DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』
by Sin
(5)
「くらいやがれぇぇぇっ!!」
「まだまだぁぁっ!! ブチ抜け! トレイタ―――っ!!」
幾度も響き渡る金属音。
あまりの激しさに何事かと人々が集まり始めた頃……
「これで……10回目だぁぁっ!!」
大河の叫びと共に、大きく振り抜かれたトレイターに弾かれて、セルの身体が噴水に叩き付けられ巨大な水飛沫を上げた。
セルの身体はすでにボロボロで、もはや立ち上がる気力すら残っていないのか水面に浮かんだまま起きあがってこない。
「セ、セルビウム……だいじょうぶ?」
「………10回……大河が本気なら俺は今、10回死んでたって訳だ……」
歯がみして悔しそうな表情を浮かべるセル。
だが、大河はそんな言葉に呆れたような表情で口を開いた。
「本気なら……って……殺さなかったら本気じゃないってのか?」
「俺はお前を殺す気でかかって、それでも手も足も出なかったんだぞ……」
「……俺は殺したくなかったから全力を出した。殺す気なら全力を出すまでもないんだけどな」
「え……?」
「考えてもみな。お前がもし未亜と戦うとして、殺さないように戦うのと本気で殺す気で戦うのと、どっちが楽だ?」
「み、未亜さんを殺すだなんて事、考えも……」
「俺だってそうさ。セルを殺すなんて考えたくもない。だけどお前は俺を殺すくらいの気持ちでかかってきてる。自分の命を賭けてな」
「あ、ああ」
「死に物狂いの相手を前に、手を抜くなんて出来るか。それこそこっちの命が危ないっての」
「それじゃあ……」
「心底本気だったよ。……ったく…仮にも俺は神さえも倒した救世主なんだぞ? その俺にここまで本気を出させて、10回も立ち上がってくるなんて、一体どこまで化け物並みなんだよ、お前の身体は……」
ため息をつきながら愚痴る大河。
それも致し方ないだろう。
方や救世主、方やただの傭兵。
その時点で大いに差があって然るべきなのに、召還器による肉体強化も無しで対等に戦えるのだから。
完全に人間としての何かを思いっきりブッ千切ってしまっているようなセルの姿には大河も流石に畏怖の念を抱かずにはいられない。
「……やっぱ、スゲェよ大河は……」
「ん?」
「全く……未亜さんもとんでもない奴に惚れたもんだよな………」
「セル……」
「他の奴には死んでも譲る気なんて無いけど……」
ふらつきながら立ち上がって拳を振りかぶるセル。
そして……
「……未亜さんを幸せにしなかったら……殺すぞ……お前……」
大河の頬に拳を当てながらそう言うセルに、
「ああ、絶対にな」
しっかりと答える大河。
「へっ………上等……だ…」
呟くように言って、セルはそのままゆっくりと倒れ込んだ。
「セルビウム!!」
慌てて抱き起こそうとするタイガだったが、その手を大河がそっと掴んで止めた。
「ちちうえ?」
「しばらく一人にしといてやろう。行くぞ」
「えっ、で、でも……けが……」
躊躇って足が進まないタイガ。だが……
「…行って下さい、殿下」
「セルビウム……?」
突然の声に驚いて振り返ると、セルが身体を起こして噴水にもたれかかっている。
「だいじょうぶ……なの?」
「俺は平気……っすから……」
そう言って微笑むセルに戸惑いながらも頷いたタイガは、大河の後を追って駈けていった。
周りにいた人々も、やがて一人去り、2人去り……そうして周囲に誰もいなくなった頃……
「……痛ぇ……な……失恋……って奴は……」
誰に聞かれる事もなく呟かれたその声は、再び吹き上がった噴水の音にかき消される。
地面を濡らした一滴は噴水の飛沫か、それとも……
それは誰にも解らない。
側に寄りそう大剣だけが、静かに輝きを放っていた……
セルへの複雑な気持ちを抱きつつ、街中へと戻ってきた大河達。
2人とも口数は少なく、何となく気まずい空気が漂っていた。
と、その時だ。
「あら?」
不意に背後からかけられた声に振り返る大河。
するとそこにはミュリエルの姿が。
「学園長? 何でまたここに……」
「何でとはご挨拶ですね、救世主」
そう言って少し悪戯っぽく微笑むミュリエル。
「いや、学園長にそう呼ばれると…なんか変な感じだな……」
「どういう意味ですか、それは?」
「そうそう、その雰囲気でこそ学園長」
凍るような視線で見つめられてようやく笑顔になる大河にミュリエルは思わず溜息をついた。
「昨日は殆ど話す暇もありませんでしたが……改めて…お帰りなさい、当真大河君。それと……」
思わず大河は息をのんだ。
それもその筈。いきなりミュリエルが深々と頭を下げたのだから。
「や、やめてくれよ、学園長。あんたにそんな事されると調子が狂うって」
「本当にありがとう。貴方のおかげでアヴァターは救われました」
「だからやめてくれって……」
「学園長として、この国の宰相として……そして…千年前のメサイアパーティーを代表して貴方にお礼を言わせて下さい。貴方のしてくれた事は一時の破滅を食い止めただけではなく、これから幾千、幾万の月日が流れたとしても、二度と破滅を恐れる必要はなくなったのですから……」
