斬魔大聖デモンベイン SS
『再会を祝して』
by Sin



 アルと再会して、二週間が過ぎた。
 最近は大学にも行かずに毎日アルと共に過ごしてばかり。
 先週までは俺もアルに留守番させて大学や仕事に行っていたんだが、あの日……。

 寂しさに震え、その思いを必死に押し隠していたアル……。
「何故…何故ずっと側にいてくれぬのだ! 妾を抱きしめていてくれぬのだ! 何故……何故ッ!!」
 泣きながらそう叫んだアルの姿に、俺はもう二度とアルを一人っきりにしないって誓ったんだ。

「……九郎?」
「んぁ?」
「何を呆けておる。それよりも、たまには出かけぬか?」
「たまにはって……昨日も、一昨日も、その前も出かけただろ?」
 俺がそう言うと、アルは頬を膨らませて呟く。
「うつけ……そう言うことではないわ……」
 …ホントに素直じゃない。
「まぁ、いいけどな。んじゃ、支度しようか」
「う、うむ♪」
 おーおー、喜んじゃって、まぁ…。

「……今、なにやら馬鹿にされたような気がしたのだが?」
「気のせいだろ?」
「ふむ…まあ良い。それよりも妾の支度ならばとうに済んでおる。汝はまだ支度出来ぬのか?」
「ああ……って言うか、お前早過ぎ!」
「そうか?」
「ったく、そんなに毎日楽しみなのか?」
「……汝は…楽しみではないのか? その…妾との……」
「そりゃあ、もちろん」
 言いながら、俺はアルの肩を抱き寄せて頬に唇を触れさせる。
「―――っ!? なっ、なにをっ!?」
「おいおい、今更ホッペにチュー位で動揺するなよ」
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
 俺の言葉に、耳まで真っ赤になる。
 まったく…ホントに可愛い奴……。

「こ、この、破廉恥男が〜〜〜っ!!」
 ちょっと涙目になってる……そんな表情もまた良い……。
「な、なんだ……?」
「ん?」
「そ、そんなにじっと見つめるでない……」
 恥ずかしそうに視線を彷徨わせるアル。
 再会してから……いや、あのデモンベインの中で身も心も重ねあったあの日から、もう何度も身体を重ね、互いに全てを見知っているというのに、未だにこんな初々しい所も見せてくれる。
「そんな所も…可愛いな、アル……」
「なっ……っ!? ん、んうぅぅぅっ!?」
 思わず抱き寄せて唇を奪う。
 驚いたのか、アルはしばらく俺の胸を叩いて逃れようとしていたけれど、やがて…縋り付くようにして俺のキスを受け止めた。
 抱き寄せた手をそっと背中に這わせると、アルの唇から微かに漏れる吐息が色を帯びてくる。
「ん……ぅ…ぁ……」
 そっと唇を離して見ると、アルはまるで酔ったかのようにぼんやりと視線を彷徨わせて……。
「ぁ………ぁ……ぁっ……」
 俺の指がスゥ……と背中を伝う。
 それに伴うようにアルの唇から溢れる吐息。
 こんな時のアルは本当に色っぽい。
 思わず、このまま押し倒したくなってしまうほどに。

「ん……んっ……こ、こらぁ……出かけるのでは……んんっ………無かったの……か……っ…」
「一通り……済んだらな……」
「う、うつけぇぇっ……ん……っ……んぁっ……」
 顔を真っ赤に染めて涙目で睨みつけてくるアル。
 そんなアルの表情に俺の気持ちは高ぶるばかりで……。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 くぐもったようなアルの声を聞きながら、俺はアルの唇を奪い続け……。
 結局、俺達が出かけることができたのはそれから2時間後の事だった。


「まったく……汝ときたら……」
「お、おい、待てよ」
「待たぬっ!」
 頬を真っ赤に染めたまま足早に歩くアルの後を慌てて追いかける。
 何事かと周囲の視線が集まってくるのが痛くて仕方ない。
 だけど、それよりも……。
「やっぱり……可愛すぎるよな……」
 不意に呟いた言葉。
 聞こえるはずがないと思っていたその言葉だったのだが、どうやらアルには聞こえていたようで……。
「な、ななっ、何を言っておるか! こ、こんな街中で口にすべき言葉ではなかろうに!!」
 耳まで真っ赤になって掴みかかって来るアル。
 こんな事をしたら、余計に注目の的だってのになぁ……。
「へへ…聞こえちまったか」
「聞こえちまったか……ではないわ!! まったく、汝には羞恥心というものが無いのか!! 何処まで妾を辱めれば気が済むのだ、汝はぁぁっ!!」
「いや、お前のその言葉の方がよっぽど恥ずかしいんだが……」
「―――っ!?」
 ようやくアルも気づいたらしいな。
 周囲から痛いほどに注がれる好奇の視線……。
 それは既に俺ではなくアルを捉えている事に。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! ゆ、行くぞっ!!」
「あ、おい……何慌ててんだよ」
「これ以上、晒し者にされるのは耐えられぬっ! とにかく場所を……っ!」
 顔を真っ赤に染めて魔力全開で跳躍するアル。
 って……!
「アル!! 俺を置き去りにするなぁぁぁっっ!!」
 遥か遠くに見えるアルの背中に向かって叫ぶが、恥ずかしさに我を忘れていたあいつに聞こえるはずもなく……。
 周囲の人々から突き刺さってくる痛いほどに鋭い視線を受けながら、俺は全力でその場を駆け抜けるしかなかった……。


