斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大混乱』
by Sin
第4話
響き渡る絶叫。
魔術の暴走によって堕ちていた教授だったが、俺が魔導書の制御を奪い取ると同時に人としての姿を取り戻し、同時に今まで感じていなかった痛みもまた蘇ったみたいだ。
「お、おい、大十字……」
「大丈夫だよ、爺さん。痛がってるだけで、命に問題はねぇ。それより……」
「あ、ああ。この勝負、大十字九郎の勝ちとする!」
アーミティッジの爺さんがそう宣言すると共に、周囲から一斉に歓声が上がった。
「お疲れロボ、ダーリン」
「ふん、こんな自称天才の凡人以下の者に此程までに手こずるとは、なっていないのである」
「うるせーよ。まさかいきなり堕ちるなんて思ってなかっただけだ。大体、お前自体が『自称』天才だろうが」
「い〜〜〜やっ、吾輩こそ、大ッ、天ッ、才ッ! ドクタァァァァッ! ウェェェェェェェェェェェェェストォォォッ!! なのであ〜〜る!! そんじゃそこらに転がっているどこぞの凡人眼鏡と一緒にされては困るのであ〜〜る!」
絶叫しつつギターを掻き鳴らすウェスト。
「喧しいからやめれ。と言うか、話が進まんからとっとと消えろ」
「な、な、な、ぬわぁぁにぃぃぃぃぃぃっっ!! この吾輩をこうも邪険に扱うとは……はっ、まさかこれは…好きな子だからこそいじめたくなると言う少年時代特有の愛情表現っ!?」
「おぞましい事を顔を赤らめてほざいてんじゃねぇぞ、この変態野郎がぁッ!!」
言葉と同時にマギウスウィングでしばき倒す。
「ぬぉぉぁぁぁぁぁぁっ!? な…殴ったね? 親父にも殴られた事ないのにっ!! この怒りをぶつけるのはぁぁっ!! うぉぉぉぉぉぉぉっ、俺の歌を聴けぇぇぇぇっっであるっ!!」
「喧しいっ! 版権コードに引っかかりそうな台詞連発してんじゃねぇっ!!」
「騒音公害甚だしいな」
「博士、五月蠅いロボ」
その言葉と共にエルザはトンファーをフルスイング。
真芯で捉えられたウェストの身体は玩具のようにすっ飛ばされていく。
「エ、エェェェェルゥゥゥゥザァァァァァァァァァッ!!」
「さて、お邪魔虫は消えたロボ。それじゃダーリン、エルザとひと夏のアバンチュールをいざいざぁぁっ!」
「汝も吹き飛べっ!!」
俺に抱きついてこようとするエルザに炸裂するアルの魔術。
「ロ、ロ〜〜〜〜〜〜ボ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
ウェストに続いてお星様になったエルザを見送って、俺は思いっきり大きな溜息をついた。
なんだか余計に疲れた気がするぞ……
「まったく…やれやれ…だな」
そう言いつつマギウススタイルを解除する。
元の姿に戻ったアルが俺の傍にそっと寄り添って微笑んだ。
「汝にとっては朝飯前であろうに。だが、まあ……これで一段落……っ!?」
その時だった。
今まで痛みに藻掻いていた教授が突然背後からアルに襲いかかり、羽交い締めにして隠し持っていたナイフを突きつけた。
「ひ、ひひひっ! わ、私は天才なのだ! その天才の私が、貴様なんぞに負けるわけがない……」
「なっ!?」
「テ、テメェっ!」
「ち、近寄るな! この化け物め!! き、貴様は人間じゃない! そうに決まってる!! そうでなければ、私が、この私が……」
「なんだ、自分で分かってるじゃねぇか……テメェの負けだ。分かってるならさっさとアルを離しやがれ。さもねぇと……」
「五月蠅いっ! た、立場を弁えろ、大十字! い、今の貴様がこの真のマスター・オブ・ネクロノミコンとなった私に敵うとでも思っているのか!!」
……どうやら、アルが側にいれば力を自由に使えるとでも思ってるみたいだな。
だけど……
「誰が汝如きを主と認めるか。このうつけが」
「なっ、なんだと!?」
「妾の主は、大十字九郎だ。汝のような絞りかす如きが妾の主を名乗るなど、片腹痛いわ!」
「だ、黙れッ!! さ、さあ、さっさとさっきのように私に力を与えろ!! そうでなければ!!」
「――っ!?」
「アルッ!!」
飛び散る鮮血。
レイリーの野郎……アルの腕にナイフを突き立てやがった!
