DADDY FACE SS 『想いを…(加筆修正版)』
by Sin
溢れ出したミーミルの水。
そしてディーン・タウンゼントとの決着…全ては、万事解決するかと思われた…だが…
− この水さえあれば…また…ゆうちゃんと…!
鷲士の一言に、美沙が、ノイエが唖然とする。
止める2人の言葉も鷲士には届かない……
− ば、馬鹿なことを考えるのはやめなさい、シュージ! なにが起こるか分かってるの!? なくしてしまうのよ!? いちばん…いちばん大切なものを!
ノイエの必死の叫び……しかし…それでも鷲士の気持ちは揺るがない……
− 命なんかいらないんだよ!
涙が溢れてくる瞳で叫んだ鷲士の言葉……
そしてその言葉は……今でも美沙の胸に突き刺さっていた………
あのミーミルの水の事件から数日後、美沙は美貴を近くのカフェへと呼び出していた。
何も知らない美貴に、あの時の鷲士の言葉を伝える為に・・。
待ち合わせのカフェ。
苛立たしげに何杯もコーヒーを飲みながら美沙は美貴の来るのを待っていた。
そして……約束の時間から10分後……
「お待たせ〜。ごめんね、遅れて。それにしても君から呼び出してくれるなんて、久しぶりだねっ。どういう風の吹き回しかな?」
にこやかに訪ねた美貴だったが、美沙はじろっと睨み付ける。その様子に思わず後退る美貴。
「あ……あの……えっと……わ、私、なにか……した?」
怯みながら聞いてくる美貴の様子に、美沙は溜息をつく。
「とりあえず、座って」
「う、うん……」
いつもと違う娘の様子。心配になって色々と訪ねてみるが、美沙は「大丈夫」と言ったきり、黙り込んでしまった。
「そ、それで……えっと……今日呼んでくれたのは……なんで……かな?」
ようやくのことでそれを訪ねる美貴。
そんな美貴をじっと見つめていた美沙だったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「美貴ちゃん……」
「ん? なにかな?」
「この前の……ドイツでのこと……覚えてる?」
「う、うん……」
「あの時……美貴ちゃんがいない所でなにがあったか……聞かせてあげる……」
「えっ……?」
戸惑う美貴の瞳をじっと見つめて、美貴はあの時の出来事を語った。
「ええっ、しゅーくんが?」
美沙から伝えられた事は、美貴にとって激しい衝撃だった。
「美貴ちゃんに会う為に命を賭けようとしたんだよ、鷲士くん…。私とノイエが止めなかったら、今頃どうなってたか…」
「そんな……」
「……いい加減にちゃんと鷲士くんに伝えなよ。命を賭けてまで会おうとしてる美貴ちゃんが、生きてるって解ったらそれだけで喜んでくれるって!!」
「で、でもぉ・・」
そう言っていつもの如く指をツンツンとつつき合わせる。
いつもなら、「仕方ないなぁ……」で許してくれる所。当然美貴もそう思っていた。だが……今日の美沙は違う。
煮え切らない美貴の態度に、鷲士の言葉が重なって……美沙はとうとう堪忍袋の緒を切った。
「いい加減にしてよ!」
激高して、手をテーブルに叩きつける。
「鷲士くんがなんで浪人したか知ってる?」
「え? それは…お金が…無くて?」
「なんでお金無かったんだと思う? 今でもちゃんと学費は払えてるのに」
狼狽えるように答えた美貴だったが、美沙のその問いに口籠もった。
だが、そんな様子が更に美沙を苛立たせる。
「美貴ちゃんを捜す為に、探偵を雇ったからだよ!!」
再び手をテーブルに叩きつけたその言葉に、美貴は絶句した。
口元を覆った手が、震えている。
「鷲士くん、言ったんだよ! いつも考えてた…って! 高校を卒業したら会いに行こうと思ってたって! もう彼氏がいるかもしれないけど、あんな引き離され方したから、一目会えたらそれで…って!」
「………っ!?」
次第に美沙の声に涙が混じり始める。
「あの時……目の前に、私…いたんだよ? でも…鷲士くんには美貴ちゃんの事しか見えてなかった……」
「で、でも………」
