DADDY FACE SS 『雪人の悩み<改>(10)』
by Sin



 あれから数週間。
 ようやく傷の癒えた雪人は、約束通り、ドーラをデートに誘った。
 もちろんドーラが断るわけもなく、2人は肩を並べて商店街や公園などをのんびりと楽しげに話しながら歩き回っていた。

「うーん、身体鈍ってるなぁ・・ずっと家の中にいたから、こうやって歩き回ると、結構疲れるよ」
「それじゃ、これから毎日一緒に歩きまショ。ネッ、雪人さン」
 大きく伸びをしながら言った雪人の様子にドーラはクスクス笑ってそう言うと、雪人の腕に抱きついた。
「そうだな。リハビリ兼ねて、色々歩き回ってみるか」
「うン!」
 嬉しそうに答えるドーラ。
 と、その時、雪人は一軒のクレープ屋を見つけた。

「ドーラ、ちょっと腹減ってきたし、クレープでも食べないか?」
「いいヨ。雪人さンのおごりネ」
「了解。んじゃ、ちょっと買ってくるよ。何でもいいか?」
「うン」
「わかった。その辺、座って待ってろよ」
 そう言った雪人が店に走っていくのを見ながら、ドーラは嬉しそうに微笑んで近くのベンチに座った。

 数分後・・
 不安そうに雪人の走っていった店を見つめているドーラ。
 以前にもこうして待っていて、結局戻ってこなかった雪人のことが、思い出されてくる。
 どうしても我慢ができなくて・・・雪人の後を追っていこうとしたその時だった。

「お待たせ!」
 その声にドーラの不安は一気に弾け飛ぶ。
 走って戻ってくる雪人にドーラはまるで飛び込むような勢いで抱きついた。
「うわっととと・・・ど、どうしたんだよ?」
「よかった・・・今日はちゃんと戻ってきてくれた・・」
 ドーラの言葉に、雪人は苦笑い。
「ちゃんと戻ってくるよ。この前のこともあるし・・ドーラのことほっておいたりしないって」
「・・・嬉しい・・雪人さン・・大好き・・」
 ぽそっと呟いた言葉は、雪人の耳に届く前に風の中に消えた。

「ほら、出来たて」
「Danke、雪人さン。・・・あ・・・おいしい・・・」
 雪人から受け取ったクレープを、ドーラは嬉しそうに食べていたが、その時・・
「っ!?」
 急に口元を押さえて涙を浮かべるドーラ。
「どうした?」
「舌・・噛んだ・・・」
 そう言って、顔をしかめるドーラに雪人は苦笑。
「ドジだなぁ・・ほら、見せてみなよ」
「う、うン・・」
 涙目で、雪人を見上げると、ぺろっと舌を出す。
「あ〜あ、完全に傷になってるよ。しばらく痛むぞ、これ」
 雪人が覗き込むようにしていったその時だった。

「雪人兄さま!」
 突然背後からの声と共に雪人は誰かに抱きつかれてバランスを崩し、目の前のドーラともつれるようにして倒れてしまった。
 そして・・押し倒されるような形になってしまったドーラの唇に、暖かくて柔らかい感触が・・・
 その感触は、雪人も同じように感じている。

 つまりは・・・・

「「!?」」

 2人とも、自分達の状況に気付いて、慌てて身体を離して視線を逸らす。
 お互いに顔は真っ赤に染まり、胸の高鳴りが耳元まで響いてくる気がしていた。
「わぁ・・雪人兄さまとドーラちゃん・・キスしちゃった・・・」
 美花のその言葉に2人とも耳まで真っ赤になる。
「み、美花、いきなり・・その・・なんだ・・・」
「キス・・キス・・・・雪人さンと・・・キス・・・」
 しどろもどろになっている雪人と、虚ろな目で虚空を見上げながらそう呟くドーラの様子に、美花はクスクス笑った。