「生意気にも血が出るのか。魔導書如きの分際で」
「くっ……うぅ……」
「ふん、たかが魔導書のページに傷が付いただけの事だろうが!」
「き、貴様ぁぁぁぁぁっ!!」
キレた。
完璧に、完全に、問答無用に、キレた。
全身を走る魔力。
本来なら、アルを介して使うべき力を俺自身の魔力のみで振るう。
「く、九郎……?」
「風に乗りて来たれ……」
その瞬間、途轍もない魔力が俺の身体を蝕み、あちこちの毛細血管が破裂して至る所から血を吹き出させる。
「よ、よせ九郎!! そんな事をすれば汝の身体が!!」
「力を与えよ……力を与えよ……力を与えよ…………顕現せよ……イタクァ!!」
弾ける魔力が俺の額を割った瞬間、俺の左手に回転式拳銃、イタクァが顕現した。
流れる血に視界を赤く染めながら俺は強くそのグリップを握りしめる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「ば、馬鹿な!! それ程の物質を魔導書無しに召還しただと!?」
「アルを傷つけた罪……万死に値する!!」
「っっっっっ!?」
怯えた様子を見せる教授に向かってイタクァを構えると、教授はアルを盾にして引きつった笑いを見せる。
だが……俺は躊躇無く引き金を引いた。
「テメェのやった事…あの世で後悔しろ!!」
連続して瞬くマズルフラッシュ。
その弾丸は青白い閃光を後に残し、不可思議な軌道を通ってアルを回避。
「なっ!?」
「く、九郎……汝……」
そして驚愕する教授の腕、足、そして腹を貫いた。
「ぐ………ぁ………?」
急激に力の抜けた教授の腕からアルが抜け出して俺の元に駆け寄ってくる。
「九郎!? なんであんな無茶をする!! 妾の力無しで旧支配者の力を御するなど、無茶にも程がある!!」
「………………く……っ……」
「無理をするな……ほら、妾の肩に掴まれ」
「アル……怪我は……」
「心配要らぬ。多少痛むが、この程度ならじきに治るわ。それよりも汝の方が……」
全身から血を流す俺の事をしきりに心配するアル。
「悪ィな、俺が油断したばっかりにお前に怪我させちまった」
「何を言う。妾こそあんな輩に捕らわれるとは油断が過ぎた……その為に汝にこんな傷を……すまぬ……」
互いに心配し合う俺達だったが、不意に背後から声を掛けられて振り返った。
「大十字、盛り上がっているところをすまぬが……」
「なんだよ…爺さん……」
「どうかしたのか、アーミティッジ?」
「………レイリー教授は……これはどうしたものかのう……?」
そう言う爺さんの言葉に足下に転がる物体に目を向けると……
両手両足は完全に凍り付き、もはや解凍不可能。腹に当たった弾丸はどうやら当たり損ねて小さな傷を残したに留まったようだ。
その状態でイモムシのように這い回りながら呻いている教授に俺は……
「アル、力を借りるぞ」
「む? うむ」
「クトゥグァ!」
今度はアルの力を借りて召還したクトゥグァを、転げ回る教授の額にピタリと合わせた。
「ひ、ひぃぃっ!?」
「大十字!? 真逆……!!」
「レイリー教授……これが最後のチャンスだ……」
押しつけられる銃口の感触に、教授の顔が恐怖に引きつる。
「負けを……認めろ」
引き金に指をかける。
くしゃみ1つでもすれば、その瞬間に教授の頭はクトゥグァの炎に粉砕され、焼き尽くされるだろう。
教授にもそれが分かったのか、ガタガタと震え、口を利く事すらもままならない。
「5……4……3……2……1………ゼ……」
「ひぃぃぃっ、わ、分かった、わ、私の負けだっ!! だ、だから銃を……銃を降ろしてくれっ!!」
悲鳴を上げながらそう言った教授だったが……
「悪ィな、タイムオーバーだ」
「な…………っ!?」
「言っただろ? あの世で後悔しろってな!!」
連続で響く爆音に爺さんや周りの奴等が目を背ける。
そして教授の『周囲』で弾ける炎。
やがて銃声が治まると、爺さん達は恐る恐るこちらを見て……
驚きに目を見開いた。
「あ、あひ……ひ……ひぃ……ぃ………」
クトゥグァの衝撃に完全に正気を失ってはいたが……
教授は吹き飛んではいなかった。
逆にその熱量でイタクァによって凍結していた傷はすっかり解凍されている。
「し、死んでおらんのか!?」
「ギリギリで外してやったからな」
「……九郎…」
「これで良いんだろ……?」
「……ふふっ……ああ、それでこそ我が夫だ」
そう言って微笑むとアルは俺の胸にそっと頬を寄せた。
「汝が我が夫である事……妾は何よりも誇りに思うぞ」
「へへ……さてと…爺さん、悪いけどこいつの後始末は頼むよ。正直、これ以上こいつの顔見てたら、今度こそ本気でぶっ殺してしまいそうだ」