心から感謝を表し、親愛の微笑みまで浮かべたその姿に大河はあまりに照れくさくなって頬を掻いた。
ミュリエルが加わったお陰で、先程までの気まずい雰囲気はいつしか霧散している。
ただ、普段からあまり笑顔を見せないミュリエルのあまりにも優しいその雰囲気にタイガは何度も首を傾げていた。
「どうした、タイガ? そんなに不思議そうな顔をして」
「ふぇ? う、ううん、なんでも……」
「なんでもないって顔じゃなかったぞ?」
「だ、だってぇ……ミュリエルがそんなふうにわらうのはじめてみたんだもん……」
怒られると思ったのか、首を竦めてそう言うタイガにミュリエルは、
「殿下は余程私が怒ってばかりいるように思っておられるようですね……」
そう言って苦笑する。
「まあ、学園長も色々抱えてたからなぁ……完全に破滅の元が絶たれてようやく本来の顔が見えたって所なんだろ?」
「……そうかもしれませんね…」
「でもさ、タイガは今の学園長の事、嫌いか?」
「え?」
「こんな優しい顔した学園長って俺も初めて見るけどさ……俺は好きだぞ、今の学園長」
何気なく言った言葉。
だが、その一言にミュリエルは本人が驚く程に動揺していた。
「な、ななっ、何を言っているのですか!」
慌てふためいた様子で言った声にも力がない。
それどころか、頬が真っ赤に染まっている。
「ミュリエル、まっか〜」
「だな」
「ふたりとも!!」
「あは、ミュリエルがおこった〜〜〜〜」
「逃げるぞ、タイガ!」
「うんっ!」
2人揃って笑いながら逃げ出す大河達。
「ちょっ、待ちなさ………もう……逃げ足が速いのは相変わらずですね……殿下まで親譲り……」
走り去ってしまった2人の姿は人混みに隠れてもう見えない。
だが、ミュリエルの口元には微笑みが浮かんでいた。
「私がこんな風に笑えるようになるなんて、思いもしませんでしたね……」
脳裏に過ぎるのは千年前、ルビナスとロベリアの決着を見届けたあの日……
ルビナスが死に、その身体を乗っ取ったロベリアを封じ込め……
その時から、ミュリエルが笑顔を浮かべる事はなかった。
今、この時までは。
「当真大河……貴方に会えて、本当に……良かった……」
呟くようにそう言って、ミュリエルは王宮への帰路につく。
胸の奥を優しく暖めてくる想いに、頬を微かに赤らめながら……
ちょうどその頃。
入浴を終えたクレア達は再びクレアの部屋へと集まっていた。
「むか……」
「むぅ……?」
「なんとなく、今すぐに大河の事をぶっ飛ばしたくなったんだけど……」
唐突に未亜、クレア、リリィの3人が表情を硬くして呟く。
「どうしたでござるか?」
「何となくだけど、今、お兄ちゃんがどこかでフラグを立てたような気がして……」
「私も……しかもすっごく身近な人に……」
「………全く…一体どこまで女を引き寄せれば気が済むのだ、あやつは」
そう言って溜息をつきながらも苦笑するクレア達。
「やっぱり、ハッキリさせておかないとね。これ以上増えたら流石に関係を上手くやっていく自信がないし」
「全く同意」
「拙者も同意するでござるよ」
「一日でも早く、マスターとの関係を目に見えたものにしなくては……」
「私も異存はありません」
「決定……って事でいいんじゃない?」
リリィの言葉に頷く未亜達の視線がクレアに集まる。
その気持ちに答えるように、大きく頷くクレア。
「女の側から言うというのもまあ悪くはないだろうからな。どうする、すぐに呼ぶか?」
「そうだね、早い方がいいと思う」
クレアの言葉にいの一番に答えたのは未亜だった。
その瞳には大きな不安を押し隠している事は丸分かりだったが、それを誰も突っ込みはしない。
誰もが胸の内に大きな不安をぐっと押し隠しているのだから。
そして……
「クレア、大河を呼んで」
「良いのだな?」
「未亜じゃないけど……こんなに不安な状態のままで居るなんてとても耐えられそうにないから……」
そんなリリィの言葉に皆一斉に頷く。
「解った………ダリア!!」
「はぁい」
一瞬。
クレアが呼びつけた次の瞬間、皆の目の前にダリアの姿があった。
以前にもダリアの実力は目にしているはずなのに、あまりに普段の昼行灯ぶりがイメージとして固定されすぎてしまっていて、たまにこうした実力の一端を見せられると皆驚きを隠せない。
「緊急の用件だ、今すぐに大河を呼べ! タイガの事は任せるぞ」
「わっかりましたぁん」
そののんびりとした口調とは裏腹に、カエデにも見えない程の素早さでクレアの部屋から姿を消すダリア。
「……拙者も忍びとして研鑽を積んできたつもりでござったが……」
「上には上が居る……ね。ダリア先生って、本気になったらどの位強いのかしら……」
「召還器無しならば、ミュリエルに匹敵するやもしれぬな」
「普段を見てると想像もつかないわね」
そう言って笑うクレア達。
ちょうどその頃……
「くしゅん! あらぁん? 誰か私の事を噂してるみたいねぇん……さってと、お仕事お仕事♪」
盛大なくしゃみをかますダリアの姿は誰に見つかる事もなく王都へと消えていった。
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