斬魔大聖デモンベイン SS
『大好きだから……』
by Sin



「ジョージ……」
 思わず口に出して呟いてしまう……
 私、一体どうしちゃったんだろう……
 
 この前、アルちゃんと九郎お兄ちゃんの結婚式の時に、ジョージが私にブーケをくれた時から、私……変になっちゃってる……
 
 あの日からずっと、ジョージの事ばかり見てしまう…
 今までだってずっと一緒にいたのに……なんでだろう……
 
 こんな気持ち…初めて………怖い……
 
 そんな不安な日が何日も続いて……
 
「ライカ姉ちゃん〜腹減った〜」
「はいはい、ジョージったら最近は口を開くと『腹減った〜』ね。九郎ちゃんに似てきたんじゃない?」
 そう言って笑ってるライカお姉ちゃん。
 お姉ちゃんの作る料理はとっても美味しくて、ジョージってばいつもご飯をお代わりしてる。
 
 ご飯を食べてる時のジョージって、すっごく嬉しそうなんだよね……
 もし……私が作ったら……
 
 ジョージ……喜んでくれる……かなぁ……
 
「いっただっきま〜〜〜す!」

 悩んでる私の事なんて気づきもしないで、ジョージは今日も嬉しそうに食べてた。
 ご飯、二杯もお代わりして……お腹壊さないでよね……ジョージ…
 
 それから何日かして……
「ライカ、今日もまた頼むぞ」
 今日はアルちゃんがライカお姉ちゃんに料理を習いに来てる。
 リルちゃんが産まれる少し前くらいかな……アルちゃんが料理教わりに来るようになったのって…
 
 思い出すあの日の事。
 珍しくアルちゃんが一人でライカお姉ちゃんの所に来たと思ったら、
 
「ライカ、妾に料理を教えてくれ」
「え……? あ、う、うん、別に構わないけど……急にどうしたの、アルちゃん?」
「そ、それは……その……わ、妾は…これまでまともに料理などした試しがないのだが…く、九郎が……」
「九郎ちゃんが…どうしたの?」
「あ、あぅ……その……妾の…愛情料理が……食べたい……などと言うものだから……」
 真っ赤になってそう言うアルちゃんに、ライカお姉ちゃんはすっごく嬉しそうに微笑んだ。
 
「そうなんだぁ〜うふふ、九郎ちゃんってば、やるぅ♪」
「く、九郎は、不味くても…下手でも構わないと言うのだが……その……どうせ食うてもらうなら…少しでも美味い物を…と思って……」
「う〜ん、アルちゃんってば、すっごく健気♪ うんっ、そう言う事なら喜んで教えちゃう♪」
「ほ、本当か!?」
「もちろん♪ 全力で応援しちゃうからね」
「そ、そうか……助かる。断られたならばどうしようかと思っておったからな……妾には、汝以外にこんな事を教えて貰える相手などおらぬし……わぷっ!?」
 はにかんでいたアルちゃんを、いきなりライカお姉ちゃんが、ギュッて抱きしめた。
 あのおっきな胸に抱きしめられちゃって、アルちゃんちょっと苦しそう……
 
「しっかり教えてあげるから、九郎ちゃんに愛情たっぷりのお食事、作ってあげてね、アルちゃん♪」

 ……ライカお姉ちゃんの言葉にアルちゃんが頷いてからもうどの位経つんだろう。
 
 作り方はすっごく上手になってるけど、味の方はまだ失敗しちゃう…ってアルちゃんは言ってた…
 それでも、九郎お兄ちゃんはアルちゃんの作った料理を喜んで食べてくれるって……ライカお姉ちゃんに伝えに来たあの時のアルちゃん……ほんとに嬉しそうだったなぁ……
 
 あれから、リルちゃんが産まれたり、結婚式したり……
 色々あったけど……
 
「ねぇ、アルちゃん……」
「ん? おお、アリスンか。どうかしたのか?」
「え、ええと……アルちゃん、今…幸せ?」
 突然聞いた私の言葉にアルちゃんもびっくりしてるみたい。
 
「いきなり変な事を聞く……何かあったのか?」
「えっ……えっと……ううん……」
「………おかしな奴だ。だが……まあ……その……うむ、幸せだ。愛する九郎と愛娘が側にいてくれて、妾の作った料理を二人とも喜んで食うてくれる……戦いの中にしかおらなんだ妾が、此程の幸せに包まれるとは……ふふっ……」
 そう言って頬を赤くして微笑んでいるアルちゃん……なんだか……凄く羨ましい…
 
「……大好きな人に自分の作ったご飯を食べて貰うのって……嬉しい?」
「ああ、もちろんだ。……ん? 汝……ひょっとして……」
「えっ……あぅ……」
「フフ、そうか、そう言う事か。ならば……今日からは一緒にライカに習うとしようか、アリスン?」
「いいの!?」
「無論だ。なにも遠慮する事など無かろうに。知らぬ仲では無いのだ、互いに愛する者の為に励むとしようではないか」
「う、うんっ!」

