斬魔大聖デモンベイン SS 『一人にしないで…』
by Sin



 永い時を越えて再び出逢った俺とアル。
 今まで欠けていたものが満たされた充実感に、俺の足取りも軽い。
 あれから数週間。
 初めの一週間はとても離れる事なんて出来なかった。
 大学も仕事も休業状態。
 毎日アルを抱いては眠り、そしてまた起きてはアルを抱く……
 そんな日々を送っていた俺達だったが、さすがに大学も単位がやばくなりそうだったのと、仕事もこれ以上休み続けると生活自体がやっていけなくなるので、仕方なくアルとの時間を削って大学、そして仕事へと行くようになった。
 
 もちろん休み続けた分、忙しさは前にも増して酷くなり、アルとの時間は日に日に少なくなっていく。
 
 そんなある日の事……
 いつものように、慌ただしく事務所を出て行こうとする俺にアルの声がかかった。
「あ……九郎……」
「悪ぃ、アル! 遅れそうだからもう行くぞ!!」

 普段の俺なら、すぐに気付いただろう。
 アルの様子がおかしいって事に……
 
 でも、この時の俺は目の前に迫る単位喪失の危機で頭がいっぱいになっていたから、そんなアルの機微に全く気付かなかった……
 
 そして……
 
 大学と仕事を終え、すっかり日も暮れた街中を急いで帰る俺。
 少しでも早くアルに会いたかったから……
 
「ここんとこ、殆ど相手できなかったからなぁ……アルの奴、怒ってるかもなぁ……」

 苦笑…
 この時は、まだ笑っていられた。
 
 事務所に帰って、眠るアルの様子を見るまでは……
 
「ふぃ〜っ、ただいま〜おーい、アル! ……居ないのか……?」

 そう言って奥を覗き込んだ俺は、あまりのショックに手に持った荷物を落としてしまう。
 
「ア、アル?」

 俺の視線の先。
 そこには、涙で頬を濡らしたまま眠るアルの姿があった……
 
「………アル…どうして……」
 思わず歩み寄る俺。
 そしてその時……
 
「………一人に……しないで……妾を…もう……離さないで……一人は……嫌………」

 寝言……
 
 泣きながら呟かれるその言葉に、俺は自分の馬鹿さ加減を呪った。
 
「アル……ごめん……ごめんな………アル……」

 今まで、なにを見てきたんだ。
 ほんの数ヶ月離れていた俺とは訳が違う。
 アルは……アルはたった一人で、何千、何万という時を生き続けてようやく帰って来れたんじゃないか……
 それも、気の遠くなるほど長い時間、俺の事だけを想い続けて……
 
「………アル…」

 頬に零れた涙を拭ってやる。
 そのままそっと髪を撫でていると、僅かに身動いでアルが目を覚ました。
 
「……悪い……起こしちまったか……」
「…九郎……な、汝、何をしているのだ……汝にはもっとやらなくてはならない事が……」

 強がり……
 
 俺の事だけを思って、自分の辛さなんか見せようとしない……
 そんなアルの優しさに……俺は甘えていただけだった……
 
「妾のことはいい。汝のすべき事をせよ」
 微かに微笑みを浮かべると、そう言ってキッチンへと向かおうとするアル……
 どこかで見たことのある、辛さを必死に堪えた無理に作った微笑み…
 もう、これ以上見ていられなかった。
 
「―――っ!? な、汝っ、何を!?」
 唐突に背後から抱きしめられて、アルは慌てて振り返る。

「こ、このっ、離さぬか!!」
「アル!!」
「――っ!?」

 逃れようと藻掻いていたアルだったが、俺の一声にその動きを止めた。
 
「………ずっと…寂しい思いさせて……ごめんな……」
「……九郎?」
「俺、お前がどれだけ長い時間、一人で耐えてくれたのか…判ってなかった……お前は、何千年、何万年経っても、俺のことだけを考えてくれていたのに……」

