斬魔大聖デモンベイン SS 『白き衣の天使』
by Sin
第4話
……姫さんの依頼を果たしてから一週間が過ぎようとしていたある日のこと……
「九郎〜」
「ん、なんだ?」
「なんだではないぞ! 小娘の依頼を果たしてからもう一週間も経つではないか! いったい何時になったらあの時の内緒事を妾に教えるのだ!? それとも……やましい事でもあるのか……?」
「んなもんねぇよ。それに、こいつは俺達にとってスゲェ大切な事になるはずさ」
「俺達…? 汝と……妾と………リルにとってか?」
「ああ」
「………う〜〜〜っ、そう言われると尚更知りたくなるではないか〜〜!!」
「我慢我慢」
苛立つアルの様子に俺が笑いながら言ったその時だった。
突然に鳴り出す電話。
「パパ〜電話だよ〜〜」
「応よ」
リルの声に、俺は直ぐさま立ち上がって電話を取る。
「はい、大十字九郎探偵事務所です」
『私ですわ』
電話の向こうから聞こえてきたのは、待ちわびていた姫さんの声。
「お、姫さん。待ってたぞ。で、首尾は?」
『ばっちりですわ。まだ、アル・アジフには?』
「何も教えてないよ。驚かそうと思って」
『フフ……どんな顔をするのか、楽しみですわね。こちらはいつでも大丈夫ですが、いつ頃来られます?』
「じゃあ、この後すぐに向かうから、準備の方はよろしく、姫さん」
『わかりました。では、ライカさん達と一緒にお待ちしてますね』
「ん、よろしく」
俺が電話してる間中ずっと不審そうに見つめていたアルは、受話器を置くなり、俺の背中に飛びついてきた。
「九郎! 一体小娘と一緒になって、何を画策しておるのだ!! いい加減に妾にも話さんか!!」
完全にキレてる。
普通に話してたんじゃ、これを落ち着かせるのは大変だな……
よし……
「アル……」
「なっ、な、なにをっ!?」
何の予備動作もなく、俺はいきなりアルを抱き寄せる。
突然の出来事にアルは瞬きする事すらも忘れて身体を硬くした。
「今から……俺と一緒に来てくれ。それで全てが判るから……」
「な、何故、今ここで言えぬのだ!? 隠さねばならぬようなこ……ぅみゅぅっ!?」
アルの反撃するチャンスはキスで奪い取る。
しばらくはジタバタしていたが、やがて大人しくなると逆にアルの方からキスを求めてきて…
「行こうか、アル」
「……う、うむ……わかった……」
頬を真っ赤に染めて視線を彷徨わせながら答えるアルをもう一度抱きしめてから俺は立ち上がった。
「リルもおいで。一緒に行こう」
「うんっ♪」
未だ、戸惑ったままのアルとリルを連れて俺はライカさんの教会へと向かう。
いつも通る道だから、俺がどこに行こうとしているのか、アルも気付いたみたいだ。
「九郎……この道……ライカの所へ行くのか?」
「ん、まあね」
「一体何をしに行くというのだ……とりあえず今のところ食料は足りておるぞ?」
「俺がライカさんの所に行く時は必ずたかっているような言い方はやめろよなぁ」
「殆どの場合、そうではないか」
「……否定できんが…」
「であろう?」
「と、とにかく、今回は違う。……ってゆーか、いつもって訳じゃないだろ」
「ふん、どうだか……」
さすがにちょっとアルの機嫌が悪い。
からかいすぎたかな……?
