DADDY FACE SS 『不死咎人(2)』
by Sin
自殺の名所として知られ、あまり人の寄りつかない天然の迷宮、富士の樹海。
脱獄した死刑囚、権堂 鬼丙はこの人気のない森の中を彷徨っていた。
「うぅぅ・・・腹・・減った・・・誰かいねえのか・・」
すでに脱獄して1週間。その間、殆ど食べ物を口にしていない権堂の精神状態は極限にまで追いつめられていた。
この日もすでに5時間も彷徨っている。高く昇った太陽も、この深い樹海の中では殆ど見えない。
「畜生・・俺がこんな目に遭うのも、あの野郎の所為だ・・あの野郎が・・俺の楽しみを邪魔しやがったから・・」
自分のした事など完全に棚に上げて、権堂は恨み事をぶつぶつと漏らし続ける。
そうしている内に、権堂の目の前に洞窟が見えてきた。
「洞窟か・・なにか食いもんねえのか?」
少しずつ奥へ奥へと進んでいく。そして・・・
・・・キィ・・キィ・・・・・
なにか奇妙な音が聞こえて、権堂は足を止めた。
「・・なんだ?」
まるでその音に引き寄せられるかのように、権堂はそちらへ向かって足を進めていく。そして音の方向に見えてきた光に近づくと・・
「な、なんだぁ、こりゃあ・・・」
思わず目を見張る権堂。そこには、淡い光を放つ、管状の気味の悪い物が群生していた。
「気色悪ぃ・・・まあ・・食えりゃあなんでもかまわねえ!」
そう言うと、権堂はその管状生物をボリボリと貪った。
そして・・どれほどの時間食べ続けただろうか・・
全ての管状生物を食べ尽くした権堂は、膨れた腹をさすりながらごろりと寝転がる。
「味は最低だけど、まあ腹も膨れたしな・・さてと・・んじゃあ少し寝るか・・」
そう言って目を閉じた瞬間だった・・
「ぎゃああああああああああああああっ!!」
まるで全身を引き裂かれたかのような絶叫。
「ぎゃあああっ、うぎゃああああああああああああああああっ!!」
激しく叫び続ける権田。
やがて、その身体が徐々に溶け始めた。
「ひぃぃぃっ、身体がぁぁ俺の身体がぁぁぁぁぁぁ!! 俺の・・・おべ・・ろ・・・お・・・」
口の周りも溶け、言葉を発する事もできなくなる。
痙攣を続けていた身体が完全に動かなくなると権田の身体は完全に溶け、赤黒い液体となって辺りに広がった。
全ては終わった・・かに見えた。
初めは、1匹の蜘蛛だった。
赤黒い液体に蜘蛛が触れた瞬間、液体が突然動いて蜘蛛に襲いかかり、飲み込んでしまう。
蜘蛛はしばらく藻掻いていたが、やがて動かなくなると液体の中に溶けてしまった。
そして・・トカゲが・・蛇が・・そして辺りを飛び交う虫たちまでもが次々と液体の中に飲み込まれていく。
やがて、樹海のその場所には、完全に生き物がいなくなった・・・植物さえも。
周り全ての生き物を飲み込んだ赤黒い液体は、いつしか大きな池のようになっていた。
そんなある日の事・・
「おっかしいなぁ・・こっちであってるはずなんだけど・・」
首を傾げながら地図を睨む青年。どうやら道に迷ったらしく、連れの少女も不安げに「ちょ、ちょっとぉ、ここ樹海だよ! ハイキングコースから外れたら、二度と戻れないって・・」と言って涙目になっている。
「だ、大丈夫だよ、ちゃんと戻れるって。・・・あ、きっとこっちだよ」
そう言うと少女の手を引いて歩き出す。
だが、2人は知らなかった。今、この樹海には恐ろしい物が存在しているという事を・・
「よ、洋ちゃん・・あれ・・なに・・?」
先に気付いたのは少女の方だった。
洋ちゃんと呼ばれた青年も少女の指さす方を見る。するとそこには巨大な赤黒い池が・・
・・・オンナ・・ノ・・・ニオイ・・・ダ・・・
「え? よ、洋ちゃん、なにか言った?」
「言ってないよ」
「変だなぁ・・」
・・・・オンナ・・ダ・・・ヒサシブリ・・ノ・・オンナダ・・・
「や、やっぱりなにか言った!?」
「お、俺じゃないぞ!! 俺じゃ・・・ヒッ!?」
突然青年が息を呑む。
「う、後ろ・・」と言う声に少女が振り返ろうとしたその時だった。
「きゃああああああああああっ!!」
突然足にからみつかれた感触に少女が悲鳴を上げる。
慌てて払いのけようとして少女が見た物は・・・まるで蛇のように巻き付いている赤黒い液体だった。
「い、嫌ああああああああっ!!」
必死に振り解こうとするが、液体は更に上の方へと巻き付いてくる。
「洋ちゃん助け・・・て・・・・」
助けを求めようとして顔を上げた少女の目に映ったのは・・・赤黒い液体に包み込まれ、すでに白骨化した青年の姿だった。
あまりの出来事に、悲鳴を上げる事もできず、くたくたと頽れる少女。
その身体に青年を包み込んでいた液体が一気に覆い被さってくる。
悲鳴を上げる間もなく、少女は液体に飲み込まれてしまった。
そして・・・そのしばらくの後・・
赤黒い池はその姿を消し、その場には1人の白骨死体と女物の衣服が1人分、残されているだけだった・・・
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