 俺の言葉をじっと黙って聞き続けるアル。
 
「ごめん……アル…」
「……っ」
「え……っ?」

 微かに呟かれたアルの言葉。
 思わず聞き返した俺を待っていたのは……
「う……つけっ! うつけ……うつけっ……うつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけうつけっ!!」
 涙に潤んだ瞳で睨みながら言い放つアルの怒声だった。
 
「ずっと……ずっと一人だったのだぞ! たった一人…時空と次元の狭間を流れ流れてようやく……ようやく逢えたと言うのに!!」
 アルの拳が俺の胸を叩く。
 痛くはない……だけど……
 
 心が……痛かった……
 
「何故…何故ずっと側にいてくれぬのだ! 妾を抱きしめていてくれぬのだ! 何故……何故ッ!!」
「アル…」

 俺の胸に縋り付いて泣きじゃくる。
 今まで堪え続けていたものを全て吐き出すかのように……
 そんなアルの身体を、俺はしっかりと抱きしめる。
 
「………もう、もう一人は嫌だ……妾は…もう一人になるのは嫌だ! 離れるな……離さないで……九郎っ!!」
「ごめんな……寂しい思いさせて……もう…絶対に離さないからな……」

 強く…壊れてしまいそうなほどに強く抱きしめあう俺達……
 
 そして……どれくらいの時間が流れただろう……
 
 ようやく泣きやんだアルだったが、じっと俺の身体に縋り付いたまま離れようとはせず、時々俺を見上げてキスをねだっては、また微かに微笑みを浮かべて目を閉じる。
 そんなことを繰り返しながら、二人だけの時間を過ごす俺達。
 
 寂しがり屋で泣き虫なくせに意地っ張りで……
 おかげで、アルがどんなに寂しい思いをしているのか、今日になるまで気づけなかった…
 一人で寂しさも辛さもみんな抱え込んで……
 
 ふと、俺はさっきの微笑みに見覚えがあった理由に気が付いた。
 
 覚えているはずだ。
 なにしろ、俺にとって一番辛い瞬間だったんだから……
 
 マスターテリオンとの最終決戦の後、俺だけをこの街に帰した時……
 転送される俺を見送った時の、あの必死に哀しみを堪えていた微笑み……
 あれと同じ顔をしていたんだ……
 
「――っ、アル……ごめんな……」
「もう…よい……汝は気付いてくれた……だから……」
「それじゃあ、俺の気が済まないんだよ!」
「気が済まぬと言われても……」
 困ったような表情で苦笑するアル。
 
「……何か、俺にして欲しいこと……ないか?」
「汝に? ふむ……こうして側にいて…ずっと妾を抱きしめていてくれれば……それで十分なのだが……」
「それだけじゃ…」
「……ならば、明日1日、妾に付き合ってはくれぬか? 考えてみれば、いつも他の用事のついでで一緒に出歩くことはあっても、その……デートだけを目的に出かけたことは……無いからな……」
「そう言えば……そうだな……」
「……だから…妾とデート……してくれるなら、それで許そう……どうだ?」
 少し頬を赤らめて、アルは照れくさそうにそう言った。
 もちろん、俺に異があるはずもない。
 
「わかった。じゃあ、明日は完全に丸1日お前とデートしよう。一緒に歩き回ったり、映画を見に行ったりしてのんびり遊び回ろうな」
「ん……フフ……楽しみだ……」
「え? なんか言ったか?」
「何でもない……それよりも…」
「ん?」
「……久しぶりに良い気分になれたのだ……どうせなら…その……このまま……」
 耳まで真っ赤になったアルの言葉に、俺は苦笑しながら頷く。
 言いたい事なんて最後まで言われなくたって判るさ。

