DADDY FACE SS 『不死咎人(11)』
by Sin
樫緒の放った青い閃光が虎雄の身体を包み込む。
その間にも無数の触手が下から、そして周囲からも襲いかかろうとしていたが、下からの物は樫緒の力に阻まれ、周囲から襲いかかろうとした物は、尽く鷲士と美貴によってたたき落とされていた。
「美貴ちゃん、まだ大丈夫!?」
「このくらい、まだまだ平気! それより…樫緒! そっちは大丈夫なの?」
呼びかける美貴の声に、樫緒は振り向くと答える。
「僕に見える範囲の傷は治しました。後は目が覚めるのを待つだけです」
その言葉に美沙が虎雄を抱き起こすと、すでにその身体にあった無数の傷は、跡形もなく消えていた。
「樫緒…ありがとう…」
「……い、いえ…死なれては…その…僕も困るので…」
涙を浮かべて礼を言う美沙に、樫緒は顔を真っ赤にして答える。
その時、1本の触手が美貴の守りを突破して美沙に襲いかかった。
「姉さまには……指一本、触れさせません! あの虎雄にできた事、僕にできないはずがない!!」
だが、今度は樫緒の力がその触手を弾き飛ばす。
次々に襲いかかってこようとする触手を、樫緒の力が無数の刃となって切り裂いた。
− オノレェェッ!
更に巨大な触手が数本、襲いかかってくるが、これも樫緒の張った障壁によって弾き返される。
「姉さまへの想いなら、僕だって負けてはいない!!」
その叫びに答える様に、いくら打ち据えられても、障壁はびくともしない。
やがて諦めたのか触手が地面に引っ込もうとした次の瞬間!
「捕まえたぞ……スライム野郎!」
美沙の胸に抱かれていたはずの虎雄が、誰の目にも触れることなく、触手を捉えていた。
「「「「「いつの間に!?」」」」」
冴葉を含む、その場にいる虎雄を覗いた全員が驚きの声を上げる。
鷲士にも気付かれず、そして抱きしめていた美沙にすら、いつ虎雄が自分から離れたのか気付かせないままに、その姿を触手のすぐ側へと移動させていたのだ。
− バカナ! ナゼオレニ、フレテイラレル!?
「さっき身体ぶち抜かれた時に気付いたんだよ! 気で覆ってさえいれば、テメエの浸食を押さえられるって事にな!」
虎雄の言葉に、化け物が初めて動揺した様子を見せる。
「くらいやがれぇっ!!」
その瞬間、虎雄の手が放つ闘気が雷撃となって化け物全体を打ちのめした。
「樫緒さん! 今ならこいつを引きずり出せる!!」
「言われるまでもありません!」
樫緒が言い放ったその瞬間、青い光が触手を伝わり、化け物の身体全体を地面から引き剥がす。
青白い光に包まれながら、化け物はその全貌を空中に晒した。
それは赤く透き通った何百もの触手を伸ばし不気味に蠢いている直径20メートルにも及ぶ巨大な球体…。
「気色悪ぅ…」
嫌悪感も露わに言った美沙の言葉に、全員が頷く。
− コレデ…カッタツモリカァァァッ!!
その瞬間、樫緒の力を突き破り、触手が美沙を、そして美貴を襲う。
だが、それは2人に到達することなく、鷲士と虎雄によって粉砕された。
− オノレェェェッ!!
更に襲い来る触手。
今度は一度に数百本もの数が襲い来る。
「僕の家族を…これ以上傷つけさせるかぁぁっ!!」
一閃!
