斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第4話 鮮血の街
アーカムシティー11番街。
いつもは買い物客や子供達の楽しげな声が溢れる街…
だが……
「………なんだよ………これ……」
「………正視に耐えぬな……」
絶句する俺達。
眼下に広がる11番街は……まるで夕日に染められたかのように、真っ赤に染まっていた……
「……降りるぞ…」
「何が居るか判らぬ。気を付けろ、九郎」
「ああ、判ってる」
ゆっくりと降下する。
それと共にむせ返るような血の臭いが鼻を突いた。
そして……降り立った瞬間……
――ぐちゃ……
鈍い音。
それは、辺り一面を埋め尽くす、人の欠片の感触……
「――――――っ!?」
「大丈夫か……?」
「………あ、ああ……くっ……酷ェ……一体誰がこんな事―――っ!?」
その瞬間、俺は視界に入ってきた物に思わず息を呑む。
信じたくない思いでそちらに視線を動かし……唇を噛み締める。
「どうした、九郎? ……な――っ!?」
俺の視線を追ったアルも、あまりの光景に言葉を無くして立ち尽くした。
哀しみ、怒り、そんな言葉じゃ片づけられない。
目の前に転がっていたのは……何かに全身を貫かれ、顔すら原形を留めることなく、穴だらけにされて血の海に沈む幼い少女の姿だった……
手に持ったぬいぐるみだけが傷1つ無く、それは少女が必死に守り通した証……
少女の血に濡れて、まるで泣いているようなその瞳は一体どれ程の哀しみを映していたのだろう……
「―――許せねぇ」
ポツリと呟いた俺に、アルも頷いて返してくる。
その時だった。
「九郎!」
「応ッ! クトゥグァ!!」
突然湧いた気配。
アルに言われるまでもなく、其れに向かって俺はクトゥグァを乱射する。
「gyuoooooooooooooooo!!」
突然血の海から湧いてきた其れは、クトゥグァの火線に貫かれると、一瞬全体を戦慄かせた後に、ぐちゃりと崩れ落ちて元の血の海へと返った。
「なんだ……こいつは……」
「どうやら、邪神の眷属のようだな。何者かが召還して、街に放ったのだ…」
「…ってことは、こいつを操ってた奴がいるって事か……」
「そうなるな。すでにこの場には居らんようだが」
「くっ……」
歯噛みする俺の肩で、アルが俺の頬にそっと身を寄せてくる。
その温もりが怒りと哀しみに囚われていた俺の心をゆっくりと温めてくれた。
「とりあえず、帰るぞ。このままここにいても何も出来ん」
「ああ……そうだな……」
そう言って、振り返った俺だったが、ふと思い立って先程の少女の元に歩み寄る。
「九郎、何をする気だ?」
「……いくらなんでも……このままじゃ後味が悪すぎる……せめて……この子の亡骸だけでも葬ってやりたい……」
そっと抱き上げる。
血の抜けきった少女の身体は、恐ろしい程に軽すぎた…
哀しみを胸に抱いて、口の中でそっと呪を紡ぐ。
術が完成した瞬間、少女の身体は静かに光の粒子となって欠片すら残さずに消え去る。
「九郎……」
「アル、俺だって偽善だって事は判ってるんだ。だけど……」
じっと見つめてくるアルに、なんとなく言い訳じみたことを言おうとしたその時だった。
「汝らしいな」
「え?」
思いもしなかった言葉に思わずアルを見つめる。
そんな俺を軽く睨み付けて、更に言葉を続けた。
「妾を誰だと思っておる? 最高の魔導書、アル・アジフ。全ての写本の母たる者。そして……九郎、汝を最も愛する女だぞ。汝のことで…妾に知らぬ事が有ると思うたか?」
少し芝居っぽく言ったアルと顔を見合わせる。
やがて2人揃って吹き出した。
「そうだな。お前は俺にとってたった1人の…」
「――!?」
塞いだ唇。
その温もりが今の光景に冷え切った俺の心を温めてくれるようで……
「たった1人の…最も愛する女だ……アル…」
「ん……判っていればよい……」
血の海に沈んだ11番街…
そのむせるような臭いの中で…
俺達は砕けてしまいそうな心を互いに支え合って再び現実と向かい合う。
「行くぞ。こんな真似しやがった奴、絶対に草の根分けても探し出して、滅ぼし尽くしてやる!!」
「ああ、無論だ!!」
再び大きく広げた翼。
「マギウス・ウィング!!」
大きく舞い上がる。
そして眼下に広がる血の海に誓った。
必ず、仇は討つ……と。
九郎達が立ち去った11番街。
その片隅に1人の男の姿があった。
九郎どころかアルにすらその存在を気付かせなかったその男は、手に大きな本を持って辺りの様子を満足そうに眺めている。
「……素晴らしい…いや、実に、実に素晴らしい力ではないか。なるほどなるほど。あれが噂のマスター・オブ・ネクロノミコンかね。眷属ごときでは足下にも及ばんか」
そう呟く男の周囲には、先程九郎達が倒した邪神の眷属が無数に溢れかえっていた。
「近々、挨拶に伺わねばなるまいな。フフ…フフハハハハハハハハハハッ!!」
男の高笑いが血に染まった11番街に響き渡る。
その声が途切れた時…男の姿は完全に消え去っていた……
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