斬魔大聖デモンベイン SS
『納涼ゼリーぶっかけ大収穫祭』
by Sin



 アーカムシティーより専用バスに揺られること数時間。
 俺達は今、かつて訪れたあの地へと到着した。
 
 響いてくるのは潮騒。
 香る潮の香り。
 
 かつてダゴンと戦ったこのインスマウスの海。
 だが、この世界にはそんな様子は欠片も見えはしない。
 観光客達が楽しそうに水着姿で遊んでいる。
 
 そして……
 
「九郎、待たせたな」
「パパ〜♪」
 

 以前よりも露出度の高い黒ビキニのアル、腰のパレオもなかなか良い感じだ。
 そしてそのアルに手を引かれて嬉しそうに駆け寄ってくるリル。
 こっちは黄色のワンピース。腰回りのフリルと浮き輪型になったダンセイニが何故かよく似合う。
 
 それにしても、本当に目のやり場に困るな……
 どっち? って……いや、そりゃあ、もちろん、アルだけど……
 このアルの格好……
 誘われているのかと思いたくなるぞ……これは……
 
 ふと思いついたその時だ。
 
「ん? 何だ、もう欲情したのか?」
「歯に衣着せろ!」
「汝も相変わらずよの。確かに妾の全ては、九郎……汝の物だ。だが、こう所構わず欲情していては……妾の身も持たぬぞ…」

 僅かに頬を赤らめるアルの姿。
 うぐぅ……そんなのを見せられると俺の理性が……理性がぁぁ……
 
「相変わらず、破廉恥な人達ですわねっ」

 唐突に、背後から声をかけられて慌てて振り返る。
 と、そこにはいつもの格好の執事さんやメイド達を連れた水着姿の姫さんが……
 
「って! そっちこそ、その後ろの集団、目立ってんぞ」
「あら……? 良いのですわ。だって、執事ですもの」
「それでいいのか、あんた等は!」
 微笑んで言い切る姫さんに、一瞬キレかけるが、とりあえず自制。
 振り返って執事さん達に問いかけるも……
 
「ええ、執事ですから」
「そして私達はメイドですから」
「メイドですから〜」
「……って、まあ、うちもちょっとは変かな〜とは思うんやけど………メイドやし」

 ま……いいか。別にこっちに被害があるわけでも無し……
 
「九郎、小娘達など放っておけ。それよりも早く泳ごう! リルもここ数日、ずっと楽しみにして居ったのだからな」
「応っ!」
「うんっ♪」
 勢いよくその場を離れようとする俺達に、姫さんの声がかかった。
 
「ちょ、ちょっと、お待ちなさい!」
「なんだ、小娘? 妾達が家族水入らずの一時を過ごそうとしているものを邪魔する気か?」
「勝手に、家族旅行にしないで頂きたいですわっ! 今回の費用を誰が出していると思っているのです! 身勝手なのもいい加減になさいなヤギの餌!」
「ほほぅ……言ってくれるではないか、20年も生きていない小娘如きが」
「ま、まあまあまあ……2人とも、折角のバカンスだってのに、喧嘩しなくてもさ……」
 慌てて止めに入る俺を挟む形でアルと姫さんの視線が火花を散らす。

「汝とは一度、きっちり決着をつけねばならぬと思っていたぞ……人間(ヒューマン)っ」
「良い覚悟ですわ…この際、誰を相手にしているのか判らせてあげますわよ、魔導書(グリモワール)!」
 バチバチと飛び散る火花。
 そんな2人の様子にリルはすっかり怯えて俺の足に縋り付いている。
 
「あ、あうぅ……パパぁ……」
「大丈夫。もしもの時は俺が守ってやるから」
「……うん♪」
 そして俺達が見つめる中、勝負は一瞬で決まった。
 
「ををぅ……」
「うわ〜〜〜」

 思わず感嘆。
 互いの拳は互いの頬に、あまりにも見事に突き刺さっている。
 完璧なまでのクロスカウンターだ。
 
「これはなんとも見事な……」
「いたそ〜ですぅ……」
「かんっぺきに決まっとるな……」
「………はぅっ……」

 なぜだか知らんが、うっとりとした目で2人の勝負を見つめていたマコトはいきなり頬を赤く染めるとその場に崩れ落ちる。
 ま、まあ、とりあえずこれはおいといて……
 
「リル、今のうちに行くぞ……」
 こくこくと頷くリル。
 姫さんを介抱する執事さん達の隙を見計らい、両者ダブルノックダウンでぶっ倒れたままのアルを担ぎ上げると俺達は大急ぎでその場を離れた。
 