「う、うむ、わかった……」
爺さんの答えに頷きを返すと、俺はアルを抱き寄せてみんなに宣言した。
「とりあえず、これでこの勝負は終わりだ。みんなも聞きたい事とか山ほどあるだろうけど、俺もこんな状態だからさ。また今度……って事で」
俺の言葉に周囲からはしばらくざわめきが続いていたが、やがて……
「わかった。それにしても……大丈夫か?」
「なんとかな。まあ、とりあえず帰ってゆっくり休むさ」
苦笑しながらそう言う俺に、みんなは概ね好意的な様子で接してくれる。
まあ、中には完全にびびっちまってる奴もいるけどな……
「それじゃ……アル、マギウススタイルで帰るとするか」
「ああ」
少し心配気に俺を見つめながらそっと唇を交わす、アル。
黒のボディースーツが俺の全身を包み、マギウスになった俺は肩に乗ったアルに微笑みかけると翼を翻して舞い上がる。
だがその途端、無理な召還の影響が俺の身体を苛んだ。
「くっ……そ、そんじゃ、お先!」
全身を襲う痛みを堪えながらみんなにそう言って、俺は挨拶も早々にその場を飛び去った。
「九郎……大丈夫か?」
「あ、ああ、なんとか……な」
必死に痛みを堪えながら、ようやくの思いで事務所に辿り着いた俺は、マギウススタイルを解除する間もなく床に倒れ込んでしまった。
「九郎っ!?」
一瞬で元の姿に戻ったアルが、慌てて俺の身体に縋り付く。
「く……うぅっ……やっぱりアルの助け無しにイタクァ召還は流石にきついな……」
「当然だ、うつけが! 人の身で旧支配者の力を召還するなど、無茶にも程がある!」
そう言いながらも、アルはそっと俺の頭を抱き上げて自分の膝の上に載せてくれた。
「………サンキュ」
俺の言葉に、アルは答えを返してこない……
そのまましばらく、重い沈黙が辺りを包んでいた。
だが、やがて……
「汝は……どこまで妾を心配させれば気が済むのだ……」
アルが呟くように言ったその時、不意に俺の頬にこぼれ落ちる滴り。
「………く……ぅっ………ぅぁ……ひっく……」
「アル……」
泣いていた。
込み上げてくるものを必死に堪えようとしながら、どうしても堪えきれないままに、アルが……泣いていた……
「いつも……汝は妾を心配させる……こんなに……泣きたくなど……無いのに……」
「……ごめん…な」
そっと抱きしめる。
心の底からの想いと…
アルへの愛を目一杯に込めて……
そして、あれから一月後……
「魔術を操る上で大切なのは集中力だ。ほらそこ! 折角妾が教えに来ておるのだ。もう少し真面目にやらぬか!」
傷も癒え、再び大学に通い始めた俺は普段は学生として授業を受けながら、週に数回、アルと一緒に魔術の講師をやるようになっていた。
初めこそ俺が講師をやる事にいい顔をしなかった他の教授達も、今では逆に俺達の講義を受けに来るようになっている。
いつしか俺達は、ミスカトニックの名物になってしまっていた。
それは別に構わない。ただ……
「ねぇねぇ、アルちゃん。またあの可愛いのやってよ〜」
「頼む、大十字! アルさんに是非ともモデルを……」
「大十字君! お願い、私専属の家庭教師に……」
………なんだか、違う人気の方が高まっている気がするぞ……
思わず嫌な汗を掻きながら囲みから逃げ出す俺達。
なんだか毎日が大騒ぎだ。
そしてもちろん、あいつらも……
「ダ〜リ〜〜〜〜ン♪ 今日こそエルザと一夜のアバンチュ〜ルをいざいざロボ〜〜」
「うををおををぅ! 大十字九郎! 此処で会ったが半日ぶり〜♪ 今日こそは貴様に吠え面かかせてやるのであ〜る!」
「無駄に元気だな、お前等」
「まったく……大概にせんか、このうつけ共がぁぁっ!!」
閃光と爆音が響き渡る毎日。
平穏無事……ってのは程遠いが……
「九郎?」
じっと見つめていたらアルが不思議そうに俺を見つめてくる。
「そ、そう見つめるでない……照れるではないか……」
頬を赤らめてはにかむ。
そんな姿に惹き付けられて思わずKiss…
「――っ!?」
「へへ……」
真っ赤になったアルの肩をそっと抱き寄せて笑う。
「賑やかすぎるかも知れないけど……こんな生活も……」
「うむ…悪くない……まあ…汝と一緒ならば、どんな生活であろうとも妾は幸せなのだぞ?」
「ああ、わかってる。それに……俺もそうだからな」
「ふふ……九郎…」
俺の腕の中でじっと見つめてくるアル。
その瞼が微笑みと共にゆっくりと閉ざされて……
「愛して……おるぞ……」
もう一度……2人の唇が重なった……
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