護くんに女神の祝福を! SS 『貴方を守りたくて……』
by Sin



「………護……」
 すっかり辺りも静まりかえった真夜中……
 私は、もう何度目になるのか分からない溜息をついた。

− 護くんはひどい怪我をしていたぞ。治療は間に合ったが、場合によっては危なかった。

 生徒会長の言葉が、頭に響く。
 私の所為で……護が怪我を……

− あんまりそう言う事は気にしないで。

 優しく微笑んで言ってくれた護……
 でも……それでも……

 また溜息。

 何度も眠ろうとしたのだが、その度に嫌な夢にうなされて、飛び起きた。

「……ふぅ……自己嫌悪ね……」

 そう呟いた時、私はふと、身体に温もりを感じて首を傾げた。

「……?」

 温もりは、身体を包み込むように染み渡ってくる。

「これは………護……?」

 あの後……2人きりになった部屋で護を抱きしめたあの温もり……その感覚によく似ている。それは……ビアトリスが伝える、あの時の記憶だった。

『鷹栖さんは絶対に助ける! なにに変えても!!』

 唐突に脳裏に護の声が過ぎった。

「え? これ……?」

『女の子なんだ……誰がどんな噂を流しても……どんなに無茶苦茶でも……どんなに……超越的な美人でも……女の子なんだ……だから、僕が守らなくちゃ……たとえ……僕がどうなっても!』

 弾丸が護の肩をかすり、痛みに呻いても……それでも私の事を守ろうと抱きしめてくれている……
 護の心の声がその全てを伝えていた。

 太腿に……肩に………腕に……次々と弾丸が突き刺さっていく。

 その度に護は歯を食いしばって……私を守ってくれていた。

「もういい! 護、もう私の事はいいから逃げて!!」

 過去の光景だという事は分かっていた……でも……
 私の為に傷ついていく護をこれ以上見ていられない……

 その時だった……

「えっ………あ………」

 私を抱き上げようとした護の手が……私の胸に……

 護は気付いていない。

「ちょ……ちょっと……ま、護……?」
 顔が火照る。
 ビアトリスは強くしっかりと捕まれた胸の感触を、まるで現実のように伝えてくる。

「や……っ……あ……ぁ……ま、護……そんなに……強く……」

 逃れる事も、払いのける事も出来ず、ただ伝えられる感触に身体を火照らせてしまう。

 その時……

『……えっ……こ、これ……まさか……!?』

 自分の触っていた物に気付いた護が、慌ててバランスを崩した。

「きゃっ!?」

 なんとか落ちずに済んだものの、護の手はさっきよりもしっかりと私の胸を掴んでいる。
 今度は護も触れている事に気付いている所為か、触り方がその……優しくなって……

『ごめんなさい……ごめんなさい……鷹栖さん……』

 謝りながら、護は私の胸を掴んだまま廃材を登っていく護。
 その感触に、なんだか変な声が溢れてしまいそうになって、私は必死に堪えていた。

 護にいやらしい気持ちなんて無い事は分かってる。
 でも……だから触られても平気……なんて事……あるはず無い……

 やがて、なんとか窓の所まで辿り着いた護は、私を押し上げようと、お尻にまで触れてきた。

 ぞくぞくする感触に、思わず身体が強ばる。

 そのまま護は私の事を窓から逃がしてくれた。

 途端に、さっきまでの感触はまるで嘘のように消え去る。
 どうやらあそこまでしかビアトリスが記憶してなかったみたいね……

「………ふぅ……」

 なんとなく、まだ温もりが残っているような気がして、胸に触れてみた。
 たとえわざとではないとしても、あんなに強く胸を掴まれた事なんて一度もなかったから……それも護に……

 思い出す度、頬が熱くなる。
 胸は激しく高鳴って、息が苦しい……

「護……」

 名前を口にするだけで、胸の奥の方がチクッと痛む。
 苦しい? ……ううん……
 こんな気持ち初めてだけど……これがきっと……切ない……って事なのね……

 ゆっくりと身体から温もりが消えていく。
 目を閉じると、さっきの光景が瞼の裏に浮かんで、必死に私を助けようとしてくれた護の姿に、また胸が高鳴る。

「……明日……どんな顔して会えばいいの……?」

 ふと、不安になる。
 私の為に傷ついた護の姿……

 思い出す度に苦しくて……それなのに、そんな護の姿に見とれてしまう私……

「ほんと……自己嫌悪……」

 その時だった。

 唐突になった電話の音に思わず肩をすくめる。

「も、もう、こんな時間に、一体誰よ……」

 仕方なく電話を取ると、そこからは思いもかけない声が聞こえてきた。

「あ、あの、夜分遅くにすみません。吉村ですが、鷹栖さんは……」
「護!?」
「あっ、鷹栖さん? あの……まだ……起きてましたか?」
「う、うん……ま、護の方こそ、こんな時間に……どうしたの?」
「……なんとなく……鷹栖さんの声が聞きたくて……」
 その言葉に、胸が高鳴る。
 
「そ、そう?」
「やっぱり……迷惑でした?」
「そんなわけないでしょ!」
 思わず声を荒げてしまった。電話の向こうで護が「あうっ!」とか言ってるのが聞こえて……
「あ、ご、ごめん。怒鳴る事なかったわね……」
「い、いえ、僕の方こそ……」
 なんとなく声をかけづらい……
 
 つい、さっきの事を思い出してしまって、余計に胸が高鳴ってくる。

「あの……鷹栖さん?」
「な、なに?」
 不意に声をかけられて、思わず声が上擦ってしまう。

「………僕、必ず鷹栖さんを守れるくらいに強くなります」
「護……」
「それが伝えたくて……そ、その、それじゃあ、おやすみなさい」
「あ、護……」
「えっ?」
 照れているのか、慌てて切ろうとした護を呼び止める。
 胸の奥から溢れてくる言葉……これだけはどうしても伝えたい……

「………その……守ってくれて……本当にありがとう……」
「鷹栖……さん?」
「貴方に守って貰えて……本当に嬉しかった……貴方のその言葉……信じてるわ」
「……はい」
 なんとなく、護の声が嬉しそうな気がした……
 多分、それは気のせいじゃない……そう思う。
「それじゃ……ね。おやすみ」
「おやすみなさい、鷹栖さん」
 
 そっと受話器を置く。
 胸の奥がとても暖かい……

『僕、必ず鷹栖さんを守れるくらいに強くなります』

 思い出す度に嬉しさがどんどん溢れて……
 いつの間にか、私は涙を流していた。

「………私……護を好きになって……本当に良かった……」

 瞼を閉じれば浮かんでくる護のその笑顔は、私の不安も恐れもみんな消してしまった。
 ベッドに横になって、ゆっくりと目を閉じる……

 また浮かんでくる護の姿にそっと口付けて、「おやすみ……護……」そう呟くと、私の意識はゆっくりと微睡んでいった。




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