 
 
 それからしばらくの後…
 俺は人気の少ない海岸の岩場にアルを横たえると、その横に座り込んだ。
 リルもアルの様子を心配そうに見つめている。

「ママ、大丈夫?」
「ん、心配ないさ。ちょっと気を失ってるだけだから、しばらくすれば目を覚ますよ」
 そう言って頭を撫でてやると、リルは気持ちよさそうに目を細めて微笑む。
 まったく、俺達の娘にしては可愛すぎるぞ……リル。
 
 と、その時、不意に寝かせていたアルが身動いだ。
「う……うぅ……ん……」
「気が付いたか?」
「九郎……? ここは……?」
「ちょっと人目につきにくい海岸を見つけたもんでさ。ここならアルを休ませてやることも出来るかと思って」
「そうか……相変わらず汝には世話ばかりかける……済まぬな」
「気にすることじゃないってそれに……」
「ん? あ、きゃっ!?」
 唐突に俺が抱きしめると、アルは驚いて身体を硬くする。
 
「く、く、九郎!?」
「お前を守るのは俺の権利だ。誰にも譲るつもりはないぜ」
「……うつけ…」
 頬を赤く染めて俯いたアルは、そのまま俺の背中に手を回してギュッと抱きついた。
 
「………っと、そう言えば、リルは……?」
 そう言って探そうとしたアルだったが、背後から抱きつかれて慌てて振り返る。
「リル? …良かった。迷子にでもなっていたらどうしようかと…」
「ママ…大丈夫? 痛くない?」
「ん、心配ない。大したことはないからな。それにしても……」
 ふと、辺りを見回すアル。
 
「やけに人気がない場所だな。遠くから人声が聞こえてくるからさほど離れては居らぬのだろうが……」
「一応、遊泳禁止区域だからな。まあ、休みに来ただけで泳ぐ訳じゃないから大丈夫だろ?」
「そうだな。ならばそろそろ…」
「ああ、行こうか。リル、おいで」
「うんっ♪」
 俺の手にギュッと抱きついてきたリルを、抱き上げて肩車する。
「わぁ………たか〜い♪」
 はしゃぐその姿に俺達は視線を合わせて笑った。
 
 
 
 あれから数時間。
 俺達は家族水入らず+ダンセイニで海を満喫した。
 途中で姫さん達やライカさん、それにガキんちょ達とも合流して楽しい時間を過ごし…
 そしてホテルへと戻り、温泉をゆっくりと楽しんだ俺達を待っていたのは…
 
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、すっご〜〜〜〜〜〜い!!」

 リルの歓声。
 以前の世界で俺達も目にしたことがある、あの豪華特盛料理の数々……
 香り立つその情景に、落ち着いてなどいられないのは当然だ。
 
 とりあえず宛われた席に着いた俺達は、姫さんの話など聞く余裕すらなく料理へと手を伸ばす。

「大十字さん」
「ん? はぐはぐはぐ……」
「先日はありがとうございました。あなたがいなければ、アーカムシティーは……いえ、おそらくこの世界そのものがどうなっていたか……」
「はぐはぐ…むしゃ……もぐもぐ……ごく…ああ、あれは俺達の戦いでもあるわけだから、そう気を遣わなくてもいいって」
「それと……」
「がつがつがつ……もぐもぐ…ああ、ほら、リル。口の周りがべたべただぞ」
 そう言いつつ手近のおしぼりでリルの口周りを拭いてやる。
「えへへ……もぐもぐ……おいし〜ね♪」
「普段、絶対に食えそうもないような物ばかりだから、しっかり食っておけよ」
「うんっ♪」
「ほら、九郎。これも美味いぞ」