「……九郎…」
「アル…」

 抱きしめたまま、ゆっくりとアルのリボンを解く。
 ふわりと広がった髪が、その微笑みを少し大人っぽく彩った。
 
「ん……っ」

 重ねた唇の隙間から溢れる吐息が俺の耳朶を打ち、気持ちを加速させる。
 
「ん……は…ぁっ……」

 幾度も重ねる唇…
 少しずつはだけていく衣服がやがて全て脱げ落ちて……
 
「………アル…俺、お前のこと……ん……っ…」
「……んぅ……っ……言葉…など要らぬ……汝のこの温もり……が……妾にとって全てだ……」
「アル……ああ…そうだな……」
 
 微笑みあって、身体を重ねる俺達……
 静まり返る夜の闇の中、俺達の息づかいだけが荒くいつまでも響いていた……
 
 翌日……
 
 約束通り、俺はアルと共に街へと繰り出した。
 
 いつもなら倹約生活の為に控えているアイスを一緒に食べたり、一杯のジュースを二人で一緒に飲んだりして、映画を見た後は、町外れの自然公園をのんびり散歩……こんなにも穏やかな1日は初めてかも知れないな……
 
「ん〜〜〜〜っ♪ デートというものが此程にまで楽しいものであったとは知らなんだ。これまでしてこなかったことが悔やまれるな」
 そう言って微笑んだアルの笑顔はあまりに魅力的すぎて……
 俺は思わず唇を奪ってしまった。
 
「っ!?」

 突然の俺の行為に真っ赤になって辺りを見回すアル。
 昼日中、しかも親子連れの多い公園のど真ん中でこんな事をすれば目立つのも当然。
 確かに周囲の視線が痛い……
 
「う、うつけっ、な、何もこんな所でせずとも……」
「悪ィ、お前の顔見てたら……なんか……」
「ひ、人の顔で欲情するでない!」
「あ、ああ……」
「この…場所は少々人が多すぎる……もう少し……静かなところに行こう」
「そうだな…」

 真っ赤になったまま俺達はその場を離れて、公園のもっと奥へ……
 やがて俺達は人気の殆ど無い辺りに来てしまった。
 
「この辺りには……人気が無いのだな……」
「ああ、この辺で休んでくか?」
「うむ」

 大きく蔓延った木の根。
 その上に腰掛けて木漏れ日を眺めていると、隣に据わったアルがそっと俺の肩に頭をもたせかけてきた。
 
「のう……九郎……?」
「ん?」
「今日は……随分と子連れが多いのだな……」
「ああ。昼間の公園なんて大体そんなもんさ」
「そうか…」
「どうかしたのか?」
「……いや、叶わぬ事とは知っているのだが……つい思ってしまうのだ……汝との子供を…授かれば……とな」
「アル……」
「……気にするな。妾とて己が事くらい判っておる。たわいもない愚痴と聞き流してくれて良いのだ……」
 少し寂しそうに呟くアルに、俺の胸の辺りが小さく痛む。
 
「それとも汝への願い事に、汝の子が欲しい…と言った方が良かったかな?」
「………アル……」
「フフ、冗談だ。どのみち妾には子ができぬのだ。端から無理と判っていること……」
 また走る胸の痛み……
 
「よし、そうしよう」
「な――っ!?」
「これから帰って、毎日徹底的に子作りに励もう!」
「ちょ、ちょっと待て、汝!?」
「できるまで休み無しな。壊れるなよ?」
「壊す様な事をしようとしておるのか、汝は……」
 さすがに額に大きな汗を浮かべて引きつった笑いを浮かべるアル。
 
「それでできたら儲けもんってね! 行くぞ、アル!」
「ちょ、ちょっと待っ……にゃあああああああああああああああああああっ!?」
 
 まさに飛ぶような勢いで事務所への道を走る俺達。
 というか、走ってたのは俺だけで、アルは俺に引っ張られるままに地に足を着けることなく飛んでいるが……
 
 それからの俺達は毎日……何度も何度も身体を重ね合った……
 もちろん子供ができるなんて思ってやしない。
 ただ、二人の想いを少しでも深く繋ぎたくて……
 
 
 しかし俺達はこの時、嘘から出たまこと……その言葉を体現する日が来ることなど…
 知るよしもなかった……




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