−Short story−
からっぽのグラスの中で
by Sin
風が、俺達の間を吹き抜けていく。
夏美とつきあい始めて、もう3年になるけど・・いまだに俺達の間には
遠慮がつきまとっていた・・
こうして手を握って歩くだけでもどれだけかかったか・・
「ねえ、どうしたの?」
ボンヤリと考え事をしながら歩く俺に、夏美が声をかけてきた。
いつもの事だが・・これだけ近距離まで顔を近づけてくるのに・・
どうしてキスの一つもできないんだろう・・
そんな事を考えながら、覗き込んでいる夏美の頬を突っついた。
「もぉ、昇平くんっ! こんなに可愛い子が隣にいるってのに、ぼーっと
してちゃダメじゃない」
そう言って、ぷーっと頬をふくらます夏美。
ホント、こうしてると可愛いよな、こいつ。
もう、どれだけ繰り返しただろう・・2人で出かけて、帰りにいつもの喫茶店へ・・
でも・・今日はちょっと違ってた・・
「ふふっ、これ、一度やってみたかったんだ〜♪」
夏美はそう言ってはしゃいでいる。
なにかのドラマで、恋人同士が一つのグラスに2本のストローを差して、一緒に・・
それを真似したかったらしい。
一杯のジュースなんて、2人で飲んだらすぐに無くなっちまう。
すっかりからっぽになったグラスの底にちょっとだけ残ったジュースを名残惜しそうに
吸っていた2人のストローがくっついて・・
ちゅっ・・
「「あ・・・」」
なにげないほんの一瞬の出来事・・
からっぽのグラスの中で・・一瞬だけの・・ストロー越しのキス・・
照れくさくなってうつむいた俺達の横で、グラスに残った氷が静かに音を立てて
溶け落ちた・・
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