まるで鷲のように舞い上がった鷲士の左竜閃刀が、その全てを断ち切る。
地面に落ちようとした触手の下にはすでに虎雄が。
「美沙を泣かせた報い…たっぷりと味わいやがれ!!」
左腕に巻き起こる稲妻。
次の瞬間、虎雄の姿がかき消え、その場に煌めく黄金の閃光。
一瞬の後、降り注いだ触手は全て跡形もなく焼き尽くされた。
「なっ!?」
驚きの声を上げる鷲士。
いや、それは彼ばかりではなく、その場にいる全員が上げた声だった。
「と、虎雄…?」
姿の見えない虎雄を捜してきょろきょろと見回していた美沙は、突然目の前に現れたその姿に驚きのあまりへたり込む。
「な、なぁっ!?」
その様子に虎雄は苦笑すると、そっと美沙を抱き起こした。
「虎雄…くん…い、今の力は一体…?」
鷲士の言葉に振り返る虎雄。
その瞳に、全員が息を呑んだ。
まるで、闘気の塊のような、その……黄金の瞳に…
それは、紛れもない意志。
『あらゆるものから愛する者を守る』
絶対普遍のその意志が、虎雄に無限の力を与えていた。
「俺は美沙を守る! 何があっても…たとえ誰が相手でも!!」
虎雄の咆吼が辺りに響き、その全身が金色の光を放つ。
それは樫緒の力を示す青い閃光さえも薄れるほどの強さで輝いた。
「虎雄…」
呆然と見つめる美沙。
恐る恐る手を伸ばして虎雄の身体に触れるが、その瞬間、美沙の中に虎雄の凄まじいまでの意志が流れ込んで、慌てて手を引っ込める。無限に膨れ上がる虎雄の想いに触れて、美沙の頬は真っ赤に染まった。
胸は張り裂けんばかりに高鳴り、声を出すことすらできない。
それでも決して虎雄から視線を外すことはなかった。
どれ程に自分が想われているのかを知って、美沙の頬には歓喜の涙が溢れる。
「…虎雄……虎雄……っ……大好き……大好きだよ……っ」
呟くように…囁くように告げる想い…
それに答えたのは……熱く滾る想いを込めた、唇だった…
「あ、あ、あああああぁっ!!」
その様子に、樫緒が声を上げた。
「な、なっ、なんて真似をっ!! 虎雄! ね、ね、姉さまのくっ、唇をっ!?」
完全に興奮状態の樫緒を虎雄はいつもとはまるで違う、冷静な瞳で見つめる。
「う…っ」
流石の樫緒も、その瞳に思わず怯んだ。
「樫緒さん、師匠。俺…アイツだけは絶対に許せない! だから…俺に力を貸して下さい!」
「もちろんだよ、虎雄くん! 僕だって…絶対に許せないんだ!!」
虎雄の言葉に即座に答える鷲士。
その瞳には、愛弟子の成長への喜びが隠しきれないほどに浮かんでいる。
そして、樫緒は…
「……いいでしょう…ですが、これが終わった後……貴方とは、しっかりと話をしなくてはいけないようですね…」
『結城の血』全開で見つめてくるその視線に今度は虎雄が怯みそうになるが、呼気を整えると強く頷いた。
− オンナァァッ! ヨコセェェェェェェェェッ!!
まるで狂ったように暴れ出す化け物。
その触手が、美貴や美沙だけではなく、冴葉や周囲の女性スタッフ達にまで狙いを定める。
だが、その動きは樫緒の力によって押さえられ、十分に逃げることができた。
「美沙! もう一度、衛星攻撃を!!」
「えっ、でもさっきは通用しなかったし…」
それに…と続けようとした美沙の言葉を虎雄が遮る。
「もう、アイツに反撃する余裕なんて与えない! さっき師匠が見つけたアイツの弱点らしきもの…それを狙ってみる!」
大きく再生する時に、一時的に硬質化する性質。
その僅かな時間が、今の虎雄に残されたチャンスだった。
「……わかった…虎雄、信じてるからね!」
「ああ!」
もう一度重ねられた唇に、樫緒のこめかみがピクリと引きつったが、2人は気にもせずにしっかりと見つめ合うと、ゆっくりとその身体を離した。
「樫緒、しっかり捕まえといてね!! 草薙、エネルギー充填、80…90…100っ!」
一気に発射しようとした美沙だったが、ふと思い直し、更に充填を続ける。
「105…110…」
「ボ、ボス! これ以上は草薙が保ちません!」
「まだまだこのくらいじゃ効き目ないもん! 112…114…116…118……」
「レッドラインを越えました! このままでは草薙が暴走します!!」
「もうちょっと…119…120%!! よーーし! くっらえぇぇぇぇぇっ!!」
その瞬間、超高出力の赤い光が化け物を直撃した。
− コ、コノクライデ、ヤラレルカァァァァァッ!!