少し緊迫した空気の中、俺達は教会に辿り着いた。
「さて……と」
「お待ちしてましたわ。大十字さん」
「あ、姫さん。準備の方、出来たかな?」
「ええ、もうばっちり完了してますわ」
「あらぁ、九郎ちゃん、いらっしゃ〜い♪ 待ってたわよ〜」
「ライカさん、今日は頼むよ」
「ええ、そりゃもう。この、ライカさんに任せなさ〜い♪」
俺の言葉におちゃらけた様子で笑うライカさん。
そんな様子も、訳の解らないアルにとっては苛立ちの種でしかなくて……
「九郎! 一体何をするというのだ!? ああ、もう、小娘でもいい!! ライカ! 汝も知っているならば早く答えぬか!!」
完全に苛立っている様子のアル。
だが……
「じゃあ、姫さん、ライカさん、アルの方は頼むよ。俺は……」
「ええ、アル・アジフの事はお任せになって。大十字さんは奥の部屋で、ウィンフィールドとチアキが準備していますから、そちらへどうぞ」
「わかった。じゃ、頼むよ」
「ええ」
「アルちゃん達の事は私達にお任せ〜」
「ちょっ、九郎!?」
「はいはい、アルちゃんはこっちね〜。あ、リルちゃんもいらっしゃ〜い」
「は〜い♪」
「ま、待て、ライカ! 一体何をっ!?」
「貴方はそちらの部屋に入って下さいな、アル・アジフ」
「だから一体何をすると……」
「………マコト! ソーニャ!」
「はっ!」
「はいですぅ!」
突然現れたメイドさん達にアルは思わず目を見張る。
だが、驚いていられたのも束の間。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
気がつくとアルは布でグルグル巻きにされて、教会横の別館へと運ばれていった。
「あ、ママ!?」
「リルちゃんも一緒に行きましょうね」
「う、うん……」
不安げに俺を見つめてくるリルに、俺は笑って頷く。
「大丈夫。あれも作戦の内だから。リルも一緒に行ってアルの準備を手伝っておいで」
「準備?」
「そう。とっても大切な準備、さ」
「………?」
「まあ、行ってのお楽しみ。ほら、行っておいで」
「…うんっ!」
俺の言葉に、ようやく安心したのか、リルは姫さん達に連れられて別館へと入っていった。
「さてと……俺も準備だ」
そして……
「うわ〜〜っ、九郎、かっこいいよ〜!」
「かっこいいよ〜!」
「よくお似合いですよ、大十字様」
「へぇ……やっぱり元が良いんやねぇ。こんな格好をすると、男っぷりがかなり上がっとるわぁ」
ジョージ、コリン、執事さん、そしてチアキが俺の格好を見て誉めまくってくれる。
なんだかくすぐったいな……
「アル・アジフ様の用意にはもう少し時間がかかるでしょうから、のんびりお待ち下さい、大十字様」
「ああ、判ってるよ。それにしても……楽しみだ」
期待に胸を膨らませてアルの準備が整うのを待つ。
その頃、アルは……
「う………? 妾は……一体……?」
何が起こったのかよく判らず、辺りを見回すアル。
「ここは……教会の中か…? 一体何が……」
と、その時、アルはようやく自分の格好に気がついた。
「な………?」
いつもとは違う、純白のドレスに身を包んだ自分の姿に……
「な、な、な、なんだこれはぁぁぁッ!?」
混乱して、自分の身体をこれでもかといわんばかりに見回す。
「何を騒いでいるのかしら、アル・アジフ?」
「こ、小娘! 汝の仕業かぁぁっ!!」
「何の事かしら?」
「とぼけるでないわ! この格好! 汝がやったのであろうが!! さっさと妾の服を返さぬか!!」
「よろしいんですの?」
「何がだ!?」
「折角、大十字さんが貴方の為に用意したというのに」
「な…………っ?」
呆然とするアル。
頭の中は完全に大混乱だ。
「あの時……大十字さんは私にこう言いましたの…『どんな願いでも聞いてくれるなら…アルにウェディングドレスを着せてやれないか?』とね」
「なっ、なんだと!?」
「『アルとは不思議な縁で結ばれてこうして娘まで授かったけど、アルには何もしてやれなかったから、せめて結婚式だけでも挙げてやりたい』……そう言ってくれた大十字さんの気持ちを……踏みにじるつもりなの? アル・アジフ」
「九郎が……本当に九郎がそんな事を!?」
「ええ。本当に……」
「………そう……か……九郎が……九郎がそんな事を……」
「……アル・アジフ? あっ……」