 アルがそう言って俺に刺身を差し出してくる。
 俗に言う、『あ〜ん』ってやつだな。
 当然、何の躊躇いもなくそれを口にする。
 
「どうだ?」
「確かに美味いな。あ、これもさっき食ったけど美味かったぞ。ほら」

 お返しに今度は俺がアルに……
 
「ををぅ、なかなかに美味」
「リルもリルも〜」
「ん、ほら、リル」
「もぐもぐ……あは、おいし〜♪」
 幸せそうな笑顔を浮かべるリルに、俺達まで微笑んでしまう。

「貴方達っ! 人が話している時くらい、箸を止めなさいっ!!」
 姫さんの言葉も、すでに別世界にいる俺達には全く届かない。
 執事さんが溜息をつきながら姫さんに声をかける。
「お嬢様、どうやら言っても無駄のようです」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! この人達はぁぁッ!!」
 ブチ切れ直前の姫さんをよそに、俺達は家族団らんを楽しんでいた。

 そしてしばらくの時が流れ……
 俺やアル、それにライカさん。姫さんやメイド達や執事さんは程良く酒も回り始めている。
 ガキんちょ達は4人で楽しそうに遊んでいた。
 
「九郎ちゃん達ったらぁ、もうすっかり新婚夫婦が板に付いちゃって〜お姉さん、目のやり場に困っちゃいます〜〜」
 身をくねらせて悶えるライカさん。
 まあ、いつものことだけどな……
 
 と、その時……
「………アル・アジフ…」
「なんだ、小娘?」
「………うぅ……どうして……どうしてですの! どうして魔道書の貴方が子供なんて作れてしまうんですの!」
「フフ……妾と九郎の極限の愛情が奇跡を呼んだ…と言うことであろうな」
 頬を赤らめてそう言うアルをそっと抱きよせる。
「九郎……」
 嬉しそうに俺に身を任せて抱きつくアルの身体を、包み込むように抱きしめた。
 その様子をじっと見つめていた姫さんだったが……
 
「見せつけてくれますわね……」

 急に、ちょっと据わった目で睨まれた………怖ぁ〜

「………う……うう……」
「あ、あの、姫さん?」
「………理解出来ませんわ……」
「へっ?」
「理解出来ませんわ! 何で魔導書が子供を作れるんですの!? 非常識ですわ! 陰謀ですわ! 横暴ですわぁぁっ!! 大体、この私でさえ、まだ恋人の一人もいないというのに…他の人ならともかく、ヤギの餌如きに先を越されるなんてぇっ!!」
「一言一言感に障る言い方だが……まあ、女としての魅力の
だな」
「〜〜〜〜っ!?」
 完全に見下すようなアルの返事にマジギレする姫さん。
 これは……ヤバいかな?
 
「なんですってぇぇぇぇっ!!」
 一瞬にして宴会場は修羅場に……ならなかった。
 
「ダンセイニ!」
「てけり・り!」


 アルの声と共に、リルの傍でびろ〜んと伸びていたダンセイニが一気に跳びあがると姫さんに覆い被さって押さえ込む。
「ををぅ……」
 思わず感嘆。
「きゃぁぁっ! や、ちょ、ちょっと、なんですのこれはっ!?」
「ダンセイニ、とりあえず大人しくなるまで押さえ込んでおけ。こう騒がれては折角の酒が不味くなる」
「てけり・り♪」
「では、ゆっくりと飲み直そうか、九郎……」
「あ、ああ。でも、いいのか、あれ?」
「放っておけ。それよりも今は…汝と…」
 そう言ってアルは俺の手を取って自分の胸元へと……
 
 その時、ふと複数の視線を感じてそちらへ目を向けると…
 
「「(ドキドキ……)」」

 アリスンとリルが、俺達の様子を興味津々で見つめていた。
「あ〜〜おい、アル……しっかり見られてるんだが……?」
「構わぬ……子供に見られた程度で動ずる程、妾達は子供ではないわ……」
「大人とか子供とか……そう言う問題か?」
「そう言う問題だ。それよりも……早う…九郎……」
「あ、ああ……」
 戸惑いながらもアルを抱き寄せたその時……
 
「いい加減に……しなさぁぁぁぁぁぁぁい!!」
て、てけ、てけっ、てけり・り〜〜〜〜っ!?


 内側から思いっきり引き延ばされて、ダンセイニの悲鳴が上がる。
 そして……
 
「拙い!? ショゴスは危険を感じると粘液を放って身を守ろうとする!! あんなことをしたら……」
 思い出される粘液まみれの事務所。
「ヤバい、姫さん、やめろ!!」
「えぇっ!?」

 慌てて手を弛めた姫さんだったが、もう遅い。
 
 
ぶじゅるるるるるるるるるるるるるるる!!
 
