−歌パロShort story−
そして僕にできるコト
by Sin
高校時代、僕は一人の女の子と付き合っていた。
今思えば、人気者だった彼女がどうして僕みたいなのと付き合ってくれたのか…不思議でしょうがない。
それでも……
僕は……彼女が好きだった……
でも…ちょっとした擦れ違いで、気まずい関係になったまま僕達は高校を卒業……
あれっきり、なんの連絡も取れないまま5年もの年月が過ぎてしまった……
一浪しながらもなんとか大学を卒業した頃、ポストに入っていた同窓会の案内……
それが……
新しい物語の始まりだった……
懐かしい面々と顔を合わせて笑い合っていたその時……
「………八木沢君…」
一瞬、心臓が止まった。
「天海……」
同窓会の後、海岸通りを並んで歩く僕と天海。
なにも言葉はなく、潮騒の音だけが響いている…
「5年ぶり……だよね……」
海岸の岩に腰掛けて、ようやく天海が口を開いた。
「ああ……5年……か……」
打ち寄せる波の飛沫を見つめながら、過ぎ去ってしまった年月の長さを思い返す。
「ずっと……後悔してた……」
「え……?」
「あの日……八木沢君を信じられなかった事……」
「誤解されるような事をしていた僕が悪いんだ……天海の所為じゃない……」
僕の言葉に、天海は俯いたまま何も答えない。
5年前のあの日、僕は同じクラスの女子と一緒に買い物をしていた。
目的は、天海への誕生日プレゼントを一緒に選んで貰う為。彼女は天海の親友だったから、きっといいものを選んでくれる……そう思って……
だけど……
その途中を天海に見つかって、誤解されて……
「ただ……」
「えっ……?」
「今、君がもしも悲しんでるなら…一緒に泣いてあげるよ……」
「八木沢……君?」
不思議そうに僕を見つめる天海。
あの頃は言えなかった言葉を……今なら……
「離れてから……気づいたんだ……当たり前なんだけど……凄く大事な事……」
「大事な……事?」
「天海の事が好きだったから……みじめな事言えないなんて……かっこつけてただけだったんだよ……」
思わず見上げる空。
一面の星の輝きがやけに眩しい。
「天海が悲しい時には一緒に泣いてあげたい。嬉しい顔をしてくれたなら微笑んであげたい。道に迷ったなら一緒に悩んであげたい……ずっと、そう思っていたのに……」
「……そんなの……私だって一緒……本当は……ずっと甘えたかった…ワガママ言ったり……拗ねてみたり……そんな風に…八木沢君に甘えたかったの……でも…」
じっと見つめ合う。
身を乗り出したお互いの手が触れて、慌てて離れた。
「付き合ってたのに……私達、手を繋いだりする事も無かったよね……」
「照れくさかったんだよな……でも…だから……」
「だから……?」
「なんて事無い事で、不安になって……疑いたくなんて無いのに、心の中に渦を巻いて……信じたくても苦しくなってた……」
「うん……」
「でもさ……」
「えっ?」
「今なら……わかるんだ……」
「わかるって…何が?」
「……本当は、伝えたい思いを探していただけなんだって……」
「八木沢君……」
岩に置かれた天海の手に、そっと僕の手を重ねる。
驚いたように見つめてくるその瞳に微笑みかけると、少しだけ強く天海の手を握った。
「今の僕の手には、誇れるものなんて何もないけど……君の側にずっといたい」
「――っ!」
「もし、君がもう幸せを掴んでいるなら……僕はそれを無くさないように願うけど……」
「そんな、そんな事無い! 私だって……私だって八木沢君の側に――」
もう、我慢できなかった。
涙ぐむ天海の身体を、いきなり抱きしめる。
「それなら……僕は君をこうして抱きしめていたい……僕の持ってる温もりと優しさ……全部君にあげたいんだ……」
「八木沢君――っ!!」
涙を零しながら僕にしっかりと抱きついてくる天海。
「これからは……いつだっていい……悲しい時にも……嬉しい時にも……迷った時にも……みんな僕に言って……」
腕の中で、天海は顔を真っ赤に染めて頷く。
「その時には…一緒に泣いたり…笑ったり…悩んだりしてあげるから……」
「私…もっと甘えても…良いんだよね……? もっと……手を繋いだり……抱きついたりしても……良いんだよね?」
「ああ……もちろんだよ」
「………じゃあ……キス………とか……しても……いいの……かな?」
耳まで真っ赤になって見つめてくる天海に、僕も赤くなりながら頷いた。
付き合っていたあの頃からずっと忘れていた、僕に出来る何よりも大切な言葉……
それは……
「天海……」
「……ん?」
「………愛してる」
僕の言葉に天海は大きく目を見開いていたが、やがて瞳に涙を浮かべながら……
「私も……愛してる……」
そっと閉ざされる瞳。
こぼれ落ちた涙をそっと拭って……
僕達は初めてのキスを交わした……