斬魔大聖デモンベイン SS 『悠久の闇の中で…』
by Sin



 果てしなく広がる闇……

 そこはすぐ近くでもあり、また遠くでもある…

 星の瞬きもないこの空間に浮かぶ影が2つ。

 その一つが、不意に微かな笑いを漏らした。

「マスター、なにを見ておられるのですか?」
「ああ、エセルドレーダ…あれだよ……」
 広がる闇の中、エセルドレーダはマスターテリオンが指し示した場所を見つめる。
 意識が空間に綻びを作り、はるか遠く…そして全く違う時間の中にある世界を写し出す。

「あの街は…アーカムシティー…」
「そう、忌まわしくも懐かしいあの街だ…」
 そう言ってマスターテリオンはエセルドレーダを優しく抱きしめる。
「ん…っ…マスター…」
 微かに身動いで、彼女はその腕に身を任せた。

「僕達を永劫なる呪いから解き放ってくれた彼が、永劫を超えて生きる魔道書と再び出逢った…」
 その言葉に、エセルドレーダは少し驚いた表情を見せたが、やがてゆっくりと相貌を崩し、微笑んだ。

「アル・アジフ……永き時の螺旋をくぐり抜けて…よく……」
「それ程にあの2人を結びつける絆は、強く、そして深い物なのであろうな…」
 少し羨ましそうにその様子を見つめているマスターテリオンの姿に、彼女は少しやきもちを妬いてしまう。

「私だけでは……ご不満ですか、マスター?」
 微かに双眸を潤ませて聞いてくるエセルドレーダの髪を彼はそっと撫でつけ、
「いや…君がいてくれるだけで嬉しいよ……エセルドレーダ……」
 そう囁くと、彼女の唇を奪った。

「……嬉しい…」
 そっと頬をマスターテリオンの胸に当ててその鼓動を感じているエセルドレーダ。
 すでにあの時…シャイニング・トラペゾヘドロンの衝突の時から幾星霜…
 こうして2人きり、それもこれまでのような呪われた時間ではなく…本当に愛する者達の時間…それは甘美であり…夢幻のようでもある…

 めくるめく光景の中…
 幾度、身体を重ね合わせただろう…
 もはや数える事さえも諦めてしまう程に長い年月が過ぎていた。

「大十字九郎…余が汝に勝てなかった理由、今ではよく解るぞ…」
 胸に抱くは、暖かな温もりと、永遠に続く愛…
 それは『魔導書』。揺るがず、滅びず、年老わず、永遠に続く時を共にする魂の精。
 それは、『命』。狂わず、流れず、消え去らず、命の炎の温もりをその身をもって伝えし少女の身体。
 想いを込めて、その名を呼ぶ。

「エセルドレーダ……」
「マスター……いえ……」
 エセルドレーダが、マスターテリオンの耳元で囁く。
 それは…もはやエセルドレーダただ1人しか知る者のない名前。
 かつて少年だった彼の真実の名。

 一瞬、マスターテリオンの顔が驚きに彩られ…それはやがて喜びへと変わる。

「いつまでも…共に……エセルドレーダ……」
「決して離れる事はありません……私はいつでも、貴方の側にいるのですから…」

 光すら途絶えたその空間の中で、
 マスターテリオンとエセルドレーダの影が1つに混じり、闇の中に2人の吐息が溶けていった……




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