護くんに女神の祝福を! SS
みんなで一緒に温泉へ
by Sin

 学園祭も無事に終わって、2学期ももう残すのは今日一日。
 後は、生徒会の定例会議に出れば、今学期の仕事も終わりね……
 そう思いながら生徒会室に向かっていた私は、ふと、掲示板の前の騒ぎに気が付いた。
 
「ちょっと、何かあったの?」
「えっ……あわわっ、た、鷹栖さんっ!?」
 
 その言葉をきっかけにして、今まで騒がしかったのが嘘のように静まり返る。
 周りからは「鷹栖先輩があれを見たら……」とか、「今の内に逃げた方が……」とか……
 そんな囁き声だけが聞こえてきて……
 
「なんなの……?」
 訳も解らず、とりあえず人集りの中心になっていた掲示板に近づいた瞬間、私の周囲に3メートルほどの空間が出来上がった。
 そして、私の目に入ってきたのは……
 
「な、な、な……なによこれぇぇっ!?」
 その瞬間、周囲のガラスに一斉にヒビが入る。
 でも、今はそんなこと構っていられない。
 掲示板に貼られていた物を一気に引き剥がすと、震える手を無理矢理に押さえ込みながら目を通す。
 それは、学校新聞冬休み直前号。この前の学園祭のことが書かれているのは、まあ二学期を振り返っているこの新聞なら理解出来る。
 だけど……
 
「なんっ、なんでこの……こんな写真ッ!?」
 その一面を全部使って書かれていたのは、私と護のことで……しかも、この写真は……っ!
「あ、あの……鷹栖…先輩?」
「……新聞部の部長は……?」
「えっ?」
「新聞部の部長はどこにいるのかって聞いてるのよ。さっさと答えなさい」
「ひ、ひぃっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!! どうか命ばかりはっ!!」
「………はぁ…もういいわ……自分で探すから……」

 怯えきった様子の後輩達を放って私はその場から駆けだした。
 
 
 それからしばらく探し回って……
 蹴り開けた屋上の扉の向こうに、ようやくその姿を見つけた私は音もなく歩み寄って新聞部部長を吊し上げる。
 
「た、鷹栖さんっ!?」
「………ようやく見つけたわよ。よくもまあこんな物を……しかも掲示板だけじゃなく、全校生徒に配ったらしいじゃない? いったいどういうつもりなのかしら……? 答えによっては……」
「せ、生徒会長が、許可したものですから……」
「なんですって?」
「だ、だから……その……鷹栖さんの了解も…得られているものだと……」
 震える声で弁明するその様子に嘘はないことを知った私は、その場に彼を放り捨てると……
 
「ただじゃすまないわよ……生徒会長!!」
 爆発する怒りにまかせて扉を弾き飛ばし、生徒会室へと向かって走り出した。
 
 
 やがて目の前に見えてくる生徒会室の扉。
「生徒会長―――――――――――――っ!」
 その勢いのままに扉を蹴破って室内へ。
「うわっ!」
「あ……、絢子さん?」
「まったく。相変わらず、正しいドアの開け方も知らないんですから」

 誰かが何か言ったような気もするけど、今はそんなことどうでもいい!
 怒りのままに生徒会長に詰め寄る。
 
「なんなのよこの新聞は!?」
「どうしたんだい?」
 飄々と答える生徒会長。その様子に更に私の怒りに火がついた。
「どうしたもこうしたも、ないわ!」
 そう言って手に持っていた学校新聞冬休み直前号を突き出す。
「二学期を振り返って学園祭について触れているのは、当然でしょう。それは構わないわ。でも、どうして私と護のことが一面で書かれているの! おまけに、こ、こ、こ、こ、こんな、こんな写真――」

 怒りのあまりに手が震える。
 だって……だってこんな……私が護の頬にキスしている写真なんて――
 
「……………うあ」
「けっこうじゃありませんか」
 
 辺りで僅かに上がる声は完璧に無視して、今は…生徒会長の襟首を掴んで、がっくんがっくんと力任せに揺さぶった。
 
「よくもこんなの、各階の廊下に張り出して全校生徒に配って! 新聞部の部長を締め上げたら、生徒会長が許可したんだってはっきり言ったわ。三秒だけ猶予をあげる、弁明があるなら言いなさい!」
「旅行」
 怒り狂っていた私の言葉に生徒会長がぽつりとこぼした一言。
 それが私の動きを止める……
 窓から吹き込んできた風が、私の髪を揺らして……
 
「……旅行って、あの?」
 思い出すのは去年の冬休み。
 生徒会長の別荘で生徒会のみんなと過ごした数日。
 あの時は、寒いのが嫌で温泉に入ってばかりだったのだけど……
 今年ももしあるのなら……護と……
 そんなことを考えていた矢先の不意打ちに、私の動きは完全に封じられてしまった。
 
 私の言葉に余裕たっぷりにうなずく生徒会長。
「ちょうどいま、護くんと冬休みの話をしていたんだ。別荘での骨休め。君もここのところずっと気にしていただろう? そわそわして、今年も行くのか、護も誘うのか、誘うんなら早いうちがいいんじゃないか、って」
「絢子さんが、そわそわ……?」
 生徒会長の言葉に続けられたその声に、ようやく私は傍に護が居ることに気が付いた。

「護、もうきてたの。ほ、HRは?」
「終わりましたよ、普通に。……あの、……もしかして、僕と一緒に行くのを、楽しみにしてくれてたんですか?」
 本当に嬉しそうに微笑んで訪ねてくる護の言葉に、私の胸が一気に高鳴る。
 護に知られてしまった……
 私が、楽しみにしていたことを……
 だ、ダメ、恥ずかしすぎる……護と視線を合わせられない……
 