 それから私は毎日アルちゃんと一緒にライカお姉ちゃんに料理を教わり始めた。
 最初は包丁も上手く使えなくて、何度も指を切っちゃったりしたんだけど、そんな時ジョージが……
 
「うわっ、アリスン、血が出てるじゃないか!! え〜と、傷薬と包帯と……」
「だ、大丈夫だよ、ジョージ。すぐ止まるから……」
「いいからほら! 手、出せよ」
「あ、う、うん……」
 時々こうして見せてくれる優しさに、いつも私はドキドキさせられてた……
 いつか……私がちゃんと料理作れるようになったら……
 やっぱり、ジョージに一番最初に食べて欲しいな……
 
「……ジョージ」
「なんだよ、アリスン?」
「私が……ちゃんとお料理作れるようになったら……ジョージ、食べてくれる?」
「えっ、アリスン料理作れるのか!?」
「う、うん……まだ、練習中だけど……」
「じゃあ、美味いの作ってくれよ〜俺、楽しみにしてるからさ」
「ほんとに!? うんっ、頑張るねっ!」
「おうっ、期待してるぜ!」

 そんな約束を胸に、私は毎日練習を続けた。
 そんなある日の事……
 私は、いつもと同じようにアルちゃんと一緒にライカお姉ちゃんに料理を教えて貰っていたんだけど……
 なんとなく気になる事があって、アルちゃんに聞いてみた。
 
「ねぇ、アルちゃん?」
「ん、なんだ?」
「………どうして、分量計らないの?」
「うむ? どういうことだ?」
「えっ…だ、だって、さっきから調味料全然計らずに入れてるでしょ?」
「い、いや、だが……ライカはこの程度……とか、この位……としか教えてくれなんだが……」
 戸惑った様子でライカお姉ちゃんを見るアルちゃん。
「えっ、だって……いつも作る時はこの位……だけど?」
 ライカお姉ちゃんは全然分かってないみたい……
 でもやっぱり……分量の加減が自分でできる人ならともかく、私とかアルちゃんはちゃんと計らないと無理なような気が……
 
「……え、えっと…」
「も、もしや、妾の料理が一向に成功せぬのは……」
「う、うん、そうかも……」
「……とにかく、やってみるぞアリスン。この料理、分量はどうなっておる?」
「えっと……あ、この本に載ってるみたい。これで二人前の分量みたいだから、後は作る量に合わせて…」
「ふむ、なるほど。よし、ではやってみるぞ」
「うんっ」
「う〜ん、おっかしいなぁ……」
 まだ首を傾げてるライカお姉ちゃんを置いたまま、私とアルちゃんは本を片手にそこに書いてある分量通りに料理を作っていった。
 そして1時間後……
 
「………アリスン…」
「あ、あはっ、できちゃった……」
「よもや此程までに違うとは思わなんだ……」
「大成功……かな……」
「………アリスン、これはいよいよ挑戦の時だ」
「えっ……?」
「……妾達の最終目的。その為にこうして頑張ってきたのだからな」

 最終目的。
 それは……
 大好きな……ジョージに私の料理を食べて貰う事……
 
 そう思った瞬間、私は顔から火が出そうなくらい真っ赤になってしまう。
 胸がドキドキして……破裂しそう…
 
「もうすぐ夕飯時だ。九郎は仕事で疲れて腹を減らしておるだろうし、リルやジョージ達も遊び疲れておるだろうな。すぐに声が掛かるぞ」
「……食べて……くれるかな……美味しいって言ってくれるかな……」
「不安は尽きぬが……アリスン…」
「う、うん……」

 アルちゃんとそう言って頷き合ったその時、九郎お兄ちゃんの声が……
 
「どうやらやって来たようだ。アリスン、覚悟を決めよ」
「うん…」

 胸がドキドキする……
 ジョージ、私の料理……喜んでくれるかな……
 アルちゃんも緊張してるみたい…
 
「じゃあ……これは九郎ちゃんの分。リルちゃんも九郎ちゃんと一緒のね。そしてこれはジョージの分で、コリンはこれ」
「あれ? 今日はみんなバラバラなのか? なにか理由でも?」
「んっふふ〜♪ ないしょ〜♪」
「ふ〜ん……ま、いいや。いっただきま〜す!」
「あ〜っ、ずるいぞ九郎! 俺もっ! いただきまぁすっ!!」

 待ったなしに食べ始めてしまうジョージ達に、私もアルちゃんも不安で思わず目をつぶってしまう。
 もし、不味いって言われたら……どうしよう……
 そんな事を思ってしまって……
 でも……
 
