斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大騒動』
by Sin


第2話
 何とか遅刻せずに済んだ俺達だったが、ギリギリのタイミングだ。
 流石に教室にまでリルを連れて行くのは躊躇われたが、アーミティッジの爺さんに預かってもらうにしても時間がなく、不安な気持ちを押し隠しながら俺達はリルと共に教室へと入る。
 そして待っていたのは……
 
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 一斉に取り囲まれる俺達。
 その勢いに驚きはしたが、入る前にも一度経験しているから少しは慣れたらしくリルも泣き出しそうな顔はしていない。
 だが、どうしていいのか判らず、戸惑った様子で俺を見つめてくる。
 
「大丈夫だよ、リル」
「パパぁ……」
 ギュッと俺の脚にしがみつくリル。
 その様子さえも女の子達にはたまらないらしく、身悶えして歓声を上げていた。
 
「うわぁぁっ、アルちゃんそっくり! ほんとに2人の子供なんだ……はぁぁ……ほんとに可愛い……」
「はうぅぅ……ああん、もう、なんでこんなに可愛いの〜〜〜」

 そして、そんな女性達に対して、男達は……
 
「大十字……」
「……? ぅおっ!?」
 地底から響くような声で呼びかけられて振り返った俺は、目の当たりにした光景に思わず後ずさった。
 そこにあったのは……
 
「羨ましい……羨ましすぎるぞ……大十字……」
「なんでお前ばかりこんなに…」
「ああ……俺だって……俺だって幸せになりたい……」

 僻み、妬み、嫉妬……
 溢れんばかりの負の思いがまるで怨霊呪弾のように押し寄せてくる。
 
 と、その時だ。
 
「何情けないことやってんだよ、お前ら」
「だ、だけどさぁ……」
「九郎を僻んだって、お前らがもてるようになるわけじゃないだろ? 大体、そんなことやってるからもてないんだろうが。僻んだり妬んだりしてる暇があるなら、少しは自分を磨けよ、お前ら」
 そう言い放ったのは、クラスメイトのレアン。
 スタイル抜群な金髪青眼で老若関係なく女性に圧倒的な人気を誇る。
 でも、性格も良いから男ともうまく友達付き合いのできる、すごい奴なんだよな……
 ちなみに、俺とはミスカトニックに入学したときからの付き合いだ。
 大学を辞めてた間は疎遠にしてしまっていたけど、あいつ俺が復学したのをアーミティッジの爺さん以上に喜んでくれたっけな……
 
「九郎、おめでとう。とても可愛い娘さんだな。あいつらにはああ言ったけど正直俺も羨ましいよ」
「レアン……お前にそう言われると、なんだか照れくさいな」
 頬を掻きながら言って、俺達は顔を見合わせて笑う。
 
「それはともかく……とりあえずみんなに紹介した方が良いんじゃないか?」
「ああ、そうだな。じゃあ……リルのこと紹介するから、とりあえず全員座ってくれ!」

 その俺の言葉に、リルから離れ辛そうにしていた女子達も、しぶしぶ自分の席に戻っていった。
 
「それじゃあ、紹介するよ。俺とアルの娘、リル・アジフ。リルって呼んでやってくれ」
 俺がそう言うと同時に、辺りから「りるちゃ〜ん♪」などという声が上がる。
 照れくさそうに俺の後ろに隠れてもじもじしていたリルだったが、アルにそっと背中を押されて前に出た。
 
「ほら、リル。ちゃんと挨拶せねばな」
「う、うん……えっと……はじめまして…リル・アジフですっ」
 そう言って振り返ると、不安げにアルを見つめる。

「うむ、よく出来たぞ、リル」
 微笑みながらアルにそう言われて、ようやく安心したのかリルも笑顔を浮かべた。
 
「それにしても大十字君」
「なんだ?」
「こんなに大きな子供がいるなんて……初めてアルちゃんを連れて来たとき、もうあの時にはリルちゃんが居たんでしょう? 私達の事、騙してたの?」
「そう言えば……」
 周囲からのざわめきに、俺は思わず苦笑する。
 確かに普通ならこんなに大きな子供が、まだ生まれて一年も経っていないとは思わないだろう。
 
「リルは、魔術師の俺と魔導書の精霊、アルの娘だぞ? 普通の常識で考えられないって」
「どういうこと?」
「前にアルを連れて来た時には、本当にリルはまだ生まれていなかったって事さ」
「え………っ?」
 戸惑うような周囲の視線。
 まあ、それも仕方ないか。
 
「リルはまだ生まれて一年も経っておらぬ。以前、西地区11番街が全滅した事があったであろう? あの頃にリルは生まれたのだ」
 アルの説明に、それでも戸惑いの色を隠せない様子だ。
 
「リルは元々、俺が魔力と想いを込めて書いたアルの写本だったんだけど、そこにアルから受けた魂の欠片を得て生まれたんだ」
「魂の欠片?」
「九郎の書いた写本を妾が手に取った瞬間、写本が突然バラバラになって妾の中へと入り込んだのだ……そして…」
 そこまで言って、アルは急に顔を赤らめる。
「アル……ちゃん?」
「……妾は…それからすぐ……身篭った……」