戸惑った美貴だったが、次の瞬間、息を呑んだ。顔を上げた美沙の瞳から、涙が溢れかけていたから……。
「鷲士くん……一番大切な物を無くすってノイエに言われても……命なんていらない……って……」
こぼれる涙を拭いながら言う美沙の言葉に美貴は身体を震わせる事しかできない。
「鷲士くんは、私と一緒に生きていく事より……美貴ちゃんともう一度会う事を選んだんだよ!」
最後の言葉はもう叫びだった。
大好きな鷲士が目の前にいる自分よりも、死んだと思っている美貴の方を大切に思っている……。
その思いが、美沙に激しい涙を流させた。
「美沙…」
泣きじゃくる美沙の肩に手を伸ばそうとしては触れられずにまた手を戻す。幾度そんなことを繰り返しただろうか……。
結局なにも出来ないまま、美貴は次の言葉を待っていた。
「なのに…ひっく…ぐすっ……なんで…美貴ちゃん…ぐすっ……鷲士くんの事…信じてあげないのよぉ……」
「そ、それは……」
「こんなに美貴ちゃんの事愛してくれてる人を信じられないなら、美貴ちゃん、鷲士くんに愛される資格なんてないよ!!」
想いが溢れて止まらない。
鷲士も……美貴も……2人とも大切なのに……
大好きな2人と…ずっと…一緒にいたいのに……
その思いが美沙の胸を締めつける。
「どうして……こんなに鷲士くんが苦しまなくちゃいけないの……美貴ちゃんだって……もっと……鷲士くんの側にいたいはずなのに……どうして……みんな……一緒にいられないの……?」
「う…」
美沙の言葉……それが胸を締め付けて……
美貴はなにかを言おうとしては何度も溜息をつく。
そんな美貴の様子に美沙はしばらく泣きじゃくっていた。
いつの間にか、美沙達の周りからは客の姿は消え、静まりかえった店内に美沙の嗚咽だけが響いている。
「……胸が…痛いよ……」
涙混じりに美沙がそう言った時、スッとその手に美貴の手が重ねられて……思わず顔を上げた美沙が見たものは、涙に溢れる瞳で、優しく見つめる美貴の姿……
「おかあ…さん………」
「…すっごく久しぶりに…そう呼んでくれたね……」
そう言って美貴は美沙を優しく抱きしめる。
「……ごめんね……美沙………つらい思い…させちゃって……」
美貴のその言葉と抱きしめられた温もりに戸惑う美沙の頬に、雫が落ちた。
「……でも…ごめんね……まだ…まだ怖いの………」
抱きしめてくる美貴の震えが美沙にも伝わる。
美沙には美貴の胸が張り裂けそうなほどに高鳴っている事が解った。
「しゅーくんも…美沙も…樫緒も……みんな大好き………でも……」
痛いくらいに抱きしめてくる美貴の腕が、その心を伝えているようで、美沙は美貴に身体を預けた。
「でも…怖い……許してくれても…しゅーくんの気持ちが……ちょっとでも離れてしまったら……そう思うと…怖くて仕方ないの……」
涙声でそう言う美貴に、美沙の心から溢れた想いは、いつしか静まっていた。
「だから…お願い……。もうしばらく…時間を…時間を頂戴……」
「……鷲士くん、いつまた今回みたいに命をかけようとしちゃうか解らないよ?」
「…彼がもし死にかけても…私、絶対に側にいる…。もしそんな事になったら…私があの世からでも引っ張ってくる! だから……だから……っ!」
その美貴の言葉に美沙はしばらく迷っていたようだが、やがて、大きく溜息をついた。
「……できるだけ…待ってあげる…でも、本当にどうしようもないと思ったら、私、鷲士くんに美貴ちゃんの事ばらすよ!」
「う、うん…ど、努力します……」
「ほんとに…世話のかかるお母さんなんだから……」
そう言って笑う美沙をぎゅっと抱きしめると、美貴も微笑んだ。
それから数日。
ヴェスターランドの海岸でいちゃつく両親の姿に、美沙は………
「まったく…なにやってんだか……」
そう言って溜息をついた。
「親子水入らずでくらす事くらい簡単なはずなのに………美貴ちゃん……頑張ってよ〜」
……美沙の夢が叶うのは、まだまだ先のようである。
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