「………ライカさん、これって一体……」
「ん? どう?」
「……スッゲェ、美味い。こんなの食った事無いぞ。覇道で出された食事でもこんなに美味くはなかった……」
「俺のもすっごく美味いよ、ライカ姉ちゃん。でも……」
「でも……どうしたの、ジョージ?」
「……ライカ姉ちゃんの味じゃない」
「ああ。俺もそう思ってた。これは……まさか……」
 ジョージ達の視線が私とアルちゃんに向けられる。
 ドキドキしすぎて、もう胸が破裂してしまいそう……

「うふふ〜、九郎ちゃんとジョージの分には、アルちゃんとアリスンちゃんの目一杯の愛情が込められてるからね♪」
「や、やっぱりこれ、アルが作ったのか!?」
「これをアリスンが作ったのか!? 嘘だろ〜〜っ!?」
「そ、そうだが……く、九郎、正直なところを答えてくれぬか? いつも汝は妾の食事を例え不味くとも食うてくれるが……これは……どうだ?」
 不安そうに聞くアルちゃんに、九郎お兄ちゃんはいきなり席を立つと、アルちゃんの事を思いきり抱きしめた。
 
「わぷっ!? く、九郎!?」
「最高だよ、アル。こんなに美味い物食ったの初めてだ」
「ほ、本当か!?」
「こんな事で嘘なんか言わないさ」
「そ、そうか……ふふ…っ……ま、まだまだあるぞ、もっと食うてくれ! ほら、リルも!」
 すっごく嬉しそうに微笑んで九郎お兄ちゃん達に料理を勧めるアルちゃん。
 ……羨ましいな……
 そんな事を思っていた私だったけど、突然肩を叩かれて慌てて振り返った。

「え……っ?」
 振り返った私の目の前にいたのは……
 空っぽになったお皿を私に差し出しているジョージの姿だった。
 
「おかわり〜♪」
 思いもしなかった言葉に、頭の中が真っ白になってしまう。
「えっ……ええっ……」
「あ……もう、ないのか……?」
「う、ううん! まだ沢山あるよ!!」
「そんじゃ、おかわり!」
 満面の笑顔で言ってくれるジョージが、すっごく嬉しくって涙が出そうになったけど、私も必死に笑顔で答えてお皿を受け取る。
「うんっ♪」


 あれから、ジョージは何度もお代わりしてくれて、私の作った料理は全部ジョージのお腹に入っちゃったの。
 少し食べ過ぎた〜って、今は向こうのお部屋で伸びちゃってる。
「ふふっ……ふふふっ……」
 思わず笑いが零れてしまう。
 あんなに……あんなに美味しそうに食べてくれるなんて……
 私……すっごく幸せ……
 
「九郎もリルもよう食うてくれたが……ジョージも2人に負けず劣らずよう食うたみたいだな」
「うんっ♪ でも……あんなに食べてくれるなんて思わなかった。お腹壊さないかなぁ……」
「まあ、その心配は無かろうて」
 そう言って笑うアルちゃん。
 そのまま私達は2人で洗い物を済ませていく。
 ライカお姉ちゃんと違って、私もアルちゃんも小さいから踏み台がないと洗い場に手が届かないのがちょっと大変だけど……
 
「………う………ぅぅ……ぐすっ…」
 どの位した頃だろう…
 洗い物をしている音に混じって、なんだか泣き声が……
 
「アル……ちゃん? 泣いてるの?」
「……ぐすっ……いや、すまぬ……大したことでは……無いのだ……」
「えっと……」
「嬉しくてな……」
「えっ?」
「妾は正直、あまり家事には向いておらぬ。戦う事しか知らなんだからな。だが……そんな妾が、九郎をあそこまで喜ばせられる食事を作れた事……それが……本当に嬉しくてな……」
「アルちゃん……」
「汝のお陰だ」
「え……?」
 突然の言葉に、私は戸惑ってしまう。
 だって……私、なにも……
 
「汝が、妾の料理の欠点を見つけてくれねば、一生妾は欠点に気付くことなく九郎やリルに不味い食事を食わせていかねばならぬ所であった……だから、汝に礼を言いたい。アリスン……感謝しているぞ」
「え、えっとぉ………えへへ……」
 アルちゃんにそう言われると、なんだか恥ずかしい…
 
「妾も汝も、愛する者の為に励みたいという気持ちに違いはない。まだまだ苦難の道のりだが……」
 そう言ってアルちゃんはそっと手を差し出してくる。
「共に、頑張ろう」
「うんっ!」
 差し出された手をギュッと握って、私達は一緒に笑った。
 
 また……次も頑張ろう……
 
 アルちゃんが九郎お兄ちゃんの為に頑張っているように……
 私も……
 
 大好きな……ジョージの為に……
 
 
  
 
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