−歌パロShort story− ロード全章SS
第7章【ロード〜7/13】
by Sin
悠子の部屋で、何気なくアルバムを眺める俺の目が、1枚のチケットを見つけた。
「これ…彼奴のライブ……」
思い出すあの日の事…
それは、初めて悠子の涙を見た日だった。
小さなライブハウス…今では思い出の場所になってしまったけれど……
そこで歌う、グリースで髪をかためた彼奴の歌に悠子は感動して涙を零した。
照れくさげに笑いながら、「歌でこんなに感動したの初めて」と言ってた君の姿に、なんとなく嫉妬して「そうだな…」なんて、ふて腐れた顔で言ってた俺。
そんな俺に悠子は苦笑して、「もちろん、貴方に出会えた事が一番だけどね」
そう言って身体を寄り添わせた。
「死ぬまで歌い続ける」
ステージ上で言った彼奴の言葉に、悠子は「いつも2人で見たいから、ファンでいようね」そう呟く。
頷く俺に、君は「死ぬまでだよいいね…」そう、何度も言っていた。
思い出すあの日…
何でもない事なのに、今思い出すととても幸せだった事に気付く。
大したことなんて何もない…そんな夜だったけれど…
その幸せには…二度とは戻れない……
あの夜から5年が過ぎて…
俺はまたあのライブハウスへと来ていた。
あの頃はまだ人気もなくて、客も俺達の他に数人しかいなかったのに、今ではライブハウスから溢れんばかりの客で賑わっていた。
楽屋を訪ねた俺を、彼奴はあの頃よりもずっと落ち着いた雰囲気で迎える。
以前とは比べ物にならないくらいに売れているというのに、彼奴はあの頃と変わらないまっすぐな瞳で笑っていた。
嬉しそうに昔の事を話す彼奴に君の事を訪ねられてあの夜の事を話すと、彼奴は君の為に歌うと言って涙を零した。
客席で見つめる俺。
歌い続ける彼奴の姿に、昔の思い出が浮かんでは消える。
君の為のバラード…
雪が降るようなメロディーを2人で聞きたかった…君に、聞かせたかった…
ライブの後…俺は1人、帰り道を歩く。
ふと見上げた夜空に輝く星の光。
その中に見つけた、俺達だけの合図。
それは土の中に眠る君とあの夜に交わした約束…
君がそこにいるんだと知って、俺は彼奴の歌を歌って聞かせる。
何でもないような事が幸せだったと思う。
何でもない夜の事、二度とは戻れない夜…
その歌は溢れてくる涙と一緒に、夜空に溶けて悠子の元へと流れていった…