 それからしばらくの時が流れて・・・
 ようやく2人が落ち着いたとき、すでに美花の姿はなく、二人っきりで公園のベンチに座り込んでいた。

 お互いに何を話していいのか分からず、沈黙が重くのしかかってくる。
「あ、あのさ!」
「あ、あのッ!」
 なんとか勇気を振り絞って出した言葉は全くの同時。余計に気まずくなってしまう。
「ど、ドーラから、先に・・」
「ゆ、雪人さンから・・どうゾ・・」
 また同時。
 沈黙が重い・・

 そのときだった。

「あれぇ? まだお見合いしてるの?」
 その言葉に2人が顔を上げると、そこには美花と樫緒。それに美月の姿があった。

「あ、兄貴? それに・・美月と美花まで・・」
「何をやっているんです、全く・・何ヶ月も音沙汰無しで・・私や姉さまはともかく・・美月や美花はとても心配していたんですよ?」
「え・・あ・・・」
「美花に話は聞きました・・それで? どうするつもりです?」
 いきなりの樫緒の言葉に、訳が分からない雪人。
「どうする・・って・・?」
「・・・兄さん、まさか・・女の子の唇奪っておいて・・・責任取らないつもりじゃ・・」
「せ、責任って・・・!? あ、あれは・・その・・事故・・って言うか・・なんて言うか・・」
「そんな・・! 私・・初めテだっタのに・・・」
 涙声で訴えるドーラに慌てた雪人が思わず一歩下がった瞬間・・

 ジャキッ!

 美月が銃の安全装置を外した。いつでも撃てる・・そう言う状態。

「兄さん・・・」
「雪人、責任は・・」
「兄さま・・ドーラちゃんのこと・・泣かしちゃダメ・・・」

 3人の結城の力が雪人を取り囲む。
「ド、ドーラ! と、とにかく、この話はまた今度・・・その、ちゃんとするから!! い、今は・・・っ!!」
「えっ、ゆ、雪人さン!?」
 慌てて顔を上げたドーラの目に映った物は、すでにかなりの距離まで離れた雪人の後ろ姿。

「逃がさないわよ、兄さんっ!!」
「雪人っ!!」
「兄さま! ドーラちゃんの事、泣かしちゃ駄目なんだからぁぁぁぁっ!!」
 三者三様に雪人を追う、美月、樫緒、美花。
 その様子を呆然と見つめていたドーラだったが、やがて雪人の言葉を胸の中で何度も繰り返して微笑んだ。

『この話は、今度、ちゃんとするから』

「きっと・・・責任・・取ってくれるよネ・・雪人さン・・信じてるヨ・・」

 そう呟いたドーラの言葉は、誰に聞こえるでもなく、風の中に溶けていった・・・


 そして・・・雪人は・・・


 激しくドアを叩く音。
 寝ぼけ顔でドアを開けた幸貴は、そこに真っ青になった雪人の姿を見て・・ドアを閉めた。
「幸貴さん、誰だったの?」
「あ、おはよう、舞ちゃん。気にしなくていいよ。また余計な事に巻き込まれたくないし・・」

『幸貴〜〜〜っ、助けてくれ〜〜〜〜っ』
 情けない声が扉の向こうから聞こえてきて、舞は思わず苦笑した。
「いいの?」
「気にしなくていいって。それより、せっかくの舞ちゃんの手料理が冷めてしまう前に早く朝飯にしよう」
「あ、うん・・いいのかなぁ・・」
『幸貴〜〜〜〜〜っ、助け・・んどわぁぁぁぁぁぁっ!!』
 雪人の叫びと共に、なにかの爆発する音が響いて・・・

『幸貴〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ』

 遠くへ遠ざかっていった。

「さてと、朝飯朝飯♪ 舞ちゃんの手料理を朝から食えるなんて、感激だなぁ」
「もう・・幸貴さんったら・・」

 熱々の2人はいつしか雪人の事を忘れ・・

 そして忘れ去られた雪人は・・

「誰か俺を助けてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 虚しく響くその言葉は、爆音にかき消されていくのだった・・

 雪人の悩みに終わりは来ない・・のだろうか?
 それを知る者は・・誰もいない・・








 
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