 まるで水の入った風船の空気を抜いた時みたいな音を立てて、ダンセイニが大量の粘液を噴水のように吹き上げた。
 
「きゃああああっ!?」
「どわぁあっ!」
「にゃあああっ!!」

 
 あちこちから色々な悲鳴が上がる。
 
 
 そして数分後……
 
「よ、ようやく止まりおったか……」
 アルの言葉に顔を上げた俺は、その場で硬直した。
 
 目の前に広がるのは……ベタベタのネトネト……
 まさに……
 
「……納涼ゼリーぶっかけ大収穫祭だな……」
「……そうだな」

「な、何ですの、それは……?」

「「アイダホ辺りの風習だ」」

 俺とアルの声が揃う。
「……夏だか秋だか判断に困る祭りですわね……」

 そして、周りを見回した俺は、別の意味で硬直した。
 
「どうした?」

 そう言うアルの姿……顔や腕、むき出しの足……全身が粘液まみれで、髪からもその一部が滴りつつ糸を引いている。
 それはその場にいる全員がそんな状況というわけで……
 
「うぅ…ベタベタして気持ち悪いですわ……」
 姫さんも……
 
「あ……うぅぅ……」
 アリスンも……
 
「ああ……私はもう汚れてしまいましたわ……神様、こんなはしたない女をどうかお許し下さい〜〜よよよ〜〜〜」
 ライカさんも……
 
「やぁん、なんだかみんな凄くエッチな感じですぅ……」
「あ、あはは……なんか……その……目のやり場に困るっちゅーか……なんというか……」
「……あ、ああ……アルちゃん………アリスンちゃん……なんて……なんて………あああああああああっぁぁぁぁっ!」

 そう言うメイド達も……
 そして……
 
「ふぇぇぇん、気持ち悪いよぉ……」
 リルも……
 
 いや、皆まで言うな。
 わかってる。言いたいことは嫌って程に。
 
 目のやり場に困って、ちょっと部屋を出ようとした俺に声がかかった。
「何処へ行く?」
「……頭冷やしてくる……」
 そう言って出ようとしたら、更に……
 
「何故前屈みになっているのです?」
「………聞くな……」
 俺の返事に自分の格好を見回した姫さんは、ふと何か思い当たることがあったのか、唐突に顔を真っ赤に染めた。
「無理な話かもしれんが……」
「なんだよ、アル?」
「欲情するなよ」
 その言葉に、アルとリル以外が顔を真っ赤に染める。
 大人達だけではなく、アリスンやジョージ、それにコリンまでも。
「歯に衣着せろっ!!」
「ああ、もう、我慢出来ませんわ! 私、お風呂に入ってきます! 大十字さん!!」
「は、はいっ!?」
「背中、流して頂けますわよね?」
「な、なぁぁぁっ!?」
 絶句。
 思わず顔が赤くなったのが自分でも判る。
 アルも完全に硬直して瞬きひとつしない。
 
「あ〜ん、瑠璃ちゃんばっかりずる〜い! わたしも〜!」
「って、ライカさんまで何言ってんだよ!! 2人ともまだ酔ってるな!? それも完璧に!!」
「行きますわよ、大十字さん」
「九郎ちゃん。ほらほらぁ」
「ちょ、ちょっと待ったぁっ、2人とも目を覚ませ〜〜っ!!」
 ズルズルと引きずられていく俺。
「な、汝らぁっ! いい加減にせぬかぁぁぁっ!!」

 大爆発。
 そして……
 
「なんで俺だけぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 きらりん♪
 
 派手に吹っ飛ばされて…九郎は星になった………。
 その後、彼の姿を見たものは……
 
「勝手に殺すな〜〜っ!! ってゆ〜か、なんで毎回俺ばっかりこんな目に〜〜〜っ!!」

「運命だ」 ← アル&瑠璃&ウィン&チアキ&マコト&ソーニャ
「です♪」 ← リル&アリスン

「神よ……アンタは敵だ……」

 俺の呟きが虚しくインスマウスの海へと消えていった……




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