斬魔大聖デモンベイン SS 『幾千、幾万の時を越えて』
by Sin
「う…ん?」
差し込んでくる光に、俺は目を覚ました。
「今…何時だ……?」
時計に目をやる。
− PM 02:19 −
「………我ながら…寝過ぎだ…」
なんとなく身体が気怠い。
軽く身体を伸ばそうとして俺は、縋り付くようにして眠るアルの存在に気付いた。
「アル…」
気持ちよさそうに眠るその髪をそっと撫でてやる。
「う…ぅん…九郎……」
姿はまるで10代前半の少女のよう…だが、こいつは俺なんかよりずっと年上だ。
ワガママで…自分勝手で…俺の気持ちなんて、ちっとも考えてねぇ……
どうしようもないくらいに馬鹿正直な、古本娘……
思い出す、あの日……
マスターテリオンとの戦い…ナイアルラトホテップの謀略を打ち崩したあの後……
− 我が、ただ1人の君…九郎…愛しているぞ……
夢の中で聞いていた言葉…だけどそれは夢ではなくて……
まるで足下が崩れていくような感触に俺は目を覚ました。
見えるのは、涙を浮かべて微笑むアルの姿……
すぐに俺は、何が起こったのかを理解する。
アルは…俺だけをアーカムシティーへ転送したんだ……
「馬鹿野郎! 俺はずっと一緒にいるって決めたのに! なんでこんな……」
光の粒子となって崩れゆく俺の身体。
言葉さえも光となって消えゆく……
あれから後、アーカムシティーに帰ってきた俺は、アルと出会う前の生活を送っていた。
少しは変化があったが、大筋に変化はない。
つまり……
「……ひもじい…」
探偵業をやりながら、俺はミスカトニック大学に復学した。
だが、授業料と家賃や電気水道代などを払って、食事などする金があるはずもなく……
結果として、俺はまたライカさんのお世話になっていた。
そんなある日……
俺は“再び”、覇道の姫さんに出会った。
街で起こっている怪異、その事件を解決して欲しい。
それが、姫さんからの依頼だった。
そして……
アトラック=ナチャ、ナイトゴーント、バルザイの偃月刀、ニトクリスの鏡……それに、クトゥグァ、イタクァ……
次々と現れる、見知った怪異。
それらが指し示す意味を、俺は理解していた………
そして、ミスカトニック大学……秘密図書館の最深部で、
俺達は再び出会った……
「ラテン語版が置いてあるのは知ってたけどさ……」
「ん?」
「オリジナルがあるとは、聞いてなかったぞ」
目の前にいる怪異……
俺にとって、最もよく知った怪異で……
最も大切な……馬鹿正直な古本娘だ……っ!
「九郎…九郎〜〜〜〜〜〜っ!!」
涙を浮かべて抱きついてくる怪異、魔導書ネクロノミコンのオリジナルである、『アル…アジフ』の精………
「アル…この、馬鹿野郎……」
「い、痛いぞ、九郎〜!」
強く…二度と離れないようにしっかりと抱きしめてやる。
痛がったって…離してなんてやるもんか……
「うるさい……」
口封じに唇を奪ってやる……
しっかりと抱きしめ合った俺達は、離ればなれだった時間を取り戻すかのように、お互いの温もりを確かめ合っていた……
そして時が過ぎ……
ひとまず落ち着いた所で、とりあえず俺達は探偵事務所へと戻った。
相変わらずの貧乏事務所。
だが、欠けていたものが埋まった気がする……
ここに、アルがいる…それが…それだけが、この部屋を満たしていた。
「あれから…幾千…幾万の時を…妾は…たった1人で……」
「アル……」
泣きじゃくり、縋り付いてくるアルを俺は強く抱きしめる。
「汝の事を忘れた事など無かった…忘れたりなどできるものか! 汝は…汝は、妾がたった1人、愛する男なのだぞ…九郎……」
涙の浮かんだ瞳で見つめてくるアルに、俺は……
「馬鹿野郎ッ!!」
怒鳴りつけた。
「にゃうっ!?」
思わず首をすくめる、アル。
だが、俺は許さない。
あんな裏切りを受けたんだ。こんなもんじゃ、許してやらない。絶対に!