驚いたように目を見張った姫さんだったが、やがてゆっくりと微笑むとポケットからハンカチを取り出してアルの溢れかけた涙を拭ってくれた。
「……小娘…」
「涙を零したら、折角のメイクが崩れてしまいますわ。ほら、笑って、アル・アジフ」
そう言って微笑む姫さんに、アルは照れくさそうに苦笑する。
それでも涙は止まらず、泣きながら笑っていた。
「アル・アジフ、私は……貴方が羨ましい…」
「ん?」
「大十字さんに此程までに愛されて、子供まで授かった貴方が、羨ましい」
「汝……もしや九郎の事を……」
「……さあ…私にも……よく判りませんわ……この気持ちが、大十字さんをお慕いするものなのか、それとも全く違うものなのか……自分でも、よく判りません」
「瑠璃……」
「ただ1つ、はっきりしているのは……私がどう思ったとしても、大十字さんの心は…アル・アジフ、貴方だけのものだという事……」
その姫さんの言葉に、アルの顔が真っ赤に染まる。
「……改めて言うでない……照れるではないか……」
赤くなった顔を隠すように俯いて呟いたアルだったが、やがて二人で顔を見合わせると、どちらからともなく吹き出した。
その時…
「うわぁぁ! ママ、綺麗〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
突然の声に驚いて振り返ったアルの視線の先には、目をキラキラと輝かせて見つめているリルの姿があった。
その背後からはライカさんとアリスン、それにマコトとソーニャも姿を見せる。
「リ、リル!? それに汝等も……」
「アルちゃん、本当に綺麗〜羨ましいなぁ……お嫁さん……」
「本当に綺麗よ、アルちゃん」
「綺麗ですぅ」
「…ああ……アルたんが……こんなに綺麗で可愛くて良い匂いがして柔らかいアルたんが……男のものになってしまうなんて……」
「よ、よさぬか、汝等! は、恥ずかしい……ではないか……一人はとりあえず無視しておくが……」
「ああん……アルたんってば……放置プレイなんて……」
「誰がプレイだっ!!」
いつも通りの大騒ぎ。
その様子にアルも苦笑しつつ楽しんでいる。
「それじゃあ……アル・アジフ。そろそろ行きましょうか」
「行く……?」
「大十字さんが、待っていますわよ」
「―――っ!?」
姫さんの言葉にアルの顔が真っ赤に染まった
そわそわとした様子で、しきりにドレスを気にしている。
「どうかしましたの?」
「そ、その……妾のこの格好……おかしくは……ないか?」
「ええ、よく似合っていますわ。ね、リル・アジフ?」
「うんっ♪ ママ、すっごく綺麗だよっ!」
「そ、そうか? え、えっと……その……九郎も……綺麗だと……言ってくれるだろうか……」
「九郎ちゃんなら間違いなく言うわね〜。その場で押し倒されちゃうかも……や〜ん、もう。お姉さん、困っちゃいます〜〜♪」
「こまっちゃいます〜〜♪」
身をモジモジとさせながら言ったライカさんを見て、リルまで真似をして同じ事をやっていた。
「ライカ、リルが真似をするからそれは止めよ」
「え〜〜〜っ」
「え〜〜〜っ」
「だから止めぃと言うに!」
ムキになって言い放つアル。
その様子に姫さんやライカさん達は心底楽しそうに笑っていた……
そして………
ライカさんが弾くオルガンの音色が響き渡る教会の中、白のタキシードに身を包んだ俺は、バージンロードの真ん中辺りでじっとその時を待っていた。
微かに軋む音を立てて開く扉。
そこから姿を見せたのは……
「………ア、アル……」
思わず目を奪われた。
そこにいたのは、俺がいつも見知っていたアルではなく、いつもよりもずっと綺麗で……可憐で……
ゆっくりとバージンロードを進んでくるその顔は、ショールに隠れてはっきりとは見えない。
だけど、ブーケを手に近づいてくるその姿を見ただけで、俺は最高に幸せな気持ちにさせられた。
「……九郎…」
呟くその声に、直ぐさま抱き寄せたい気持ちを必死に堪えて俺はアルと共にバージンロードを進む。
そして、祭壇の前に辿り着いたところで、オルガンの曲が終わった。
静かに祭壇へと立つライカさん。
「今日この良き日に、新しき夫婦が生まれる事を神様も喜んでおられます。では……大十字九郎」
「はい」