 そして……。
 なんとかあの針の筵のような視線の海を逃れた俺は、商店街の外れで乱れた息を整えると、辺りの様子を伺った。
「どうやらなんとかなったみたいだな……ったく、アルの奴、一人で逃げやがって……」
「自業自得であろうが」
 突然背後からかけられた声に慌てて振り返ると、そこには未だに少し頬の赤いアルの姿が。
「ア、アル……」
「まったく汝は羞恥というものを感じなさ過ぎるぞ」
「だからってあれは酷いだろ、アル」
「ふふん、あれで少しは妾の気持ちが判ったであろう?」
 そう言って俺の胸に拳をぶつけてくる。
 痛くは無いが、妙にくすぐったい感じがして俺は頬を掻いた。

「まぁ……良い。あまりつまらぬことで汝との時間を無駄にしたくは無いからな。行くぞ」
「行くって、何処に?」
「決まっておろう? 汝とのデートの続きだ。もう少し、余計な者の少ない所……でな」
 微笑んで囁くアルに、なんだか少し照れる。
 やっぱりこいつ……可愛すぎだ……。

 昨日、覇道からの給料も入ったことだし、何か買ってやろうか……。
「ちょっと店でも見て回るか、アル」
「かまわぬぞ」
 躊躇う事無く笑顔で答えた。
 アルは俺が誘うと大概の場所にはついて来る。
 前になんで何処にでも……と聞くと、アルは、
「汝と一緒に居られるのならば、何処であろうと関係あるまい? 妾は……汝が側にいてくれるだけで幸せなのだから……」
 そんな、猛烈に可愛すぎる事を言ってくれたんだよなぁ……。

「何を呆けておる?」
「お前が可愛すぎるって思ってたんだよ」
「なっ……」
 一瞬で耳まで真っ赤になった。
「……あまり…言うな…」
「嫌なのか?」
「ち、違う。嫌では……無いのだが……その……」
 恥ずかしそうに胸の前でもじもじと指を絡ませているアル。
 こんな姿が俺を益々惚れさせてるって判ってやってるんだろうか……。
 だとしたら、とんでもない魔女だよなぁ……完璧に俺の感情がコントロールされちまってるわけだし。
 そんな事を考えていたら、不意にアルと初めて結ばれたときの事を思い出してしまい、赤面してしまう。
 あの時のアルの普段の可愛らしさとギャップがありまくりなあの色っぽさ……。
「反則だ……それは……」
「え?」
「なんでもない……」
 聞き返されると余計に恥ずかしい。
「何だ、妾に見惚れておったのか?」
「―――っ!? あ、ああ、そうだよ」
「〜〜〜っ!? す、素直に返すな〜〜っ!!」
 勝った。
 あそこで否定したら更に突っ込もうとしていたんだろう。
 出鼻を挫かれて逆に恥ずかしくなったのか、アルの奴、余計に真っ赤になって『う〜〜っ』っと、唸っている。
 その頬に軽くキスをすると、俺はアルの手を引いて歩き出した。
「こ、こら、九郎……」
「じゃ、行こうぜ、アル」
「あ…うん……」

 それから、俺達は2人でいろんな店を回った。
 ホビーショップで、ダンセイニそっくりなぬいぐるみを見かけた時には思わず2人で顔を見合わせて苦笑い。
 互いに『てけり・り?』なんて物真似して、そろって吹き出した。
 あいつ、今頃どうしてるんだろうな。
 この世界に帰ってきてからはまだ会ってないけど、きっとどこかで元気にやってるんだろう。
 なにしろ、俺達の中で一番世渡り上手そうだったしな。
 アクセサリーショップでは小さなイヤリングを買った。
「ほら、これ」
「えっ?」
「ちょっと髪上げとけよ」
 そう言って、俺はアルの両耳にそれを着ける。
 五芒星形のデザインで、なんとなく旧神の紋章に似た感じのする奴だ。
「こんなものを買っていてはまた生活が苦しくなるであろうに……」
「お前に似合うと思ってさ。迷惑だったか?」
「迷惑であろうはずが無い!! あ、そ、その………嬉しい…ぞ……九郎……」
 耳まで真っ赤になってそう呟いたアルは髪をかき上げて揺れるイヤリングの感触をしばらく楽しんだ後……。
「少し、屈んで……」
「ん?」
「良いから屈めと言うに」
「へいへい、了解」
 訳が判らないまま、言われるがままに屈むと……。
「ありがとう……愛しておるぞ、九郎……」
 そっと頬に押し当てられる温もり。
 驚いて目を向けると、アルが真っ赤になりながら俺の頬に唇を当てていた。