あまりの出力に地面はボコボコと泡立つマグマと化し、化け物の身体も表面が気化していく。
だが…
− コノテイド…オレサマニツウヨウスルトオモッタカァァァァッ!!
その声と共に、化け物の色が青紫色に変わっていく。
金属のような光沢を放つ物体へとその姿を変えた化け物の身体は、全く気化しなくなってしまった。
「う、嘘…あれだけの出力でも効果がないなんて…」
やがて、草薙が出力限界を超えて停止すると、化け物はその変化した姿を留めたまま再び触手を伸ばし始める。
顔を青ざめさせる美沙。だが…
「狙い通りだっ!! 師匠、樫緒さん、今です! 攻撃を!!」
「貴方に指示されるのは納得できませんが…はぁぁぁッ!!」
虎雄の言葉に答える様に放たれた、樫緒の気合いが幾千の青い光刃となって化け物の身体を流星の様に貫く。
− ギャアアアアアアァァァァッ!! バ、バカナッ!!
その形を徐々に変えながら落下する化け物の上空には、いつの間にか虎雄の姿が。
上空から、その右腕に目一杯込めた気で撃ち抜く右竜徹陣。
それを受けた瞬間、化け物の身体から無数の光が飛び散り、それと共にその形が徐々に人のものになっていく。
− オレハ…オレサマァァァァッ!!
地面に叩きつけられても、化け物はもう液体に戻ることはできず、ゆっくりとその身体を起こしてくる。
その姿は青黒い金属質の物体ではあるものの、形は完全に人の…元の権堂 鬼丙へと戻りつつあった。
「ここまでだ! 滅び去れ、権堂 鬼丙!!」
起きあがってくる鬼丙に、鷲士は3歩下がったところから、右の小踏み込み、そして威力を溜めたままの左の中踏み込み。
間を置かず、渾身の右の大踏み込みと共に右の正拳、更に左上から打ち下ろす様に左の正拳を放つ。
「九頭・双竜涅槃戟!!」
鷲士の使える最強の打撃技が、鬼丙の身体に炸裂した瞬間…
− ギ…ギャ…ガァァァァァァァァッ!!
打撃点を中心として、鬼丙の身体が爆砕する。
首から上と、両手首から先だけを残して、その殆ど全てが灰燼と化した。
− オ、オ、オロッ、オロベッ…オノレェェェェッ! セメテソノオンナダケデモォォォォッ!!
美沙に襲いかかる鬼丙の首と手。
あまりのその不気味さに、美沙は身動き1つできない。
今にもその喉笛に襲いかかられそうになった瞬間、凄まじい衝撃で鬼丙の首は弾き飛ばされ残された両手は灰燼と化す。
− ナ、ナニガ…
目だけをギョロリと動かして衝撃の元を探る鬼丙。
そこには金色の闘気を纏った虎雄の姿があり、その背後には闘気がまるで巨大な虎の様に浮かび上がっていた。
− キ、キ、キサマァァァッ! ドコマデオレサマノジャマヲォォォッ!!
「……死ね…」
一瞬…
その場にいた者達は、完全に虎雄の姿を見失った。
そして次の瞬間…
虎雄の背後に浮かんでいた黄金の虎が鬼丙の頭を食い尽くしたかに見えたと同時に、その姿を灰燼と化す。
断末魔の声すら上げる間もなく、鬼丙はその存在の欠片すら残さず消滅した。
「す、すご〜い…」
呆然と見つめる美沙のすぐ側に再び虎雄の姿が現れる。
「虎雄!」
嬉しそうに抱きつこうとした美沙だったが…
「……虎雄?」
戸惑う美沙。様子がおかしいことに気付き、鷲士達が目を向けた次の瞬間…
大量の血を吐き出して…
虎雄が…倒れた…
「と、虎雄ーーーーーーーっ!!」
美沙の悲鳴が、静寂を取り戻したカト女に響き渡った…
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