 その言葉に、ざわめきが大きくなった。
 
「これは妾の推測なのだが…元々、魔導書である妾には汝等のように人の元となる物を作り出す術を持たぬ。だが、我が身に取り込まれた写本がその卵の役割を果たし……妾の胎内に残されていた……その……九郎の……」
 耳まで真っ赤になりながら呟くように話すアルの姿に何を言いたいのかほぼ全員が判ったらしく、女子達は例外なく顔を赤く染め、男達は顔を赤くする者、やや興奮気味な者、俺のほうをニヤニヤと見つめてくる者など色々……

 そして……

「妾の胎内でそれらが結びつき、妾の魔力と九郎の魔力、それに妾が持つ精霊としての魂の欠片、それが合わさってリルとして生まれたのだと思う」
 恥ずかしそうに、少し視線をみんなから逸らしながら話し終えたアルに質問の声が上がる。

「1つ、聞いてもいい?」
「む? なんだ?」
「……痛かった…?」
「ふむ?」
「その……産む時……」
「ああ…そうだな、妾もあれほどの痛みを味わったのは初めてだった。産みの苦しみ……汝等とは違う形ではあるし、期間も身篭ってから数時間だったが……苦しみぬいて産んだゆえに、これほどにまで愛せるのやも知れぬな」
 そう言ってリルを優しく抱きしめるアル。
 俺がその肩にそっと手を置くと、少し照れくさそうに微笑んだ。

「それじゃあ、アルちゃんは……妊娠して、その日の内にリルちゃんを産んだの?」
「うむ。時間にして数時間。だが、その間は生半可では済まぬ痛みに耐えねばならなかったが……」
「そ、そりゃあ……ねぇ……」
「普通なら10ヶ月以上かけてする事を、数時間で一気にしちゃったんだもの……私達は時間をかけてゆっくり身体を慣らしていくんだろうけど……」
「慣らす暇など無かったからな。だが……」
「えっ?」
 頬を赤らめて視線を彷徨わせるアルに戸惑うクラスメイト達だったが……

「九郎が……居てくれたから……」
 その瞬間、みんなの視線は一斉に俺に向けられた。
「な、なんだよ、そんなに見つめるなって」
「大十字君が居てくれたから……かぁ……いいなぁ、私もそう言える相手が欲しい……」
「ほんとに、君達の関係が羨ましいよ。九郎」
 周囲から上がった羨望の言葉に、俺達はなんとなく照れくさくなって顔を見合わせながら苦笑するしかなかった。

 余談だが、この日の講義がまったく進まなかったのは言うまでもない。


 そして、講義の終わった後……
 俺達はリルを連れてアーミティッジの爺さんを訪ねた。
 リルを今後も連れてくる際、爺さんに預かってもらわないといけなくなるときもあるだろうから、とりあえず顔見せだけでもと思ったからだ。

 魔導図書館に近づくにつれ、リルの様子が変わってきたように見える。
 妙に浮き足立って、手を離したら今にも走り出しそうなほど。

「ねぇ、パパ?」
「ん?」
「この向こうに……何があるの? なんだかリル…楽しくなってきちゃった♪」
「魔導図書館だけど…楽しく……?」
「なんだかね、すっごくたくさんのお友達に会えるような……そんな感じ♪」
「……ひょっとして…」
「リルは、魔導図書館にある無数の魔導書の魔力を感じておるのやも知れぬな」
「そんな事、あるのか? あそこは厳重な結界で囲まれてるから、魔力が漏れてくる事なんてないはずなんだけど…」
「それは妾にも判らぬ。リルは妾と汝の娘だからな。想像もつかぬような力を秘めていてもおかしくはない。そうであろう?」
 かすかに微笑んでそう言うアルに、俺は苦笑しながら頷いた。

「そうだな。何しろ俺達の娘だ。生まれて間もない戦いであれだけ凄いことの出来るリルなら、どんな力を秘めていたって不思議じゃないよな」
「そう言うことだ。あっ、こらリル!」
「もう待てないよ〜! パパ、ママ、早く早く〜!」
「仕方のない子だ……ふふっ、仕方ない、九郎。急ぐとしようか」
「応よ」
 そう言って、俺達は笑いながらリルの後を追う。
 やがて……
 魔導図書館の巨大な扉が目の前に広がった。

「わぁぁ、でっかい扉〜♪」
「ほら、リル。扉を開けるから少し離れて」
「は〜い♪」
 リルがまるでスキップでもするかのような足取りで扉から離れると、俺はそっと手を扉に触れさせて開扉の呪を唱えた。
 この呪によって、閲覧可能なところまでの通路が開かれる仕組みになっている。
 前に、レイリー教授によって魔導書『ネクロノミコン新釈』が盗まれた後、俺とアルとアーミティッジの爺さんで相談して作り上げた魔術的セキュリティなんだ。

 そして……ゆっくりと扉が開かれた。

「あはっ、開いた〜♪」
「ほら行くぞ、リル」
「は〜い♪」

 俺達が通り抜けると、扉は再びゆっくりと閉ざされる。
 だが、俺達は気づいていなかった。

 閉ざされた扉の向こう……廊下の影に潜む怪しい影の存在に……


「クククク……大十字とネクロノミコンの娘……か……使える……使えるぞ……クク……クククク……」




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