 一通り見て回った頃には辺りは大分暗くなっていて、街を歩く人々も家路を急ぎ始めている。
「そろそろ、帰るか?」
「ああ」
 2人で手を繋いで歩く街並み。
 ふと目を向けた先には、リカーショップが。

「……そう言えば、まだやってなかったな……」
「え?」
「お前との再会祝い」
「あ……」
 目を丸くして俺を見つめてくるアルだったが、やがて嬉しそうに表情を綻ばせた。
「ワインでも、買って帰ろうか」
「フフ、酔わせて何をしようとしておるのだ?」
「もちろん、お楽しみ」
「……まったく汝は……だが…それもまた良かろうて……」
 少し呆れたように言いながら笑うアル。
 2人で数本のワインを買って、俺達は家路を急いだ。

「「乾杯〜〜っ」」
 2つのグラスが澄んだ音色を奏で、互いに改めて再開を喜びながらワインを飲む俺達。
 交わす言葉は少なく、だが、全ての想いを伝え合うように見つめあい時折唇を重ねあいながら、夜が更けても関係なく飲み続けた。
 どれほどの時間が流れただろうか……。
「九郎……」
「ん?」
 不意にアルが話しかけてきた。
 だけど、なんだか様子がおかしい。
 真っ赤になったまま、俺にしなだれかかるようにして身体を預け、ゆっくりと唇を寄せてくる。
「……アル?」
「キス……してくれぬのか……?」
「えっ……あ、ああ」
 そっと唇を重ねてやると、アルは俺の首に腕を回してしっかりと抱きつきながら強く唇を重ねてきた。しかも……。
「んんっ!?」
 いつもならアルからしてくる事などないような真似まで……。
 俺の唇の隙間を割るようにして入ってきたアルの舌が、艶かしく俺の口の中を蹂躙する。
 更に首に回していた腕がゆっくりと俺の胸元に降りて、すぅ……と、指先でなぞってきた。
 思わず背筋がぞくぞくしてくるようなその感触に思わず唇を離してしまう。
「こらぁ……逃げるでない……ぞ……」
「お、お前、酔ってるな! それもメチャクチャに!!」
「ふふっ……ふふふっ……ねぇ……九郎……もっと……もっとキスして……」
 恐ろしいほどに色っぽい様子で迫ってくるアル。
 ヤバイ。このアルはあの時の……デモンベインの中で、初めて身体を重ねたあの時のアルだ……。
「九郎……ねぇ…ふふっ…九郎………」
 俺を求めるかの様子で俺の頬や首筋をアルの指先が、触れるか触れないかの微妙な距離でなぞっていく。
 それはあまりに強烈過ぎる快感だった。
「お前、ちょっと飲みすぎ……っっっ!?」
 少し休ませようかと離れさせようとしたその時……。
 アルは俺の服のボタンを外し、胸元にそっと舌を這わせてきた。
「ちょ、ちょっ、アルっ!? お前やっぱり飲みすぎっ!!」
 慌てて止める俺に怪しく微笑むアル。
「フフ……仕方ないでは…ないか……汝と再び出会えて……妾は……嬉しくて……たまらぬのだから……」
「ア、アル……」
「汝の唇……汝の温もり……もっと……もっと感じていたいのは……当然であろう……」
 そう言いながら、俺の手を取って自分の胸元へ……。
「汝も…触れて……良いの…だぞ……」
 耳元に息を吹きかけながら囁いてくるその声が、俺の中にあった理性の壁を粉々に打ち崩し……。

 ぱたっ……。

「へ?」
 突然ぶっ倒れたアルの様子に目が点になる。

「お〜い、アルや〜い……」
 呼びかけても全然返事が無い。
「………完璧に……寝てるよ…どうすんだよ……これ……」
 高ぶるだけ高ぶらされた俺自身を持て余して立ち尽くす俺。
「くぅ…すぅ……九郎の……切ないとこ……全部……見て…やる………ぞ………すぅ……すぅ……」
「アル〜〜〜」
 思わず大きな溜息。
 一体俺にどうしろと……。
 そんな事を思いながらアルの寝顔を見つめていたが、やがて……。
「……ホントに幸せそうな顔しやがって……ったく…何処までも可愛すぎるぞ……アル……」
 そっと唇を重ねて、俺はアルを抱き上げてベッドに運ぶと、明かりを消して抱きしめる。
「これからも……ずっと側にいてくれよ……」

 月明かりだけが照らす部屋の中で、俺はアルを抱きしめたまま眠りに落ちていった……。 

 翌朝、目を覚ましたアルがこの夜の事を聞いて、恥ずかしさのあまり二日ほど寝込んでしまったのだが……。
 それはまた、別の話……。



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