DADDY FACE SS 『海からの来訪者』
by Sin



人魚・・人は私達をそう呼ぶ・・

私達の肉を食べると、不死になると言われ・・それを狙った人々が海の中を荒らし回った・・
確かに私達の身体には人を不死化させる力がある・・
けれど・・

10年前・・私は仲間を連れ去った人間達の街を滅ぼすつもりだった・・
でも、その寸前、彼女は帰ってきた。・・片腕を失った姿で・・
「私は人間を許すことが出来ない! せめてあの街一つ滅ぼさなくては、私の気が治まらないわ!」
そう言った私に彼女は・・
「・・・あなたは1人の罪を人間全てに負わせるつもり? だったら、私を助けてくれた子の
行動も、同様に評価するべきではなくて?」
彼女の言葉に私は二の句を告げることが出来なかった。
「あの子、言ったのよ。『頼む、あんたの肉を少し分けてくれ。おれの女が病気で死にそうなんだ。なんでもする、命が欲しいならくれてやる。人間への恨みを、全部おれに被せてもいいから・・』って」
その言葉は私の胸に渦巻いていた憎しみを霧散させた。

そして月日は流れて・・
あれから10年・・私はあの滅ぼそうとした街にいた。
人として暮らすのも悪くはない。
海の中や空の上だけで暮らすのは、退屈だし・・

あの後、彼女の肉を貰った子が1人の女の子と共に海に身投げしたと聞いた。
どうやらその子は助かったみたいだけれど、女の子は、行方が解らないらしい・・

− イ・・ヅナ・・・

私にだけに解る声で語りかけてくる大きな影・・
昔から人間達に、『海坊主』って呼ばれているこの子は、私とだけ意思疎通が図れる。
なぜかは解らないけれど、私の護衛みたいなものね。
「どうしたの?」

− オンナ・・ノ・・コ・・・キレイ・・・ウゴカ・・ナイ・・

「女の子? どこにいるの?」
私が聞くと、『海坊主』はそっと握った手を開いた。
すると、そこには学生服を身に纏った少女の姿が・・

− ・・コワレタ・・ノカ・・?

彼の問いに私は少女の様子を見る。
普通の人がこんな深海で生きていられるはずもないけど・・
まだ死んで間がないのかしら・・身体のどこにも腐乱した様子がないわ・・

「綺麗な子・・・でも・・・綺麗・・過ぎるわ・・」

あまりに綺麗すぎる・・
服の傷み具合を見ると、かなり古い物みたい・・
だったら、もっと身体にも傷みがあって当然なのに、この子はまるで今も生きているかのように
綺麗なまま・・

「まさか・・」

私の脳裏に10年前の事が過ぎる。
片腕を失って帰ってきた彼女は・・なんて言ってたっけ・・
確か・・助けてくれた子が人魚の肉を欲しがって・・・
えっと・・彼女が片腕をあげた子は・・その後・・海に身投げしたんだったわよね・・
でも・・彼は助かって・・そして・・・

「そうだわ! あの時の彼と一緒に身投げした女の子! きっとあの子だわ!」

− イヅナ・・・ドウシタ?

『海坊主』は私を不思議そうに見ている。

「坊や、その子を近くの海岸まで連れて行ってあげて。まだ助かるかもしれないから」

− ・・・ワカッタ・・イッテ・・クル

「お願いね。とりあえず海岸まで運んだら、誰かが彼女を見つけるまで様子見ていてあげてね」

− ・・タスカルト・・イイナ・・

「そうね・・助かって・・欲しいわ・・・私の仲間を助けてくれたあの子の大切な人ですもの・・」

− ジャ・・イッテクルヨ・・

「私も街に戻るわ。今日から紬屋にアルバイト君達が来るみたいだから。後はお願いね」

私は『海坊主』にそう言って、街へと向かった・・・





                     
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