「いいえっ。あ、いや、護と旅行に行くのが楽しみじゃないって意味じゃなくて、その、そわそわだなんて、そんなのは生徒会長の勝手な思い込みってことよ! 護、私はいつも普段通りで――」
「で、結局、絢子は行くのかな? うちの別荘」
 
 再び上がった生徒会長の言葉に、私の身体が凍り付く。
 護は微笑んで見つめているし、あぁ、もうっ!!
 溢れてくる冷や汗を気持ち悪く感じながらも動かない首を無理矢理に動かして、生徒会の面々を見る。
 みんな、笑いを堪えた様子で私を見つめてる……くっ……
「………………わ」
「わ、なんだい?」
「………………わかってるんでしょう」
「なにがかな?」
 
 からかってる。
 私で遊んでる……
 それは分かってるけど、今答えなければ護と旅行に行けない……なんてことになるかも知れないし……うぅぅぅっ
 
「あの、みなさん――」
 助け船を出そうとした護の声は、瑤子によって阻止され、もはや完全に孤立無援。
 進退窮まった私は仕方なく目を背けながら……
「………行くわよ」
「もっとはっきり」
「い、行くわ」
「もっと大きな声で」
「行く、わ。その」
 側にいる護をちらっと見て、呟くように続けた。
「……が行くなら」
「え? 誰が行くならって?」
「――……こ、この」
 からかっているのが丸分かりなその様子に、怒りに震える。
 だけど、今ここで怒ったって、なにも解決しない……
 悔しいけど……
 
「護が行くなら、私も行くわよ! ええ、あなたたちがくるなって言っても絶対に行きますからね! どう、これで満足かしら!?」
 叫ぶように言い切った私の言葉に上がる歓声。
 恥ずかしさと悔しさで顔を上げることもできず、俯いて唇を噛む。
 と、その時、ようやく瑤子から解放された護と偶然目があった。
 
 照れくさそうに微笑んで見つめてくるその様子……
 
「――――っ!」
 もうダメ! もう耐えられない!!
 
 我慢の限界を超えてその場を逃げ出そうとした私に、護の声が……
「あっ、絢子さん、待ってくだ――」
「後生だから止めないで護! 聞かなかったことにして!」
「旅行は冬休み初日からを予定していますから、クリスマスが重なりますし」
 なんとかその場を逃げ出そうとした私にかけられる汐音の言葉が私の胸を突き刺した。

 ギリギリと音を立てそうなほどゆっくりと振り返った私に、汐音は胸の前で両手をくいくいと動かしてみせる。
 護や他の人達には分かっていないようだけど、私には身に覚えがありすぎて……
「ほら、例の。いいチャンスですものね、絢子。ふふっ」
「例の?」
 首を捻る護の横をすり抜けて、一気に汐音に掴みかかる。
「なっ、馬鹿! ばらしたら殺すって言っておいたはずよ!」
「大丈夫ですよ。護さんはぜんぜんわかっていませんわ」
 そう言って指を差す汐音のその先にいる護は……
 
「ぜんぜんわかっていませんけど……、なんですか?」
「な、な、な、なんでもないわ」
「え、でも」
「なんでもないって言ってるでしょう!」
 自分でも慌てているのが丸分かりな口調で護を怒鳴ってしまう。
 あまりに恥ずかしすぎて、私は護から目を背けた。
 
「ちょっと汐音!」
 護が生徒会長と話し始めたのを横目に、小声で呼びかける。
「なんですの?」
「いったいなんのつもり? いくら護だって、あんな事言ったら気付くかもしれないでしょう……?」
「あら、その時はその時でいいじゃありませんの。護さんなら、きっと喜んでくれますわよ」
「だ、だからそれは、完成した後で……わ、渡すときに、目一杯喜んで欲しいし……」
「ふふっ、絢子ったら、本当に乙女チックなんですから……」
「なっ、し、汐音っ!!」
 思わず掴みかかろうとしたその時だった。
 
「別荘、ほんとに、お邪魔しても大丈夫なんですか?」
 護のその言葉に慌てて振り返る。
 まさか……行かないなんて言わないわよね……?
 
 生徒会のみんなも護を見つめ、生徒会長と汐音は「そんなことを気にしてたのか」というふうに一瞬顔を見合わせ、その後で満面の笑みで笑った。
「もちろん! 大歓迎だよ」
「ぜひとも行きましょう? 護さんがいてくれた方が楽しいですわ」
 美月も「楽しみね」と笑いかけ、杏奈は「あたしは他にクリスマスの予定なんてないもんなあ」とため息をつき、瑤子は瑤子で無表情にピースサインを護に送っていた。
 
「どうする、護くん?」
 生徒会長に聞かれて、護が私を見つめてくる。
 好きにすればいいじゃない……そう思ってはみるものの、やっぱり不安で……
 なんとか格好だけでも取り繕ってはいるけど……
 
 そんな私に護は満面の笑みを浮かべると……
「行きますよ、もちろん!」
 そう答えた護に私は胸の内にあった不安が霧散するのを感じて、「そう」と呟きながら思わず微笑んだ。
 
 旅行に行くのは、私と護、それに美月と瑤子、杏奈、八木、あとは当然、生徒会長と汐音の合計八人。
 ……でも、まあ……
 
 護さえいてくれれば……
 思わず脳裏に浮かぶ護と二人っきりで温泉に入って見つめ合う光景……
 
「随分と幸せそうな顔をして、一体何を考えているのかな? ん?」
 からかうように言ってくる瑤子に、慌てて「なんでもないわよ」と答えると、私は足早に生徒会室を後にした。
 
 今度の冬休み……
 この旅行で、私と護の関係が……また深まるのかも知れない……
 そう思うだけで、私は自然と足取りが軽くなるのを感じていた。
 

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