DADDY FACE SS 『恐怖 -翔仔(冬海)-後編』
by Sin



崩れ落ちるように倒れた美沙ちゃんを抱き寄せた鷲士さん。
その様子にほっとしたのもつかの間……
「な、なにをしてるの!? 絞め殺すの! 首を、絞めるのよ!」
彼女の言葉に、再び鷲士さんの腕が動き出す……
でも……
右……だけ?

その後の様子を私は呆然と見つめていた……

鈍い音と共にだらんと垂れ下がる右腕………
『折った……の……? 自分で………?』
でも、それに驚いている内に鷲士さんは両方の耳を強く叩いていた……
何をしたのか……私には全然解らなかった。
でも……

「な、なんてことを……! 自ら鼓膜を……!?」
真っ青になって驚く樫緒くんの言葉で鷲士さんが何をしたのか、私にもようやく解った……
これ以上、ウルスラの言葉で操られない為に……鼓膜を……破ったんだ……
そんなときでも、樫緒くんに……そして美沙ちゃんに笑いかける鷲士さん……
あんなにボロボロなのに……どうして……あんなに優しく笑っていられるの……?

ポンポンと美沙ちゃんの頭を撫でていた鷲士さんはゆっくりと立ち上がって振り返った。
……だけど……なんだか変……さっきまでと違う……
今の鷲士さん……怖い……

「……決めたぞ」
「な、なにをかしら?」
「……ぼくはおまえを殺そうと思う」
あっさりとそう言って鷲士さんはゆっくりとメガネを外した……
途端に、レンズはフレームごと砕け散る。

殺す気なんだ………本当に……
体が震える…
あんなに優しかった鷲士さんが……今はまるで別人……

「面白い、あなたって本当にわけのわからない男ね! 最後に聞いておくわよ、あなた、
何者?」
「……ダーティ・フェイスさ!」
鷲士さんが言い放つ……
「そんなヤツは最初から実在しない! 暴力も戦いも大っ嫌いだ! だが−それが貴様らに
畏怖と戦慄、そして屈辱を与えるのいうのなら、ぼくはあえて名乗ってやる! ダーティ・フェ
イスとな!」

鷲士さんの言葉にウルスラが動揺していたのもわずかの間………
直後に戦いが始まった。

……大丈夫……鷲士さんの方が強い…
戦いは鷲士さんが優勢に進めていた……
これなら大丈夫……そう思った時だった……

「………後催眠って知ってる?」
その言葉が、これ以上鷲士さんがウルスラを攻撃できないことの証だった……
「お利口ね! あなたにわたしは倒せない!」
叫ぶと同時にウルスラが鷲士さんに体をぶつけて行った……
2人が海に落ちる。
それから……しばらく待っても2人は上がってこなかった……
『鷲士さん!』
心配になった私は鷲士さん達の後を追って海に飛び込んだ。
………冷たくも……苦しくもない………
やっぱり死んじゃってるのね……私……

自分の死を嫌と言うほど思い知らされる……
でも、すぐに飛び込んだ目的を思い出した。
『鷲士さん……どこ?』
慌てて辺りを見回すと、ウルスラに首を絞められたまま海底に引きずり込まれていく鷲士さん
の姿を見つけた。
『鷲士さん!』
顔色が悪い……もうずいぶん深くまで潜ってる……
このままじゃ………

− 落ち着いて……ゆっくり……ゆっくり……心が体を傷つけないように……

鷲士さんが……

− ぼくのは……もう思い出になっちゃったけど……でも、ほら、冬海ちゃんは現役って感じ
  するし。だから、えっと、元気だして。ねっ?

優しくて……とても暖かい……あの鷲士さんが……

− 大丈夫、もう大丈夫! 無事で良かった……!

死んでしまう……!?

− あ、あんなに苦しんでたのに……! あんなに……あんなに辛そうだったのに……!
  ぼ、ぼくはなにもできないままで……!

嫌! 絶対にそんなの嫌!!

『お願い……鷲士さんを……鷲士さんを助けて!!』

さっきの声に向かって必死に叫ぶ。
そして……

− 泣かないで……200年ぶりでちょっと心配だけど……やってみるから……

その声と共に、鷲士さんとウルスラの間に突然、日本刀が現れ、そのままスッと2人の間を
横切った。

そして……辺りに鮮血が溢れた。
見ると、ウルスラの両腕が完全に切断されて辺りに浮かんでいる……

− 坊や……あの子を泣かせたあの女を……絶対に許しちゃダメよ!

もう一度聞こえてきた声と共に、ウルスラの背後に巨大な影が現れた……

『海……坊主……? じゃあ……あの声は………まさか……』
そう思うと同時に海坊主はウルスラをその手にしっかりと掴んで浮かび始めた。
鷲士さんも海坊主の手を足場にして一気に海上に飛び出す。
私も慌てて後を追った。

私が海から上がった時には、すでに海坊主にウルスラは握り潰された後だった……
甲板に転がっているその頭に私は思わず息を呑む。
「よくも翔仔ちゃんを……!」
鷲士さんがそれを踏みつけようとする。でもその時……
「……待ちな!」
大ちゃんが鷲士さんを止める……そして……
「……そうそう……美談は続くぜ……きっとな……」
その言葉とともに、大ちゃんはウルスラを踏み砕いた……

しばらくの間、大ちゃんを呆然と見ていた私は、ふと、背後の様子に気付いた。
「……いますぐ病院行くのっ! おとーさん連れてくのっ!」
子供っぽい仕草で鷲士さんに泣きついている美沙ちゃん……
『ふふっ……可愛い……あんな子供……欲しいな……』
その時、鷲士さんが『私』に目を向け、そして、ゆっくりと近づいて手を握ってくれた。
「翔仔ちゃん……ぼくは……結局何も出来なかった………ぼくは……君を……助けられな
かった………」
そう言う鷲士さんの涙が私の頬にこぼれ落ちる……
鷲士さんは……美沙ちゃん達の考えてくれたこと……知らないから……
こうして涙を流してくれる鷲士さんの優しさが申し訳なくて……私は思わず目をそらした。
と、その時……

− もう……休みなさい……翔仔ちゃん……

あの声がまた私の耳に響いてきた。
『人魚さん………ですよね……?』
そう言うと、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
あれ? この声どこかで……

− 草刈くんや、古谷くんのことは安心して………今はゆっくりお休みなさい……

『でも……』

− いつか必ず……草刈くん達があなたを目覚めさせる方法を見つけてくれるから……
  その時まで、ゆっくりお休みなさい……

人魚さんの声がまるで子守歌のように私を眠りへと誘っていく……
『鷲士さん……美沙ちゃん……樫緒くん……』
脳裏に過ぎるみんなの笑顔……
『美貴さん……冴葉さん………』
すてきな・・わたしもああなりたいくらいに素敵な女性……
そして……誰よりも……何よりも一番大切な人………
『大ちゃん……』

− いつか会えるその時まで……私が……見守っていてあげるから………

その人魚さんの声はとても優しくて……暖かくて………ああ……そうだ……
あの人……優しくて……暖かな……あの人………

………いづな……さん……

全ての音が……遠くに聞こえる………
波の音だけが……私を包み込んで………

いつか……きっと………
だから………待ってて……ね………
大……ちゃん………






      
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