斬魔大聖デモンベイン SS 『少年の恋心』
by Sin



 アルとの結婚式から一週間。
 俺達はあの日の興奮冷めやらぬまま、この7日間を過ごしていた。
 
「九郎〜」
 以前よりも更に積極的になったアル。
 リルが見ているのもお構いなしにキスを求め、夜になるとリルを寝かしつけた後は毎日のように俺を求めてくる。
 だからといって、リルの事も忘れていないのはさすが母親と言ったところか。
 
 以前は全くしなかった(できなかった?)料理にも挑戦するようになり、失敗する事も多いがたまに成功して俺達が喜ぶ顔を見ると、本当に幸せそうに笑った。
 
 そして……
 そんなある日の事……
 
 久しぶりにライカさんの手料理を食べようと教会に向かった俺達は、なんとなくいつもと違う様子に戸惑う。
 
「九郎……?」
「なんか……変だな……」
「静かだね〜ジョージくん達居ないのかなぁ……?」

 気になりながらも教会の扉を開けた俺達は、その聖堂に一人きりで居るアリスンの姿を見つけた。

「アリスン、居たのか?」
「えっ……あ、九郎お兄ちゃん……」
「どうかしたのか?」
 いつもと違うアリスンの様子がなんだか気になる。
 
「……あの…ね。ジョージの様子が……おかしいの……」
「ジョージの?」
「うん……ついこの間まで一緒に遊んでくれてたし、時々いじわるもするけど、ちゃんと相手してくれてたのに……」
「また…いじめか?」
「ううん、違うの。挨拶もちゃんとしてくれるし、私の事心配もしてくれるし、ご飯の時だって、私が食べられないのを横から助けてくれたりもしたし……なのに、一緒に遊ぼうって言ったら……逃げちゃうの……」
「逃げる?」
「うん…あ、助けてくれた時にお礼を言ったり、手を握ったりしたら、その時も逃げちゃうの。顔真っ赤にして……」

 その一言に、俺はピンと来るものがあった。

「……ジョージの奴、知らない内に大人になってたんだな……」
「えっ?」
「なんでもない。それよりジョージは?」
「自分のお部屋にいると思う……」
「そうか……アル、リル、しばらくアリスンと遊んでいてくれ。俺はちょっとジョージと話してくる」
「ぅん? ……まあよい。わかった」
「んじゃ、頼む」
「うむ、任せよ」
「はぁ〜い♪」
 
 その場をアル達に任せた俺は、教会の奥にあるジョージの部屋へと向かう。
 
 途中で会ったライカさんも心配しているようで…
「男同士じゃないと話せない事もあるでしょうし……ジョージの事、お願いね、九郎ちゃん」
 そう言って軽く背中を叩いてくれた。
 
「ジョージ、居るか?」
 部屋の前に辿り着いた俺は、中のジョージへと声をかける。
『……九郎?』
「ああ。入っていいか?」
『ん、いいよ』

 その言葉に俺は扉を開くと部屋の中へと踏み込んだ。
 
「なんだ、やけに元気がないな」
「うるさいなぁ……それよりなんか用?」
「……最近、アリスンの事避けてるんだって?」
「――――っ!? な、何言ってるんだよ! べ、別に避けてなんかっ!!」
「アリスン、寂しがってるぞ?」
「ぅぅぅ……」
 否定する言葉を失い、視線を彷徨わせるジョージ。
 ま、こう言う時にあんまりからかうのも良くないな……

「んじゃ、とりあえずストレートに訊くぞ?」
「え?」
「………お前、アリスンの事好きなんだろ?」
 その瞬間、ジョージの顔がまるで絵の具でも塗ったかのように一瞬で真っ赤に染まった。
 何か言おうとはしているが言葉にならないようで、口をパクパクさせるばかり。
 
「やっぱりな。話聞いてて思ったぞ。結婚式の時、お前ブーケをアリスンに渡しただろ? きっかけはあれか?」
「…………あ、あの時は別に…ただ、アリスンが近くにいたし……それに凄く欲しそうにしてたから……」
「それで?」
「…そしたらさ…なんだか……アリスンの奴、すごく嬉しそうにブーケ抱きしめてて……俺の事……」
「それから……?」
「う、うん…あれ以来、なんだかアリスンの態度が……その…凄く優しいって言うか……コリンも一緒にいるのに、俺の傍にばかりくっついてくるって言うか……」
「ほほぅ、羨ましいねぇ。相思相愛って訳だ」
「そ、相思相愛? な、なんだよ、それ?」
「ジョージもアリスンも、お互いがお互いの事を好きでたまらないって事さ」
「―――――――――――――っ!?」

