をかしげた爺さんの視線が再びリルを捕らえる。
それに気づいて、リルはまた慌てて顔を隠す。その様子に俺達は顔を見合わせて苦笑した。
「俺とアルの娘、リル・アジフだ。リル、ほら、爺さんに挨拶しな」
そう言ってそっと前に押してやる。
「え、えと、はじめましてっ、リル・アジフですっ!」
恥ずかしがりながら挨拶するその様子に、アーミティッジの爺さんは驚きを隠せない様子で目を丸くした。
「な、なんと、大十字とアル・アジフ殿の娘とな!?」
「ああ。正真正銘、俺達の娘だ」
「…覇道殿から大十字に子供ができたとは聞いておったが…」
「え? 姫さんが?」
「うむ。今朝方、所用で来られた時にな。この目で見るまでは流石に信じられんかった……」
そう言うと爺さんはそっと屈み込んでリルと目線の高さを合わせると優しくその頭を撫でる。
「あ……」
突然の事に戸惑うリルだったが、しばらく撫でられていると気持ちよさそうに目を細めて微笑んだ。
「リル・アジフ殿ですな。わしはアーミティッジ。ここの管理をしておる爺じゃ」
「アーミティッジ……おじいちゃん?」
「うむ、そうじゃ。ふふ、なにやら孫ができたような気分じゃの」
「爺さんは俺にとっても親代わりみたいなもんだから、似たようなもんじゃないか?」
「ふむ? ならば妾にとっても親のようなもの……という事か?」
「俺の嫁さんなんだからそうだろ?」
「……そう…だな。フフ、汝に妻であると言われるのは…やはり嬉しいものだ……」
そう言って頬を赤らめるアル。いつも言ってる事なんだけどな。
「よく口にする言葉だから、飽きる……などと言うことは無いぞ。妾にとって、最も嬉しい言葉なのだから」
「アル……」
「相変わらず仲が良いの、2人とも」
「当然」
「妾達以上に愛し合う者などこの世に居るものか」
「やれやれ、これは一本取られたのぅ」
苦笑する爺さんに、俺達も顔を見合わせて笑った。
「アル・アジフ殿によう似た、可愛い娘じゃな」
「へへ、まぁな。俺もすっかり親バカになっちまってるよ」
「それを言うならば、妾も同様だ。娘の一挙一動が気になって敵わぬぞ」
俺達がそう言って笑うと、リルは少し恥ずかしそうに頬を染めてはにかむ。
「それにしても良かったのう、大十字。前々からアル・アジフ殿との間に子供が欲しいと言っておったのだ。夢が叶ったではないか」
「ああ、アルが苦しい思いしても頑張ってくれたからな」
「汝の想いがあったればこそだ。九郎が妾をこれほどまでに愛してくれねば、こんな奇跡は起こりようも無かったのだからな。いや、かつての戦いすら、乗り越える事は敵わなかったであろうて」
リルを抱きしめて微笑むアル。
そんなアルの表情が愛しくて、俺は2人をしっかりと抱きしめた。
それから一時間ほど過ぎて……
すっかり爺さんと打ち解けたリルは、楽しそうに色々な話を聞いている。
この場所自体もかなり気に入った様子で、時折爺さんと魔導書達の会話を橋渡ししていた。
「そろそろ時間だな、九郎」
「ああ。リル、俺達はそろそろ仕事に行くけど、どうする? 一緒に来るか?」
「えっ? う〜〜〜ん……もう少し、みんなとお話したい」
「じゃあ、仕事が終わったら迎えに来るから、ここでおとなしく待ってな」
「はぁい♪」
「アーミティッジ、すまぬがリルの事を頼むぞ」
「承知いたしました、アル・アジフ殿」
「じゃ、行ってくるよ」
「なるべく早く戻る」
「は〜い、いってらっしゃ〜い♪」
大きく手を振って俺達を見送るリル。
「こうやって、子供というのは少しずつ親から離れていくものなのだな……」
その姿が見えなくなった頃、ちょっと寂しそうに呟くアルの肩をそっと抱きしめた。
「これも子供の成長って奴さ。いつかはお互いに親離れ、子離れしなくちゃいけない。だけど、今は俺達が守ってやらないとな」
そう言って苦笑する俺に、アルも頷いて微笑んだ。
魔導図書館を出て教室等へと向かう途中……
「…なぁ、アル?」
「どうした?」
「なんだか……妙な気配がしないか?」
何故だろう。
魔導図書館を出た辺りから、変な視線が付きまとっている気がする。
「気配? ふむ……特に何も感じぬが……」
「……なんとなく、嫌な予感がする。講義が終わったら、なるべく早くリルを迎えに来よう」
「何も無いとは思うが……汝の直感は時に妾の理解を超えておるからな……気をつけておこう」
「ああ」
得体の知れない不安を感じながら俺達が教室等へ入っていった頃――。
「ククク……ちょうどいい…奴等の居ない今ならば……」
狂ったような笑い声とともに、魔導図書館の扉の近くに身を潜めていた影が動きはじめていた……
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