「……勝手な事しやがってっ…あれから、俺が一体どんな気持ちだったか…わかってんのか、アルっ!!」
「し、仕方ないではないか! 妾だって…汝と離れたくなどなかった! けど…汝がいるべき場所は…ここだ……ここなんだっ!!」
「だから馬鹿だって言ってんだよ!!」
グイッと強く引き寄せる。
俺達の距離は一気に狭まり、一歩…いや、ほんの僅か踏み出せば、唇が触れ合う程の距離だ。
「俺のいるべき場所は…お前の側に決まってんだろうが! この大馬鹿野郎!」
想いをぶつける。
激しく……
何よりも強く……
重ねた唇に想いを乗せて幾度も…幾度も……
「九郎ぅんくぅっ…んっ、んぅっ…九郎…っ……」
途切れ途切れに囁かれるアルの声。
「絶対に……二度と離れるんじゃねぇ……俺は……マスターネクロノミコンで……オマケに、お前の身体を知ってる、
たった1人だけの男なんだからな!!」
俺の言葉に、アルの顔が一気に真っ赤に染まる。
「う、うつけっ!! な、汝はなんでそんな恥ずかしい事を真顔で言えるのだっ!!」
「マジだからに決まってんだろうが、古本娘っ!!」
「う……うぅぅぅぅぅっ!」
更に耳まで真っ赤にして、涙目で睨んでくる。
「うつけうつけうつけうつけうつけうつけ大うつけっ!!」
「7連続かよ……」
相変わらずの、逆ギレ……もう、お約束だな……
しっかりと抱きしめて離さない俺に、恥ずかしさのあまりにアルは魔術を使って離れようとするが……
「アクセス!」
どうやら俺とアルの、この契約も生きてるみたいだな。
アルの全魔力の支配が俺のものになる。
「な、汝はぁ……2度ならず3度までもぉ……」
身動きすらできないアルは、恨めしそうに俺を睨んでくる。だが、どこかで期待しているように見えるのは、
気のせいじゃないはずだ。
そのアルの身体を軽々と抱きかかえると、俺はそのままベッドへ。
「ま、待て待て待て待て待て待て待てぇぇっ!」
大慌てのアル。だけどその身体は全く思い通りに動かせない。
「なんでこういう事だけ、こんなにも天才的な能力を発揮するのだ、汝は〜っ!!」
「現時点での、最高の利用方法だろ?」
「否! 断じて否っ!」
「ま、今はどっちでもいいし……」
そう言うと、俺はアルの胸元に手を当てて、魔導書『アル…アジフ』を開く。
そして……1つの魔術を起動した。
「よくないっ! ひゃうっ!? く、九郎……? 汝、今……何をした……?」
段々、アルの顔が赤くなってくる。いや、顔だけではなく、徐々に全身がまるで温泉で茹だったかのように、
赤く染まっていった。
「前にもやっただろ、デモンベインの中でさ。今回は直接、アルの中に作ってみた」
媚薬調合。
何故かその気になったら簡単にできてしまった。
そして更に以前と同じように口移し……
「んん〜〜〜〜っ!? にゃ、にゃに……なにを……したのらぁぁっ!」
「今度は口移し」
「な、汝はぁぁっ! う……ぁ………っ……あぁっ!!」
もはや全身が赤く染まり、アルの目つきはすっかり虚ろになっている。
「………ひっく……ひろ……ひろ……酷い……ぞ……九郎……こんな……こんな事……」
涙を浮かべるアルに、俺の手が止まる。
「妾らって……汝と……もっと触れ合いたいのら……ぞ……れ……れ………でも……」
ぽろぽろと溢れ出すアルの涙。
俺はそれをそっと拭ってやると、抱き寄せた。
「九郎……? な……汝………なにを……?」
「こうでもしないと……お前、正直に言わないだろ……」
「な、なんのころ……こ……事……ら?」
赤い顔をより一層染めて、アルは俺から目を逸らす。
「お前、あの時なんで俺だけ転送させた? 辛くなかったのか? 寂しくなかったのかよ!」
俺の言葉に、アルはしばらく黙り込んでいたが、やがて媚薬の効果が強く出始めたのか、身体を震えさせ始めた。
「あ……あぅぅっ……」
それでも必死に堪えようとするアルの姿に、俺は思わず強く抱きしめてしまった。
「ひゃぁぁうっ!?」
唐突に上がるアルの声。
驚いた表紙に力が緩み、アルは床に頽れるように倒れ伏した。
「アル!?」
慌てて魔力の拘束を解く。
急いで抱き上げると、アルは泣き出しそうな声で、ようやく答えた。
「………寂しかった……汝のいなくなった後のあの場所は……1人でいるには……寒すぎる……汝に……抱きしめて
欲しかった……汝の……温もりが欲しかった……」
溢れる涙は止めどなく、俺の胸を濡らしていく……
「妾は……気が狂うかと……思った………」
震える手が、俺の身体に触れていく。
その手がそっと背中に回されると、アルは身体を押しつけてくるかのようにしっかりと抱きついた。
「汝の……温もりが欲しい……妾は……もう……汝を失う恐怖に……耐えられないのだ……」
「……アル……」
「我が主、大十字 九郎……魔導書として……妾は失格だ………恐怖に負けて、自分の欠片を街に放ってしまうなど……
こうすれば……汝に逢えるかも知れぬと……身勝手な想いで妾は……」
「それで、アトラック=ナチャやナイトゴーントになって街を騒がせていたって訳か……」
「それ程に……妾は求めていた……汝を……我が唯一の君である、汝をっ!!」
重ねてくる唇。
これまでとは比べものにならない程激しく交わし合う。
媚薬の効果など、すでに無い。
さっき完全に消してしまっている。だから今のこのアルの行動は、完全に自意識だ。
いつしか俺達の衣服は乱れ、想いを幾度も交わし合い……
そして………数刻の時が過ぎた……
ベッドのシーツに包まれて……俺達はその裸身を寄り添わせている。
俺の腕の中で幸せそうに身を委ねているアル……
その髪をそっと撫でてやると、嬉しそうに微笑んだ。
「九郎……妾は……妾は汝を、妾の運命に引きずってはいけないと……思っていた……だから……汝には日の当たる
場所で……生きて欲しかったのだ……」
「全く……それでお前が苦しんだら、意味ねぇだろうが……言っただろ……後味悪いのは嫌いだって……」
「そうだったな……汝は……そういう男だ……」
「もう、絶対に離れるなよ……何があってもな……」
「………離れられないのは……妾の方かも知れぬな……」
呟きつつ、アルが目を閉じる。
安堵からか、いつしかアルは眠りに落ちていた。
「……俺だって……同じだ……アル……お前が居ない事になんて……耐えられるわけがない……」
身体に残る温もり……それは紛れもなく、俺達の想いの跡……
俺の胸に縋り付くようにして眠るアルを見つめて、俺はそっと囁いた。
「……お帰り……アル……」
戻る TOP