「貴方は、アル・アジフを妻とし、健やかなる時も病める時も、共に生き、共に歩み、未来永劫に愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「アル・アジフ」
「は、はい」
「貴方は、大十字九郎を夫とし、健やかなる時も病める時も、共に生き、共に歩み、未来永劫に愛し続ける事を誓いますか?」
「誓う……あ、えっと……誓います」
緊張のあまりガチガチになって、しどろもどろになりながら答えるアルの様子に、姫さん達の微かな笑い声が聞こえてくる。
「よろしい。では、指輪の交換を」
その言葉と共に差し出された指輪をお互い受け取る。
「アル、左手を…」
「あ、ああ」
緊張と照れで顔を真っ赤に染めたまま、そっと左手を差し出すアル。
その薬指に、俺はそっとリングを嵌めた。
「九郎……汝も……」
「ああ」
左の薬指に輝く指輪を見つめて涙を零しそうになりながら、アルも俺の左の薬指にリングを嵌める。
「では、誓いの口づけを…」
ライカさんの言葉にアルは一瞬で真っ赤になるが、俺と視線を合わせて照れくさそうに苦笑すると、ゆっくり頷く。
俺も頷き帰すと、静かにアルのショールをあげてじっと見つめた。
少しだけメイクしたアルのその表情はいつもよりもずっと大人びていて、俺の視線を捕まえて離さない。
その薄く色づいた唇にそっと唇を重ねる。
微かに震えるその温もりをしばらく感じた後、ゆっくりと身体を離した。
見つめ合うアルの瞳には涙が溢れ、今にも零れそうになっている。
「アル……」
「九郎……」
「神様が見守って下さる中、今ここに、新たな夫婦が生まれました。九郎ちゃん……アルちゃん……本当におめでとう。私も、心から祝福してますからね」
「ライカさん…ありがとう」
俺に続いてアルも何か言おうとしたけど、どうやら胸がいっぱいになってしまって、何も言えないみたいだ。
溢れる涙を必死に堪えて立ち尽くすアルを、俺はしっかりと抱きしめる。
「アル、ブーケトスしてやりなよ。欲しい人がゴロゴロいそうだし」
そう言って背後の様子を覗き見ると、姫さんやライカさんを始め、メイド達やアリスン、果てはリルまでもがブーケを狙って待ちかまえていた。
その様子に思わず苦笑するアルだったが、やがて頷くとブーケを持って後ろ向きに構えた。
「では……行くぞ。それっ!」
投げあげられたブーケに、一斉に殺到する女性達。
伸ばされた指先に次々に当たり空中を跳ね回るブーケ。そして最後に掴んだのは……
「…………え?」
ジョージだった。
「あ、え、えっと……俺……あ、アリスン!」
「え、え?」
「やるよっ!」
「わ、私…に?」
「ああ、ほらっ!」
「う、うん………あ、ありがとう……」
押しつけられるように渡されてアリスンは戸惑った様子だったが、やがて頬を真っ赤に染めてブーケを抱きしめた。
「へぇ……ジョージ、お前なかなかやるな〜」
「な、何だよ、九郎……」
「女の子にブーケを送るなんて、プロポーズそのものだぞ」
「なっ!?」
「く、九郎お兄ちゃん! へ、変な事言わないで………」
「そう言いながらも、その赤く染まりきった顔。汝もジョージの事を憎からず思っておるのであろう?」
「あうぅ……」
耳まで真っ赤にして俯くアリスン。
ジョージもそんなアリスンの様子に真っ赤になって視線を彷徨わせていた。
初々しい二人の姿を微笑ましく思いながら見つめている俺にアルがそっと寄り添う。
「のう、九郎?」
「ん、どうした?」
「……妾は……幸せだ……」
「え?」
「人ですらないこの妾を汝は誰よりも、何よりも深く愛してくれる…そんな汝を妾も心から愛している……本当に…幸せすぎて怖い……ぞ」
「怖い?」
「いつか失う事になったら……妾は狂ってしまうやもしれぬ……それ程に九郎…汝の事が愛しい……」
そう言ってじっと見つめてくる。
「この身が朽ちて滅び去る時が来ようとも、妾は永劫に汝を愛し続ける……愛しているぞ……九郎……」
「アル……」
重ね合う唇。
周囲から上がる歓声と冷やかしの声も、今の俺達は気にならない。
ただ今は……
純白の衣を身に纏った俺だけの天使を誰にも渡さないように、誰にも奪われないように…
しっかりと抱きしめた……
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