 もはやジョージの顔は耳まで真っ赤に染まっている。
 今にも頭から湯気が噴き出しそうだ。
 
「それなら、尚更お前が優しくしてやらなくちゃな」
「で、でもさ…なんだか……その…」
「照れくさいんだろ?」
「う、うん」
「まあ、初めはそんなもんさ。俺だってアルと…その……なんて言うか…」
「な、なんだよ?」
「…………ジョージ、これはアリスンには内緒だぞ。それにライカさんにもコリンにもだ」
「えっ……?」
「約束できるか?」
「……う、うん、約束する」
 真剣に見つめる俺に、息を呑んで頷くジョージ。
 
「じゃあ、教えてやるよ。俺が初めてアルを意識したときのこと……」

 語り出すかつての戦いの話。
 あの日……
 インスマウスの神殿で、俺は敵の放ったガスの影響でどこかおかしくなってた……
 そして…
 俺は、心配そうに俺を見つめていたアルを押し倒し……
 水着を半ばまで脱がしてしまう。
 
 なんとか途中で正気に戻ったものの、やってしまった事はもう取り返しがつかない。
 
 戦いの後、帰りのバスの中で初めて感じたアルへの意識。
 
 あの時はなにがなんだか判らなかったけど……
 
「あの帰りのバスで、アルが見せた少し照れたような微笑みに……俺は完全にやられちまったんだ」
 照れくさくて頬を掻きながら話すあの時の出来事。
 目を輝かせて聞いていたジョージも、途中から自分の事と意識が重なったのか、俯き、顔を赤くしている。
 
「恋の始まりってのは、なかなか自分でもわからないもんさ。だけど……」
「だけど?」
「今、アリスンの事考えてみろよ。胸の奥が熱くなって、心臓が高鳴ってくるんじゃないか?」
「………う、うん……」
「俺も同じだったよ。アルの事を思うと、たまらない気持ちになった……だけど、自分の気持ちがわからなくて、どうして良いのかわからなかった……」
「九郎……」
「ジョージ、お前がアリスンの事を好きだと思ってるなら…慌てなくて良いから、少しずつ伝えてやれ。絶対に逃げ出したりしないで、側でアリスンの笑顔を見つめてやるんだ。真剣な気持ちは、必ず伝わるから」

 俺の言葉に、真剣な表情で頷くジョージ。
 その頭を俺はグシャグシャと撫でてやった。

「わわっ、何するんだよ、九郎〜っ!!」
「なかなかいい顔してたじゃないか。いつの間にか、お前も大人に近づいてたんだな」
「え……っ…」
「男の顔、してたぜ」

 そう言われて、ジョージは照れくさそうに苦笑する。
 つい最近までの子供の笑い方じゃない……
 人を好きになる事を知って、ひとつ大人に近づいた男の顔だ。
 
「んじゃ、とりあえずアリスンの所に行くか」
「えっ……」
「何事も実地訓練ってね」
「う……わかったよ……」

 もうちょっとだけ待って……と言うジョージに付き合う事30分。
 ようやく覚悟を決めて部屋を出ると、聖堂へと向かう。
 
「あっ、ジョージ!」
 部屋に入るやいなや、アリスンが直ぐさまジョージの姿を見つけて声をかけてきた。
 こいつは本物だな……
 声がかなり嬉しそうだ。
 
「アリスン、ちょ、ちょっと出かけないか?」
「えっ……? うんっ!!」
 
 本当に嬉しそうに笑顔を浮かべるアリスン。
 その様子にジョージの顔は真っ赤だ。
 それにしても、いきなりデートに誘うとは……ジョージの奴、やるなぁ……
 
「あ、コリンに声……」
「行こう、ジョージっ♪」
「あ、ああ!」

 一瞬、ジョージはコリンの事も気にかけたようだったけど、アリスンの方は完全にジョージの事しか見えてないな。
 結局二人っきりで出かけていったし……
 
「ジョージ達、出かけたみたいだね」
「うぉっ!? な、なんだ、居たのか、コリン」
「うん、見てた」
「居たなら声かけりゃよかったのに」
「あはは、2人の邪魔したくないからね〜」
「………へぇ…子供の成長ってのは早いって聞いてたけど、本当なんだな……」

 驚いて目を見張った俺に、ライカさんは…
「ジョージもコリンもアリスンちゃんも、み〜んな大人に近づいているんですよ〜」
 そう言って笑う。
「ああ、本当だな」
「九郎ちゃんも、ボヤボヤしてたら、その内この子達に抜かれちゃいますからねっ」
「へいへい……」
 苦笑しつつ、俺は開かれたままの扉の向こうを見つめる。

 楽しそうに笑いながら駆けていくジョージとアリスンの姿に、俺はガキんちょ達が成長している嬉しさと同時に、俺達の手から離れていこうとするその姿を、ちょっと寂しくも感じていた……



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